金色竜は空に恋う

兎杜唯人

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君に捧げる笑顔の花束

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「……シシリィ、話をするだけじゃなかったのか」
「えへへ…ノエルに、俺が欲しいって言われたらあげちゃった」


ベッドに横たわりノエルの膝に頭を乗せているシシリィは悪びれもせずに告げた。
ディディエは大きなため息をつく。
シシリィがノエルと話をするといってかなり時間が経ったため覗きに来たわけだが、事後の姿でノエルに甘えている姿を見ていろいろと察してしまった。
ノエルはシシリィとディディエを交互に見て申し訳ないと眉を下げている。




「すまない…俺が、シシリィを誘ったんだ」
「お前を責めているわけじゃない…ただ」


ディディエの歯切れが悪い。
シシリィはノエルの肌にほほを寄せて笑っている。


「シシリィ…」
「ん…ごめんね。ノエルと話していたら俺もノエルが欲しくなっちゃった。今出かける準備するからちょこっとだけ待っていて」
「わかった」
「ノエル、俺シャワー浴びてくるけど、ノエルはどうする?」
「俺も、いく」


ノエルの手を引いてシシリィはベッドを降りた。
浴室に消えていく二人を見送ってからディディエはベッドのクリーニングを頼み、二人の洋服を持ってこさせる。
浴室からはシシリィの楽し気な笑い声が聞こえてきた。
ドアを開ければディディエの顔にお湯が直撃する。
ぽたぽたとお湯を垂らしながらシシリィを無言で見つめた。




「ふっ…はは…あはははっ」
「シシリィ…」
「ごめん、ごめん。わざとじゃないんだよ、ディディ。ほら、ディディも濡れちゃったし俺たちと入ろうよ」
「狭いだろうが」


シシリィに手を引かれる。
濡れたのは顔だけのためわざわざ入る必要はないし、体の大きなディディエまでがこの浴室に入ってしまったら窮屈でならない。
三人で入るならば大浴場を使う。


「俺は拭くだけでいい。それより遊んでないで」
「わかってる。あと少し待ってて」

ディディエの目の前でドアが閉まる。
しっぽと耳が少しへたれ、厚手のタオルに顔を埋めた。
しばらくして服を着替えたシシリィとノエルが戻る。
シシリィは髪を幾分か編んでもらったようで鼻歌を歌っていた。



「ノエルの好きなものを探しに街に行こうと思うんだけどいいかな」
「あぁ。遅くならなければいいだろうな。ノエル、カノーテのところに行って声をかけてこい。必要そうなら鞄とか何か鱗を隠せるようなものももらってくるといいだろう」
「わかった」
「カノーテは部屋を出て右手に進んだ通路の三番目の部屋にいる。猫族の使用人が集まる部屋だ。そこにいなかったら可能性としては厨房だ」
「わかった」

ディディエの言葉にうなずいたノエルは部屋を出ていく。
その姿を見送ってからすぐにシシリィが口を開いた。
ノエルはいたときはにこにことしていたが今は違う。少し顔の表情に力が入っている。




「…ディディ、もし外に出て近衛兵に見つかったらノエルを連れて逃げて」
「お前は」
「俺が囮になる。捕まったとしても俺は人族だ。ノエルの居場所を吐かせるための拷問には耐えられないから、そうすぐには殺されないと思う」
「…ノエルがそれをよしとすると思うか」
「思ってないよ。だからディディに言ったんじゃん。ディディならすぐに転化して逃げられるでしょ。俺は足が遅いんだからノエルを抱っこして逃げて」


ディディエに顔を向けたシシリィは微笑んでいた。
いやとは言わせない何かがある。
手を伸ばしシシリィのほほを撫でる。ノエルと番になってから二人の間にあったはずの性欲が気薄になっているのを感じていた。
ディディエの爪がシシリィの髪を静かに滑る。

「…だが、お前は俺にとっても大事な存在だとわかって、言っているんだろうな」
「うん…俺にとってもディディは大事な存在だもん。けど、俺もディディも、互いがいたはずの場所にノエルがいるんでしょ」
「どうしてだかな…」

ディディエの胸元に手を当てたシシリィは自分の胸元も同じように触る。
うなじを噛まれただけなのに、二人で育んだはずの愛が失せてしまった。
ディディエにはもうシシリィを抱こうという気はない。ディディエの欲はノエルに向いている。シシリィの欲もノエルに向いている。



「ディディ、約束して。ノエルが捕まるくらいなら俺が捕まったほうがいい。だから、ノエルを守るって」
「約束はしたくない」
「ディディ…」
「逃げるなら、お前も共に。でないとノエルが永遠自分を責め続けるだろう」
「それはそうなんだけどさ…」


鋭い爪先がシシリィの唇を撫でていく。
ため息をついたシシリィは小さくうなずいた。

「わかったよ。俺も逃げる努力はする」
「それでいい」

ディディエの圧に根負けし、シシリィはうなずいた。
二人の間の愛欲がないとはいっても、確かに愛し合った日々はある。ノエルを守りたいのも、シシリィを守りたいのも、ディディエには変わらない思いだった。
かぷっとシシリィのほほを甘噛みすればシシリィは驚きに目を見張る。
してやったり、という顔で笑うディディエを見てシシリィはほほを膨らませた。
ばしっと強めにディディエの背中をたたくのと同時にそのしっぽを掴んで振り回す。
子供のようなしぐさにディディエは笑い声をあげた。
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