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08.対面

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 タワーの次に巨大である八十五階建ての建物、それがネオカルマポリス総統府だ。
 案内人は、総統府の前で圭太と向き合った。どうやら、別れの時が来たらしい。
「ひそかな夢だったんです。他国の人に、私が愛した国を案内することが! もう、絶対にかなわないと思っていたのに! まして、あなたみたいなかわいくて、素晴らしい人を!」
「こちらこそ、ありがとう。久しぶりに楽しかった」
 圭太は、親愛の情を込めて微笑んだ。
 案内人は、涙を拭うと、ぴょんぴょん跳ねた。赤いポニーも一緒に跳ねて、とてもかわいかった。
「本当に、ありがとうございました。あなたのお陰で最高の一日を過ごすことができました」
 きつく抱きしめられた。びっくりして体が硬直してしまった。その隙に、頬へキスされた。
「さようなら」
 案内人は、まるで恋人と別れるかのように、走り去っていった。一方的な別れだったが、悪い気はしなかった。
 ふと、ズボンに違和感を感じ、ポケットへ手を突っ込んだ。見慣れないコンパクトが入っていた。無装飾、白色のシンプルなデザイン。ただ、ただならぬ何かを感じさせる一品だった。
「これも、お国柄なのかな?」

 間を置かず、圭太の前の空間に、黒い穴が開いた。内側から、ゴーレムが歩いてきた。
「ケ―さま。総統閣下のお部屋へご案内します。こちらへどうぞ」


 大きなソファーの奥にある棚には、フィギュアが並んでいる。左から順番に、人間、エルフ、ゴブリン。それぞれのフィギュアの間には、人間とエルフ、エルフとゴブリンの中間のような、奇妙な種族がわりこんでいる。
 壁には、柄に青い宝石が組み込まれた剣。部屋の隅には白い布地に金のバラの刺繍がなされたローブがかかっていた。
 圭太がソファーの座り心地に感心していると、ティーカップを持ったゴブリンが前に座った。肩幅は広く、手足もがっしりしており、スーツが窮屈そうだった。鼻が高く、目の堀は深く、深い青色の目をしている。顔には、傲慢さとは無縁な、知的な笑みが浮かんでいた。
「ダージリンティーは飲むかい?」
 その声にまず圭太は固まってしまった。他愛ない一言なのに、総統の内面からにじみ出た、絶対的な自信を感じたからだ。
「喜んで」
 もらったカップの中は、琥珀色の液体で満たされていた。どろりとしており、水あめに似ていた。飲んでみると、確かにダージリンの味がした。
「観光客案内人。彼女には感謝することだ。彼女がいなければ君は入国すらできなかった。彼女が強く希望していたから、君は入国できた」
「次に会った時、改めて感謝を伝えます」
「次はない」
「なぜ?」
「彼女は今日で八十五歳だ」
 圭太は扉の方を向いた。
「残念ながら、もう遅い。彼女はもうすでにタワーの中だ」
 ああ、だからか。
 圭太は拳を握り締め、彼女を悼んだ。彼女にもらったコンパクトを取り出し、自分の顔を覗き見る。こんなにも感傷的な気分になったのは、師が死んだとき以来だった。
 どれほど時間が経っただろう。
 圭太が、案内人の実質的な死を受け入れた直後、総統閣下は言った。
「彼女は望んでタワーへ行った。『異国の人を案内する』という夢を叶えて。彼女は幸福だ。今までも、これからも」
「本人から聞きました」
 一呼吸おいて、総統はゆっくりと言った。
「彼女と辛い別れをさせてしまったお詫び、といっては難だが……知りたくはないか、この街の秘密を」
「いいのですか?」
「構わない。君がどんな選択をするのであれ、君は二度とこの街に来ることはないのだから」
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