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呂宋沖殲滅戦
呂宋沖殲滅戦(弐)
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「な、なんだァ、連中の艦艇の数は!?」
チャールズ・イエーガーは眼前に立ち塞がる連合艦隊の数に天を仰ぎ驚愕した。それは、明らかにミッドウェーやソロモンといった数々の海戦で喪失した艦艇を立て直したように見えたからだ。その数、前衛部隊だけで水雷戦隊一個分はありそうな勢いであった。特に眼前の大きな大きな巡洋艦は、それだけでも脅威に見えた。……少なくとも、彼らの耳目にとっては、だが。
「間違いねえ、隊長!!」
「あ、ああ。行くぞ!!」
部下の隊長と呼ぶ声にイエーガーは意識を向き直した。確かに、眼前の艦隊は強大であった。だが、それは裏を返せば眼前の艦隊を撃沈すればおそらく大日本帝国は再起不能になるはずだからだ。
一方、レイテ沖にほど近い停泊地では、醍醐忠重という提督が指揮を取っていた。無論、本来ならば高松宮本人が指揮を取るべき大作戦なのだが、表向きの作戦目標の都合上、高松宮は敢えて囮艦隊の指揮を執っていた。
「司令官!! 来ます!!」
醍醐を呼ぶ見張り員を束ねる下級将校。それに対して醍醐は朗らかな笑顔で二の句を告げた。
「ああ、構わんさ。覚悟はできている。それより、撒き餌の回収は済んだか?」
「ははっ。高松宮司令長官座乗艦「超甲巡」を初め総員轟沈艦なし!」
……いとも豪勢な撒き餌――すなわち、最新鋭の巡洋艦に、連合艦隊司令長官である高松宮まで座乗させた、格好の囮――を回収すべく醍醐は指示を出した。一応、まだ高松宮が上陸しているわけでも無く超大型甲巡洋艦も停泊していないのだが、安全圏まではすでに離脱していたらしく、部下がそう報告したことを聞いて、醍醐は遠い親戚に当たる長官の座乗する方向を見据えた。
「よし来た!!」
一方で、レイテ沖に若干遠い沖合において超甲巡に座乗した高松宮はと言えば……。
「……全く、こんなことのために超甲巡を使うとは思わなかった。艦長、大事ないな!?」
超甲巡。正式名称、超大型甲巡洋艦。すなわち、超大型の重巡洋艦だが、本来ミッドウェー海戦によって計画が中止されたはずのこの艦艇は、結果として船体が進水していたことによりせっかくだからという理由で最新式の艤装を施して戦場に投入された。それは本来の役割である水雷艦隊の指揮のための艦ではなく、最新式のラダールやアズデックをはじめとした数々の技術が詰まった総指揮専門の艦艇と化していた。一応、対空砲戦などは可能ではあるものの速射砲を備えている代わりにいわゆる砲撃任務などの能力は皆無に等しかった。それは、いわば対空巡洋艦などを揃えることができない大日本帝国なりの答えであった。さすがにコンピュータまでは搭載していないものの、通信機能などの完備によりほぼ初期のコンピュータ、否、それ以上の演算能力を備えていた。
「はい、各部署ともに無事、喪失艦皆無!本艦に至っては傷一つついていません!」
「さすがに雪風のほかに佐世保の時雨まで投入したら、そうなるか。
それでは、転進!!」
そして、高松宮は運命の後退を開始した。
チャールズ・イエーガーは眼前に立ち塞がる連合艦隊の数に天を仰ぎ驚愕した。それは、明らかにミッドウェーやソロモンといった数々の海戦で喪失した艦艇を立て直したように見えたからだ。その数、前衛部隊だけで水雷戦隊一個分はありそうな勢いであった。特に眼前の大きな大きな巡洋艦は、それだけでも脅威に見えた。……少なくとも、彼らの耳目にとっては、だが。
「間違いねえ、隊長!!」
「あ、ああ。行くぞ!!」
部下の隊長と呼ぶ声にイエーガーは意識を向き直した。確かに、眼前の艦隊は強大であった。だが、それは裏を返せば眼前の艦隊を撃沈すればおそらく大日本帝国は再起不能になるはずだからだ。
一方、レイテ沖にほど近い停泊地では、醍醐忠重という提督が指揮を取っていた。無論、本来ならば高松宮本人が指揮を取るべき大作戦なのだが、表向きの作戦目標の都合上、高松宮は敢えて囮艦隊の指揮を執っていた。
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「ああ、構わんさ。覚悟はできている。それより、撒き餌の回収は済んだか?」
「ははっ。高松宮司令長官座乗艦「超甲巡」を初め総員轟沈艦なし!」
……いとも豪勢な撒き餌――すなわち、最新鋭の巡洋艦に、連合艦隊司令長官である高松宮まで座乗させた、格好の囮――を回収すべく醍醐は指示を出した。一応、まだ高松宮が上陸しているわけでも無く超大型甲巡洋艦も停泊していないのだが、安全圏まではすでに離脱していたらしく、部下がそう報告したことを聞いて、醍醐は遠い親戚に当たる長官の座乗する方向を見据えた。
「よし来た!!」
一方で、レイテ沖に若干遠い沖合において超甲巡に座乗した高松宮はと言えば……。
「……全く、こんなことのために超甲巡を使うとは思わなかった。艦長、大事ないな!?」
超甲巡。正式名称、超大型甲巡洋艦。すなわち、超大型の重巡洋艦だが、本来ミッドウェー海戦によって計画が中止されたはずのこの艦艇は、結果として船体が進水していたことによりせっかくだからという理由で最新式の艤装を施して戦場に投入された。それは本来の役割である水雷艦隊の指揮のための艦ではなく、最新式のラダールやアズデックをはじめとした数々の技術が詰まった総指揮専門の艦艇と化していた。一応、対空砲戦などは可能ではあるものの速射砲を備えている代わりにいわゆる砲撃任務などの能力は皆無に等しかった。それは、いわば対空巡洋艦などを揃えることができない大日本帝国なりの答えであった。さすがにコンピュータまでは搭載していないものの、通信機能などの完備によりほぼ初期のコンピュータ、否、それ以上の演算能力を備えていた。
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「さすがに雪風のほかに佐世保の時雨まで投入したら、そうなるか。
それでは、転進!!」
そして、高松宮は運命の後退を開始した。
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