正しい歴史への直し方 =吾まだ死せず・改= ※現在、10万文字目指し増補改訂作業中!

華研えねこ

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二度目の布哇

布哇よ再び(壱)

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 慌てたのは連合軍首脳部である。彼らはたった一人の男によって滅びに向かおうとしていたのだ。そんなバカな話があるかと余裕があれば笑い飛ばせもしただろう。だが、これが現実である。彼らにとってはまさに「開けてはいけない箱」に相違なかった。大日本帝国が一つに束ねられるとここまでの力を発揮するのかと愕然とした。
 一方で日本側も悠然と構えてはいられなかった。向こうが疲弊しているのは解りきったことだが、此方としても最後の戦いだという勘案の下ハワイを占領したのだ。このまま消耗戦によるぶり返しなどとんでもない話だった。
 斯くて、俄かに講和の話が水面下で動き出す。ソ連だのみの茶番ではない、しかしスイスでもない場所で、徐かに、しかし着実に時計の針は動き出した。
 当初は蚊帳の外だった欧州戦線もこれを機会にと乗り出した。彼らも疲れていたのだ。特にイタリアはせっかく勝ち馬に鞍替えしたのに日本によってそれが負け犬に化けるという悪夢を見せつけられたようなものだ。一方で気力を取り戻した勢力もあった。フューラーの夢想に振り回された欧州枢軸である。彼らは結局のところ、バルカン以外に視点を移していなかったのだ。頭が物理的に冷えた結果精神も冷え切ったのか、いっそのことバルカン半島をドイツ直轄領にするかという話も飛び出したほどだ。ドイツこそいい迷惑であった。
 後は、アメリカさえ講和会議に足を運んだらショウダウンであった。

「あとひと押しが必要」
 それが統合幕僚会議の結論だった。
 1944年秋、予想以上の防衛作戦によって連合艦隊の数倍の規模の艦隊を屠り、さらにはハワイまで手中に収めたもののアメリカを講和会議にまで足を運ばせ、同時に国民が納得する条件を引き出すまでの譲歩を行わせるにはもうひと押し何かが必要であった。問題はその何かをどこにするかだが、そこで暗礁に乗り上げたのだ。
 本土攻略は泥沼化するから拙い、かといってイギリスが既に講和会議で密約を行う条件として英連邦に手を出さないというものであった。故に豪州も候補からは外れた。第一ポートモレスビーはおろかソロモン・フィジーまで占領下においている以上豪州を直接攻略するのは無謀ですらあった。ではどこに大打撃を装わせるか。一同が悩みに悩んだ末、ある陸軍将校が功名心からか発言した内容が結論として登った。
 ……アラスカ州の全面占領である。

「全く、アメさんも強情だねえ。」
「しかし、この戦いに勝ったら、恐らくは。」
「ああ、でなきゃ俺達関東軍がこんな辺境まで攻略にこねえやな。」
 関東軍が長躯アラスカまで来たのは諸説あるが、一番単純な結論としては「近かった」からだろう。確かにザバイカルまで攻めよせるだけの地力のあった関東軍だが、対ソ戦で大分草臥れてはいた。それでもアラスカ占領を可能としたのはベーリング海峡を使ったからである。彼らは寒波によるさらなる消耗と引き換えにアメリカを追い詰めるだけの戦力を投入できたのだ。そしてアラスカ州にはアメリカの戦力の過半が存在しなかった。せいぜいいたのは州兵だけというていたらく、それを逃すほど大日本帝国はお人よしではなかった。後代に於いて日本が資源戦を勝ち抜いたのは満洲のほかにこのアラスカがあったからとすら言われている。後代のことは兎も角、少なくとも現状に於いてはカナダから殴り込みを行って一気にワシントンを衝ける恰好ですらあった。(日本にそれを行う気は毛頭なかったが)
 アメリカは焦った。一時期遷都の後焦土作戦すら考えるほどであったのだからよほどと言ってもよかった。それでも動こうとしないルーズベルトに遂に民衆がキレた。大統領は自分の戦争をしようと我等を駆り出している、と。一方の継戦派も反論、其の時に使われたキーワードが後に「ザ・グランド・バトル」とされる大海戦につながる。そう、彼らはまだ真珠湾が奇襲に遭ったという譫妄を患っていたのだ。
 だが、こんなもので終わるわけがなかった。本作戦の最大の肝、それは。
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