金色竜は空に恋う

兎杜唯人

文字の大きさ
上 下
27 / 73

竜の一族 4

しおりを挟む
アグノアと別れたディディエとノエル、それからカノーテは地下から上がればようやく一息ついた。
ディディエの腕から降りたカノーテは身を伸ばしそれから姿を変える。


「ディディエ様、ノエル様には話すのですか」
「…そうだな」

とぼとぼとノエルはうつむいて歩いていく。もしかしたら心のどこかで竜ではないと思っていたのかもしれない。
それとどこからアグノアの話を聞いていたのだろうか。

「ノエル」
「……俺と会わなければディディエもシシリィも番になれたし、虎族に迷惑をかけることもなかったんだな」
「それは仕方ないだろう。それと、ノエル」

ディディエはノエルの肩をつかんで自分と向かい合わせにする。
泣きそうなほどに眉を下げている姿を見つめ大きなため息をつく。




「いいか、これが最後だ。お前の項を噛んだのも、お前に項を噛ませたのも、俺とシシリィが自分で決めたことだ。お前と出会ったから、じゃない。俺たちの決断と意思だ。それを捻じ曲げて自分を悲劇の主人公扱いするな。お前のその言葉は俺とシシリィに対する侮辱に等しい」
「そんな、つもりは…」
「ノエル、お前はこの先俺たちが死ぬのを見送るときまで俺たちに愛されていればいい。それが番になった俺たちのさだめだ」


ディディエの大きな手に顎をつかまれ顔をそらすことができなくなる。
ノエルのほほを涙が一筋伝ったのを見ればディディエは何も言えなくなってしまった。
本来であれば自分よりもはるかに上の存在であって、こんなところで泣いていていい存在ではない。
ディディエよりも長く生きているはずなのに、シシリィよりも幼く見える。



「カノーテ…」
「はい、ディディエ様」
「先に白虎領へ戻っていてくれ」
「何を」
「シシリィに、香油は間に合わなさそうだと伝えてくれ。あれは相当怒るだろうが」
「……シシリィ様でなくとも怒るかと。ディディエ様、シシリィ様のように丁寧に解さねばだめですよ」
「俺は気が短いから無理だな」
「ではたっぷりの香油を使ってください」

カノーテを向いて言葉を交わすディディエにノエルはついていけない。
肩を抱き寄せられ、ふわふわの毛に包まれるとたまらなく安心した。
すりっとほほを寄せて大きな胴に腕を回せば、ぞわぞわと毛が逆立つのを感じた。



「ディディエ様…」


カノーテの低い声にディディエが唸る。
自分よりも年上でその存在すら本当であればディディエなど足元にも及ばないのに、今こうして腕の中にいるノエルは庇護欲をかきたてられる。
ぐるるるっと喉の奥で唸る。獣としての本能と、理性が戦っていた。
シシリィならば丁寧にノエルのその部分をほぐし、ディディエに合わせた場所へと拡げることができるだろう。
だが、ディディエがそれを待てるとは思ってもいない。



「わかりました。僕の最速で香油を買ってきますので、ちゃんとディディエ様はノエル様を連れてシシリィ様のところに戻ってください」
「は?」
「シシリィ様はノエル様を心配されるでしょうから。ディディエ様は乱暴ですし、虎族の中でも体が大きいほうですので」



ディディエはしばらく無言でいた。
だがうなずけば虎の姿へと転化する。

『乗れ、ノエル。屋敷へ戻る』
「でも、カノーテ…」
「大丈夫です。香油いっぱい買ってくるので、それまでシシリィ様のそばにいてくださいね」

カノーテもくるっと一回転し猫へと転じれば身軽に地面を蹴って消えていく。
虎の姿のディディエをそっと撫でたノエルは恐る恐るその太い体に乗った。ノエル程度が乗ったところで重さはないに等しい。



『掴まっていろ、ノエル。飛ばす。もう我慢できん』
「ん、なにがだ、ディ」


ノエルの言葉が途中で切れた。
太い脚、強い脚力でディディエは走りだす。
舌を噛んでしまわぬようにノエルは口を閉じて毛を握り締めた。
少しでも風の抵抗がなくなるように身を低くし、頭を下げる。
耳元で風が鳴るがそれを気にしないようにした。
我慢できん、と告げたディディエの言葉が突然耳元で再度聞こえた。
どくっ、と腹部の奥で脈動を感じた。毛を握る手に力をより込めて、ノエルは顔を埋めた。
早くついてくれ、早くこの喉を噛みちぎってくれ。
ノエルは目を閉じ、息を止めながらそれを願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~

金色葵
BL
創作BL Dom/Subユニバース 自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話 短編 約13,000字予定 人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。

聖也と千尋の深い事情

フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。 取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...