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朱鷺は舞い降りた

朱鷺は舞い降りた(後)

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 未来のことを語るのはこれくらいにして、パナマ沖の衝撃について語り直したいと思う。
 まず当初に攻撃を開始したのは長官直率部隊の潜水艦隊から発艦した晴嵐部隊である。反撃どころか敵機が上がってこないのをいぶかしむも当初の予定通りなので水門へ攻撃を開始、ガトゥーンを始めとした三つの段差式水門をただの一撃で廃墟へと変えた。
 その一撃で漸く米軍は敵襲だと気付いたのか慌てて迎撃部隊を出してきたものの既に晴嵐部隊は戦場を悠々と去った後であった。
 被害計算をしていた米軍へ第二波である軽空母部隊が襲いかかったのは其の時であった。特に龍鳳航空隊と瑞鳳航空隊の活躍は後に新軍歌として謳われるほど栄えあるものであった。航空隊は二割の減少後退を見せたものの代わりに掲げた戦果たるやパナマ海峡はもう二度と使えないのではないかと疑われるほどの大打撃であった。
 だが、それでも日本軍は手を緩めることなく第三波を突撃させた。後に「戦艦の復興」とも言うべきガラパゴス沖海戦である。
 打撃部隊こそ扶桑を旗艦としたやや劣る部隊であったが、敵はもっとお粗末であった。強力な16インチ戦艦は台湾沖に釣りだされており大西洋から急遽引っ張り出された14インチ戦艦にとっては扶桑や山城を始めとしたやや型オチした戦艦でも充分な脅威であった。戦の結果は参戦した艦艇全てが損傷するという大激戦であった。小破とはいえ扶桑・山城・そして巡洋艦部隊旗艦である最上とて例外ではなく、米海軍の損害たるやメガトン単位で数えたほうが集計がしやすいくらいであった。また、佐世保の時雨と謳われたある白露型駆逐艦に至っては、近くに落下した破片によってさび止めのインクがこそげ落ちた程度ですらあった。
 かくして、夜が更けた時に両軍は愕然とした。アメリカ軍は、このままパナマ海峡に固執していればどうあがいても絶望というべき戦局に対して。一方の帝国海軍も被害としては楽観視できたものの大戦略的に見ると決して楽観視はできない戦局であった。彼らにとってここは敵地、一刻も早く友軍の陣地へ変える必要性があったからだ。幸いにして追撃される様子はなかった(米海軍にとっては追撃をするどころの話ではなかった)ものの宵闇にまぎれて鞭声粛々と速やかに撤退する必要があった。
 そんな折である、ある連合軍部隊が日本の殴り込み艦隊を発見したのは。後にその老大尉は語る、「見つけないほうがどれだけ幸せであったか」と。それはイギリスへ向かう護送船団であった。勿論多少消耗しているからといってパナマ海峡に殴り込みをかけるような無茶苦茶な艦隊に対して戦う能力も、またその意志もなかった。こそこそと尻尾を巻いて逃げる護送船団。しかし、それをそのまま捨ておくほど連合艦隊はお人よしではなかった。球磨を先駆けとした水雷戦隊は速やかに接近、何と一発も魚雷を撃つことなく拿捕することに成功する。
 ここに歴史の妙味が存在する。なんと、イギリスへ向かう予定の護送船団には当代随一の科学者と数々の機材の設計図、そしてウラニウムを如何にして使うかという研究論文が存在していたのだ。
 これこそ、後に「パナマ沖の衝撃」と言われる最大要素であった。
 科学者たちは独逸に引き渡さないことを条件に日本軍への捕虜を許諾、日本側ものどから手が出るほど欲しがっていた技術者を確保し意気揚々と内南洋の根拠地へと踵を返した。
 これが後に講和条件の切り札になるとは誰が予測しただろうか?
 かくして、パナマ沖での戦闘は終了した。残ったのは米軍艦艇の屍と廃墟と化したパナマ海峡の基地要塞群であった。
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