上 下
15 / 58
呂宋沖殲滅戦

呂宋沖殲滅戦(四)

しおりを挟む
 それは、正真正銘の殲滅戦であった。次々と墜落する米軍機。一方で日本機はただの一機も墜落することはなかった。それどころか、どんな実包を使っているのか防弾装備が張り巡らされているはずの米軍機の燃料タンク内部で次々と弾薬が破裂、爆散する米軍機も少なくはなかった。しかし、そんな程度でミッドウェー海戦をはじめとした天運頼みなラッキーパンチや通商破壊などといった卑劣な作戦で虚仮にされた日本海軍の鬱憤が晴れることはなかった。
 今回は、その戦闘の詳細を見ていきたいと思う。

「さーて、一仕事しますかね」
 そうつぶやいたのは赤松貞明をはじめとして坂井三郎などの支那事変以来から生き抜いてきた古強者ぞろいで率いられた決戦用の航空隊であった。
 台南空や高雄空をはじめ元山空など、素人目に見ても誰がどう考えても「強い! 絶対に強い!」とでもいうべき鬼神の集まりだった。
 その鬼神たちが時間差を置いて戦闘機――爆撃機――雷撃機の順番で来襲する。当然、護衛機や直掩機などは数に含まないで。
 その数、軽く三百。先遣隊、すなわち制空権確保のためだけの部隊で三百機である。少なくとも、当時の日本としては異例ともいえるほどの数であった。
 さらに後ろに控えるのは「彗星」隊、「流星」隊、「銀河」隊……。事情を知らない人間が見たら閲兵式かと思うほどの新鋭機「のみ」で構成された一撃必殺の部隊であった。
 当初、日本軍は敢えて呂宋を捨石に、というか囮にした包囲殲滅戦を行う予定であった。しかし、堀栄三が発言した。
「なにも、敵にわざわざ島の地を踏ませるまでもない」
 堀いわく、軍用艦はせいぜい百あるかないか、また軽空母の類もせいぜい二十程度だろう、と。
 もちろん、それは日本の工業力からしたら大軍であったが、アメリカにとっては児戯だ。その程度ならばアメリカ軍という巨大な組織ならばフィリピンに「防衛用」として差し向けることも可能。
 だったら話は早い。本土付近には古強者をはじめとした歴戦の兵がそろっている。彼らならば零戦でもF6Fを狩ることができるとまで言われている必殺兵器だ。それが最新鋭の戦闘機を駆ったらどうなるか?子供でも分かる理論であった。
 堀栄三はマッカーサーの作戦の癖をほぼ初見で見抜いた。一種の勘働きに近いものがあったが、それゆえにその作戦の見切りは流麗きわまるものであった。
 すなわち、日本軍のお家芸である「一撃必殺」「乾坤一擲」の精神だ。
 かくして最初の攻撃(堀自身もこれで決めるつもりはさすがになかったが)である制空隊三百、護衛五百、爆撃機四百、雷撃機六百、特殊部隊二百の員数二千機を数える大空襲部隊が組織された。
 一方の米軍は最初迎撃機が上がってきたのを見て「何も感じなかった」という。一説には零戦しか知らぬ見張員が味方の航空機であると誤認したぐらいだ。
 かくして、「呂宋沖殲滅戦」と称される航空殲滅戦が行われた。
 殲滅されるのは、もちろんアメリカ軍のほうであった。
 F6Fは零戦相手では軽く勝ち、まだ完成していない烈風相手でもいい勝負をするはずの戦闘機であったが、昇風相手には零戦対F2Fよりも酷い性能差と熟練差が存在した。
 まず最初の攻撃で護衛に出たF6F100機のうち80機が「溶けた」。
 「撃墜」でもなく「墜落」でもなく「爆散」ですらない。「溶けた」のである。
 厳密にいえば「血煙になった」「蒸発した」とでもいうべきか。
 この光景を見た友軍は錯乱した。当然だ。味方の八割が敵の攻撃で一瞬にして蒸発すれば誰だってパニックを起こす。
 しかし残りのF6F20機は逃げなかった。それは軍人としては正しい行動であったが、人間としてはどう考えても愚劣極まりない行動であった。
 当然ながら、F6F80機を一瞬で「血煙」にした制空隊は自身の二十分の一以下の相手でも手抜きなどしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

江戸時代改装計画 

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

連合航空艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。 デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...