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第二段階、死守の外郭

「は」号作戦(前)

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 高松宮は、マリアナ沖の防衛に成功した。それどころか、攻め寄せた合衆国軍を字義通りの全滅にまでたたき落とした。将兵は当然のように狂喜乱舞したが、高松宮はそうでもなかった。慢心を恐れたからか、それとも予想外の状況に喜ぶより先に戸惑っていたのか。その心持ちは定かでは無いが、「勝って兜の緒を締めよ」と言い放った後に、彼は作戦の第二段階に取りかかった……。

 高松宮の次なる目的地はニューギニアであった。既にニューギニア島で日本軍が優勢な地方はビアクを残すのみとなっていたが、マリアナ沖の勝報を聞きつけた彼ら、即ち守備隊の士気はいよいよ盛んであり、寄せ来る合衆国軍を叩き潰そうと血気盛んであった。
 それに対して高松宮は、まずインパール攻勢の現状中止および再開延期を提案し、それに反論する陸軍に対してはビルマ南部を敵軍に対する盾として運用するよう提案、まずニューギニアのポート・モレスビーを陥落させてビルマ北部にたまった敵をカルカッタから殴りつけるという案を提出し、さらに海軍が責任を持って物資を補給する旨を付随させ、どうにか納得させることに成功した。
 次に異論を述べたのは軍令部であるが、彼らも天皇陛下の弟殿下に逆らうのは拙いと思ったのか、越権行為を注意する程度に留めることにした。それに対して高松宮は軍令部とは軍政を行うはずの場所であると返答した後に、現地の陸軍に先の戦闘で作戦に失敗した牟田口の更迭を提案、後任には奮戦した宮崎将軍を充てるようにと告げた。元来、陸海軍の仲は悪いものであり、日本軍は特にそれが酷かったと記録には残っているが、彼らも「天皇陛下の弟殿下」という菊の紋が付いた桐の看板には弱かったのか、概ね反論を控えるか、したとしてもその口調は抑えがちなものになっていた。
 そもそも、発言者である高松宮は敵の大攻勢を挫き、なおかつ大戦果を収めた提督である。海軍としても彼を更迭するわけにもいかず、陸軍としてもここで恩を売っておけば後々自分の主張を押し通せるだろうという心持ちであったとも言われている。
 ……かくして決戦の部隊は整った。

 その一方、サイパンへの攻勢に大失敗した合衆国軍は何をしていたかと言えば、情報部は新型暗号の解読に四苦八苦。高松宮が仕掛けた暗号は所謂辞書型暗号を施した上にシーザー式ですらも二重三重に仕掛けた暗号の上に命令文を遠方方言にしたものであり解読されない自信があった。
 それでも方言などの解読には成功した合衆国軍は漸く作戦目的を突き止め、「渾」作戦の再開であろうと判断。現地のマッカーサー将軍にビアクの力攻めを下令すると共にガダルカナルに戦力を集中、迎撃の態勢に入った。……しかし、それこそが高松宮の罠だった。
 高松宮はポートモレスビーを艦隊で占領する気はなかった。高松宮はひそかにラバウル航空隊の護衛の下陸軍に空挺作戦を提案。対する陸軍もバレンパン空挺作戦などの成功例もあり勝利を確信。史上最大の空挺作戦こと「は」号作戦は発動した。
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