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第一部序文:1942年1月の大局

ベンガル湾の大和(弐)

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 1941年も終わり、南十字星の微笑む最中軍艦大和はカルカッタに停泊していた。無論、表向きの理由は「新年を祝う」であったが、裏向きの理由としては……。
「しかし、大戦の最中だというのにこんなにのんびりしてていいんですかねえ」
「仕方有るまい、長官直々のお達しだ。俺達もそこまで知らされていないんだし」
 受け答えするは陸海の将兵。マレー電撃戦の後、制海権の収得を好機とみた宮崎少将らが推し進めた北ビルマ制圧作戦の結果、カルカッタまで進軍した彼らはなんと陸海協同の新年合同宴会に誘われ、現地の陸海軍の不和はこんな些細なところから修復されつつあった。ちなみに、上述した会話は海軍将校がある陸軍戦車兵――その人物は作家志望であった――から取材を受けている会話なのだが、それはまあどうでもよかろう。
 そして、三が日も終わり、長官長谷川が待ち望んでいた一報が来る日がやってきた。……東洋艦隊の襲来である。
「さて諸君、遊びは終わりだ。そろそろ出るぞ!」
『応っ!!』
 いつまで敵艦隊を野放しにしておくつもりだ、とでも突き上げを食らったのか、イギリス東洋艦隊――その数、戦艦七隻、空母四隻という大艦隊であった――がようやくといった体で重い腰を上げてカルカッタ沖の日本軍艦隊撃破を目指し進軍したという一報を聞いた長谷川は、それを合図に軍艦大和を出港させ、迎撃作戦を開始した。……裏の理由は、もうお解りだろう。長谷川はわざわざ敵艦隊をおびき出すためだけに斯様などんちゃん騒ぎをしていたのだ。

 バトル・オーダー
 日本軍側軍艦
 第一戦隊(大和、長門、陸奥)、第三戦隊(金剛、比叡、榛名、霧島)
 第三航空戦隊(鵬翔、瑞鳳、祥鵬、駆逐艦四隻(朝風、春風、三日月、夕風か))、第四航空戦隊(龍驤、春日丸(当時、まだ大鷹の名は付いていなかった)駆逐艦三隻(恐らく第三駆逐隊だろうが、駆逐隊の定数は四隻である))
 一水戦(阿武隈ならびに第六、第十七、第二十一、第二十七駆逐隊)
 四水戦(那珂ならびに第二駆逐隊、第四駆逐隊、第九駆逐隊、第二十四駆逐隊)

 イギリス軍側軍艦
 戦艦:プリンス・オブ・ウェールズ、レパルス、ウォースパイト、レゾリューション、リヴェンジ、ラミリーズ、ロイヤル・サブリンの計七隻
 空母:インドミタブル、フォーミダブル、ハーミーズ、アーク・ロイヤルの計四隻
 巡洋艦七隻、駆逐艦二十隻

 機動力の面においては日本軍が、直接攻撃力の面ではイギリス軍が優勢と言えようか。だが、彼らの及びも付かない戦局の錯誤によって、海戦結果はミリオタの想定とは乖離することとなる……。
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