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もしも君が同じならば 2
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一緒がいい。
そうつぶやいたノエルの気持ちがわからないでもない。シシリィだって、同じ獣族であればディディエとより長くいられると思っていたこともある。
「ノエル……泣かないで。顔上げて、俺とディディを見て」
「ん…」
「あぁ、もう……ノエルってば、本当に」
赤くなった目元を見つめてシシリィはノエルを抱きしめる。
優しく頭を撫で大丈夫と優しく囁く。
「ノエルが人でも獣でも竜でも…俺たちが出会って番になった以上いつか来る別れに今から怯えないで」
「そうだな。今から恐れていてもしょうがないんだぞ」
「でもまって、ディディ…ずっと一緒にいてほしいって思ったってことはノエルも俺たちもことちょっとずつ好きになってくれてるんじゃない?」
「そういう考えもできるか」
嬉しい、とシシリィは笑う。ノエルの顔を拭くディディエも笑っている。
「ノエル、言ったでしょう?俺たちは三人で番だ。幸せなことは三倍、悲しいことは三分の一、ほかの番よりずっと恵まれてるよ。お別れがくるまでにいっぱい思い出積み上げて笑顔になろう。もう悲しいことは考えないの。そんな泣いてると俺とディディでちゅーしちゃうぞ」
本気か嘘かわからない。
笑顔のシシリィを見つめてノエルは首を振った。
ディディエが持つタオルを奪えば強く自分の顔を擦って涙を拭う。
鼻先が赤くなってしまっただろうが涙は残さなかった。
「うん…考えないようにする」
「いい子。でもチューしちゃう」
うなずいたシシリィだったが、ノエルのほほに唇を寄せて自分の席に戻る。ディディエも大きな手でノエルの頭を撫でれば用意しかけていた茶器を手にした。
どのお茶にしようかとシシリィはディディエに話しかける。
始めて飲むならば香りのよいものを、とディディエは返答した。
ならこれを、とシシリィは茶葉の一つを指さした。
二人の他愛ない会話を目の前で聞きながらノエルは口元にわずかながらの笑みを浮かべた。
「ノエル様、ノエル様」
「っカノーテ…!」
「はい」
ディディエが大きな手で小さな茶器をつかみ丁寧に湯を入れていく姿を眺めていたノエルを呼ぶ声があった。
はっとして声のするほうを向けばカノーテが立っていた。ぺこりと頭を下げたカノーテはノエルに駆け寄ってくる。
「やっときたか、カノーテ」
「遅くなりまして申し訳ございません。少々支度に手間どいました」
「許す。お前も座れ」
「にゃ!それはできません。領主様から直々に申し付かったこととはいえ、猫族でもまだ下位にあたる故、主人にあたる方々と同じように座るなんて」
ノエルがディディエを見上げた。ため息をついたディディエはカノーテのそばまで行き、その小柄な体の首根っこをつかむと持ち上げてノエルの膝に置く。
カノーテは完全に硬直してしまった。落ちないようにノエルがそっと腕を回す。
「ノエル、カノーテはお前のそば付きにした。この屋敷の中で不自由あればカノーテに言え」
「カノーテの獣の姿、すっごくかわいいんだよね、いいなぁ…俺の前では猫の姿になってくれないから」
「シシリィには俺が…」
「ふふ、わかってるよ。俺にはもふもふのディディがいるもんねぇ」
ディディエは少々ムッとしながらもノエルの前に置いた二つのカップに茶を注いだ。
琥珀色の液体が流れ出ると同時に甘い香りが広がる。
「カノーテとディディは熱いのはダメなんだからちゃんと冷ましてね」
「む……」
「ノエルもちょっと冷ましてからね」
「わかった」
うんとうなずいてからカノーテの分を先に冷ますべくカップを手に取った。
ふーっと息を吹きかけることを繰り返す。カノーテはノエルの膝の上で所在なさげにしていた。
「カノーテ…俺はどの菓子がおいしいのかわからないからおすすめを教えてくれるだろうか…」
「!ぜひとも」
カノーテに声をかければぱっと顔を明るくする。
ノエルの膝の上に踏ん張り机の上を見ればどれがよいだろうかと目移りする。
シシリィは木の実を早速口にしている。その前には花を入れたゼリーもおかれている。
「ノエル様、ディディエ様の前にあるクッキーがおいしいのですよ。砕いた木の実をたくさんいれてザクザクしているのです。少し焦げた部分もおいしいのです」
「じゃぁそれにしよう。ディディエ…」
「わかった。ほら」
ノエルの皿の前にクッキーが置かれる。
カノーテのために冷ましたお茶のカップをテーブルに置けばノエルはクッキーを一つとった。
丸型の生地にノエルが名も知らぬ木の実がたっぷりと入っている。
がりっと齧れば木の実の香りが口に拡がった。
「おいしい…」
「よかった。これも食べて」
シシリィがおすすめしてきたのは花の形にくり抜かれたクッキーだった。
「朱雀領の特産品である花の蜜を使ってるから砂糖とは違う甘さがあるよ」
朱雀領と聞き、ノエルの手が止まる。赤く色づくクッキーを一つ手にして眺めた。
母もこんなお菓子を作っていたなと思い出す。
噛んだそのクッキーは蜜を使用しているというのにほんの少しだけ塩辛い味がした。
そうつぶやいたノエルの気持ちがわからないでもない。シシリィだって、同じ獣族であればディディエとより長くいられると思っていたこともある。
「ノエル……泣かないで。顔上げて、俺とディディを見て」
「ん…」
「あぁ、もう……ノエルってば、本当に」
赤くなった目元を見つめてシシリィはノエルを抱きしめる。
優しく頭を撫で大丈夫と優しく囁く。
「ノエルが人でも獣でも竜でも…俺たちが出会って番になった以上いつか来る別れに今から怯えないで」
「そうだな。今から恐れていてもしょうがないんだぞ」
「でもまって、ディディ…ずっと一緒にいてほしいって思ったってことはノエルも俺たちもことちょっとずつ好きになってくれてるんじゃない?」
「そういう考えもできるか」
嬉しい、とシシリィは笑う。ノエルの顔を拭くディディエも笑っている。
「ノエル、言ったでしょう?俺たちは三人で番だ。幸せなことは三倍、悲しいことは三分の一、ほかの番よりずっと恵まれてるよ。お別れがくるまでにいっぱい思い出積み上げて笑顔になろう。もう悲しいことは考えないの。そんな泣いてると俺とディディでちゅーしちゃうぞ」
本気か嘘かわからない。
笑顔のシシリィを見つめてノエルは首を振った。
ディディエが持つタオルを奪えば強く自分の顔を擦って涙を拭う。
鼻先が赤くなってしまっただろうが涙は残さなかった。
「うん…考えないようにする」
「いい子。でもチューしちゃう」
うなずいたシシリィだったが、ノエルのほほに唇を寄せて自分の席に戻る。ディディエも大きな手でノエルの頭を撫でれば用意しかけていた茶器を手にした。
どのお茶にしようかとシシリィはディディエに話しかける。
始めて飲むならば香りのよいものを、とディディエは返答した。
ならこれを、とシシリィは茶葉の一つを指さした。
二人の他愛ない会話を目の前で聞きながらノエルは口元にわずかながらの笑みを浮かべた。
「ノエル様、ノエル様」
「っカノーテ…!」
「はい」
ディディエが大きな手で小さな茶器をつかみ丁寧に湯を入れていく姿を眺めていたノエルを呼ぶ声があった。
はっとして声のするほうを向けばカノーテが立っていた。ぺこりと頭を下げたカノーテはノエルに駆け寄ってくる。
「やっときたか、カノーテ」
「遅くなりまして申し訳ございません。少々支度に手間どいました」
「許す。お前も座れ」
「にゃ!それはできません。領主様から直々に申し付かったこととはいえ、猫族でもまだ下位にあたる故、主人にあたる方々と同じように座るなんて」
ノエルがディディエを見上げた。ため息をついたディディエはカノーテのそばまで行き、その小柄な体の首根っこをつかむと持ち上げてノエルの膝に置く。
カノーテは完全に硬直してしまった。落ちないようにノエルがそっと腕を回す。
「ノエル、カノーテはお前のそば付きにした。この屋敷の中で不自由あればカノーテに言え」
「カノーテの獣の姿、すっごくかわいいんだよね、いいなぁ…俺の前では猫の姿になってくれないから」
「シシリィには俺が…」
「ふふ、わかってるよ。俺にはもふもふのディディがいるもんねぇ」
ディディエは少々ムッとしながらもノエルの前に置いた二つのカップに茶を注いだ。
琥珀色の液体が流れ出ると同時に甘い香りが広がる。
「カノーテとディディは熱いのはダメなんだからちゃんと冷ましてね」
「む……」
「ノエルもちょっと冷ましてからね」
「わかった」
うんとうなずいてからカノーテの分を先に冷ますべくカップを手に取った。
ふーっと息を吹きかけることを繰り返す。カノーテはノエルの膝の上で所在なさげにしていた。
「カノーテ…俺はどの菓子がおいしいのかわからないからおすすめを教えてくれるだろうか…」
「!ぜひとも」
カノーテに声をかければぱっと顔を明るくする。
ノエルの膝の上に踏ん張り机の上を見ればどれがよいだろうかと目移りする。
シシリィは木の実を早速口にしている。その前には花を入れたゼリーもおかれている。
「ノエル様、ディディエ様の前にあるクッキーがおいしいのですよ。砕いた木の実をたくさんいれてザクザクしているのです。少し焦げた部分もおいしいのです」
「じゃぁそれにしよう。ディディエ…」
「わかった。ほら」
ノエルの皿の前にクッキーが置かれる。
カノーテのために冷ましたお茶のカップをテーブルに置けばノエルはクッキーを一つとった。
丸型の生地にノエルが名も知らぬ木の実がたっぷりと入っている。
がりっと齧れば木の実の香りが口に拡がった。
「おいしい…」
「よかった。これも食べて」
シシリィがおすすめしてきたのは花の形にくり抜かれたクッキーだった。
「朱雀領の特産品である花の蜜を使ってるから砂糖とは違う甘さがあるよ」
朱雀領と聞き、ノエルの手が止まる。赤く色づくクッキーを一つ手にして眺めた。
母もこんなお菓子を作っていたなと思い出す。
噛んだそのクッキーは蜜を使用しているというのにほんの少しだけ塩辛い味がした。
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