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華研えねこ

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呂宋沖殲滅戦

呂宋沖殲滅戦(四)

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 それは、正真正銘の殲滅戦であった。次々と墜落する米軍機。一方で日本機はただの一機も墜落することはなかった。それどころか、どんな実包を使っているのか防弾装備が張り巡らされているはずの米軍機の燃料タンク内部で次々と弾薬が破裂、爆散する米軍機も少なくはなかった。しかし、そんな程度でミッドウェー海戦をはじめとした天運頼みなラッキーパンチや通商破壊などといった卑劣な作戦で虚仮にされた日本海軍の鬱憤が晴れることはなかった。
 今回は、その戦闘の詳細を見ていきたいと思う。

「さーて、一仕事しますかね」
 そうつぶやいたのは赤松貞明をはじめとして坂井三郎などの支那事変以来から生き抜いてきた古強者ぞろいで率いられた決戦用の航空隊であった。
 台南空や高雄空をはじめ元山空など、素人目に見ても誰がどう考えても「強い! 絶対に強い!」とでもいうべき鬼神の集まりだった。
 その鬼神たちが時間差を置いて戦闘機――爆撃機――雷撃機の順番で来襲する。当然、護衛機や直掩機などは数に含まないで。
 その数、軽く三百。先遣隊、すなわち制空権確保のためだけの部隊で三百機である。少なくとも、当時の日本としては異例ともいえるほどの数であった。
 さらに後ろに控えるのは「彗星」隊、「流星」隊、「銀河」隊……。事情を知らない人間が見たら閲兵式かと思うほどの新鋭機「のみ」で構成された一撃必殺の部隊であった。
 当初、日本軍は敢えて呂宋を捨石に、というか囮にした包囲殲滅戦を行う予定であった。しかし、堀栄三が発言した。
「なにも、敵にわざわざ島の地を踏ませるまでもない」
 堀いわく、軍用艦はせいぜい百あるかないか、また軽空母の類もせいぜい二十程度だろう、と。
 もちろん、それは日本の工業力からしたら大軍であったが、アメリカにとっては児戯だ。その程度ならばアメリカ軍という巨大な組織ならばフィリピンに「防衛用」として差し向けることも可能。
 だったら話は早い。本土付近には古強者をはじめとした歴戦の兵がそろっている。彼らならば零戦でもF6Fを狩ることができるとまで言われている必殺兵器だ。それが最新鋭の戦闘機を駆ったらどうなるか?子供でも分かる理論であった。
 堀栄三はマッカーサーの作戦の癖をほぼ初見で見抜いた。一種の勘働きに近いものがあったが、それゆえにその作戦の見切りは流麗きわまるものであった。
 すなわち、日本軍のお家芸である「一撃必殺」「乾坤一擲」の精神だ。
 かくして最初の攻撃(堀自身もこれで決めるつもりはさすがになかったが)である制空隊三百、護衛五百、爆撃機四百、雷撃機六百、特殊部隊二百の員数二千機を数える大空襲部隊が組織された。
 一方の米軍は最初迎撃機が上がってきたのを見て「何も感じなかった」という。一説には零戦しか知らぬ見張員が味方の航空機であると誤認したぐらいだ。
 かくして、「呂宋沖殲滅戦」と称される航空殲滅戦が行われた。
 殲滅されるのは、もちろんアメリカ軍のほうであった。
 F6Fは零戦相手では軽く勝ち、まだ完成していない烈風相手でもいい勝負をするはずの戦闘機であったが、昇風相手には零戦対F2Fよりも酷い性能差と熟練差が存在した。
 まず最初の攻撃で護衛に出たF6F100機のうち80機が「溶けた」。
 「撃墜」でもなく「墜落」でもなく「爆散」ですらない。「溶けた」のである。
 厳密にいえば「血煙になった」「蒸発した」とでもいうべきか。
 この光景を見た友軍は錯乱した。当然だ。味方の八割が敵の攻撃で一瞬にして蒸発すれば誰だってパニックを起こす。
 しかし残りのF6F20機は逃げなかった。それは軍人としては正しい行動であったが、人間としてはどう考えても愚劣極まりない行動であった。
 当然ながら、F6F80機を一瞬で「血煙」にした制空隊は自身の二十分の一以下の相手でも手抜きなどしなかった。
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