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天才の証明

天才の証明 =高松宮宣仁の場合=

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「石原幕僚長、一体誰からだったんですか?」
「大和から無線ってことは決まってるだろ、例の弟様だよ」
「なんと!」
 例の弟様。言うまでも無く、高松宮は今上陛下の弟である。即ち、閣下よりも尊い殿下である。それが閣下或いはそれよりも下の身分として活動している。それは身分社会においては、あまり褒められた行動とは言い難かった。
「あのお方はまだお飾り気取りでいるらしい、全く、彼は自分の存在価値を少々低く見積もっているな」
 溜息交じりに考える石原、彼は当時の陸軍には珍しく乾いた倫理観を持つ人物であったが、故に天朝家の重要性を論理的に弁えていた。
「で、どんな用件だったんですか?」
 それに対して、興味深そうな顔で情報を聞く態勢を取る堀。一方の宮田こと竹田宮は宮様将校だけあってなんとなく高松宮の考えを一種の勘から見抜いており、「あーあ」といった呆れ顔をしていた。
「単純な話だ、欧州連合は十字軍を編成したらしい」
 吐き捨てるように欧州連合を罵る石原、だからドイツなどと同盟を組むなと言ったのだ、とすら小声で言っており、彼が平坦な文面からは計り知れない程の感情でそれを口汚く言ったのかは察するに余りある。
「このご時世に、十字軍ですか……」
 堀すらも呆れていた。それはいかにも常識外れであり、同時に切支丹という文明が独善的な悪であるかを証明しているとも言えた。
「それを海軍航空隊が叩くんだと」
 そして、石原は更に口汚い口調で次の台詞を言い放った。それに対して竹田宮は頭に手をやりながら制帽を被り直していた。そして。
「なるほど」
 一方の堀は陸海共同作戦を単純に喜んでいた。無理もない、それだけ陸海軍の溝が埋められつつあることは日本軍にとっては福音だからだ。
「それじゃ、まあ、アフリカ大陸を解放しますかね!」
「「はいっ!!」」

 軍艦大和を旗艦とした大和型軍艦を中核とする高松宮直率艦隊がスエズ運河近辺に出没したという話しを聞いて、欧州連合は酷く動揺した。無理もあるまい、あの日本が誇る無敵艦隊が遂に欧州本土にまで迫るとあっては欧州連合海軍を結集し迎え撃つほか無いと。だが、諸侯の思惑は割れており、頼みの綱のドイツ海軍は練度不足を理由にフィヨルドに籠もり、イタリア艦隊は地中海を捨ててスエズ運河とジブラルタル海峡を封鎖する用意を行い、本来中核である筈のロイヤルネイビーは最早その過半が海の藻屑であり再建は難しかった。しかし、日本海軍は意外な行動に出る。
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