正しい歴史への直し方 =吾まだ死せず・改= ※現在、10万文字目指し増補改訂作業中!

華研えねこ

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呂宋沖殲滅戦

呂宋沖殲滅戦(伍)

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 当初合衆国軍は戦闘が始まってすぐに終わったのを見て「勝った」と思ったという。まあ当然だろう、彼らは昇風という日本軍の戦闘機を知らなかったのだから。確かに零戦相手ならば三倍の相手でもF6Fは勝てる。少なくともカタログ・データ上は。だったら楽観視してもいいだろう。しかし、相手は烈風ですらなかった。たった今味方を絶滅させた完全な新型機。それが制空隊の正体であった。
 そして殲滅が始まった。まず制空隊は付近に存在する日本軍機以外のすべての航空機を撃墜。そこには当然ながらマッカーサーの搭乗した改造旅客機も加えられている。
 初手から総司令官を抹殺された合衆国軍上陸部隊の末路は悲惨であった。
 そして暇を持て余した制空隊は対空巡洋艦などに見つからないように小型の輸送艦を次々と銃撃。気付いた対空巡が近づいたころには狙われた輸送艦はほとんどが沈没していた。
 次に来たのは正規の攻撃隊ではなくあまりの速度に後詰として用意されていたはずだった特殊部隊が本隊を追い越し先に戦場についてしまった。
 彼らは護衛機の存在を欠いたまま戦場に突入した。通常ならいい鴨(アメリカ風にいうならば七面鳥)だろう。しかし、彼らを狩るはずの狩人戦闘機はもはや存在していなかった。狩人はすべて猛獣昇風によって殺されていた。
 余裕綽々、というよりは敵の戦闘機が一機も上がってこなかった特殊部隊は一瞬疑念を感じたがやることに変わりはなかったので作戦を開始した。
 彼らの任務はただ一つ、持っている兵器でサン・ファン型対空巡洋艦を初めとした対空用艦艇を撃沈せしめることだった。
 対空巡は総計30隻。対する特殊部隊は二百機。作戦は「予定通り」順調に進んだ。
 一方の合衆国軍の様子は「動揺」でもなければ「狂乱」でもない。「絶望」であった。
 当然だろう。護衛空母から上がった戦闘機は一瞬にして蒸発し、騒動を聞きつけた本来なら爆撃に使うはずの大陸から飛んできた戦略機も悉く撃墜された。もしこの時友軍機が残っていれば後から駆け付けた特殊部隊を減ずることも可能であったという歴史学者も存在する。
 合衆国軍はこの時点で撤退を決断すべきであった。この状況で上陸作戦など画餅以外の何物でもないからだ。しかし、決断すべき総司令官は最初の攻撃で戦死、次に決断すべき海にいる副司令や先任将校も同じく戦死、命令系統は日本軍の「ただの一撃」で一瞬にして崩壊したからだ。そして、今回は合衆国軍の合理性は完全に仇となってしまっていた。無理からぬことだ、誰がたった一回目の戦術点だけで自軍の指揮系統が崩壊すると思っただろうか!
 よって、合衆国軍は的確な命令系統なく、絶望漂う中を、「事前の作戦通り行動しか」取れなくなっていた。
 そして……ハワイから暗号名カナンを経由した合衆国軍は「一人たりとも」大地を踏むことなく呂宋レイテ沖の藻屑となった。

 そういうわけで、今少し合衆国軍の最期について、もう一度筆を重ねてみたいと思う。

 日本軍の圧倒的空襲に対して合衆国軍はあまりにも非力だった。
 無理もない。日本軍は合衆国軍に対しての新兵器隠蔽を日本軍にしては異例の周到さで、それこそ軍艦大和を隠すかのごとく行ったからだ。
 ゆえに、合衆国軍は当初飛来した飛行機を飛行機だと思わなかった。否、飛行機ではあろうが敵軍だと思っていなかったといったほうが正しいか。
 それは航空機と呼ぶにはあまりに当時としては歪だった。前後の翼の大きさが従来とは逆であったそれは飛行機としては軽量で、頑健で、あまりにも強力であった。それはまさしく殺戮機械だった。
 そしその機体は漆塗りの木材で形成されていた。漆故レーダーの電波を反射することなく、その材料は調達が容易で、木材故日本にとって量産があまりにも容易であった。
 しかも木材でありながら漆を幾重にも塗り重ね、ジュラルミンよりもはるかに軽量かつ堅牢かつ頑健であった。
 一説には試験的に近接信管にぶち当ててみたら信管が作動しなかったとすら言われている。
 ゆえに……。アメリカ軍が日本軍抹殺を期待した近接信管並びに対空ミサイルは全く作動しなかった。機械の故障かと思い連発したが、直撃弾以外は……否、直撃弾すらも日本軍の航空機を撃墜し得なかった。
 少なくとも、「昇風」相手には。
 昇風に対して過剰に撃ち尽くした結果、後に飛来する敵機に対して合衆国軍は有効な攻撃手段を為し得なかった。
 合衆国軍人にとっては悪夢だろう。近接信管は作動せず、対空ミサイルも役に立たない。なおかつ直撃しても木材特有の柔軟さと炸薬の不発によって物理的な衝撃しか加えることは不可能であった。烈風であったならそれでもまだ撃墜は可能であったかもしれない。しかし、昇風は一部に於いては同じような翼の形である震電すら上回る性能を持つ航空機であった。言うまでもなく、F6FやF4Uそして近接信管など昇風にとっては正しい意味で役不足でしかなかった。
 ましてやカナンの簡易飛行場から飛来する旧式機など話にすらならなかった。それはもはや戦闘ではなく戮殺であった。
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