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これまでのこと(こと「前枠」、現在執筆中)
序章ノ弌:提督の覚醒
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1944年4月1日、アメリカ合衆国において後世の歴史家から「エイプリルフール宣言」とささやかれるほどの宣言が出された。その内容は「全枢軸国は即座に無条件降伏すべし」というふざけたもので、出した人間は後に「アメリカ合衆国史上最も野蛮で、最も暗愚で、最も野心深く、最も不公正で、かつ最も狂気に満ちた政治家」と今でもアメリカ合衆国市民から名指しで非難されていることで有名な、工業力を嵩に人生の最晩年を絶頂期で迎えつつあったフランクリン・ディラノ・ルーズベルトである。
この宣言は、当初は選挙民に対するリップサービスに過ぎなかったが、いかに当時のアメリカ合衆国が調子に乗っていたかの証明だろう。確かに無理も無い。日本は内南洋をやられ、独逸も空爆で青息吐息、伊太利などはサロ政権として抵抗しているものの国家としては降伏した。残りの枢軸国はアメリカの軍事力を以てすれば蹴散らせるだろう。とはいえ、油断が慢心を生み、慢心が隙を生む。アメリカ合衆国市民は、この時自分たちが敗戦国になるとは誰も思っていなかったのだろう。故に、その裁きを受けることとなった。
軍艦大和の甲板で調印式を行った後に、その足でカリフォルニア州はロサンゼルスにて国際裁判が行われた際に、政府首脳だけではなく民間人にも情け容赦なく死刑判決が下る、一年程度は前のことであった。
海軍乙事件は天災だが同時に連合艦隊に天才を齎した。物資も無く資源も無く船も無ければ人材もない。そんな無い無い尽くしの日本でただ一人彼だけが最後の最後まで諦めなかった。彼は後世の歴史家から「近代史以上最も有能かつ偉大な軍人」とも呼ばれた。彼なくして今日の日本の国際的地位は有り得なかったろう。
それは、連合艦隊司令長官でありながら常に最前線で陣頭指揮を執った提督。
それは、今までの芸術的訓練方法から完全な百選技法に訓練法を変えた教官。
それは、陸軍と丁々発止の論舌を交わし、東條英機ですら怯ませた海軍軍人。
そう、彼こそが後に日本近代最大の英雄として語り継がれる男、高松宮宣仁親王だった。
そして、「それ」は突如として始まった。「彼」が連合艦隊司令長官に着任した翌日より始まった軍制改革は、昭和帝の「せめて良く負けるために」という思いを具現化するために海軍を事実上の統制下に置く行為であり、また同時にそれは前線の将兵にとって「遂に、陛下はこの大戦争に本腰を入れて介入し始めた」と感じさせるに充分過ぎるできとごであった。
そして彼らの意識はこう向いた。「陛下の弟君が連合艦隊司令長官に着任なされた以上、めったやたらなことは出来ない。上意下達は軍隊の基本ではあるが、弟君が着任なされた以上、その意志には何があっても服従し、その意を完遂すべきである」。
斯くて、当初「海軍制度改革」と呼ばれたその軍制改革は、高松宮が陣頭指揮を執ったこともあってか何の障害も無く進んだ。抵抗勢力も「天皇の弟君」という看板を出されてしまっては服従せざるを得なかったのだ。それだけ、戦前の「天皇」という看板は強烈無比であると言えた。そして、問題の高松宮が持ちうる見識であったが、さすがは天皇の弟君であると周囲が頷くほどにはその制度改革は多岐にわたり、また合理的であったという。
斯くて、「せめてできる限りの抵抗をして講和を行う」という目標を持った高松宮の制度改革は予想もしない結果を生むことになる。
……事実上の、大東亜戦争における大日本帝国の勝利である。
この宣言は、当初は選挙民に対するリップサービスに過ぎなかったが、いかに当時のアメリカ合衆国が調子に乗っていたかの証明だろう。確かに無理も無い。日本は内南洋をやられ、独逸も空爆で青息吐息、伊太利などはサロ政権として抵抗しているものの国家としては降伏した。残りの枢軸国はアメリカの軍事力を以てすれば蹴散らせるだろう。とはいえ、油断が慢心を生み、慢心が隙を生む。アメリカ合衆国市民は、この時自分たちが敗戦国になるとは誰も思っていなかったのだろう。故に、その裁きを受けることとなった。
軍艦大和の甲板で調印式を行った後に、その足でカリフォルニア州はロサンゼルスにて国際裁判が行われた際に、政府首脳だけではなく民間人にも情け容赦なく死刑判決が下る、一年程度は前のことであった。
海軍乙事件は天災だが同時に連合艦隊に天才を齎した。物資も無く資源も無く船も無ければ人材もない。そんな無い無い尽くしの日本でただ一人彼だけが最後の最後まで諦めなかった。彼は後世の歴史家から「近代史以上最も有能かつ偉大な軍人」とも呼ばれた。彼なくして今日の日本の国際的地位は有り得なかったろう。
それは、連合艦隊司令長官でありながら常に最前線で陣頭指揮を執った提督。
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そう、彼こそが後に日本近代最大の英雄として語り継がれる男、高松宮宣仁親王だった。
そして、「それ」は突如として始まった。「彼」が連合艦隊司令長官に着任した翌日より始まった軍制改革は、昭和帝の「せめて良く負けるために」という思いを具現化するために海軍を事実上の統制下に置く行為であり、また同時にそれは前線の将兵にとって「遂に、陛下はこの大戦争に本腰を入れて介入し始めた」と感じさせるに充分過ぎるできとごであった。
そして彼らの意識はこう向いた。「陛下の弟君が連合艦隊司令長官に着任なされた以上、めったやたらなことは出来ない。上意下達は軍隊の基本ではあるが、弟君が着任なされた以上、その意志には何があっても服従し、その意を完遂すべきである」。
斯くて、当初「海軍制度改革」と呼ばれたその軍制改革は、高松宮が陣頭指揮を執ったこともあってか何の障害も無く進んだ。抵抗勢力も「天皇の弟君」という看板を出されてしまっては服従せざるを得なかったのだ。それだけ、戦前の「天皇」という看板は強烈無比であると言えた。そして、問題の高松宮が持ちうる見識であったが、さすがは天皇の弟君であると周囲が頷くほどにはその制度改革は多岐にわたり、また合理的であったという。
斯くて、「せめてできる限りの抵抗をして講和を行う」という目標を持った高松宮の制度改革は予想もしない結果を生むことになる。
……事実上の、大東亜戦争における大日本帝国の勝利である。
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