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第二段階、死守の外郭
「は」号作戦(中)
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「は」号作戦が発動したことによってポート・モレスビーは瞬時に潰乱した。まさか空母どころか旧来の砲雷撃用の艦隊すら派遣せずに、空挺部隊のみで後方基地を占領するなどという戦争原則からかけ離れた非常識な、だが現状の日本軍の状況を見れば実に合理的な、作戦を採る気だとは思わなかったからだ。しかもどういうわけか落下傘を搭載した航空機の高度が日本軍にしては非常に高く、高射砲では当たらない。
さらに間の悪いことに、ガダルカナル島から日本軍が組織的には撤退したこともあってちょうどこの時期、ポート・モレスビーは新兵訓練のために後方基地として認定されていた場所であり、それはベテランのパイロットがただでさえ少なく、その少ないベテランのパイロットをあろうことかガダルカナル島に派遣していたものだから、先導役の機体すら新兵が操っていることもあって面白いように合衆国軍の機体は墜落していった。
マリアナ沖海戦の大勝利もあって帝国海軍航空隊の内、中堅パイロットの一部はこの時期の合衆国軍の技量を見誤った者さえいたと言われている。――そして皮肉にも、それは今後の戦争展開を見る限りでは見誤ったとすら言い難かった。
かくしてまずは作戦の第一段階が成功した。ポート・モレスビーを占領するための攪乱である、落下傘部隊を使った「奇襲空挺作戦」は成功したのだ。皮肉にもその時の成功打電はやはり「トラ・トラ・トラ」であったという。……なんで空挺作戦のはずだというのに湾岸に雷撃隊が突撃しているのかは、あまり考えない方がいいだろう。
空から日本兵が降ってくる。そう動転し、打電内容すらよりにもよって平文で送ってしまったのは、言うまでも無くポート・モレスビーのある守備隊員であった。何せ先ほども述べたようにこの時期、ポート・モレスビーは新兵訓練場であった。その上さらに教官役であったはずのベテランはガダルカナル島に引き抜かれ、ポート・モレスビーに残るパイロットは絶望的な程に練度が低かった。
そして悪いこととは重なるもので、ニューギニア島に駐屯している主力は「は」号作戦が行われている当時、ビアクに進撃しており……文字通りの弱卒しかこの基地には存在していなかった。本来ならば、安全な後方勤務であるのだからせいぜい危険と言えばサメくらいなものであったのだろうが、合衆国軍はこの虚を完全に、そして奇跡的なくらいに綺麗に不意を突かれた形となった。
そして、日本軍にはさらなる幸運も存在した。陸軍側もビルマでの失点を埋めようと考えていたのか、乾坤一擲の精神の下この作戦に持ちうる全ての空挺師団を投入。さらに、呑龍と一式陸攻という、本来ならあり得ないであろう陸海協同編成、無論それは護衛機も零戦と隼や飛燕などが渾然一体となっていることを意味していた、を編成することにも成功していた。
無論、それを行い得たのは高松宮宣仁の人徳あってのものであったが、それだけでも連合軍からすれば今までの軍事常識から外れているのにも拘わらず、さらに二式飛行艇まで空襲に参加していたのだ。そして、敵パイロットが的同然の新兵に過ぎないことを看過した護衛隊は低空にまで高度を落とすや、位置エネルギーを運動エネルギーに変えた機体強度ギリギリの高速で機関砲を乱射、ポート・モレスビーを守る新兵だらけの守備部隊は文字通り、その肉体を四分五裂させた。
……この時点で、ポート・モレスビーに存在していた合衆国軍を始めとした連合軍は組織的な防衛が最早不可能であったのだが、日本軍はその状況であっても油断することは無く作戦を遂行した。……まあ、穿った見方をすれば、恐らくそこまでの情報収集能力が存在しなかったのかもしれなかったが。
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