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ダス・ノイエ・ウェルト・プロイェクト

日独合意

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 前回より数ヶ月後、昭和三十五年の大日本帝国首都、東京。
「……そろそろ、かな」
 やや皺の増えた高松宮が何かを待っていた。そして、それは時刻に狂い無く高松宮の眼前に現れた。
「は」
「殿下っ!!」
「だから、殿下はよせって。で、どうだった?」
 どうだった。眼前の伝令にそれを聞いたのは、次のことの確認のためでもあったが、彼はなぜか「殿下」と呼ばれることを好まなかった。無論、それは謙虚さから来るものでもあったのだが、彼も最早「提督」になり「閣下」と呼ばれても差し支えないのだが、眼前の伝令も、宮様将校であったのだから、「殿下」呼ばわりが妙だったのかもしれない。
「ははっ、どうにかドイツ第三帝国との協議に成功、事実上、戦火は遂に消えたと存じ上げます!」
「おお、よかった!これで、夏に開催される……」
「はい、国際大観艦式も行えるものと存じ上げます!」

 昭和三十五年五月七日、大日本帝国は世界平和記念の大観艦式を発表、その前月である四月十八日に当初より懸念されていたドイツ第三帝国との外交関係は、二十日にドイツ自身が大日本帝国へある外交文書を申し入れた事により、遂に世界から大戦争の火種は消え去ったのだ。その、外交文書とは……。

 ・ナチス政権下よりの白人以外の撤退
 ・ナチス政権下の全生命体の総統への隷属
 ・以後ナチス政権下を新世界、それ以外の箇所を旧世界と呼称し、旧世界の人間は新世界への一切の立ち入りを禁ずる
 なお、ナチス政権下とは以下の地域とする。
 ・ヨーロッパ全域|(但し、ロシアはノブゴロト他三州までとする)
 ・アメリカ東海岸十三州
 ・グリーンランド
 ・北アフリカのサハラ砂漠を挟むまで
 ・宇宙の線引きに関しては、また別個協議を予定する

 通称、「ポツダム宣言」であるが、これはナチス政権下が事実上の検閲国家になるということであった。だが、何故このような高圧的な文書を大日本帝国が了承したのか。それは以下の事情があってのものであった。

 ・大日本帝国による解放宣言の嵐
 大日本帝国は、白人種が持っている全ての植民地の解放宣言を行った。それは即ち、人種平等宣言を力業で解決したということであり、それはナチス政権下に於いても叛乱の種となっていた。言うまでも無い、旧連合国民ですら、ナチス政権下に於いて大日本帝国の隷下にあると主張して合法的パルチザンと化したからだ。無論、大日本帝国としてもそれはおおよそ認知しうるものではなく、昨日の敵は今日の友という美学も、流石にかの鬼畜米英や外道魯助などに関しては度外視されていた。
 そう、即ち事実上、大日本帝国の勢力圏というものは地球全域と化していたのだ。

 ・ナチス政権と大日本帝国の相違
 大日本帝国は、根本的に人種平等を旨として、それは白人を引きずり下ろすことではなく、有色人種の地位を向上させるという手段で行われるものであった。しかし、白人の大多数にそれは傲岸なる行動に移った。一方でナチス政権とはそれと真逆の行動であり、一見すれば白人種にとってはナチス政権の方が都合が良いように見え、一部ではそれは本当であった。
 だが、そもそも大日本帝国の方が住みやすく、何かあっても有色人種と同じ扱いであるということを耐えれば、暮らしやすいのはどちらの国であるかは言うまでも無かった。
 故に、知識階級がこぞって大日本帝国の方に流出し始めたのだ。

 ・大日本帝国とナチス政権の軍事力の相違
 大日本帝国は、総合力に於いて遙かにナチス政権を凌いでいた。陸軍の機械化や最新技術などはお粗末であったものの、それらはいずれ発明によって追いつくものである。現物がこの世にある以上、それは最早模倣改良などは容易であった。また、アメリカの発明品の過半を大日本帝国は同盟諸国に融通していたため、ナチス政権の発明品なども流出しつつあった。
 よって、ナチス政権が自慢の種としていた高度な技術力は、大日本帝国にとっては多少険しい丘、程度の存在でしかなかったのだ。

 以上の要因により、ナチス政権は事実上のカーテンによって区切らねば自然に瓦解しつつあると言えた。故に、ナチス政権の最後通牒に見えるそれは、嘆願書であったのだ。そして、大日本帝国からしてみても、その高圧的な文面を考えなければ、如何にも魅力的な条件に見えた。事実上、ヨーロッパやアメリカ東海岸などを生け贄にしてしまえば、事実上大日本帝国が地球を統一したと言っても過言ではないからだ。そして、大日本帝国はこの宣言に対して、こう述べたという。
 「弱い犬ほど、よく咆える」と。
 そして、通称「日独合意」とされる条約は締結された。苦しむのは、嘗て大日本帝国を苦しめたアングロサクソンとスラブ民族だけである、事実上は誰も苦しまないと言っても良かった。
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