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序
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そこから見る景色はいつだって変わらない。
ドーム型のガラスからはどこまでも青い空が見え、眼下には普段通りの生活を送る人々の住まいがある。
そこはこの都市で一番高い場所だった。
360度視界が広がる。都市を囲む城壁もその向こうも丸見えだ。
「眺めはいいが、寒いのは困ったな…移動させるべきだろうか」
嘆息し振り向いた。
都市の中心に立つ大きな塔、その最上階となる広い空間にいた。
そこは墓だった。似た装飾の十字架が多く並ぶ中、二本だけ色や装飾が異なるものがあった。
並んで立つそれに近づいて彼は膝をつく。
金の鱗が光る手を静かに伸ばし十字架を撫でる。
「ながく待たせてすまない…あと、少しだから待っていてくれ」
今でも目を閉じれば鮮やかによみがえるものがある。
思い出だけではなく、声も姿もそこに生まれていた想いですら、今でも色鮮やかなまま彼の内にあった。
「ひいおじい様、ここにいましたか」
「…どうした?」
「鱗の片鱗がうかがえます」
「ようやくか…」
重たい体を立ち上がらせて墓地から出るべく歩みを進める。
しかし足を止めると一度振り向いた。
先ほどまで見つめていた十字架のそばに人影がある気がした。
何度か瞬きをすればそれは見えなくなる。陽炎だったのだろうか。
「ひいおじい様」
「わかった。行こう」
手を引かれ歩いていく。
脇に立つ彼はまだ子供である。長命であることに変わりはないが、彼もきっと自分よりも先に死んでいくのだろう。
あの墓は自分の一族である。
跡継ぎが生まれなければ死ぬことがない自分の存在が恨めしい。
かなりあの墓の住人を待たせてしまっている。
「ひいおじい様、また話をしてください」
「話?」
「ひいおじい様が子供だった時の話です。僕たちが生まれるよりもずっとずっと前のことだと聞きました。まだ全然聞き足りません」
「そうか。ならば鱗の様子を見てから話そう」
「嬉しいです」
真っ青な瞳を笑みの形にして見上げてくる。
指通りの良い白い髪を撫でてやり彼は昔を想った。
ひいおじい様、と呼ばれるようになってどれだけの時間が流れたのだろうか。
間もなく新しい子供が生まれようとしている。
その子供に自分と同じ鱗があったのならば、長かった生が終わる。
待ち望んだ彼らのもとへ行くことができる。
「ひいおじい様の話、楽しみです」
そうか、と答える。
ひいおじい様、と呼ばれる彼の顔の半分には金の鱗がびっしりとはえていた。
だがその片側の肌は瑞々しく真っ赤に輝く瞳にもしっかりとした光が宿っている。
この日、この都市の中で最も強く気高く美しいと言われる金色竜の王たる彼は、目の前にある死への道へ一歩踏み出した。
ドーム型のガラスからはどこまでも青い空が見え、眼下には普段通りの生活を送る人々の住まいがある。
そこはこの都市で一番高い場所だった。
360度視界が広がる。都市を囲む城壁もその向こうも丸見えだ。
「眺めはいいが、寒いのは困ったな…移動させるべきだろうか」
嘆息し振り向いた。
都市の中心に立つ大きな塔、その最上階となる広い空間にいた。
そこは墓だった。似た装飾の十字架が多く並ぶ中、二本だけ色や装飾が異なるものがあった。
並んで立つそれに近づいて彼は膝をつく。
金の鱗が光る手を静かに伸ばし十字架を撫でる。
「ながく待たせてすまない…あと、少しだから待っていてくれ」
今でも目を閉じれば鮮やかによみがえるものがある。
思い出だけではなく、声も姿もそこに生まれていた想いですら、今でも色鮮やかなまま彼の内にあった。
「ひいおじい様、ここにいましたか」
「…どうした?」
「鱗の片鱗がうかがえます」
「ようやくか…」
重たい体を立ち上がらせて墓地から出るべく歩みを進める。
しかし足を止めると一度振り向いた。
先ほどまで見つめていた十字架のそばに人影がある気がした。
何度か瞬きをすればそれは見えなくなる。陽炎だったのだろうか。
「ひいおじい様」
「わかった。行こう」
手を引かれ歩いていく。
脇に立つ彼はまだ子供である。長命であることに変わりはないが、彼もきっと自分よりも先に死んでいくのだろう。
あの墓は自分の一族である。
跡継ぎが生まれなければ死ぬことがない自分の存在が恨めしい。
かなりあの墓の住人を待たせてしまっている。
「ひいおじい様、また話をしてください」
「話?」
「ひいおじい様が子供だった時の話です。僕たちが生まれるよりもずっとずっと前のことだと聞きました。まだ全然聞き足りません」
「そうか。ならば鱗の様子を見てから話そう」
「嬉しいです」
真っ青な瞳を笑みの形にして見上げてくる。
指通りの良い白い髪を撫でてやり彼は昔を想った。
ひいおじい様、と呼ばれるようになってどれだけの時間が流れたのだろうか。
間もなく新しい子供が生まれようとしている。
その子供に自分と同じ鱗があったのならば、長かった生が終わる。
待ち望んだ彼らのもとへ行くことができる。
「ひいおじい様の話、楽しみです」
そうか、と答える。
ひいおじい様、と呼ばれる彼の顔の半分には金の鱗がびっしりとはえていた。
だがその片側の肌は瑞々しく真っ赤に輝く瞳にもしっかりとした光が宿っている。
この日、この都市の中で最も強く気高く美しいと言われる金色竜の王たる彼は、目の前にある死への道へ一歩踏み出した。
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