金色竜は空に恋う

兎杜唯人

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君に捧げる笑顔の花束 3

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「ん、これもいいけど、やっぱりあっちの紺色のがいいかな。それからその先にある薄紫のも」
「シシリィ、こんなにあっても着れない」
「だめ。俺の番相手にはいつだって着飾って見た目よくかっこよくいてほしいものでしょ?」

そちらの飾り物も、と追加されノエルはディディエの言葉の意味を身を持って知った。
シシリィは自分よりも相手を着飾るのが楽しいのか先程からノエルを前に、ああでもないこうでもないと、店の店員と話している。
店員はシシリィが人族であることを気にしないばかりか一緒になって選んでいる。
豹族は体も細く総じて己の身嗜みには気を使うものが多いらしい。
その店員も己の体と豹族独自の体の模様に合わせた服を着こなしている。
ゆらりと揺れる尾にも飾りであろう環がつけられていた。



「シシリィ様の見立てはやはり素晴らしい。うちの服をここまで着こなせるものはなかなかおりません」
「違うよ。俺の見立てもあるけど、俺はただ元々良いものを組み合わせる方法を知るだけ。ネリヤの服も装飾もどれも一級だもん」



顔馴染みの豹族と和気あいあいとするシシリィを横目に見ながらノエルは服を見つめる。
目立たぬように暗くシンプルなものばかりを選んでいたが、シシリィがノエルにあてがったものはどれも色使いが鮮やかで丁寧な作りをしている。
傍に近寄ってきたディディエを見上げると少し恥ずかしげに笑う。

「こんな服を選んでくるとは思わなかった。人目につくようなことはしたくなかったから…すごいな、シシリィは。嬉しい」
「そうか。俺も今から脱がせるのが楽しみだ」


ディディエの爪がノエルのほほを滑る。
真っ赤に染まったほほに肉球で触れれば、ノエルの顔はとろけきりディディエに顔を寄せてくる。
むさぼってしまいたいと思いながら自制しシシリィに呼ばれるままに二人でそばに向かう。
シシリィはディディエとノエルにおそろいの服を見繕っているようだった。

「シシリィとは同じものを着ないのか?」
「俺はいいの」
「俺が同じものを着たい」
「……ネリヤ…」
「もちろん、シシリィ様サイズもご準備してますわ」


嬉々として三人そろいの服も選ぶ。
ディディエが笑えばシシリィはむっとしたようでその尾を引っ張る。
顔を合わせノエルの服を二人で選んだ。ノエルならば自分たちの前でだけその肌を露出させたいとシシリィは言う。

「ノエルのきれいな鱗を愛でたいじゃない?だとしたらほら、これなんかはおっぱいだけ隠して胸元と腹部は露出してるし、背中も大胆に開いてるから」
「…俺が着ても面白くない服だしな…胸だけ隠れるのもそそられる」
「でしょ?」

豹族ネリヤによって体のサイズをしっかりと記録されたノエルが戻ってくる。
シシリィの手にしている服を見て目を丸くした。シシリィが着るのだろうか。
シシリィは服のかかったハンガーごとノエルの体に当てる。
ディディエがうなずけばそれも買うものへと入れられた。

「シシリィ、あの服は?」
「ノエルが着るの。露出してるからノエルのきれいなウロコが丸見えだよ」


ノエルはそれを聞くと支払い待ちの服の山の一番上に置かれたそれを奪い取る。
耳まで赤くしている。
ディディエが近づいてノエルの手から服を奪う。
ノエルは服を取り返そうとするもののディディエは服を持った腕を高く上げてしまいノエルはぴょこぴょことジャンプをしてそれを取ろうとしていた。
シシリィはその姿を見て思わず上がりかけた悲鳴を飲み込んだ。かわいくてたまらない。


「ネリヤ…支払い…あれもいれて…」
「はいはい」


震えながら告げるシシリィを後目にネリヤは手際よく選ばれた服を畳み合計を算出した。
シシリィは告げられた金額を気にすることなく腰に下げた袋から金貨を取り出してネリヤに渡した。さらに小ぶりな宝石を二つ三つ出すと同様にネリヤに渡す。

「これ、加工してノエルのための飾り作れない?」
「かなり小ぶりですね。どのあたりがよろしいですか」
「……ネリヤ、おっぱいとか可能だったりする?」
「ピアスですね…できなくはありません」

こそこそと店の奥で二人は会話をする。ノエルはようやくディディエから服を奪い取るもののすでに代金は支払われていると知りショックを受ける。
肌を見せる服を着るなどノエルには恥ずかしくてたまらない。



「ディディ、ノエル、お待たせ。服は領主の館に届けてくれるって」
「ご機嫌だな、シシリィ」
「うん。いっぱいノエルの服を変えて、おそろいのも買って、ついでにいろいろできたからすごく満足してる」
「いろいろ…」
「ノエル、戻ったらその服着せて俺たちに見せてね」
「着れない」


ノエルは首を振った。
あまりにも恥ずかしい。シシリィとディディエは少し悲し気な様子ではあるが目にうつさないようにした。
悲しむ顔は見たくはないが、着たくないものは着たくないのだ。

「そんなことを言うノエルは夜にいっぱいお仕置きしようかな」
「あぁ、それがいいな」

シシリィの言葉に賛同を示したディディエを言葉なくノエルは見上げた。
その腰を抱いてディディエは歩き出す。
上機嫌なシシリィと、どこか哀れそうにノエルを見ながらも追いかけていくカノーテがそれに続く。
店を出たところで次はどこに行こうかと言葉を交わした。
次はディディエの行きたいところに、とノエルが言う。


「…それって要するにベッドじゃん」
「そうだな」
「ノエル様、ゆっくりお休みになれないです」
「カノーテまで……」

真っ赤になったノエルだが腰に回ったディディエの腕のせいで抜け出すことはかなわない。
それにディディエの体温を感じてしまえば体は意思に反してディディエとシシリィを求めだす。
うつむいて足を止めたノエルの顔をディディエが覗きこもうとする。
覗き込んだ先にあったノエルの顔は赤らんでいた。だが、ディディエの目を見つめ返す瞳は明らかに濡れていた。



「……それなら、ベッドがいい」
「俺も混ざっていい?」
「シシリィはさっき十分に味わっただろ」
「…二人ともがいい」
「ほーら。行こう」


ノエルのつぶやきにシシリィが勝ち誇った顔をする。
大きなため息をつくディディエの腕に自分から体を寄せたノエルは口を静かに開いた。

「できれば…今度は最後までディディエを気持ちよくさせたい…シシリィだけじゃない…ディディエも俺の番なのだろう?」
「…………シシリィ、また香油はあったな」
「めちゃくちゃできる存在のカノーテがたっぷり買ってきたし、何ならそのあと追加でいくつか発注していてくれてあるからたっぷりあるよ。ノエルのお尻解すなら浴室でやろうね」


カノーテの誇らしそうな顔を見てノエルは小さく笑いをこぼした。
ディディエの腕に力がこもる。ディディエを見上げたノエルは自分を見下ろす虎の瞳とかち合った。
食べて、と囁けば牙をむく。この後自分はきっと骨まで残さずしゃぶりつくされるのだろう、と言葉にしないまでもノエルは思った。
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