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マリアナ沖海戦開幕

マリアナ沖のトンボとり(後)

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 それでは「マリアナ沖の悲劇」という喜劇の続きを話すことにしよう。

 当初サイパンに上陸した合衆国陸軍や海兵隊は海軍の主戦力である第51任務部隊が近海にいないのを知り、眼前における陸上での作戦は一見好調に進んでいたので恐らく付近の日本艦隊を壊滅させたのだろうと楽観していた。だが、それが偽りであることを彼らは命を対価として思い知ることとなる。
 高松宮は、サイパンに上陸した敵兵に対して戦艦による圧倒的火力ではなく敢えて航空部隊による爆撃で攻撃を行うことを下令、空母以外に収納していたあまり多くない爆撃機、攻撃機を空母に輸送し対地攻撃を開始した。不満のあまり戦闘機隊員に愚痴をこぼしていた攻撃系隊員は当初、出撃命令が下って欣喜雀躍としたものの、程なく対地攻撃である旨を聞きテンションを落とした。だが、これが高松宮なりの訓練法であることも一応は知っており、不満ではあるがやむなしといった態度で乗り込んだ。そう、高松宮は自身の課した訓練方法が的確であることの証明を戦地にて行ったのだ!
 そして、後に合衆国軍をして「空を覆わんばかり」の空襲部隊は発進した。とはいえ、攻撃機などはそこまで多い数では無い上に、高松宮は急降下爆撃をこの戦場では禁じていた。故に、「空を覆わんばかり」という証言はいくら何でも過大評価なのだが、あるいは合衆国軍上陸部隊の士気がそこまで低かった証左なのかもしれない。
 視点を爆撃隊に戻す。総じて、サイパン上陸部隊への防衛手段は攻撃機・爆撃機共に比較的安全で、その代わり比較的命中率の低い水平爆撃のみとなった。だが、艦艇への攻撃と違い陸上への攻撃はそもそも重くて100kg程度の小型爆弾である、護衛すべき戦闘機の一部にすら搭載されたその爆薬は的確にサイパン島に侵略した合衆国軍を減らしていった。そして、高松宮は戦艦の主砲を恃みにするのではなく、巡洋艦部隊に砲撃を指示。駆逐艦には戦艦や空母の護衛を任せると共に巡洋艦の砲撃支援の下、機体の損傷がひどい状態であったり乗組員の疲労が目に見えて大きくなっていない限りは攻撃隊を送り続けた。
 かくて、連日連夜の爆撃に耐えかねた合衆国軍のサイパン侵略部隊は撤退を決意、付近の艦隊に打電を行うも……一向に返事が返ってこない。ここにきてサイパンを侵略していた合衆国軍部隊は血相を変えた。サイパンに上陸した合衆国軍はかなりの装備や情報を持ち、また艦隊にも最新機器が並べられていた。
 つまり、これは合衆国軍の驕慢なる攻勢攻撃に対する高松宮宣仁親王の「吾まだ死せず」という「たった一つの冴えたやり方」だったのだ。そう、親王は直感を確定情報に変えるためにわざわざ直率という形をとって大和に座上したのだ。
 これはトラックやパラオを攻撃された報復であり、確定情報を得るために仕掛けた罠だった。かくしてサイパンに上陸した合衆国軍は字義通りの全滅殲滅的大打撃となり、日本軍は残された書類より合衆国軍およびその他連合軍の最新情報を知るに至った。後に合衆国軍が西太平洋を追い出されるまで続くこの「高松宮の三段撃ち」は従来の航空主兵の図式を完璧に叩き潰すことにより真価を発揮した恐ろしい戦術であった。
 かくして、マリアナ沖の合衆国軍は草生す屍や水漬く屍となり、高松宮宣仁親王は第二段階へと戦略を移した……。
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