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第一分章:ベンガル湾の大和

第一次ベンガル湾海戦(四)

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「連中、海中へ必死に爆雷をばらまいてます。このままでは友軍が危ないですな」
「おう、それじゃ曳光弾用意!」
「ははっ!!」
 現地時間に直して月下三更ないしは四更といった頃合いの頃である、密かに占領地の即席飛行場から飛び立った攻撃部隊は敵艦隊を捉えるや直ちに攻撃態勢に突入した。しかし、急降下爆撃機である99式艦爆が装備しているのは爆弾では、なかった……。
「しっかしまあ、爆弾の代わりにこんなもん投下するとはね……」
「やかましい、舌噛みたくなかったらしゃべんな!」
 99式艦爆が装備していた「爆弾」は曳光弾であった。曳光弾とはすなわち、火薬の詰まった実包ではなく閃光の元が詰まった、周囲の視界を確保するための明かりに過ぎない。では、なぜそんなものを彼らは装備しているのか。……それは、99式艦爆の装備が関係している。戦史に詳しい方は99式艦爆の装備している爆弾がわずかに250kgに過ぎないことはご存じだと思うが、いくらなんでも250kg程度の爆薬ではいくら運が良かったとしても極限の好条件でない限り、戦艦を沈めることは難しい。無論それは、空母であっても恐らくそうだろう。ゆえに、作戦立案者は99式艦爆に攻撃力ではなく補助力、すなわちより戦局を優位に進め攻撃機の突入をたやすくするための露払いとして扱うことにした。その露払いとしての任務が、この曳光弾投下であり……。
「さて、他の部隊は無事アルミをばらまけてますかね……」
「大丈夫だ、あれを見ろ」
「……おお、桜吹雪」
「ま、桜じゃ無いけどな」
 ……アルミ、すなわちチャフの投下であった。作戦立案者の骨子は以下の通りだ。
 一、制空部隊の制空権確保と共に、艦爆隊は速やかに攻撃機の突入を容易ならしめるために電波錯乱兵器並びに曳光弾の投下を急降下によって素早く行う。なお、この急降下「爆撃」は敵艦を狙う必要は無い。
 二、艦攻隊並びに陸攻隊は艦爆隊の開いた攻撃のための隙を逃さずつかみ、速やかに敵艦に魚雷を叩き込み、退散する。この際、戦果確認等は翌朝に行うので魚雷を投下した後には戦果確認等の行為は行わず、雷撃の成否に関わらず速やかに逃げるように。
 三、制空部隊は余力があれば輸送艦艇を銃撃、敵の補給路ないしは上陸部隊を撃沈せしめよ。ただし、この緒戦で死ぬような無理をしてはいけない。
 四、翌朝の戦果確認を兼ねた威力偵察において、敵艦隊が予想外の残存量であれば速やかに艦隊決戦に持って行くように。連合国に航空攻撃の真意を悟られてはいけない。
 ……もう、だいたいわかった方も多いだろう、なぜ日本軍はわざわざ航空隊にとっては至難の業である夜間空襲という手段を選んだのか。それは……。
「ボーキサイトの夜桜とは風流だねぇ」
「隊長、次は向こうの輸送隊です、急ぎましょう」
「おう」
 ……白人種の目は、構造的に夜目が利かない。それは純然たる物理的事実であるが、ゆえに彼達航空隊員はあえての夜間空襲による、空対艦攻撃の優位性を知られぬように行動を完遂する必要があった。実はUボートによる陽動作戦も、その一環である。
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