チートスキルで世界を支配して暇になったので未来へタイムトラベルしたら、思っていたのと違った件

フゥル

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11.五要素

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 総統は、空のカップを軽く撫でた。表面に無数の白い線と赤い点が浮かび上がり、消えた。
「この町のありとあらゆる物品はセンサーがついた魔導器だ。消耗品がなくなれば自動発注する。必要なものは、主人が気づく前に提案する。魔導器は感情すらも監視し、理解し、それが身体や脳にどんな影響を及ぼすのかも詳細に把握している。当然、それらに対して、適切な対策を打つこともできる。椅子を客にわからない程度に座り心地を悪くして、店の回転率をあげるかのようにね」
「膨大なデータを調べれば、人がどのタイミングで、どんなとき、どう行動するのか、限りなく正確に予測できると?」
「私も先週、それを実感する出来事があったんだ。魔導器が自動発注してくれたコーヒーを飲んで一服していたときのことだ。急にパーソナル魔導器が、『明日は休日です。せっかくですし、旅行に行きませんか』と提案をされたんだ。びっくりしたよ。私は自分が旅行好きだったなんて、しらなかったからね。ありがたいことに、魔導器は各種手続きの準備をすませていた。『最適な旅行プラン』の中から一番よさげなものを選ぶと、魔導器が旅行会社へ手続きした。一時間後には、必要なもの一式が<転送魔術>ボックスの中に現れた。私は魔導器が作った旅のしおりを読んで、ウキウキしながら快眠した」
 もちろん、魔導器の発案タイミングは計算されたものだ。本人の顔の表情、手の動き、視線、声のトーン、発話の頻度や長さ、前後の状況などの感情情報を総合し、もっとも喜ばれるタイミングで提案する。本人が拒否することは、まずない。
「せっかくだから魔導器の思考過程を調べてみた。すると、過去数年の追跡調査で、出張時に記憶には残らないものの、ご当地メニューを食べてることを把握していた。ときおり、無意識のうちに観光地の情報へ、視線を送っていたこともね」
「興味深い話でした。ですがそれと、完全監視がどのように繋がるんです?」
「この話でわかることは、今となっては本人よりも魔導器の方がその人について何百倍もよくわかっているということだ。しかも魔導器は大半の国民よりも有能だ。国民は意志決定のほとんどを魔導器に委ねてしまう。そして国民が魔導器に依存するほど、魔導器に情報がたまっていく」
「そうか! 魔導器のセンサーに集まったすべての情報は、上空の超巨大魔方陣に共有されている!」
「得られた情報は魔方陣によって、解析、分類、蓄積される。人、経済、環境、交通、資源……いつどこで、どんな事件が起こり、誰が、どう考え、何を、どうしていたのか、『われわれ』──『国家』はリアルタイムで把握できる。もちろん国民の完全制御も可能だ」
「データを利用しない国民は存在するのですか?」
「存在しない。生まれつき接続されているからね。むしろ国民は、われわれと一体化したがる。『国民』は『国家』という全知全能のシステムに繋がることで、自分という一個体よりも、はるかに大きなものの一部になれるからだ。『わたし』から『われわれ』になることで、永久不滅・全知全能の存在に昇華できる。一体化したがらないわけがない」
「自覚なく政府に従うだけの人間だけが社会を構成したら、社会の創造性が失われてしまうのでは?」
 芸術面に関してだけ、恐ろしく未発達なのはそのせいだったのか。
「残念ながらね。社会の安定か、高度な芸術か。われわれは安定を取った。君からみたらひどく地味だろう。欲しいものは手に入る。手に入らないものは欲しがらない。悪人はいないし、決定的敗北もない。誘惑に抗う必要はなく、現状への不満もない。人生の起伏が限りなく少ないために、映画にストーリーはないし、音楽や絵にもドラマ性皆無だ」
 様々なこと注意を払ったり、疑うこともしない。体や脳はアップグレードしていても、精神面はダウングレードしている。これでは、猪を飼育して家畜化した豚と、なんら大差ない。
「反逆もなければ革命もない。進歩すらない」
 皮肉まじりに圭太はつぶいた。
「誰も不平不満がないから、起こりようがない。先ほども言ったように、国民に与えられるのは『適職』だ。自分の実力を最大限発揮できる仕事、自分の好きな仕事で、自分の価値観と合致している。一見ひどい仕事をしているように見えても、それぞれ自分の仕事に誇りを持って、楽しく働いている。必要な人数しか出生しないから、就職に難航したり、失業するという概念自体が存在しない」
 出生管理は、ドーム内でしか繁栄できない故に発生する、土地や資源問題すら解決している。狭い土地で、少ない資源を食い潰しあったり、死ぬまで成功椅子取りゲームに参加し続けるといったことは、決して起こらない。
「実際のところ、創造性は皆無だろう。しかし、国民自身は創造的な仕事をしていると、心の底から信じこんでいる。遺伝子操作、徹底した習慣付け、言語管制、魔導器の思考誘導、意識フィルタリングによって、実質望ましい行動以外は取れなくなっているからだ」
「『今は、誰もが幸せ』……」
 この国では『逆らう』という言葉も『物事の自然な勢いに従わないで、その逆を進もうとする』という意味しかなく『自分よりも目上の人の意見に反抗する。はむかう、たてつく』という意味はとっくの昔に失われている。
「よくわかっているじゃないか。我が国のスローガンは『誰もがみんなのために働く』、『いなくていい人などいない』、『今は、誰もが幸せ』だ。では君に、『誰もが幸せ』に必要な五要素を教えてあげよう。一つ、出生管理、二つ、遺伝子操作。三つ、意識フィルタリング。四つ、言語·情報管制。五つ、習慣付け教育」
 総統は、淡々と、尋常ならざる統治方法について語り続けた。
 圭太は、ただただ圧倒するばかりで、開いた口が塞がらなかった。
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