上 下
6 / 73
序章:1941年

いとも大きなキノコの雲は

しおりを挟む
 12月16日に完成した新鋭戦艦を旗艦とした呂宋解放艦隊は緩やかに進軍を開始、本来ならば急行して一両日、並足でも3,4日もあれば呂宋沖に到着しようものをわざわざ一週間は時間を割いて現場へ向かった。何も、ただぐずぐずしていたわけでもなければ13ヶ処への急襲作戦に物資をとられて節約していたわけでもない。現場まで一週間の時間を掛けて航行した、その理由とは。
「艦長、敵軍は案の定守備体制を整えております。ある意味では好機かと」
 ……そう、彼らはわざわざ敵軍が一カ所に集結する状態を待っていたのだ。考えればわかるだろうが、ゴミ掃除というものはなぜ箒を使うのか。それはわざわざ部屋中のゴミを拾って集めるよりも一カ所に集めて袋に入れた方が楽に片付くからである。そして同様に、敵軍もわざわざ散逸させてゲリラ化させるよりも初手で殲滅できたならば、なんの憂いもなく占領できる。そんなこともわからない程、彼らは愚物ではあり得なかった。
「そうか、確かにこれ以上無いほどの「好機」だ。……長官、それでは、ご指示を」
「いいだろう。……第一戦隊、左舷砲雷撃戦用意!」
 そして、殲滅戦が始まった。まあそもそも、戦艦とは40キロ先の動く的目掛けて大筒を放つ兵器である。ゆえに、いかに対地目標では対艦砲の方がダイヤグラムとして優勢といえど、そもそもコレヒドール要塞に存在する要塞砲は14インチ(サンチに直して約36サンチか)に過ぎない上に射程距離は艦砲に比べて圧倒的に短い。……あとはまあ、語る必要も薄いだろう。
「左舷砲雷撃戦用意!」
「コレヒドール要塞を、更地になるまで叩く!狙いを定めて撃て!」
「ははっ!!」
 12月23日、46サンチ砲門が九門、41サンチ砲砲門が合わせて十六門の……もはやトン数で数えた方が早い位の砲撃がコレヒドール要塞に襲いかかった。何せ、最初の斉射――その砲撃力は砲弾重量で合計して約30tに相当した――が命中した際に要塞の司令部は木っ端微塵に粉砕されたのである。さすがに、その27発全てが全弾命中とはいかなかったものの、なんと軍艦大和の46サンチ1360キロ砲弾が2発もコレヒドール要塞の司令部に直撃した! 最初に飛び込んできた46サンチ砲弾は要塞の装甲を新聞紙のようにくしゃくしゃに破壊し、続いて飛び込んだ二発目の46サンチ砲弾――恐らく、違う砲塔から発射されたものだろう――はいとも鮮やかに司令部内部に着弾し炸裂、当然ながらそこに存在していたマッカーサーを初めとした司令部要員は、最初の一撃だけでその全てがただの肉片と化した。だが、さすがにそんな細々とした風景は大和からえるわけがなく、二回目の斉射が開始された。そして、三発目の斉射を構えるまでもなく、その戦果は確認された。なぜか。なぜならば――。

『!?』

 とてつもない轟音が鳴り響く。艦砲射撃を行った側の、歴戦の海軍将校である彼らの胆すらも冷やしたその轟音の正体は……。
「なんという禍々しい雲だ……」
「さしずめ、キノコ雲とでも称しましょうかな、あれは」
 ……軍艦大和二発目の斉射による砲撃は、なんとコレヒドール要塞の弾薬庫に直撃、一応は分割されていたであろうその弾薬庫の、第二倉庫とでも言うべきその装甲で固められた中をこじ開け炸裂、先程の司令部要員殲滅とは比べものにならない砲撃効果を齎した。何せ、後に合衆国に雨霰と降り注ぐ反応炸裂兵器に匹敵するほどの火薬が炸裂したのである、当然ながらその砲撃効果はキロトンにおよび、物理的に起きうる現象――いわゆるキノコ雲――を周囲に観測させた。違うのは、放射能性物質をまき散らすか否かということであったが、この禍々しい雲を見た周囲の合衆国軍は降伏を諦観した。……まあ、無理からぬことではあった。
 ……そして、難攻不落と讃えられたはずのコレヒドール要塞はたった数時間で潰滅、周囲の合衆国軍も降伏したことによってフィリピンは事実上陥落した。呂宋共和国の独立記念日が独立政府の発足前のはずの日付――1941年12月23日――なのはそれが理由である。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

真田幸村の女たち

沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。 なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。

江戸時代改装計画 

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

綾衣

Kisaragi123
歴史・時代
文政期の江戸を舞台にした怪談です。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

処理中です...