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東京オリンピック

金九事件(後)

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「陛下!!」
「ご無事で!!」
「この度はなんと申し上げたらよいか……」
 駆け寄る重臣達。無理もあるまい、腹切って済めばまだ良い方で、下手をすれば公開処刑か、そこまで考えていたのだから彼らの責任感は我々の世界の戦後人物とは比べものにならないほど重かった。
「よい、お前達の責任ではない。そんなことより、どうしたものか」
「は、とおっしゃいますと」
「こと、無事だからよいが……朕が狙われた以上内地者は外地者をますます蔑視するだろう、それではいかん」
 一方で昭和帝は、早くも事件後のことを考えていた。無理もあるまい、この一件を以て、完全に内地人は外地人、特に朝鮮人を敵視するのは火を見るよりも明らかであったからだ。この当時は朝鮮人にもそれなりに親日的な人物も存在した(当たり前だが、彼らもこの当時は日本国民であった)だけに取り扱いを間違えれば国が割れるし、この時期に国が割れれば欧米列強(尤も、「米」はもう存在しないのだが)の思う壺であったからだ。
「しかし……」
「うむ、確かにやむを得ないことだ。悪いことをした以上罰は与えねばならんが、そこまでであるということを知らしめねばな」
「……ははっ!!」
 それは、昭和帝の、というよりは育ちの良い人物特有の人の良さが為せるものであった。育ちの良い人物は、苦悩を知るが苦労は知らない。であるが故に、人には自然と優しく接することが多い。無論、例外は多々あるのだが、それは統計的には正しかった。

「して兄上、どのような罰を?」
「犯人に対する罰は司法の者が決める。それ以外に臣民が暴発せぬような罰を与える必要があるが、さてどうしたものかの」
「……分離してはいかがでしょうかね」
 「分離」。言うまでも無く、朝鮮半島を再び分離独立させるという案である。無論、それではテロ組織の思う壺であるのだが、彼にはさらにえげつない腹案が存在した。それを語るのは後に譲るとして、「朝鮮半島分離独立案」が「罰」に相当するということだけを覚えてくれれば良い。
「……やはり、そう思うか」
「はい」
「まあ、無理もあるまい。元々他の民族をアメリカが如き建前を以て取り扱ったのが拙かった。しかし、どこからどこまでを分離する?」
 「アメリカが如き建前」。それはアメリカのような建前上は移民を平等に扱うぞ、といったことを名目にした、無論本音では差別心しかない、或いはその移民は白人のみ平等に扱うといったことが不文律として存在する鬼畜の所業であるのだが、そうではなく大日本帝国は正義の国である。アメリカ合衆国のような宗主国に勝る七枚舌な行動は避けるべきであった。
「それについては、腹案があります」
「そうか、それでは宣仁に任せるとしよう」
「ははっ」
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