正しい歴史への直し方 ＝吾まだ死せず・改＝ ※現在、10万文字目指し増補改訂作業中！

マリアナ沖海戦開幕

マリアナ沖のトンボとり（中）

　連合軍呼称、「マリアナ沖の悲劇」は始まったばかりであった。作戦開始時刻である日中間に投入した内、すべての航空戦力を失った合衆国海軍は高松宮が座乗していることを聞くや、いかにレーダーを装備したとは言え元来不得手なはずの夜戦を決意、一方で大日本帝国側も当初の予定通り夜戦体制を整え始めた。期せずして夜戦は同航戦となった。
　まず、大和の砲弾が捉えたのはアイオワであった。彼女はなんと、初弾命中を成し遂げアイオワを瞬時にこの世から退場させた。そして、彼女の妹である武蔵もまた、姉大和に劣る練度ではなかった。彼女は初弾こそ至近弾だったものの、第二斉射でワシントン、ノースカロライナ、ニュージャージーといった敵艦をことごとく大破せしめた。それはまさしく、砲門口径ならびに彼女等（戦艦に限らず、艦艇船舶の代名詞は女性である）がまとっている装甲よろいの差がもろに出た戦いであった。そして、アイオワが瞬時に轟沈しワシントン、ノースカロライナ、ニュージャージーがたった一撃ワンパンで大破してよろめいている間に、その後ろに居たはずのサウスダコタが突如として大爆発を起こした。なんと武蔵が放った「至近弾」は、日露戦争の戦訓で水中でも僅かな間ならば貫通威力や推進力を残せる日本軍の弾薬構造によって、水中を少し進んだ後にサウスダコタの喫水線下、即ち比較的柔らかい下腹の装甲を破砕し、さらにそこからサウスダコタの艦底を少し進んだ後に弾薬庫まで到達し、そこで時限信管の炸薬に着火したために周囲の火薬諸共大爆発を起こして艦艇の細胞といえる鉄くずと乗組員の肉片を盛大にばらまいた後、速やかに海中に沈んだ。
　いきなり、五隻の戦艦を失った現地の合衆国軍艦隊の最高責任者、名はこの当時日本軍の索敵能力の低さもあって明らかになっていない、は撤退をキング海軍部長に進言したが、当然のように却下された。向こう側のお達しとしては、「翌朝航空攻撃で撃沈せよ」というものであったが、その航空隊が無いという状態であった。そして、海軍部長は致命的な情報を与えた。上述したように、この海戦では高松宮が大和に座乗し、督戦を行っていた。その情報がもたらされた現地最高責任者は戦闘の継続を命令した。そして、それによって高松宮が仕掛けた罠の顎はしめやかに閉ざされた。合衆国軍が巡洋艦や駆逐艦を使い必死に突撃を開始したが、そこに待っている物は弾雨であった。比喩ではなく、降る雨の密度で戦艦の副砲から巡洋艦の艦砲、あろうことか駆逐艦に搭載された対空機関銃に至るまで、何か何まで日本軍は発砲した。だが、高松宮の狙いはそこではなかった……。
　退却予定航路近辺に金剛型戦艦が率いている別働隊が屯していることに合衆国軍現地最高責任者が気づいたのは、なんと折角捉えていたレーダーの情報からではなく、目視してからというタイミングの悪さであった。「金剛」、「榛名」、そして第一戦隊および第五航空戦隊以外に所属する無数の巡洋艦以下の別働隊は、空母目指して最大戦速を超えた異常な速度で体当たりでもしかねないほどの至近距離にて発砲、座乗していた名も知らぬ最高責任者諸共空母部隊を一瞬で海の藻屑に変えた。この時、高松宮親王は完全に合衆国軍の裏をかいた。空母は夜は無力であることを逆手に取った完全な奇襲であった。今後大量に建築されるであろう量産空母の夜戦撃沈、並びに即戦力化に特化した訓練法による真珠湾当時までの練度の回復。後に連合軍から「死の沖に降臨したリヴァイアサン」と恐れられる高松宮伝説の始まりであった。


　……そして、戦闘の結果は、正に一方的殲滅と言って良かった。此処まで一方的な戦局というのは日本海海戦以来と言っていいだろう。そして明後日、マリアナに八幡部隊が到着。高松宮長官の指示により悪天候を避け安全な迂回路を通った結果の遅延であった。そしてマリアナ防衛戦が始まった……。