30 / 73
第一分章:ベンガル湾の大和
第一次ベンガル湾海戦(十四)
しおりを挟む
「莫迦な、速すぎる」
連中の艦隊速度はそこまで速いのか!
「……フィッシャー海軍卿は間違っていなかったのかも知れぬ」
「何、心配要りませんよ、それだけ速いということは、装甲も薄いはずです」
「……だと、いいが」
第三戦隊を含めた前衛追撃隊がイギリス海軍東洋艦隊の殿を捉えたのは、なんと正午になる前であった。そして、金剛、比叡、榛名、霧島の順で組んでいた単縦陣のまま、なんと彼らは艦艇を減速させることなく砲撃を開始した!
「ははっ、あいつら全速で動きながら撃ってますぜ」
「油断するな、艦隊速度はこちらの方が遅いんだ、どのような……言わんこっちゃ無い!」
駆逐艦の対空砲員が眼前の艦隊戦――すなわち砲雷撃戦、しかも昼間――を、流石に航空機が飛んでいないことからやることもないのか高みの見物をしていたが、分隊長らしき人物が注意する前に第一斉射による被害は始まった。
36サンチ砲による砲撃が都合8門存在する金剛型戦艦の砲撃が、その合計32門にもなる一撃は非常に効果的に作用した。
まず、先ほどの高角砲員が高みの見物をしていた艦艇こそ直撃弾を受けなかったものの(まあ、駆逐艦が戦艦の砲弾を受けてもそもそも貫通してたいした被害にはならないだろうが……)、分隊長の眼前の、つまりは艦隊で縦陣を組む一つ前の駆逐艦が、何かしらの副砲なりが搭載していた魚雷にでも触れたのか、瞬時に爆沈し、その前の駆逐艦も爆沈こそしなかったものの激しい傾斜をして、総員退艦処分となった。
だが、それすらも些細な事であっただろう。最後の殿の旗艦、すなわち東洋艦隊にとって数少ない、残存の戦艦のうち最も速度に支障を来していたR型戦艦が、金剛型戦艦の放った主砲弾を同時に何発も受け、しめやかに爆発四散した。生存者は、いなかった。
だが、東洋艦隊は幸運であった。R型戦艦の爆発四散を呆然とみていた周囲の艦艇は眼前の戦果に気を取られ、遂に撤退中の本隊――戦艦二隻と空母一隻をはじめとした艦艇群――の帰還と、秘密基地――言う必要も無いだろうが、アッヅ環礁のことである――の秘匿に成功した。
だが、どちらが戦略的勝利を得たかは疑問が残る。何せ、大日本帝国側はインドの解放という非常に大きな戦略目標を達成したし、一方のイギリス王国(わたしは断じてイギリスを「大英帝国」などとは呼ばんぞ!)側もアッヅ環礁基地の秘匿と、一応は大規模な修復が必要なれども艦艇の生存に成功した。
すなわち、双方が最低限の戦略目標を達成しており、戦術的行為が戦争に影響する範囲が限られてしまう以上は、しばらくの間インド洋が、那珂から零れた破片やイギリス東洋艦隊の残骸によって水深が若干浅くなって多数の死骸――その「全て」が、イギリス海軍船員であった――によって海洋栄養素が活性化することが確定したということであった。
後の調査で発覚したのだが、なんと金剛型戦艦の半数もの砲弾が直撃したらしく、いくらR型戦艦が頑丈だからと言っても同時に数トンもの爆薬が片方の舷に着弾したら、そりゃ四散するよな、といったことが明らかとなった。
だが、実は問題はそこでは無い。偶々運良く大日本帝国側に存在する戦場カメラマンが捉えた映像は、イギリス海軍の象徴とも言える戦艦が多数の砲弾を浴びて爆発四散し、轟沈する様を一部始終捉えたことであった。
そのカメラマンは後に国際機関に表彰されるのだが、その写真がイギリス崩壊の、文字通り風穴となったのだった。
――――日の沈まない帝国の日が、陰り始めた瞬間であった。
連中の艦隊速度はそこまで速いのか!
「……フィッシャー海軍卿は間違っていなかったのかも知れぬ」
「何、心配要りませんよ、それだけ速いということは、装甲も薄いはずです」
「……だと、いいが」
第三戦隊を含めた前衛追撃隊がイギリス海軍東洋艦隊の殿を捉えたのは、なんと正午になる前であった。そして、金剛、比叡、榛名、霧島の順で組んでいた単縦陣のまま、なんと彼らは艦艇を減速させることなく砲撃を開始した!
「ははっ、あいつら全速で動きながら撃ってますぜ」
「油断するな、艦隊速度はこちらの方が遅いんだ、どのような……言わんこっちゃ無い!」
駆逐艦の対空砲員が眼前の艦隊戦――すなわち砲雷撃戦、しかも昼間――を、流石に航空機が飛んでいないことからやることもないのか高みの見物をしていたが、分隊長らしき人物が注意する前に第一斉射による被害は始まった。
36サンチ砲による砲撃が都合8門存在する金剛型戦艦の砲撃が、その合計32門にもなる一撃は非常に効果的に作用した。
まず、先ほどの高角砲員が高みの見物をしていた艦艇こそ直撃弾を受けなかったものの(まあ、駆逐艦が戦艦の砲弾を受けてもそもそも貫通してたいした被害にはならないだろうが……)、分隊長の眼前の、つまりは艦隊で縦陣を組む一つ前の駆逐艦が、何かしらの副砲なりが搭載していた魚雷にでも触れたのか、瞬時に爆沈し、その前の駆逐艦も爆沈こそしなかったものの激しい傾斜をして、総員退艦処分となった。
だが、それすらも些細な事であっただろう。最後の殿の旗艦、すなわち東洋艦隊にとって数少ない、残存の戦艦のうち最も速度に支障を来していたR型戦艦が、金剛型戦艦の放った主砲弾を同時に何発も受け、しめやかに爆発四散した。生存者は、いなかった。
だが、東洋艦隊は幸運であった。R型戦艦の爆発四散を呆然とみていた周囲の艦艇は眼前の戦果に気を取られ、遂に撤退中の本隊――戦艦二隻と空母一隻をはじめとした艦艇群――の帰還と、秘密基地――言う必要も無いだろうが、アッヅ環礁のことである――の秘匿に成功した。
だが、どちらが戦略的勝利を得たかは疑問が残る。何せ、大日本帝国側はインドの解放という非常に大きな戦略目標を達成したし、一方のイギリス王国(わたしは断じてイギリスを「大英帝国」などとは呼ばんぞ!)側もアッヅ環礁基地の秘匿と、一応は大規模な修復が必要なれども艦艇の生存に成功した。
すなわち、双方が最低限の戦略目標を達成しており、戦術的行為が戦争に影響する範囲が限られてしまう以上は、しばらくの間インド洋が、那珂から零れた破片やイギリス東洋艦隊の残骸によって水深が若干浅くなって多数の死骸――その「全て」が、イギリス海軍船員であった――によって海洋栄養素が活性化することが確定したということであった。
後の調査で発覚したのだが、なんと金剛型戦艦の半数もの砲弾が直撃したらしく、いくらR型戦艦が頑丈だからと言っても同時に数トンもの爆薬が片方の舷に着弾したら、そりゃ四散するよな、といったことが明らかとなった。
だが、実は問題はそこでは無い。偶々運良く大日本帝国側に存在する戦場カメラマンが捉えた映像は、イギリス海軍の象徴とも言える戦艦が多数の砲弾を浴びて爆発四散し、轟沈する様を一部始終捉えたことであった。
そのカメラマンは後に国際機関に表彰されるのだが、その写真がイギリス崩壊の、文字通り風穴となったのだった。
――――日の沈まない帝国の日が、陰り始めた瞬間であった。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
真田幸村の女たち
沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。
なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる