世界は万華鏡でできている

兎杜唯人

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燃え盛る想いに身を焦がす

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「リューちゃん、お肉焼けたよ!」
「今行く」

中庭に肉の焼ける香りが広がる。
明かりがともされ、使用人たちの声も響く。
大きな金網や燃え盛る火と炭に珍しそうにする様子をリューイは眺めた。
アクティナは夜の天気もいいからと中庭に食事を用意した。それもバーベキューである。見たことのない料理方法にレックスとシルバは夢中だった。
危なくない距離で肉や野菜が焼けていくのを見つめている。焼きあがったものを頬張ってはおいしかったのか顔を輝かせる。
それを見て焼いているシェフもまた嬉しそうだった。

「リュー兄、おいしいね」
「そうだな。絶対にうちじゃできないもん…はぁ、おいしい…」

リューイはこんがりといい色に焼けた野菜を頬張る。
家にあるフライパンやオーブンではここまで焼いてしっかりとした味を出すことはできないだろう。
先ほどフィーディスが焼けたナスを見つめて一口齧り、驚きに目を見張っているところを見てしまった。
苦手な野菜でも食べ方を変えるととてもおいしいらしい。

「リューちゃん、デザートもあるって」
「そんなに食べておなか壊すなよ?」
「大丈夫だって。シルバ、早く」
「待ってよ、レックス」

レックスとシルバは仲良く走っていく。デザートは山盛りのフルーツやアイスのようであった。
ウィリディスはどうしたのだろうかと姿を探す。
彼は少し明るいところから離れてアクティナとアカテスと話しているようだった。
アクティナは笑って話している。少しばつが悪そうなウィリディスは手にしたグラスを少し煽る。
アカテスが二人に割って入り何かを口にすればウィリディスはこれ以上ないほどに驚く。

「何かあったのかな…」
「リュー、どうぞ」
「サンキュ、フィーディス。ぁ、おいしい」

フィーディスが脇からオレンジを差し出してくる。
それを受け取り頬張って様子を見ていればアカテスは怖いほどにまじめな顔でウィリディスと話していた。
一体何の話をしているのか。きっとリューイがそばに行けばアカテスはいつものように笑ってしまうだろうし、ウィリディスも口を開くことはないだろう。

「つらい…」
「リュー?」
「何でもないよ。それよりもフィーディス、さっきナスを食べていただろ」
「うん。焼いた奴なら食べられた」
「えらいえらい」

リューイは少し腕を伸ばしてフィーディスを撫でた。
照れ臭そうにするフィーディスはリューイに頭を押し付けた。
リューイは笑ってしばらく撫でていた。
やがて食事もお開きとなる。
レックスたちは食事を用意した使用人たちに口々に喜びを伝えていた。おいしかったとこぼれるたびに嬉しそうにする彼らがリューイにはまぶしかった。

「さて、お風呂に入ったら寝るぞー。明日はせんせーが牧場に連れて行ってくれるかな。それともアクティナさんがまた何かしてくれるかな」
「俺牧場行く!」
「俺も!」
「ルーナに会うの」
「うんうん、楽しみいっぱいでいいな」

まだ眠たくなさそうな彼らの話を聞きながら、広い浴室に向かう。
メイドに案内されたのは部屋の浴室ではなく、もっと広い客人用の大浴場であった。
もちろん客はリューイたちしかいない。
あまりに広い浴場にレックスは開いた口が閉じなかった。

「走ると転ぶから気をつけろよ。入る前には体洗ってから」
「わかってるよ」
「ねぇねぇ、このせっけんいいにおいする」
「クラルス、これ好きか?」
「うん。お花のにおいだね」
「そうだな。これで洗うときっとクラルスもいい匂いになるぞ」

クラルスを自分の隣に座らせて体を洗いつつ、自分でやれるか見守った。
フィーディスがレックスとシルバの様子を見守っている。二人は手早く洗えば一番大きな浴槽に向かって行った。

「リュー兄、すっごく熱い」
「お湯を先に体にかけて慣らしてからな。のぼせるからあんまり浸かりすぎるなよ」
「わかったー!」

クラルスの洗い残した部分を丁寧に洗えば二人で一緒に浴槽へと向かう。
クラルスもお湯に手を伸ばしてよほど熱かったのかすぐに引っ込めてしまった。

「りゅーちゃ、熱い」
「うん。クラルスには結構つらいかもな。ほかにもあるからそっち行ってみようか」
「うん」

クラルスとともにほかの浴槽を覗く。いずれも近くで湧き出るものを使っているらしい。
少し水が入り、温度が低いものがあった。リューイはクラルスも大丈夫そうだと判断してともに浸かる。
じわり、と染み込むような暖かさにリューイから力が抜ける。ずるずると湯に沈み込めば気持ちよさに頭が溶けそうだった。

「りゅーちゃ、きもちいー」
「俺もだよー最高…」

ふわぁあと大きなあくびを漏らすクラルスが沈まないように自分のそばに引き寄せる。
たくさんはしゃいだからかクラルスのみならずレックスもシルバも温まった体のせいかうとうとしている。
完全に寝る前に湯から上がって部屋に戻らねばならない。
リューイもあくびを噛み殺しクラルスを促して湯から上がる。

「レックス、シルバ、フィーディス、あがるぞ。このままだとみんな寝ちゃいそうだからな」
「出るー」

ざぶざぶと浴槽から上がる。十分に温まったか、手足と顔がほんのりと赤い。
リューイたちが中にいる間にタオルやパジャマが用意されていた。名前の札が置かれており、各々それを手にした。

「リュー兄、見てみて。俺とシルバ、おそろいなの」
「猫さんになるよ。ふわふわ」
「へぇ、着ぐるみみたいなやつなんだな。かわいい」

全身フカフカのキグルミ型のパジャマを身にまとう弟たちを見ながら無言でシャッターを切る。
クラルスはうさぎさんだと喜ぶ。真っ白なうさぎでちゃんとしっぽもある。

「リューちゃんたちにはないの?」
「さすがに俺たちには…」
「ふぃーちゃ、くまさんだよ」

クラルスの言葉にはっとフィーディスを振り向いた。
耳を赤くしてリューイから顔をそむけたフィーディスは茶色いもこもことした姿になっている。
じわじわと口元が緩んだ。自分たち用はさすがにないものと思って少しほっとしていたが、アクティナがおそらく用意させたのだろう。恥ずかしいのは間違いないのだが、みんなおそろいというのはうれしかった。

「リュー兄のもあるよ」

はい、とレックスが出したきたものを受け取ったリューイはさっそく着てみた。
下着だけつけてもこもこにくるまれる。
フードまでかぶればリューイはかわいらしい垂れ耳の犬だった。

「りゅーちゃ、わんわん」
「うん、どう?」
「先生が抱きしめて放さないやつだね」
「先生もかわいいっていうね」
「リュー、抱っこしていい?」
「男としてかわいいと言われるのもどうかと思うな」

リューイは苦笑を漏らす。
ふかふかもこもこの着ぐるみはとても気持ちがいい。しかし着慣れたものではないのといささか足の間が心もとない。スース―するのである。

「このまま寝るの、楽しいね」
「ふかふかのベッドだったからきっと楽しい夢が見られるね」

浴場の外にはメイドが控えていた。リューイたちを部屋までまた案内してくれるらしい。
メイドはもこもこ姿のリューイたちを見て笑顔になる。

「とてもかわいらしいですね」
「もこもこなんだよ」

レックスとシルバは眠かったのもどこへやったのかメイドを二人で挟んで楽しそうに歩いている。
後ろからそれを眺めつつクラルスとフィーディスと手をつないで歩いた。

「幸せだな」
「本当?」
「うん。あったかくてほわほわして、みんなが笑っていて…これ以上ないくらいに幸せ」
「よかった。今日はきっといい夢が見られるね」
「うん」

うなずくリューイは部屋につけばメイドに礼を告げる。レックスたちはベッドに飛び込んで枕に顔を埋めていた。
幸せそうな顔をして瞼を閉じている。
クラルスもベッドに上がればそこで待っていたニウエを腕にしっかりと抱えて目を閉じる。

「おやすみ、レックス、シルバ、クラルス。いい夢見ろよ?」
「リューちゃんもだよ」
「フィー兄も」
「わかってるよ。俺はここで寝るから」

フィーディスもベッドに上がればあくびを噛み殺す。
三人はリューイたちとあいさつを交わしてすぐに眠ってしまった。
口元には笑みが浮かんでいる。よほど楽しかったと見えてリューイは胸をなでおろした。
フィーディスに近づき、頭を撫でれば額に口づける。驚きで動きを止めた顔を見て笑えばおやすみ、と囁いて彼らの部屋のそばにある自分の部屋に戻った。
リューイもあくびを噛み殺してベッドに向かう。倒れこめばすぐに眠れそうだった。

「ウィル、待たないと」

頭を振って眠気を飛ばしてからリューイはベッドに座った。
ウィリディスは着ぐるみ姿のリューイを見て何か言ってくれるのだろうか。弟たちのようにかわいいと言って抱きしめてくるのだろうか。
ほのかに顔を赤くしてリューイはうつむいてしまう。今からでも遅くはないから着替えるのが得策だろうか。
しかしせっかくアクティナが用意してくれたと思わしきパジャマである。脱ぐのももったいない。
どうしたものかとリューイが思考の渦に入り込んでいれば軽くドアがノックされた。

「リューイ、入るぞ」
「うん」

ウィリディスの声だった。
ドアノブが回り静かにドアが開く。ウィリディスが顔を覗かせればリューイは顔を明るくした。
ドアを静かにしめたウィリディスはリューイに近づいてくる。何の変哲もない普通のボタンのパジャマである。
少しそれが物珍しかった。
普段のウィリディスが着るのは適当な、それこそどこにでも売っている白いシャツとパンツである。遅く帰宅した時などは朝着ていった洋服のままでベッドに沈み込んでいることもあるぐらいだから、パジャマらしいパジャマは見たことがない。
上から下までリューイの視線が動く。ウィリディスは首をかしげてリューイを見つめた。

「かわいらしい格好をしているな。おそらく母が用意したものだと思うが」
「…そうだろ?かわいいだろ?ふわふわなんだぞ」

ベッドに座るリューイを見つめる。リューイは犬なんだと示すようにフードの左右についた耳を手でいじった。
何なら尻尾もちゃんとある。真っ白な毛に包まれたリューイを見てウィリディスは笑った。
ベッドに上がれば手を伸ばしてリューイの顎をくすぐるように撫でる。

「…わん…」
「犬か…かわいらしいな。柔らかくていい香りだ」

ウィリディスの腕に抱きこまれてリューイはうれしくなる。それこそ動くはずもないがしっぽを振りたくなった。
すり、と甘えればリューイを抱く腕に力がこもる。

「ウィル…ほしい」
「ずいぶん今日は素直だな」
「だめかよ…」
「いや、好ましい」

ウィリディスと目をあわせればキスが降ってくる。
ちゅ、と軽い音を立ててキスを交わしていくうちにリューイは体の奥で蜜が溢れるのを感じた。
ぶるっと震えればこの着ぐるみの下はパンツだけということを思いだした。
汚してしまうわけにはいかない。

「ウィル、これ脱がして」
「脱いでしまうのか?」
「この下、パンツだけなんだよ。あんたに触られたらすぐ汚すから」
「……そうか」

リューイの口元にキスをしてから、どう脱がしたものかとウィリディスは見つめる。
体の前の部分には毛に隠れてボタンがあった。それを一つ一つゆっくりと外していく。
首元からリューイの素肌が見えだす。見えだした肌に唇を寄せて軽く吸い付けばリューイの体がこわばった。
下肢までつけば、リューイのそれはわずかに兆していた。
ウィリディスがきぐるみを押さえリューイは足を引き抜く。
足を抜ききったリューイの下着はうっすらと濡れていた。

「みんなよ、ウィル…」
「かわいいと言っただけで濡れたのか」
「違うし。ウィルがキスするから」

リューイの言葉にウィリディスはほんのわずかに目を丸くするものの着ぐるみをベッドの外に放り投げればパンツ姿のリューイを抱き寄せる。
肌にウィリディスの吐息を直に感じてしまい、それにあおられるようにしてウィリディスと口づけた。
舌を引きずり出され何度もウィリディスの唾液を飲み込む。
酸欠で思考がぼやけていけばようやくウィリディスから解放された。

「ウィル…脱がないの」
「脱ぐさ。それともお前が脱がせてくれるか」
「俺がやる」

うなずいたリューイは胡坐をかくウィリディスの膝に座りわずかにふらつく視界にボタンを収めると一つずつ時間をかけてはずしていった。
ウィリディスはその間にもリューイの髪に唇を寄せたり素肌を撫でてみたりと好き放題していた。
下まできっちりとしめられたボタンを外し終えれば前を開く。
そっと鎖骨を撫でゆっくりと胸元を手が滑る。ちらりと視線だけ上に向ければウィリディスはリューイを見つめていた。

「下も今やる?」
「そうだな…お前のここがもう濡れているから俺もそう遠くないうちに脱ぐことにはなるだろうな」

すっとリューイの下着を撫でる。
硬くなりかけていたそこはウィリディスの手に反応する。
もしかしたら自分は明日立てないかもしれないななどと考えるもウィリディスにもっと触ってほしくなり腰を押し付ける。
軽く笑ったウィリディスはリューイの下着へと手を滑り込ませて直に触れてきた。

「ぁっ…ウィル、手冷たい…」
「わりと廊下は冷えるからな。手が冷たいとお前のこれがとても熱く感じる」

零れ落ちる蜜を指に絡めゆっくりとリューイの熱をしごく。
声を漏らすリューイはウィリディスの手に押し付けて自らも腰を揺らしていた。
時折ウィリディスの体に口づけて赤く跡を残す姿が愛おしい。
顎を持ち上げ吐息ごと奪ってしまえばリューイはたまらなく蕩けた。

「本当に、お前のこんな顔を見られるのは俺だけだろうな」
「…今はね…それに、ウィルのめちゃくちゃ獣じみた顔を見られるのも俺だけでしょう?ウィルが抱いてきたほかのΩには見せた?」
「さぁな…お前を抱いてから、ほかのΩなど眼中には入らなくなったし、お前と出会う以前のΩなど記憶にすらない」

リューイの下着を脱がせ裸にさせたウィリディスはベッドに押し倒す。上から裸身を見つめていればリューイは恥ずかしそうに枕で顔を隠した。
そんなことをしてもこれからウィリディスに喘がされてもっと恥ずかしいものを見せるというのに、今から恥ずかしがって一体どうするのだろうか。
リューイ、と名を呼べば枕から少しだけ顔を覗かせる。

「抑えをきかなくさせるな…明日も子供たちと遊ぶのだろう」
「遊ぶ…」
「足腰立たなくするつもりはない。だから俺を煽らないでくれ」
「だって…ウィル、すごくいい匂いするし…見られてるって思うと恥ずかしいけど、もっと見てって思うし…」
「だから、そういうのが…」

ウィリディスは大きなため息をつく。
今日は少し強めの抑制剤と避妊剤を飲んでいる。いつものように気絶させることはないかもしれないが、今のリューイを見ているとその自信はなかった。

「ウィル…やっぱりいや?今日はだめ?」
「だめじゃないし嫌でもない。ほら、手を貸せ」

リューイの枕を握る手を片方つかめば己の股間へと当てる。パジャマを盛り上げるそれに触れればリューイはうっとりとした。
わかるな?と問いかけうなずいたのをいいことに体をリューイの下肢に寄せて天を向き蜜をこぼすそれをなめ上げた。
ヒッ、と声が頭上からする。しかし聞かなかったことにすれば舌で何度も上下になめた。
太ももが震えリューイの押し殺した声が聞こえる。
先ほどリューイは自分をいい匂いだと告げたがリューイこそいい香りがしているとウィリディスは思っていた。
ウィリディスがほしいと言ったリューイは全身から甘く香っていたように思える。それはこの屋敷で使われている石鹸の香りなのか、リューイ自身から漂うものなのかは判断がつかない。
ウィリディスにまとわりつくその香りが嫌ではなかった。
音を立てリューイを攻め立てながらウィリディスは視線をリューイへ寄越す。
枕に声を吸わせうっすらと涙を浮かべるリューイがかわいらしく思えた。

「リューイ、体を起こせるか。たまには同時に舐めるのもいいだろう?」
「同時にって…なに…」

快楽が途切れればリューイは何度も深く息を吸う。
リューイの腕を引きベッドに横たわった自分の上にその体を乗せた。
胸元に手を置いて不安げにリューイはウィリディスを見つめる。優しく髪を撫でては体の向きを変えるように告げた。

「……あんまり、まじまじと見るなよ、ウィル…こんな格好、絶対次はないから」
「本当に?案外気持ちよくなって自分から強請るかもしれないぞ」
「ない」

ウィリディスの熱を目の前にしてリューイは首を振った。
何故恋しい男の目の前に己の熱といつもならば挿入されている孔を晒さなければならないのか。
恥ずかしいにもほどがあるが、パジャマを着たままのウィリディスの熱は押し付けられて苦しそうでもあった。
ウィリディスがわずかに腰を上げればリューイはそれに合わせて下着ごとパジャマをずらした。
圧迫から解放されたウィリディスの熱は天を向き筋を立てている。目の前に姿を見せた逞しいそれにリューイは目が離せなかった。
ごくりとつばを飲み込んで顔を寄せる。強く、雄の香りがした。胡椒の粒を噛んだときのようなピリッとした香りである。

「リューイ、お前がなめてくれるならもっと大きくなると思うんだが?」
「…わかった」

リューイは素直にうなずいてウィリディスの熱にゆっくりと指を絡めていく。
触れれば火傷するのではないかと思うほどに熱さを感じる。リューイの口がウィリディスの先端にあたる。
それからすぐにリューイの口はウィリディスの熱でいっぱいになった。
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