チートスキルで世界を支配して暇になったので未来へタイムトラベルしたら、思っていたのと違った件

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13.今は、誰もが幸福

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「しかし、人災の犠牲になる人数や、処分する人数は、少ない方がいいはずです。これだけの技術があるなら、何か対策が打てるはずだ。あなたからは、よりよいやり方を模索する意思を感じられない」
「君の言うことももっともだ。だが、創造的活動に着手できない以上、これ以上の改善はありえない。変化のメリットよりも、リスクの方が圧倒的に大きいからだ」
「百歩譲ってそれは仕方ないとしましょう。しかし、エネルギー問題の方はどうです? タワー以外に魔力を生産する方法はあるだろうし、ゴーレムの動力も『命のカプセル』である必要はないはずです。これらは『創造的技術』ではなく、既存の技術の応用で解決できるはずだ」
「君の言う通りだ。エネルギーを供給する手段は他にいくらでもある」
「だったらなぜ人を使うんです?」
「死体の有効活用のためだよ。資源を効率よくリサイクルしようと思うのは当然だろう。だからわざわざ死体処理場をエネルギー変換施設に改良したのだ」
 魔力はついでなのだ。殺すことこそが目的だったのだ。
「なぜ、そうまでして、人を選別するのですか?」
「人を生み出すという事は、不幸になるかもしれない存在を確実に一人生み出すということだ。それは、われわれの身勝手な賭けに、個人を巻き込んでいること他ならない。故にわれわれは、不幸の兆候が見えた段階で、処分する責任がある。『今は、誰もが幸福』だから、不幸になる前に処分すれば、当人は幸福のまま人生を終えられる」
 対して総統は、いっさいの動揺を見せなかった。それどころか、ほほえみでもって、圭太をなだめようとした。
 意表をつかれた圭太は、急に自分がわい小な存在のように感じ、落ち込んだ。かぎりなく、みじめだった。
 彼らは、すでに自分というものを完全に失っている。幸福を神とあがめ、データという名の天使に盲従する、人の形をした蟻の集団だ。総統をはじめ、データをあつえる司祭は、社会を管理する権利と義務があたえられる。しかし、それを用いて何をすべきなのか、もはや思考することすらできない。なぜなら、思考に使う言葉はすでに、形跡ごと抹消されているのだから。
「くっ……」
 人命を、ましては子供の命を、目的達成のための手段――道具扱いするのは絶対に間違っている。
 何とか反論し、一人でも命を救いたい。
「あなたは『創造』という概念を知っていますね?」
「『新しい物を初めて作り出すこと』だろう。ただ『新しい』という言葉の意味は大まかに分けて四つ。『その状態から時間が経っていない』、『以前とは違っている』、『食べ物が新鮮である』、『まだ生き生きしている』、だ。どの意味でも言葉が通じない」
「新しいには『進歩的である』という意味もあります」
「歩みを進めるようなさまである?」
「違います。もっと、『発達』という言葉に近いです」
「『発達』の意味は、『からだ、もしくは精神が成長して、より完全な機能を持つこと』、『ものの規模がしだいに大きくなること』の二つだろう。単に規模を大きくしても、現状に変わりはない」
 圭太は苛立ちが隠しきれなくなり、貧乏ゆすりをはじめた。
「猿と違わなかった人間が、稲作を通して社会を形成し、やがて科学と魔術を創造し、さらにはこのような魔導都市を作り上げた。このように、社会がより高度な機能を持つことを『発達する』と言うのです」
「君の言う『発達』には変化が伴う。さっきも言った通り、社会の変化はメリットよりもリスクの方が圧倒的に大きいという冷厳な事実がある。意味もなく幸福を求めるべき我々が、幸福になる可能性よりも、不幸になる可能性が高い選択を選ぶ? それこそ人という種のあり方に反している。そもそも……『今は、誰もが幸福』なのに、それ以上何を望むというんだ」
 ダメだ。『今は、誰もが幸福』という絶対的な価値観を崩さないかぎり、何を言ってもむだなのだ。
 『社会全体の幸福を最大化を目指すべき』という考えまでは賛同できる。しかしやはり……人の道具扱いは、到底受け入れられるものではない。
 どうにかして、ルールごとひっくり返すことはできないのか。
 圭太は、しばらくだまってから、つぶやいた。
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