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盗賊とリリル

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『ひとまず自己紹介といこう。我はスリュムである』

 

「……お前みたいなスライムにも名前あるんだな」

 

『いや、スリュムは種族名でなく名前である。スライムが種族名――ん?貴様、よくぞ我の種族名を知っておるな』


日本人で俺の世代ならドラクエとか流行ってたし、知ってるやつは多いだろう。
しかしばか正直に答える必要はない。

 

「ああ、まぁな。ちとわけあって、お前みたいな定番モンスター野郎の知識には強いんだよ。あと、俺はティムルと呼べ。貴様じゃない」

 

『了解した。ティムルよ、貴様はこの超絶魔物スリュム様に聞きたいことなど山ほどあろうが、ひとまずそれは脇に置かせてもらう』

 

……貴様と呼ぶなと言っているのに。もういいや。
ときおりぷるっ揺れる水色ボディーがそう思わせた。
中身はどうあれ、見た目だけなら事実かわいいのだ。

 

「ああ。それで、人間を助けてほしいんだっけ?なんで仮にも魔物?珍生物?のスリュムが、人間を助けたがるんだ?」

 

『実は、我は最近誕生した魔物でな。物理攻撃は効かぬゆえ生き延びてこれたが、毒だったり火だった、そういったものには弱い』

 

「なるほど。つまり俺の炎なら一瞬で殺せるわけか。スリュムも火の攻撃は慣れてたから、地面に潜るって対応ができたと」

 

『……一撃ではないが!ま、まぁ、だいたいそんなとこである』

若干プライド高めのスリュムさんである。
しかし弱点がわかった今、なにも恐れることはなくなった。
俺は警戒を少しだけ緩める。

「それで?人間がどう関係してくるんだよ」

 

『うむ。我はある日、蜘蛛型の魔物に噛まれてな。毒を負ったのだ。解毒作用のある草でも転がっていればまだ助かったかもしれぬが、不幸にも我の身近にはまったく見つからなかった。毒は徐々に我の全身を侵しはじめ、ついには死を覚悟していた』

 

と語りながら、スリュムは全身を紫色に変え、弱っている演技をする。

いちいち余計なことをするスライムだと思いつつも、ツッコんでいるとキリがないので先を促す。

 

『そこで出会ったのが、一人の少女であった。名をリルルという。ちょうどティムルと同い年くらいであるか』

 

「んで、その少女が助けたと。んでもなんで魔物なんかを助けるのかは意味不明だな」

 

『然り。我を助けたのは、おそらく我の愛くるしいボディーにやられたのだろう。プルプルしたらイチコロであったわ』

 

やっぱりあのプルプルは意図的にやっていたのか。

まあ初めから俺は腹が立つほどわかっていたが。

 

「へー。でも、俺と同じ歳くらいのガキだろ?助けられるのか?」

 

『リリルは魔法が得意らしくてな。回復魔法で我を助けてくれたのだ。我は嬉しさと感激のあまり、リリルと契約を交わした』

 

「契約?」

 

『契約とは、本来ならば人間が召喚術で精霊を呼び出し、双方合意のもと成立するものだ。契約を結べば、人間はその精霊の能力を使えるようになり、逆に精霊のほうは人間の魔力を餌にすることを許され、一生飯にこまらずにすむ』

 

「なるほど。要するに、契約すれば精霊はヒモ生活が送れるわけか」

 

『ん?ヒモ?』

 

「いや、こっちの話だ。続けてくれ」

スリュムが咳払いで仕切り直す。
……すまんな。
 

『我はリリルと契約を結んだ。だが、リリルはまだ幼く、魔力総量もわずかだ。我と契約してはほとんどの魔力をもっていかれるどころか、回復も難しい』

 

その言葉に俺は絶句する。
つまり、スリュムと契約した結果、そのリリルという少女は魔力が空のまま生きていかねばならなくなったということ。さらにリリルは魔法が得意ということも合わせて考えると、戦闘手段で魔法が一切なしというのはかなり痛い。

 

「なっ!?じゃあなんでリリルと契約したんだよ!スリュム、まさかヒモになりたいがためにリリルを騙して契約させたんじゃないだろうな?」

俺が声を荒げてみると、スリュムは失礼だとばかりにぷるぷるっと体躯を揺らす。
いちいち動きが可愛い。
もちろん高慢な態度のせいで可愛さ半減しているが。

『いったであろう!契約は双方合意の下で成り立つ。その際、必要最低限のみ伝え、相手の判断に影響があるようなことを契約相手が声に出してはいけないのだ。公平なものゆえに、我々はこの儀式を契約と呼ぶのであるぞ!』

スリュムもお怒りのようだ。
スライムのくせに偉そうだしプライド高いし、ベジ○タ並みに扱いにくい奴である。

「なるほど。それで?魔力が枯渇しているから助けろ?いっとくが俺は炎の魔法しか使えねぇぞ?」

 

『いや、そうではない。たしかにリリルは魔力がそこまでない状態ではあるが、問題はそこではない。リリルは、ある盗賊団に連れ去られてしまったのだ』

 

「!?」

 

『本来、魔法の天才児と呼ばれるリリルが盗賊ごときに負けるはずはなかった。しかし、我との契約で魔法が使えない状態なのだ。すべては我の……我の責任なのだ。そんな我が、どうやってリリルに顔を合わせれば……』

と、そこでスリュムは近くにティムルがいなくなっていることに気づく。

『……やはり頼みをタダで聞いてはくれぬか。ただならぬ気配を感じたゆえ、試しに声をかけてみたが、所詮は人間。仕方ない、我だけの力でなんとか……』 

「おいっ、そんなとこでなにやってんだ。はやくしねーと、そのリリルってこが売られちまうだろ!奴隷にされる前にケリをつけなきゃだしな。」

ティムルはさっさと身支度を整え、いつでも出発できるようにしているだけであった。
スリュムはしばし呆気にとられたが、リリル以外にもこんな人間がおるのか、と嬉しくなった。


『……ティムルはたいへんお人好のようであるな』

 

「おい、遅いぞ早くしろ」

 
そしてティムルは、素直になれない性格であった。
スリュムはふっと微笑んだ……ような気がした。

『ティムルにも年相応の可愛らしいところがあるのだな』 

「は、はぁ!?なわけねーだろ、このハゲ!」

『ちっちっち、スライムは元々ハゲなのであるぞ?』

「うるせぇー!潰すぞハゲ」

スリュムは急いでリリル救出のため、盗賊のアジトへとティムルを案内した。
こうしてティムルは奇妙なスライムとの出会いを果たした。
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