ライオン×飼育員さん

五味ほたる

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ライオン×飼育員さん

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 九月に入り、少しずつ日が暮れるのも早くなってきた。水場の水を換え、岩場に生えたコケをブラシで擦り終わる頃には、もう真っ暗になっていた。野球場についているような、家の数倍は眩しいライトが頭上で煌々と光っている。

 今日は閉園前にお客さんに引き止められて時間を食ってしまった。でも、動物に興味を持って質問してくれるのがすごく嬉しいから、この手の残業は苦にならない。

 俺は勤務三年目の飼育員だ。ライオンだとかヒョウだとか、主に肉食動物の世話をしている。

 この動物園で一番人気の雄ライオン、リオ。この子は他の子と比べて特殊で、とても大人しい穏やかな子だ。ライオンは基本的に襲ってくることはないが、お腹が空いている時に近づくと危険なので、どの動物園でも「不用意に近づかない」のが常識だ。

 常識……なのだが……。

 リオはとても優しい目をしていて、ここに来て世話をするうちに、俺は「この子は近づいても噛まないんじゃないか」と思うようになっていた。

 自分の心で思うだけで、一定の距離を保って世話をしていたが、今日は……。ブラシを片付けようとして後ろを振り返ると、飼育員専用口の前でじっと俺を見ているリオと目が合った。

 彼は眩しいくらいのライトに照らされて、神々しい別の生き物のように見えた。

 随分と長く目を合わせていたような気がする。俺の口からは自然に「リオ、おいで」という言葉が出ていた。
 その言葉にぴくっと反応して遠慮がちに近づいてきたが、尻尾だけは嘘をつけなくて……全力でぶんぶん動いていた。そのギャップがおかしくって愛おしくてたまらなくって、目の前に来た巨体をぎゅっと抱きしめて撫でてやった。

 俺から触れたことがよほど嬉しかったのか、吹っ切れたようにぐいぐいと頭を擦りつけてくる。……やはり噛まない。喉がゴロゴロと鳴っていて、「ライオンってこんなに猫と同じ仕草するんだな」と初めて知った。

「あ、リオっ……ふふ」

 べろべろと顔を遠慮なく舐め回される。顎をわしゃわしゃしてやると、気持ちよさそうに喉を反らした。

「……いつも世話させてくれてありがとな」

 誰もが気づいていて知らないふりをしていることだが、野生で自由に駆け回っていた彼らを無理矢理閉じ込めて見世物にしているのは人間だ。こんな狭い檻の中じゃ、走るどころかちょっと歩いただけですぐ行き止まりだ。

 大きくて丸い目と視線がぶつかる。反射した瞳の中に俺が映っている。不思議と怖くはなくて、この子はなんて優しい目をしているのだろう、という気持ちでいっぱいだった。

「っ……!」

 あっ、と思った瞬間にはもう星空が見えていた。ちょうど草が生えた柔らかい場所だったから、痛くはなかったが……「ああ、やっぱりダメか」と思った。俺たち人間のしていることは許されない。許されたいとも思わない。ただ、人を襲って殺したとなると、リオが殺処分されてしまうのは免れない。それを思うと胸が苦しかった。
 リオのことは怖くはない。怖くはないが、自分より何倍も大きい肉食動物に伸し掛かられている、という状況は本能的に恐ろしかった。

「……いいよ」

 噛みつかれる覚悟をしたら、愛しい獣はどこか切なそうに目尻を下げて、顔をぺろぺろと舐めてきた。

「んっ……!」

 そのまま顎を辿り首筋まで舐め回してくるので、くすぐったくて思わず声が出てしまった。こわばっていた身体が弛緩していく。

「ははっ……ふ、くすぐった……」

 これから死ぬ人間にしてはなんとも間抜けな絵面である。いつ痛みが来るのだろうと身構えていると、何か太ももにゴリゴリした硬いものが当たった。最初、それが何かわからなかった。目線を下げて見ると、

「えっ……?」

 飼育員をしていると動物の発情期に遭遇するのは当たり前なので、動物の生殖器は見慣れているが……

「っ……」

 これは、自分に対して欲をぶつけられているのか? それとも、これから人の肉を喰らうことに興奮しているんだろうか?

 噛み殺される覚悟をした直後に性の象徴を押し付けられるなんて、誰が想像するだろう。……まともに考えられず固まっていると、びりびりと音がして歯で作業着を引きちぎられた。頑丈に作られているはずが、人間が紙を破るようにあっという間に引き裂かれてしまった。

「うっ……!」

 べろん、と胸を乳首ごと舐められる。舐める範囲も強さも人間とは比べ物にならないくらい強くて、突起を強引に持ち上げられる感触にぞわっとした。

「いやだ……っ!」

 ただ殺すだけじゃ収まらないほど憎まれているとは思わなかった。ショックと寂しさと申し訳なさと、いろんな感情がごちゃまぜになって叫んだ瞬間、リオの動きがぴたっと止まった。

「……え……?」

 じっと俺を見たあと、鼻先を俺の頬に擦りつけてゴロゴロと喉を鳴らす。
 ……本当に殺そうと思ってる奴が、こんな行動をするだろうか? そもそも蹂躙するのが目的なら、噛んで動きを封じる方が楽に決まってる。

「……リオ」

 さっきまでの恐怖が波のように引いていく。愛しさがじわじわ溢れてきて、ふさふさの頭をぎゅっと抱きしめた。

「お前の……好きにしていいよ」






「あっ……! ん……っ」

 さっき服を引きちぎられたときに見えた牙がちらついて離れなかったが、その記憶を消してくれとでもいうように、胸全体を優しく舐められる。その間も性器は俺の腿に擦りつけられたままで、異様な状況にあてられて、だんだん俺も変な気分になってくる……。

 うちの園は、ライオンはリオ一匹だけだ。雌に触れてないからこうなっているのかもしれない……と、まともに考えられない頭で申し訳なさでいっぱいになった。

「あ、はぁあ……っ」

 少しずつ下っていって、ヘソの穴を舐め回される。そのまま下半身も同じように破れるはずなのに、リオは頑なにそうしなかった。

 その一途な仕草に、決して無理強いしない健気さに……俺は目の前の獣を受け入れてやりたい気持ちでいっぱいになっていた。

「んっ……待って……今、脱ぐから……」

 震える指で靴を脱いで、一瞬躊躇ったあと……下を下着ごと太もものあたりまでずり下げた。上半身を起こして全部脱ごうとすると、リオが噛んでずるずると持っていったので、腰を浮かせるだけにとどめた。

「……っ」

 野外で下半身を晒すという異常な状況にくらくらする。俺が自分の意思で脱いでくれたのが嬉しいのか、リオは喉を鳴らしながら俺のものをべろんと舐めてきた。

「ひあっ……!」

 今までに感じたことのない衝撃だった。舌が人間とは比べ物にならないほど長く、大きい。胸を舐め上げられた時の比ではなかった。これまで自分ひとりでしてきた自慰が、手で擦る刺激が、生ぬるく感じるほどに。

「や、はあっ……! りおっ……」

 人間相手では絶対に味わえない刺激と未知の快感に、そこが熱を持っていくのがわかった。ほんの五分前まで殺される覚悟を決めていたのが嘘みたいだ。

「ひぁあ……っ! 待っ…ぅん……っ」

 袋から先端までざらざらの舌で一気に舐め上げられ、溢れた液体も全て舐め取られた。止まって欲しいのに強烈な快感を与えられ続ける。俺の先走りをまとった舌が、袋の下の穴をつつくのがわかった。

「ひっ……」

 巨体をぐいぐいと脚の間に滑り込ませてくるので、必然的に脚を思いっきり開く形になった。閉じたい。恥ずかしい。リオは窄まった場所を見せてくれと言わんばかりに、執拗に何度も舌でつついてきた。

「や、だ……っ、ぅう……っ」

 もう覚悟を決めないとしょうがない。俺はもっと脚を大きく開いて、リオがそこを舐めやすい姿勢を取った。性欲を発散したいだけなら、辱めたいだけなら、下を脱がした段階で乱暴に突っ込んでいる。恥ずかしい、恥ずかしくてたまらないけど、リオが愛おしい気持ちのほうが何倍も勝っていた。

「ん……、ま、って……」

 リオのものは人間よりは長さはないかもしれないが、大きいことには変わりないので入れられるようにしないといけない。俺はおそるおそる指をそこに伸ばした。

「んっ……」

 大きい舌でたくさん舐めてくれたので濡れてはいるが、上手く入っていかない。俺の指が乾いているからだ。自分で舐めて濡らすしかないのか、でもそれをしている自分を客観的に想像すると死にたくなるから嫌だ……迷った瞬間、獣が俺の指を穴ごと舐めた。……全部わかってるみたいに。

「あっ……」

 指を開くと、股の間まで丁寧に濡らしてくれる。覚悟を決めてそれをあてがうと、ぬるっと吸い込まれるように入っていった。

「うんっ……」

 おそるおそる抜き差ししてみる。一本入っただけじゃ意味がない。中指をぐっと横に引っ張って、ほんの少し空いた隙間に人差し指をねじ込む。リオは穴の周りを舐めたり、入っていく指を舐めたりして、じっと俺のそこが拡がっていくのを待っている。

「は、あっ……ぁ……」

 限界まで足を広げて、本来使う器官じゃない場所に指を出し入れしている。恥ずかしくて消えてしまいたくなるけど、こうしないと大きいものを受け入れられない。

「ん、りお……」

 名前を呼んで次に入れる指を顔の前に差し出すと、すぐに舐めて濡らしてくれた。

「んぅ……っ」

 意を決して二本の指を中で開く。空気が入ってひやりとする感触がした。小さく開いたところに薬指を差し込む。

「はっ……く、う……っ」

 圧迫感がすごいが、ゆっくり動かすと次第にその感覚にも慣れてきて、三本を外側に動かしてくっ……と開いた。それをリオの大きな瞳がじっと見ている。……見られている。

「はあっ……」

 ゆっくり全部引き抜くと、締まりきらなくてぽっかりと口を開けているのがわかった。

「ん……リオ……、いいよ……」

 怖くないと言ったら嘘になる。けれど俺を傷つけず、こうして準備が整うまで我慢していたこの子が愛おしくてたまらなかった。受け入れてやりたかった。
 ぐるる……と喉を鳴らしてもう一度巨体が覆いかぶさってくる。ぴと、とそこに熱い感触が当たるのがわかった。

「ひっ―――ひああ゛あぁっ!?」

 ずぶっ、と一気に奥まで挿れられて、下品な濁った声が漏れる。一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなった。

「あ……ぅあ………」

 そこが火傷したのかと思うくらい熱い。ただ、焼ける感覚だけがある。リオは間髪入れずに動き始めた。

「あっ! ひ、あ、あ゛」

 ぱすぱすと揺さぶられながら、息を荒らげた獣の唾液が上から降ってくる。異物が、しかも人間ではないものが入っていて怖い、怖いけれど、この大きい身体もふわふわの毛も、中にいる熱い感触も、全部受け止めてやりたくて……考えるよりも先にリオの頭を引き寄せていた。

「りおっ……ぐっ!?」

 分厚い舌が喉の奥まで入ってきた。中を大きいもので擦られながら、口の中も犯される。テクニックも何もない、本能のままに動かしてるだけなのに、上顎も下顎も全部ごりごり擦られて腰がくだけそうになった。

「ぇぶっ……お゛っ……」

 舌が口の中で違う生物のように蠢く。絡ませたり追いかけるなんて到底無理で、そこには絶対に覆せない……支配するものとされるものの絶対的な差があった。

「ん゛ぁっ……!」

 受け止めきれない唾液が頬を伝って地面に落ちていく。

「ぁえ゛っ……が、はあっ……」

 リオの動きが早くなり、性器が中で膨らむのがわかった。ぐっ、ぐっ、と奥へ奥へ押し込むようにして射精の準備をしてるのがわかる。わかってしまう。

「あ゛、リ、オ……っぁ!」

 びゅ、と熱を感じたと思うと、一瞬でぶわわっと広がっていった。

「は、ぁ、あ―――っ……!」

 熱い。火傷しそうに熱い。獣の射精は長く、このまま俺の腹が破裂するまで終わらないんじゃないかと思うほどだった。

「ひあっ……! ぁん……っ」

 胸の突起を舐められると、中のものをきゅっと締め上げてしまうのが自分でもわかる。リオは出している間も、俺の目元に浮かんだ生理的な涙を執拗に舐めていた。

「んぅっ……」

 ずるりと引き抜かれる。存分に拡げられた穴から液体が流れ落ちるのがわかった。

 ……受け入れることができた。俺も壊れなかった。受け入れてやれたことが嬉しい。その気持ちでいっぱいになった。

「は、はあ……は……っ」

 リオは俺に鼻を擦りつけて甘えながら、まだ萎えずとろとろと白い液体を零しているそれを、先程と同じように腿に擦りつけてきた。

「ん……、まだ、する……?」

 俺の声は掠れていたが、ちゃんと笑って聞けたと思う。






「へぁ……、ぁ…ふ……」

 あれから何時間経ったのだろう。あのあと、二度射精するまでリオは止まらなかった。さらさらした精液が俺の奥底で出口を求めてうなっている。俺はみっともなく脚を開いた状態で穴から液体を垂れ流していたが、もうそんなことにかまってられなかった。

「ん……、き、もち……よか、った……?」

 俺の声は相変わらず掠れている。リオは申し訳なさそうに目尻を下げてさっきからずっと俺の顔を舐めていて、その仕草が人間臭くて笑ってしまった。

「んっ……」

 身体は猛烈にだるいが、朝までここにいるわけにもいかない。そうしたら明日からリオがどんな扱いを受けるかわからない。とにかくここを早く出なければ。

「ぅぐっ……は……っ」

 脚が震えて言うことを聞かない、という体験を人生で初めてした。とりあえず膝を使って踏ん張って立てるように、身体をごろんと動かしてうつ伏せの形になった。そうやって少し動いただけでも強烈な倦怠感が襲ってくる。

「く……っ」

 力を入れて立ち上がろうとすると、重力に逆らって中に出されたものがどろっと溢れるのがわかった。その時、リオがぎらぎらと情欲を滲ませてそこを見ていたなんて、俺は知るよしもなかった。俺の顔の横に獣の前足が置かれ、背中にずしりと体重がかけられるのを感じた。

「え……?」

 尻たぶに、もう長さも太さも教え込まれたものがまた擦りつけられる。

「りっ……!? ぁ、あ゛ああっ!」

 もう終わったものだと思っていて、完全に無防備になっていた穴に突き入れられる。視界が真っ白になり、一瞬意識が飛んだ。そのまま間髪入れず獣じみた動きでがつがつと穿たれる。

「が、う゛、はっ、あ゛っ」

 飛んだ意識を衝撃で無理矢理引き戻される。何度も出された精液が引っ掻き回されて、まるで人間の男女が繋がっている最中のようにぐちゃぐちゃと音がする。腰を打ち付けられるたびに腹の中のものがたぷ、と音を立てるのがわかった。

 今の俺は地面にひれ伏して、腰だけ高く上げる姿勢で犯されている。もうまともに働かない頭の隅で、「ああそうか、動物はこの体勢が一番ラクなんだ」などと考えていた。

「ひい゛っ!? や゛、ぁっ深……っ」

 上からぼたぼたと大粒の唾液が降ってくる。「女豹のポーズ」という言葉はよく使われるが……小さい頃読んだお色気漫画でそういうシーンがあったが……自分がその当事者になるなんて想像もしなかった。何も抵抗できず、尻だけ上げて犯されている。そう考えると背筋がぞくぞくした。

「あ゛、ん゛、ぁ、あ―――……っ!」

 こうして動物と同じように乱暴に後ろから犯されると、どこか倒錯するような、安心するような、奇妙な感覚に包まれる自分がいた。

「あ、う、はあんっ……」

 一度目は受け入れることに精一杯で俺のものは何も反応しなかったが、大きいものに繰り返し擦られ、たまに背筋がびりびりと痺れるところを抉っていくことに気づいていた。そこを撫でられるたびに前がぴくぴくと連動する。

「り゛……っ、ぁ、ま゛……」

 待って、と声に出して言ったつもりが、想像以上に喉が枯れていて出なかった。後ろを振り返りながら、意識して声を張り上げて言った。

「り゛お、待って……」

 するとぴたっと動きが止まる。……本当に賢い子だ。めちゃくちゃに注がれて好き勝手されているはずなのに、愛しい気持ちしか沸いてこなかった。

「ぅ、ン……ん……」

 俺はリオの動きを制止して、自分で腰を動かして気持ちいい場所を探った。抜かれると思っているのか、ぐるるると不安そうに喉が鳴る音が聞こえる。

「あ!」

 びりびりと痺れる場所に、長い切っ先が当たった。

「そこ……そこ、押して……」

 そう言うと、忠実なデカい猫は「がう」と嬉しそうに返事をした。そこからずれないように狙いを定めて、ぐりぐりと抉ってくる。

「あ゛、あぁあっ! あ゛―――……っ!」

 たまに掠めていくのと、直接刺激されるのとでは比べ物にならなかった。恥や外聞なんてものは剥がれ落ちて、肩で自分を支えて、反応している自分のものを夢中で擦った。

「い゛、う、んっ……」

 視界が真っ白になっていく。気持ちいい。気持ちいい。リオが俺でこんなに興奮してくれているのが嬉しい。もっと俺を使ってほしい。

「やあ、は、ん―――っ……!」

 射精した瞬間、中にいるリオをぎゅうっと締め上げたのが自分でもわかった。手に降りかかる自分の熱い液体を、どこか他人ごとのように感じていた。遅れてとくとくと中に注がれるのを感じる。口の中が苦い。土が口の中に入っているんだろう。みっともなくても、汚くても恥ずかしくても関係ない。リオの前では取り繕わなくていい。

「はあ、はーっ、は……」

 ぺろぺろと首筋を舐められるのを感じる。それはとても優しさに満ち溢れていて……身体は満身創痍でロクに呼吸もできないのに、じんわりと心が温かくなっていく。

「ん……リ、オ……?」

 もぞもぞとリオが腰を引くような仕草をするが、一向に抜けていかない。俺は完全に無意識だったが、極度の緊張で痙攣して、出ていけないほどぎゅーっと締め付けてしまっているらしい。
 抜けないと悟ったライオンは、なんだか嬉しそうに体重をかけてきた。ちょこんと俺を下敷きにして座る姿勢になる。本当にリラックスしたら俺が潰れることがわかっているので、絶妙に力を抜きながら。

「ふふっ……重……」

 尻尾がひっきりなしにぱたぱた跳ねている音が聞こえる。

「ん……、ちょっ、と……待ってな」

 はー、はーと深呼吸して意識して力を抜く。すると徐々に緩くなっていったのか、リオは名残惜しそうに……ゆっくりと出ていった。

「んは、あ……」

 ずるんと抜けて、そこが締まりきらなくてぽっかりと口を開けてるのがわかる。もう何もしたくない。本当にこのままここで寝てしまいたい……が、そういうわけにもいかない。
 リオの前足を掴ませてもらってなんとか立ち上がると、ゴポッと中に出されたものが重力に逆らって落ちてきた。

「は……っ」

 溢れないようにしようとしても、酷使された身体は力が入らない。とにかく、ロッカーまで行かなくては。歩き出そうとすると、たっぷり俺に注ぎ込んだ獣が、太ももをぺろっと舐めてきた。

「ひぁっ……!? ば……っ」

 自分が出したものを、執拗に拭おうとしてくる。出したくなくても脚の間に頭を入れて開かせようとする。そうされるともうどうしようもなかった。

「ぁ、駄目……っ」

 腿を伝ったものを拭ってくれる……なんて生易しいもんじゃない。穴から直接吸うように舌を突き入れられる。舐め取りきれず足首まで伝ったものも逃さないというように追いかけ、そのまま下から上に舐め上げられてぞくぞくした。

「いやだっ……! あんっ……」

 ぐいぐいと頭を割り込ませてくるので、脚を閉じるどころか、仁王立ちで大股開きする形になってしまった。肩幅よりも少し外側に強制的に開かされる。今の自分がしている格好を想像して、もう服としての機能を成さなくなったずたずたの上着をぎゅっと握りしめた。縋りつけるものがこれしかなかったからだ。

「リ、オっ……! も、大丈夫だから……っ」

 気が済めば終わるだろうと思っていたのに、いつまで経っても退かない。……全部舐め取るまで退く気はないのだろう、と嫌でも気づかされて青くなった。力の入らない脚は滑稽なくらいにガクガクと震えている。

「やだ、もっ……」

 ……これなら、力の入らない尻を必死に締める意味もないんじゃないか? 意地を張らなくてもいいんじゃないか? これが人間相手だったら恥ずかしくて絶対できないけど……リオにだったら見せられる。
 そもそも動物は服を着てるわけじゃないし、いつも下半身を俺たちにもお客さんにも堂々と晒して生きてるじゃないか。……自分が何を考えてるのかわからなくなってきた。とにかく、リオの前では意地を張ってても仕方ない気がして、

「んっ……ふ、ぅっ…っ……」

 先ほどとは逆にいきむようにすると、どぽっ、と垂れていくのがわかった。濃いものも出されたようで、どろっとした塊が出ていくのが手に取るようにわかって恥ずかしくてたまらなかった。俺が観念したのがリオにも伝わったのか、喉を慣らして嬉しそうに舐め取った。

「はあっ……ん、んぁっ……」

 随分長い時間そうしていた気がする。もう出るものが何もなくなったあと、さっきまでは一歩も歩けないと思っていた身体が、随分軽くなっていることに気がついた。……それだけ大量のものを体内に出されていた、ということなんだろう。

 もしかしたらリオは、それがわかっててこうしてくれたのかもしれない。俺がこのままシャワー室に辿り着いても、中に出されたものをどう処理していいかわからなかっただろう。

「りお……」

 脚はずっとガクガクしているし、頭はぼーっとしていて呂律も回らない。それでも俺は屈み込んで、美しい獣の頭を引き寄せた。

「また明日、来るからな……、あっ……!」

 最後にまたキスがしたい、と思って口を開けると、長い舌が容赦なく突き入れられた。人間同士のキスとは比べ物にならない、食らい付くされそうなキス。

「ぇぶっ……り゛、ぉっ……!」

 舌ごと、喉ごと犯される。大粒の唾液がひっきりなしにボタボタ落ちる。

「んぶ……っぁえ゛っ……! がっ……」

 この場に他の人間がいたら消えてしまいたくなるような声が出るが、文字通り獣のように犯されて、プライドとか矜持とか、普段取り繕ってるものが全部剥がれ落ちていく感覚がした。

「はあぁっ……! は、はっ……ふ……」

 解放されると、リオは喉を慣らして胸に顔を擦り付けてきた。……愛おしいものを思いっきり愛でるような仕草がたまらなくて、俺も頬を擦りつけてぎゅっと抱きしめた。ふわふわのたてがみが頬をくすぐる。

「ら……あ、も、行くから」

 激しく口を犯された余韻が抜けず、舌が回らない。立ち上がって出ていこうとすると、飼育員口のドアの前まで付いてきてくれた。

「……、また、明日な」

 名残惜しくて離れたくなかったが、どこかで踏ん切りをつけて帰らないといけない。
 園の出口に向かう途中で振り返ると、リオは変わらずこっちをまっすぐ見つめていた。遠くから見ると、ちょこんと座った姿が実家で飼ってる猫にそっくりで、やっぱり猫科だなあと、その健気な姿にまた愛おしさが溢れた。






 あまりの疲労で、あのあとタクシーを使って帰ったのか、いつも通り電車で帰ったのか、記憶が途切れて何も覚えていなかった。当然のように起き上がれず、相方に連絡して午前休にしてもらった。横にしかなれないから何もできなくて、そのことしか考えられない中学生みたいに昨夜の快感を反芻してしまう。昨日はあんなに離れたくないと思ったはずなのに、リオに会うのが猛烈に恥ずかしくなってきた。

 よくよく考えれば動物は「食欲・睡眠・性欲」の三大欲求に忠実であるだけで、そこに人間が感じるような「恥」という概念はない。そうわかっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。昨日、声を荒げた自分は全部幻だったんじゃないかという気がしてくるし、そう信じたいが、腰の鈍い痛みが現実だと訴えかけてくる。

 出勤し、予備の作業着に着替えてライオンの飼育員口に入ると、相方の唐崎が心配そうに声をかけてきた。

「高良、大丈夫か? 休んでもよかったんだぞ」
「ごめんな、迷惑かけて」

 ライオンはお腹を空かせている時に人間を襲う可能性があるので、通常、別室に移してから餌を置き、また檻に戻すというやり方を取るのだが……
 俺は唐崎が準備していた餌が入っているバケツを持って、堂々と檻の中に入った。

「えっ……!? ちょっ…! 高良っ!!」
「がうっ!」

 相方とリオが叫ぶのは同時で、愛しいでっかい猫は嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて、べろんと俺の頬を舐めた。

「大丈夫。噛まないから」

 あんぐりと口を開けた唐崎と、わっという客の歓声、たくさんシャッター音が聞こえたのも、これまた同時だった。




おわり





***






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