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翼落ちる比翼の鳥 3
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ディディエは獣の姿から二本足へと変わる。
シシリィをかばうようにノエルが立つが、さらにその前へディディエは立った。
三人を囲むようにして近衛兵が展開する。
獅子族の簡易的な鎧とは異なり、重厚な金属で体を守る。
突きつける刃も洗練されたもので到底ディディエの牙などでは戦えるはずもない。
「竜の血を受け継ぐものよ、己で命を断つならばその二人の命は助け、無事に領へと戻そう」
「断る!」
ノエルではなくディディエとシシリィの声が重なった。
目を丸くしたノエルは二人を交互に見つめた。
シシリィもディディエもノエルを引き寄せる。
「俺たちの番だ。あんたがどうこう言う必要はない」
「何を言われようとも別れるつもりはない」
「…ははっ……シシリィもディディエもかっこいい」
ノエルは笑う。
左右に立つ二人に腕を絡めれば目の前に立つ竜の一族をにらみつけた。
どうして自分は狙われるのか。己の命を捨てよと言われなければいけないのか。
ノエルは知る必要がある。
「俺は、俺の思うままに生きる。この先の長い道はシシリィとディディエがいなければ生きていけない。二人が死んだそのあとも生きなければならないというのなら、俺は生きて見せる」
「よし、言いきったな、ノエル。ならお前は次の場所へ行ってこい」
「次の場所…」
「当代のいるところだよ。ちゃんと行ってこないと。自分を狙うわけ、知りたくない?それからさ、自分は金の鱗を持つつもりはないから邪魔するなって言っておいで」
シシリィとディディエはノエルの肩を押す。
確かに当代に会わねばならない。だが、多くの竜の一族に囲まれた二人を置いていくこともできない。
迷いのある様子のノエルを見つめて二人は笑った。
大丈夫、きっと二人が死ぬことはない。
そうは思っていてもノエルの足は縫い付けられたように動かなかった。
「全部すっきりさせたら帰ろう。帰っていちゃらぶセックスするの。いつもは避妊薬を定期的に服用してるからデキることはないけど、飲むのを辞めるから俺にノエルの子供産ませて」
「こども…!」
「シシリィが孕んだら次はお前だな、ノエル」
二人のからかうような言葉にノエルは二の句を告げずにいた。
真っ赤な顔に笑えば自分の胸元を握りしめ顔をそらしたノエルが口を動かした。
だが残念なことにその言葉は聞こえない。
「ディディエ、シシリィ…行ってくる」
「うん、待ってるね」
うなずきを返せばノエルの姿が変わりだす。
爪が伸び、体中の黒い鱗が数を増す。長く伸びた体はシシリィがはじめてみるものだった。
胴体は抱えきらないほど太く、黒光りする鱗で覆われる。
長い爪は室内の明かりを反射し、わずかに開いた口元から牙も覗く。
縦長の瞳孔にシシリィとディディエを映し出したノエルは咆哮を上げると周囲を取り巻く近衛兵を吹き飛ばしながら部屋を出ていった。
「きれい…」
シシリィはかろうじてそれだけ言えた。
初めて見るノエルの完全な竜の姿は想像していたよりも遥かに美しかった。
ディディエはシシリィよりも一足早くノエルの竜の姿を見たばかりか、その背にまたがった。
そんなことは今言うことではないがあとでシシリィに知られたらうらやましがられそうだと頭の片隅で思った。
「さて、どうするんだ、シシリィ」
「どうするって?」
「近衛兵を蹴散らすか、このまま居座るか」
「居座る。ケガしたらノエルを心配させちゃうから」
「そうか。なら向かって来たら立ち向かえばいいか」
ディディエはどすっとその場に座り込んだ。
シシリィはその膝に腰かける。武器を構えた近衛兵に囲まれているにもかかわらずのんびりとし始めた二人を見つめ、エレディウスは戸惑った。
何名かの近衛兵はノエルのほうへと回し、自分と残りの近衛兵で二人を囲う。
ただの番であり、ノエルの子供をまだ孕んだわけではなさそうなシシリィと、同じくノエルの番であり、こちらはノエルを孕ませる側であるディディエを殺す意味はない。
無意味な殺しは好みはしない。
「何を言われても俺たちはノエルを置いていかないよ。ごめんね」
「俺たちがどうしてこんなにも強情なのか一度考えてみればいい」
「それじゃだめだよ。エレディウス、あなたもこの人のためならってほどに誰かを好きになってみるといいよ」
シシリィとディディエは顔を見合わせて、それから笑いあった。
エレディウスの知らない感情を二人は持っている。それがうらやましいと思う自分もいると同時に、それが恐ろしくもあった。
わずかな恐れを抱いてしまった自分を叱咤し変わらず二人に武器を突き付ける。ノエルが向かった当代のもとへ自分も向かいたい。だが呼びつけられたわけでもない自分が当代のもとに行ってどうなるというのか。実の父でもある当代はエレディウスといえども容赦はない。
親子の情など竜の一族にありはしない。
唇を引き結びディディエとシシリィを見つめる。二人もまたエレディウスを静かに見つめ返していた。
シシリィをかばうようにノエルが立つが、さらにその前へディディエは立った。
三人を囲むようにして近衛兵が展開する。
獅子族の簡易的な鎧とは異なり、重厚な金属で体を守る。
突きつける刃も洗練されたもので到底ディディエの牙などでは戦えるはずもない。
「竜の血を受け継ぐものよ、己で命を断つならばその二人の命は助け、無事に領へと戻そう」
「断る!」
ノエルではなくディディエとシシリィの声が重なった。
目を丸くしたノエルは二人を交互に見つめた。
シシリィもディディエもノエルを引き寄せる。
「俺たちの番だ。あんたがどうこう言う必要はない」
「何を言われようとも別れるつもりはない」
「…ははっ……シシリィもディディエもかっこいい」
ノエルは笑う。
左右に立つ二人に腕を絡めれば目の前に立つ竜の一族をにらみつけた。
どうして自分は狙われるのか。己の命を捨てよと言われなければいけないのか。
ノエルは知る必要がある。
「俺は、俺の思うままに生きる。この先の長い道はシシリィとディディエがいなければ生きていけない。二人が死んだそのあとも生きなければならないというのなら、俺は生きて見せる」
「よし、言いきったな、ノエル。ならお前は次の場所へ行ってこい」
「次の場所…」
「当代のいるところだよ。ちゃんと行ってこないと。自分を狙うわけ、知りたくない?それからさ、自分は金の鱗を持つつもりはないから邪魔するなって言っておいで」
シシリィとディディエはノエルの肩を押す。
確かに当代に会わねばならない。だが、多くの竜の一族に囲まれた二人を置いていくこともできない。
迷いのある様子のノエルを見つめて二人は笑った。
大丈夫、きっと二人が死ぬことはない。
そうは思っていてもノエルの足は縫い付けられたように動かなかった。
「全部すっきりさせたら帰ろう。帰っていちゃらぶセックスするの。いつもは避妊薬を定期的に服用してるからデキることはないけど、飲むのを辞めるから俺にノエルの子供産ませて」
「こども…!」
「シシリィが孕んだら次はお前だな、ノエル」
二人のからかうような言葉にノエルは二の句を告げずにいた。
真っ赤な顔に笑えば自分の胸元を握りしめ顔をそらしたノエルが口を動かした。
だが残念なことにその言葉は聞こえない。
「ディディエ、シシリィ…行ってくる」
「うん、待ってるね」
うなずきを返せばノエルの姿が変わりだす。
爪が伸び、体中の黒い鱗が数を増す。長く伸びた体はシシリィがはじめてみるものだった。
胴体は抱えきらないほど太く、黒光りする鱗で覆われる。
長い爪は室内の明かりを反射し、わずかに開いた口元から牙も覗く。
縦長の瞳孔にシシリィとディディエを映し出したノエルは咆哮を上げると周囲を取り巻く近衛兵を吹き飛ばしながら部屋を出ていった。
「きれい…」
シシリィはかろうじてそれだけ言えた。
初めて見るノエルの完全な竜の姿は想像していたよりも遥かに美しかった。
ディディエはシシリィよりも一足早くノエルの竜の姿を見たばかりか、その背にまたがった。
そんなことは今言うことではないがあとでシシリィに知られたらうらやましがられそうだと頭の片隅で思った。
「さて、どうするんだ、シシリィ」
「どうするって?」
「近衛兵を蹴散らすか、このまま居座るか」
「居座る。ケガしたらノエルを心配させちゃうから」
「そうか。なら向かって来たら立ち向かえばいいか」
ディディエはどすっとその場に座り込んだ。
シシリィはその膝に腰かける。武器を構えた近衛兵に囲まれているにもかかわらずのんびりとし始めた二人を見つめ、エレディウスは戸惑った。
何名かの近衛兵はノエルのほうへと回し、自分と残りの近衛兵で二人を囲う。
ただの番であり、ノエルの子供をまだ孕んだわけではなさそうなシシリィと、同じくノエルの番であり、こちらはノエルを孕ませる側であるディディエを殺す意味はない。
無意味な殺しは好みはしない。
「何を言われても俺たちはノエルを置いていかないよ。ごめんね」
「俺たちがどうしてこんなにも強情なのか一度考えてみればいい」
「それじゃだめだよ。エレディウス、あなたもこの人のためならってほどに誰かを好きになってみるといいよ」
シシリィとディディエは顔を見合わせて、それから笑いあった。
エレディウスの知らない感情を二人は持っている。それがうらやましいと思う自分もいると同時に、それが恐ろしくもあった。
わずかな恐れを抱いてしまった自分を叱咤し変わらず二人に武器を突き付ける。ノエルが向かった当代のもとへ自分も向かいたい。だが呼びつけられたわけでもない自分が当代のもとに行ってどうなるというのか。実の父でもある当代はエレディウスといえども容赦はない。
親子の情など竜の一族にありはしない。
唇を引き結びディディエとシシリィを見つめる。二人もまたエレディウスを静かに見つめ返していた。
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