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美少女鑑賞――結
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一気呵成に描いたのだろう。
青年が執筆を終えたのとほぼ同時に、目黒美咲のイラストが送られてきた。
セーラー服を着た、少女の絵。
一見儚く見えるが、鋭い視線には力強さも見て取れる。
青年も、少女も、絵の完成度に言葉を失った。
完成だ。完成してしまった。
憧れの作家の表紙。
脚本術、小説術に忠実なプロット。
一流作家をコピーした文体。
理想の美少女をモデルにしたヒロイン描写。
「完成おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなたの幸運を祈っているわ」
「お元気で」
「さようなら」
少女と別れたあと、青年は投稿ボタンを押した。
青年は今、好きなモデルを、好きな絵師が、本気で描いた絵の前に立っていた。畳二枚分の大作で、公募展の特賞を受賞した絵だ。
「ああ、僕はこれを見るために、今まで執筆してきたのか」
額縁の中で、黒髪の少女が、神秘的なまなざしをこちらへ向けていた。
目黒美咲は、別作品も某アイドルグループのメンバーの目にとまり、SNSで拡散、ネットニュースに取り上げられ話題になっていた。
目黒美咲は、今や時の人だった。
少女もまた、この絵がきっかけでベテランファッションデザイナーに声をかけられ、モデルとしての一歩を踏み出したらしい。
「ずいぶん、遠くへ行ってしまった」
二人の出会いが、お互いの才能を開花させたのだ。
二人を引き合わせたのは、今回の青年の最大にして、唯一の功績だ。
「夢のような一ヶ月だった」
11
結果は、予想通りだった。
目黒美咲の『お礼絵』のブックマーク数は1万を超え、爆発的に拡散されていた。
一方で、青年の小説のブックマーク数は0だ。
モデルの少女の美しさと、目黒美咲の拡散力を持ってしても、この小説は救えないらしかった。
「まあ、当然の結果だよな」
モチーフへの思い入れのあまり、持てる情報をどんどん使って小説を肉付けしたした結果、ストーリーが薄まり冗長になった。
小説模写で得た文体も、少女の美しさに関する説明文や過剰な形容詞、必要以上に緻密すぎる描写によって瓦解していた。
無理にシナリオ術の手法を取り入れようとした結果、ストーリーと登場人物と世界観が全てちぐはぐ。
肝心のヒロインも酷かった。少女の外面だけを模写してヒロインを作ったため、内面の解像度が致命的に低くなってしまった。仕草や行動を、『プロフィール設定』や『シナリオ上の役割』、『絵的な美しさ』からは説明できても、『ヒロインの過去からは説明できない』のだ。
救いようがない。
どんなに運がよくても、どんなにいいモチーフを得ても、どんなに取材を重ねても、どんなに全力を尽くしても、作者の技術がともなわなければ、駄作になる。
全てを完璧に準備し、実力を100%発揮しても、面白い小説を書けるとは限らない。
100×0=0
辛くなって、アプリの画面をスクロールした。すると、週間ランキングに名を連ねるブックマーク数1000を超える作品が100作表示された。
反射的に閉じ、SNSを見れば、仲間たちが投稿・更新している長編小説群が見えた。年下が大半なのに、どの作品のブックマーク数も10を超えている。
青年は、スマホから目を離し、夜空を見上げた。
「精一杯努力しても、人並み以下の小説しか書けなかった」
そして、ふと気づく。
無意識のうちに周囲を見て、ネタ探ししている自分に。
「何で? 何で、まだ小説を書こうとしているのだろう」
みじめさが極まったとき、脳裏に目黒美咲の言葉が蘇った。
「そうだ。それでも僕は――」
青年は久方ぶりに笑みを浮かべ、スマホに表示された少女の絵へ告げた。
「――好きなものを、好きなように書く、真っ白な時間が愛おしい」
青年が執筆を終えたのとほぼ同時に、目黒美咲のイラストが送られてきた。
セーラー服を着た、少女の絵。
一見儚く見えるが、鋭い視線には力強さも見て取れる。
青年も、少女も、絵の完成度に言葉を失った。
完成だ。完成してしまった。
憧れの作家の表紙。
脚本術、小説術に忠実なプロット。
一流作家をコピーした文体。
理想の美少女をモデルにしたヒロイン描写。
「完成おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなたの幸運を祈っているわ」
「お元気で」
「さようなら」
少女と別れたあと、青年は投稿ボタンを押した。
青年は今、好きなモデルを、好きな絵師が、本気で描いた絵の前に立っていた。畳二枚分の大作で、公募展の特賞を受賞した絵だ。
「ああ、僕はこれを見るために、今まで執筆してきたのか」
額縁の中で、黒髪の少女が、神秘的なまなざしをこちらへ向けていた。
目黒美咲は、別作品も某アイドルグループのメンバーの目にとまり、SNSで拡散、ネットニュースに取り上げられ話題になっていた。
目黒美咲は、今や時の人だった。
少女もまた、この絵がきっかけでベテランファッションデザイナーに声をかけられ、モデルとしての一歩を踏み出したらしい。
「ずいぶん、遠くへ行ってしまった」
二人の出会いが、お互いの才能を開花させたのだ。
二人を引き合わせたのは、今回の青年の最大にして、唯一の功績だ。
「夢のような一ヶ月だった」
11
結果は、予想通りだった。
目黒美咲の『お礼絵』のブックマーク数は1万を超え、爆発的に拡散されていた。
一方で、青年の小説のブックマーク数は0だ。
モデルの少女の美しさと、目黒美咲の拡散力を持ってしても、この小説は救えないらしかった。
「まあ、当然の結果だよな」
モチーフへの思い入れのあまり、持てる情報をどんどん使って小説を肉付けしたした結果、ストーリーが薄まり冗長になった。
小説模写で得た文体も、少女の美しさに関する説明文や過剰な形容詞、必要以上に緻密すぎる描写によって瓦解していた。
無理にシナリオ術の手法を取り入れようとした結果、ストーリーと登場人物と世界観が全てちぐはぐ。
肝心のヒロインも酷かった。少女の外面だけを模写してヒロインを作ったため、内面の解像度が致命的に低くなってしまった。仕草や行動を、『プロフィール設定』や『シナリオ上の役割』、『絵的な美しさ』からは説明できても、『ヒロインの過去からは説明できない』のだ。
救いようがない。
どんなに運がよくても、どんなにいいモチーフを得ても、どんなに取材を重ねても、どんなに全力を尽くしても、作者の技術がともなわなければ、駄作になる。
全てを完璧に準備し、実力を100%発揮しても、面白い小説を書けるとは限らない。
100×0=0
辛くなって、アプリの画面をスクロールした。すると、週間ランキングに名を連ねるブックマーク数1000を超える作品が100作表示された。
反射的に閉じ、SNSを見れば、仲間たちが投稿・更新している長編小説群が見えた。年下が大半なのに、どの作品のブックマーク数も10を超えている。
青年は、スマホから目を離し、夜空を見上げた。
「精一杯努力しても、人並み以下の小説しか書けなかった」
そして、ふと気づく。
無意識のうちに周囲を見て、ネタ探ししている自分に。
「何で? 何で、まだ小説を書こうとしているのだろう」
みじめさが極まったとき、脳裏に目黒美咲の言葉が蘇った。
「そうだ。それでも僕は――」
青年は久方ぶりに笑みを浮かべ、スマホに表示された少女の絵へ告げた。
「――好きなものを、好きなように書く、真っ白な時間が愛おしい」
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