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1.早速ピンチ! 森林の死闘

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 森林を燃やしつくさんとする、青い炎に照らされた、一人の猫人。普段は観光客で賑わう広場の中心で、汗を拭う。
 地毛はピンク味がかった白。焦げ茶のカウボーイハットから白いショートヘアがこぼれている。白いシャツに青いジーンズ。両手にはトンファーのような銀の銃が握られていた。 
 彼女の周囲には、直径一キロほどの半球状の光膜が張られている。この膜のせいで、霊術による空間移動や連絡手段を封じられていた。
 近くに味方はいない。絶体絶命。
 猫人はマズルをペロリと舐めると、不敵な笑みを浮かべた。
「アタシは山のふもとに落ちた、石ころの調査をしに来たはずだったんだけどな~」
 直後、鈍い二発の破裂音。二丁拳銃から発射された光弾は、黒い皮膚に弾かれる。跳ね返った二発はそれぞれ、側に生えていた木をへし折った。
 銃口の煙をふきながら、猫人は言った。
「ちょっと隕石さん、生きがよすぎない?」
「げれれ!!」
 敵はミミズの束のような顔をふるわせて笑った。
 全長二十メートルを超す怪物だった。体表は黒く、毛をはいだネズミのようであり、エビのようでもある。足の数は五本で、そのうち一本は腹の横から、無造作に飛び出ていた。
 よく見れば、顔面の触手と触手の狭間から、眼球らしき白い球体が無数にくっついているのが見える。
「『できないことができるようになる』って、楽しいよな。成長すればするほど『できないこと』は減って『未知への恐怖』が増すから、なかなか味わえないんだが。グは、今も、挑戦中なんだ」
「意味がわからないんだけど。もしかして、お空の旅でお疲れ? 一度ヒノデ温泉につかって頭休めてきたら?」
 怪物はこちらに飛びかかりつつ、右爪を振り下ろしてきた。
 猫人は間合いを見極め、すんでのところで身を引き射撃。
 追撃の左爪を、斜め前への前転で回避し、砲頭で殴打。迫り来るしっぽを、なわとびのようにとび越えつつ、撃つ。
 しぶとく絡みつこうとしてくるしっぽの軌道を読み、身を軽く左右に揺らすことでやり過ごしつつ、乱射。
 化け物と猫人の一撃毎に、周囲の木々がふっとぶ。木の断面からは、青い炎が吹き出す。
「全攻撃効果なし。面白くなってきたぁ!」
 地面はすでに、クレーターだらけで、足の踏み場もない。
「げれ! げれれれ! 重力が『なじんだ』!」
 ぶきみな笑い声と共に、怪物の体が浮き上がった。そのままぐるぐると回転しながら、猫人へ突進。
 猫人は、その脚力を生かし、大跳躍。敵の攻撃を跳び越えた――かに見えた。
 しかし、黒い肉塊は直角にカーブ。猫人を真下から突き飛ばそうとする。
「なんつー軌道!?」
「ほら、できた、できた! げれれれれ!」
 猫人はとっさに銃口を木へ向け、引き金を引いた。銃から弾ではなく、光り輝くアンカーが射出。木に突き刺さると同時に、猫人の体が木の方へ引きよせられていく。
 右の銃と左の銃、交互にアンカーを射出しては体を引きよせ、空中を駆ける。
「おお! もっと早く行ける! 重力楽しい、重力楽しい、ふわっふわ! ゲレレレレ!」
 しかし、猫人が逃げれば逃げるほど、怪物の飛行速度はドンドン増していく。
「ぎにゃああ゛!?」
「る・にゃん? ルニャン、名前か? これは、貴様の名前か? 職業は狩猟者……魔物狩りのエキスパートのことか。実力は茶帯……? これは狩猟者としての位か? スリルをこよなく愛し、常に面白いことはないかと、目を光らせている。好きな食べ物はエスプレッソを飲んだ後カップの底に残る粉砂糖……接触時に読み取れたのは、こんなところか」
 ひざまずき、口から青い火を吐きながら、猫人ガンナー――ルニャンはうなずいた。
「にゃぼぼぼ!?」
 即刻ポーションを飲み、消火。
 しかし、ダメージ甚大。戦闘続行困難。
 終わってみれば、敵の圧勝。
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