たこわさ

フゥル

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たこわさ

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 森の獣道を二人の冒険者が行く。片方は剣士の男。もう片方は魔法使いの女だった。軍事施設の廃墟に放棄された、生物兵器の破壊。それが、二人の任務。双方、冒険者としての腕は確かだった。しかし、話し上手ではなかった。
 剣士は、魔法使いに話しかけた。
「今回の討伐対象は?」
「たこわさ」
「たこわさ? 確かに俺、わさび持ち歩くくらい好きだが……」
「え、好きなの、たこわさが!? たしかにビジュアルはかっこいいかもしれないけどさ」
 剣士は、身を後ろに反らしながら、口をぽっかり開けた。
「あれが? かっこいい? おいしいの間違いじゃないのか?」
「あんた、あれを食べるの! どうやって?」
「そりゃ、足を薄切りにして、塩振って、そのほか調味料&わさびと混ぜ合わせて……」
 と、剣士は料理するジェスチャーをした。
 魔法使いは、首を傾げつつ目を見開いてきた。
「まって、そんなに簡単にあいつの足が切れるの?」
 『あたまおかしいんじゃないの』とでも言いたげな口調。
 剣士は少しムッとして答えた。
「包丁ありゃ普通に切れるでしょ。俺の故郷だとみんな食べてたよ」
「嘘でしょう! あんなのが、うじゃうじゃいるの」
「いるっていうか、居酒屋の定番メニューだぜ? たこわさ」
 廃墟の周囲に探知魔法をかけつつ、魔法使いは言った。
「怖っ! だれが狩ってるの?」
「そりゃ、タコだから漁師だよ。俺には無理」
「あんたの故郷の漁師、どんだけ強いのよ!?」
 剣士は、剣を引き抜く。建物内の安全を確保してから、魔法使いに手招きした。
「強いって言うか、それが伝統だし」
「たこわさ狩るのが伝統?」
 廃墟の中を進むと、最奥に何かがいた。上半身男、下半身馬。全身を神々しい金鎧で着飾っている。鎧は、埃で色がくすんでいるものの、大きな劣化は見られない。手には大弓を携えており、暗闇の中で淡く緑に輝いていた。全身から凄まじい魔力が放出されているらしく、見ているだけで息苦しくなる始末だった。
 良からぬ者の手に渡れば、甚大な被害をもたらすのは想像に難くない。
「すごいね、あんたの故郷の漁師。こいつの足を引きちぎって、わさびとあえるんでしょ?」
「俺の知っているたこわさと違う!」
 
 薪がパチパチと音をたてる。剣士は、薪の周りにある肉串のうち一本を手に取った。
「へ? たこわさってTACtical Overd Weapon Archer SAgittariusu(戦術的超越兵器弓兵サジタリウス)のことじゃないの?」
「普通にタコにわさびあえた食べ物のことだよ」
 ナイフで肉をそぎ落とすと、わさびをつけて、口に頬張った。
「んん。コリコリしてて美味い」
 魔法使いも恐る恐る肉を手に取った。
「じゃあ、今あんたが食べてるのは?」
「たこわさに、わさびつけてるから、たこわさわさだな……」
「おしい!」
「おしくない!」
 魔法使いは笑いながら、剣士からわさびの入った瓶をぶんどった。
 そして、サジタリウスのもも肉に塗った。
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