正しい歴史への直し方 =吾まだ死せず・改= ※現在、10万文字目指し増補改訂作業中!

華研えねこ

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二度目の布哇

布哇よ再び(四)

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 ……かくして、被害計算が始まった後、震撼したのは当然のごとくアメリカである。彼らは互角の兵力、否、やや優越するはずの戦力をぶつけたはずなのに帰って来たのは僅か三割にも満たなかったのだから。そしてこれが示す事実とは、本当にアメリカ合衆国海軍は完全に絶滅した。いくらアメリカが工業力に優れ物量を有するとはいえ今回の兵力を生み出すには数年を要するレベルであった。箱だけならば確かにアメリカの総生産を以てすれば一年程度で再建できるだろう。だが、最早艦隊に乗ろうとする水兵が存在しなかった。それどころか将校レベルですら艦隊所属と決まったら遺言書に値するものを預けたという。完全なるモラルブレイクであった。
 一方で日本側も楽観視はできなかった。何せ潜水艦の過半を討ち漏らしたのである。彼らは最も討ち取るべき仇を討ちとれなかったのだ。この戦闘結果は、日本側にある決意をさせる。

 そして、大海戦の結果は言うまでも無く大日本帝国側の勝利に終わった。その結果……。

 それは、日本にとっては偶然に過ぎなかったがアメリカにとっては当然の帰結だった。
 ルーズベルトの第四期落選、それによって俄かに講和条件は日本優位に傾いた。
 元来、独裁制を防ぐために大統領は三期以上勤めてはならないことになっていたが奇しくもアメリカの良識という半ば蜃気楼じみたものが動き出した結果と言えよう。誰だって自分の息子が死ぬのは嫌なのだ。
 さらに、独逸も日本が講和に赴くなら我等もアメリカと講和する権利があると主張、遂に連合国の戦略は破綻を来たした。
 慌てたのはソ連だ。彼らはアメリカにコミンテルンを派遣することによってかろうじて戦線を維持してきたにもかかわらずそのアメリカが予想外の脱落をし始めたのだから。
 かくして、遂に時計の針は動き出す。何にせよアメリカは遂に講和会議に足を運んだのだ。ここからは軍人ではなく外交官の仕事である。
 日本側の全権委任は正使平沼騏一郎、副使が松岡洋右という布陣であった。さらに本土の監視役にはあのランシングと結んだ石井菊次郎まで存在する。
 万全の布陣だった。

 そして会議は始まった。
 意外にもアメリカ側は弱腰であった。アメリカ側としては一刻も早く講和会議を成功させて前政権の非道を糾弾したい所であったがそれは流石に日本側は判別し得なかった。
 最も強硬に出たのはドイツである。彼らは流石にアメリカ大陸を割譲せよとまでは言わなかったもののアメリカの戦争責任を強く非難、さらにこともあろうに自分たちの政策を棚に上げて日系人差別の非難を始めた。
 お前が言うなと言いたい所であったが、それを言うだろう勢力は沈黙を守ったままだった。英連邦である。彼らは中近東とユダヤ人を天秤にかけた結果、中近東への橋頭堡を失うことを恐れたのだ。
さらにそこにソ連が何故か口調を合わせ始めた。かの鋼鉄人は国内のユダヤ勢力を排斥するためにこの機を逃さんとばかりにアメリカを非難した。
 そして最も意外だったのは日本の行動である。日本は巧みに自国がユダヤ人を保護したことを謳いながらアメリカの人種差別、白豪主義の矛盾を看破。
 かくして講和会議の焦点は誰も予測し得なかった人種差別問題にタッチした。尤も、新渡戸稲造の案をウッドロー・ウィルソンが叩き潰さなければこの戦争は起きなかったわけで、当たり前と言えば当たり前ではあった。あるいは、アメリカという国家が世界平和の為に如何に邪魔であるかを証明した会議と言えるかもしれなかった。
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