24 / 73
竜の一族
しおりを挟む
『ノエルの両親に会ったのは遙か昔…お前もまだ生まれていないころだ。ノエルの父であった竜の一族は当代の息子でもあり、竜の一族同士で生まれた純粋な血統だった』
アグノアと知り合ったのは本当に奇跡に近いことだったのかもしれない。
アグノアがまだ子供であったとき、同じようにノエルの父も子供だった。竜の子供たちは鱗の色が様々である。
彼はノエルと同じように黒い鱗を持っていた。
「蛇の一族は竜の一族に似ているんだな。けれど竜の一族は蛇のように脱皮はしない。お前も脱皮するのか?」
当時蛇の一族の代表でもあったのがアグノアの父であった。
代表が変わったために竜の一族へ挨拶に行ったのである。蛇の一族と竜の一族は転化した時の姿が似ている。
もちろん竜の一族は空を駆け、水を滑るように自在に宙を飛ぶが蛇の一族は地を這うだけである。だが、当代は姿が似ているからと特別に目をかけてくれていた。
父に連れられて竜の一族に住まう館へと行った。
都市の中央部、そびえたつ塔の最上で謁見した。
だが子供であったアグノアは当代との謁見を許されるはずもなく控の間で一人取り残されていた。
そこにやってきたのが当代の息子にして、黒真珠のような輝きを放つ黒い鱗を持っていたニガレオスだった。
快活で、初めて見た蛇の一族に興味津々なのがうかがえた。
「脱皮…うん、ある程度大きくなれば…」
「転化してするのか」
「うん。この姿のままではうまく脱げないから」
「皮はどうするんだ」
「古い皮は埋める。それまで俺を守ってくれたものだから」
「なぁ、もし今度お前が脱皮したのなら俺にその皮をくれないか?」
なんてことを言うのだと仰天したのを覚えている。
見てみたい、触ってみたい、そういったことなのだろう。
竜の一族の希望を拒否もできるわけがない。うなずいたアグノアにニガレオスは笑顔を見せた。
それ以来アグノアは竜の一族の住まいに足を運ぶことを特別に許された。頻繁に行けるわけではないが、時折一族側から使者がやってきて短い時間ニガレオスと話をするのである。
もちろん約束をした以上アグノアが脱皮した皮も持っていったこともある。
「知っているか、アグノア。金の鱗を持つ竜は生まれた時からではないらしい」
「そんなこと知るか。竜の一族はその生態すら極秘なんだぞ。俺なんかが知っているわけがない」
「どうして金の鱗になるのか、だれもわからないらしい。父上も、どうして金の鱗になったのか話してはくれないんだ」
「…金の鱗を持ったら長く生きるのだろう」
「あぁ。それと同時にたくさんの子孫を作らなければならない」
「他種族とも?」
「…俺は特に気にしてないが、父上は異端だと、ほかの種族の血が入るのをいいこととは思っていない」
ニガレオスはため息交じりに告げた。
アグノアはニガレオスと知り合って間もないころにちらりと見た当代を思い出す。
巨躯に見合うだけの空気があった。アグノアを見た瞳ですら黄金、口を開けばその圧につぶされてしまうような感覚に陥った。
「どうせだから自分が好きになった相手と子供が欲しいなぁ」
「夢のまた夢だろ。お前は当代の子供の中でも最も優秀なんだから」
「うん、わかってる。とはいえ、アグノア」
「なんだ」
「俺が町に出て行っても何も言わないよな?」
「………は?」
たっぷりの間をおいて、なんのことだとアグノアが問い直す間もなくニガレオスは窓から外に落ちていった。
慌てて駆け寄ってみれば竜へと転化して町へと降りていく。
目立つだろうに、と絶叫したかったがここで絶叫すれば部屋の外にいる護衛が飛び込んでくる。
ニガレオスがいないことに気づけば自分はどうなるのか。そう考えたアグノアは黙っていることにした。
できる限り早めに戻ってきてくれなければ不審に思われかねない。
あまりの不安に叫び出したいのを堪えながら時間がすぎるのを待つ。
ニガレオスが戻ったのは日が沈みかけた頃、興奮した様子でまた窓から戻ってきた。
「ニガレオス、お前こんな時間までどこに」
「聞いてくれ、アグノア。俺は運命の番を見つけた」
嬉しさに頬を染め、アグノアの腕を掴んだニガレオスは言った。
たっぷりの間があっだが、ニガレオスはその言葉の意味を処理しきれない。
運命の番、その言葉がどれだけ重いものかは獣族である自分もわかるつもりだ。
だがそれは自分たちのような一般人に許される存在であり、竜の一族たるニガレオスに、許されるはずもない存在だった。
「人族だ。とても美しい娘だった」
顔のこわばるアグノアに気づくはずもなく、ニガレオスは興奮したまま話を続けた。
アグノアと知り合ったのは本当に奇跡に近いことだったのかもしれない。
アグノアがまだ子供であったとき、同じようにノエルの父も子供だった。竜の子供たちは鱗の色が様々である。
彼はノエルと同じように黒い鱗を持っていた。
「蛇の一族は竜の一族に似ているんだな。けれど竜の一族は蛇のように脱皮はしない。お前も脱皮するのか?」
当時蛇の一族の代表でもあったのがアグノアの父であった。
代表が変わったために竜の一族へ挨拶に行ったのである。蛇の一族と竜の一族は転化した時の姿が似ている。
もちろん竜の一族は空を駆け、水を滑るように自在に宙を飛ぶが蛇の一族は地を這うだけである。だが、当代は姿が似ているからと特別に目をかけてくれていた。
父に連れられて竜の一族に住まう館へと行った。
都市の中央部、そびえたつ塔の最上で謁見した。
だが子供であったアグノアは当代との謁見を許されるはずもなく控の間で一人取り残されていた。
そこにやってきたのが当代の息子にして、黒真珠のような輝きを放つ黒い鱗を持っていたニガレオスだった。
快活で、初めて見た蛇の一族に興味津々なのがうかがえた。
「脱皮…うん、ある程度大きくなれば…」
「転化してするのか」
「うん。この姿のままではうまく脱げないから」
「皮はどうするんだ」
「古い皮は埋める。それまで俺を守ってくれたものだから」
「なぁ、もし今度お前が脱皮したのなら俺にその皮をくれないか?」
なんてことを言うのだと仰天したのを覚えている。
見てみたい、触ってみたい、そういったことなのだろう。
竜の一族の希望を拒否もできるわけがない。うなずいたアグノアにニガレオスは笑顔を見せた。
それ以来アグノアは竜の一族の住まいに足を運ぶことを特別に許された。頻繁に行けるわけではないが、時折一族側から使者がやってきて短い時間ニガレオスと話をするのである。
もちろん約束をした以上アグノアが脱皮した皮も持っていったこともある。
「知っているか、アグノア。金の鱗を持つ竜は生まれた時からではないらしい」
「そんなこと知るか。竜の一族はその生態すら極秘なんだぞ。俺なんかが知っているわけがない」
「どうして金の鱗になるのか、だれもわからないらしい。父上も、どうして金の鱗になったのか話してはくれないんだ」
「…金の鱗を持ったら長く生きるのだろう」
「あぁ。それと同時にたくさんの子孫を作らなければならない」
「他種族とも?」
「…俺は特に気にしてないが、父上は異端だと、ほかの種族の血が入るのをいいこととは思っていない」
ニガレオスはため息交じりに告げた。
アグノアはニガレオスと知り合って間もないころにちらりと見た当代を思い出す。
巨躯に見合うだけの空気があった。アグノアを見た瞳ですら黄金、口を開けばその圧につぶされてしまうような感覚に陥った。
「どうせだから自分が好きになった相手と子供が欲しいなぁ」
「夢のまた夢だろ。お前は当代の子供の中でも最も優秀なんだから」
「うん、わかってる。とはいえ、アグノア」
「なんだ」
「俺が町に出て行っても何も言わないよな?」
「………は?」
たっぷりの間をおいて、なんのことだとアグノアが問い直す間もなくニガレオスは窓から外に落ちていった。
慌てて駆け寄ってみれば竜へと転化して町へと降りていく。
目立つだろうに、と絶叫したかったがここで絶叫すれば部屋の外にいる護衛が飛び込んでくる。
ニガレオスがいないことに気づけば自分はどうなるのか。そう考えたアグノアは黙っていることにした。
できる限り早めに戻ってきてくれなければ不審に思われかねない。
あまりの不安に叫び出したいのを堪えながら時間がすぎるのを待つ。
ニガレオスが戻ったのは日が沈みかけた頃、興奮した様子でまた窓から戻ってきた。
「ニガレオス、お前こんな時間までどこに」
「聞いてくれ、アグノア。俺は運命の番を見つけた」
嬉しさに頬を染め、アグノアの腕を掴んだニガレオスは言った。
たっぷりの間があっだが、ニガレオスはその言葉の意味を処理しきれない。
運命の番、その言葉がどれだけ重いものかは獣族である自分もわかるつもりだ。
だがそれは自分たちのような一般人に許される存在であり、竜の一族たるニガレオスに、許されるはずもない存在だった。
「人族だ。とても美しい娘だった」
顔のこわばるアグノアに気づくはずもなく、ニガレオスは興奮したまま話を続けた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる