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炎のごとく燃える君 3
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「うわぁ、リュー兄外見て!びゅんびゅん流れていくよ」
「クラルス、窓から手を出しちゃだめ。危ないだろ」
リューイは窓へ手を伸ばすクラルスを引き寄せて自分の膝に座らせる。
シルバはレックス越しに窓の外を見つめていた。
「すごい。こんなに走るの早いんだね」
「うん、すごいよな」
リューイは二度目の電車に乗って窓の外を過ぎていく景色を見つめていた。
事の始まりは五時間ほど前にさかのぼる。
『ウィル、一緒にこないの?』
『すまない、少し研究室で用事があるんだ』
今日からウィリディスの実家に行く予定だった。
リューイは荷物をもってウィリディスに告げられた言葉に少し呆然としていた。
すっかりウィリディスと行くつもりでいたのだ。
『夜には向かう。リューイ、子供たちを連れて行けるか』
『行ける、と思うけど…』
『また駅まで迎えが来る。乗り換えは難しくないだろう。すまない』
『…いいけど』
乗り換えのメモも持っている。レックスもシルバもリューイの言うことを聞けるし、フィーディスもいるからクラルスの面倒も見ることができる。
不安はないが少し落ち着かない。何かあったらすぐに連絡するようにと言われリューイは端末を握りしめていた。
「りゅーちゃ?」
ぼんやりしていれば腕の中にいるクラルスがリューイを呼んだ。
はっとすれば心配そうに眉を下げてクラルスが見上げてきていた。大丈夫、と笑えばまだ心配そうな顔をしつつも腕に抱えていた白い犬のぬいぐるみ、ニウエをリューイに向けた。
「ニウエもりゅーちゃが心配だよって。りゅーちゃ、疲れた?」
「…少しだけ。でも大丈夫。時間通りならそろそろつくから。みんなは疲れてない?」
「大丈夫!」
「楽しいから平気!」
まだつかないのだろうかとそわそわする空気を感じつつも苦笑を漏らしてからフィーディスを見た。
「お前は?」
「俺も大丈夫だよ。ちょっとドキドキはしてるけど」
「そっか」
リューイを見てフィーディスは静かにうなずいた。
しばらくすれば乗っていた電車が駅に着く。レックスたちを促してホームに降りた。
見知らぬ土地が五人を出迎える。改札を出ていけば前回よりも少し大きな車が止まっていた。
車のそばに立つのはリューイも顔を覚えている執事である。
「ようこそ、皆さま。お迎えに上がりました。どうぞ車へ」
リューイの後ろに隠れてしまった三人を引っ張り車へと近づく。
こんにちは、と声をかけてから後ろに隠れる姿を見た。
「挨拶はちゃんとするようにって言ってるだろ。ほら」
おずおずとリューイの後ろから顔を出したレックスとシルバがまずこんにちは、と消えそうな声で告げた。
執事は二人と目線を合わせるかのように膝を折れば目元を和ませて口を開いた。
「初めまして。レックス様とシルバ様ですね。若様よりお話は伺っております。そのお隣は」
執事の目がクラルスへと移動する。クラルスは知らない顔により強くリューイの服を握り締めて抱えていたニウエに顔を埋めてしまう。
「クラルス様とニウエ様。それからフィーディス様とお見受けいたしました。屋敷へ丁重に案内するようにと仰せつかっております。どうぞ車へ」
立ち上がった執事のあとに続いてリューイが歩き出す。フィーディスも何食わぬ顔で歩きだせばレックスとシルバがクラルスの手をそれぞれ握って後を追いかけてきた。
大きめのワゴン車のドアが開く。フィーディスが先に乗り込んで一番奥へと座った。
おいで、と声をかければレックスとシルバが互いに顔を見合わせて乗り込む。
リューイは不安そうな顔をしているクラルスを見て笑いかけた。
「大丈夫だよ。俺もいる。みんな一緒だから」
「りゅーちゃ…」
「ニウエも一緒だろ?なんも怖くないよ。手をつないであげるから乗ろう」
ニウエを片腕で抱いてリューイに手を伸ばしたクラルスは恐る恐るといった様子で車に乗る。前から二番目の座席に座ればリューイを見つめてきた。
「なんも怖くないだろう?じゃぁ危なくないようにシートベルトしないとな。少しニウエを持ち上げていて」
「リューイ様、私が」
執事に声をかけられれば出すぎた真似だったか、と慌てて離れる。
執事はクラルスを下から見上げるようにまた腰を折った。
「クラルス様、ニウエ様を少しお預かりしてもよいでしょうか」
「ニウエ…なにするの」
「ニウエ様にも何かあっては大変ですのでクラルス様のお隣の席に座ってもらおうかと」
「ニウエも座る?」
「はい。クラルス様のお隣で」
クラルスの視線が隣に空いた席へと滑る。
少しの間があって執事にそろそろとニウエを渡した。恭しくニウエを受け取り執事はクラルスの隣の席へニウエを置いた。それからシートベルトを着ける。
「これでニウエ様も安全でしょう」
「……うん」
うなずいたクラルスはほんの少し笑みを浮かべた。
「ありがと…」
「いいえ。皆様大切なお客人ですのでこれしきのこと」
「じゃぁ俺は前に座るから。レックスもシルバもベルトした?」
「したよ、大丈夫」
「フィー兄がチェックしたから大丈夫」
リューイはフィーディスと視線を交わす。うなずきがかえってくればリューイもシートベルトをしめる。
車が動き出せば列車とは違う風景の流れ方に夢中になっていた。
「奥様や旦那様も今日を楽しみにしておりました」
「こんなに大勢で迷惑かなとは思ったんですけど…でも、最後だからみんなでって思って」
「若様はこうしたことをなさってはこなかったので我々使用人一同とても喜ばしく思っております」
リューイは目を丸くしてから笑った。
しばらく走っていけば洋館へと着いた。入口のところに誰かが立っている。
リューイが車を降り、執事も同じように降りた。
ドアを開け、クラルスとニウエのシートベルトを外してから転ばないようにその体を支えて車から降ろしてやる。
クラルスは恥ずかしそうにリューイの陰に隠れつつニウエを抱いて小さくありがとう、と告げていた。聞こえていたのか彼はにっこりと笑えば同じようにレックスとシルバも車から降ろした。
「リューちゃん、先生のおうちってすごく大きいね」
「そうだよなー。中もすごいから腰抜かすなよ」
車から降りたレックスとシルバは呆然として目の前にそびえたつ洋館を見つめていた。
フィーディスはそう驚きを表には出してないものの二人と同じように言葉は出ていなかった。
「リューイくん、こっちよ」
「ほら、行こう」
どうやら外で待っていたのはアクティナであるようだった。彼女はリューイたちに向けて大きく手を振っている。
「こんにちは、アクティナさん。今回もお世話になります」
「ふふ、いいのよぉ。楽しみに待っていたんだから。後ろのその子たちがリューイくんの弟くんたちね?初めまして」
アクティナはしゃがみこんでレックスたちを笑顔で見つめる。その勢いに飲まれたのか三人は後ろに少し下がっていた。
苦笑を漏らしたリューイは彼らから少し距離をおく。アクティナと正面から向き合って完全に動きを止めてしまった。
「私はあなたたちと一緒に住んでいる男のお母さんよ。今日はみんなに会えるって聞いたからすごく楽しみにしていたの。あなたたちがいっぱい楽しめるように準備もしたわ。仲良くしてくれると嬉しいのだけど」
「……先生のお母さん…?」
「先生もお母さんいるの…」
「お母さんいなかったらせんせーは生まれてないよ」
レックスとシルバは信じられないものを見るような顔でアクティナを見ていた。
彼らからしてみればウィリディスはあの姿で生まれたと思っていてもおかしくはないかもしれない。
アクティナもそれを感じたのか隠し切れない笑みをこぼしていた。
「さて、ここで立ち話していても疲れるだけね。おいしいケーキを用意したからまずはそれを食べてここまできた疲れをいやして頂戴。リューイくんの部屋はこの前と同じよ。ほかの子の部屋は一緒にしてリューイくんの部屋のそばにしたわ」
「ありがとうございます。おいで」
まだ表情が固まったままのレックスたちを促してリューイは歩き出す。
屋敷の内部へと踏み入れればレックスとシルバは口を開けたまま天井を見上げていた。自分も同じだったから気持ちはよくわかる。
「さぁみんな、こっちよ」
アクティナが階段の方で大きく手をふった。
シルバは甲冑に興味を示しているし、クラルスは吊り下げられたシャンデリアを眩しそうに見つめている。
レックスは壁に飾られた巨大な絵画を見つめ、フィーディスはにこやかに自分たちを迎える執事やメイドたちに少しばかりむずがゆそうにしている。
彼らをみていたら自分まで少し緊張してしまった。最初のときは隣にウィリディスがいた。だからそんなに周りに飲まれることはなかった。
「リューイくんの部屋はここ、それから弟くんたちはこっちね」
赤い花の絵画が飾られた部屋、リューイはそれをみてウィリディスを思い出す。
端末を取り出してもウィリディスからの連絡はない。無事についたことをメッセージとして送ったがなんの返信もないままだ。
レックスたちは自分たちの部屋ではしゃいでいる。
扉には小さな白い花の絵画がある。ぷくりと丸いめしべとその周囲を小さな花びらが取り巻く。よく見かける花である。
「カモミールよ。アロマにも使われるものなの。花言葉は、逆境で生まれる力。彼らにはぴったりじゃない?」
絵を見ていればアクティナに話しかけられた。逆境、とつぶやく。
それからベットで飛び跳ねる姿を見つめた。
フィーディスがたしなめているが、すっかり興奮しきっている。苦笑してからうなずいた。
「リューイくんはあなたの部屋にかけられた花の花言葉って知ってる?」
荷物を自室においたリューイにアクティナは声をかけた。リューイは首をふる。
アクティナはほほ笑みを浮かべドアにかかる絵を見つめて口を開いた。
「あなたは私の胸の中で炎のように輝く、よ。息子くんの胸の中であなたは鮮やかな炎のように息づくし、あなたの胸の中で息子くんは熱く燃えているでしょう?」
「…確かに…そういわれると納得します」
「どう?あのあとなにか変わった?」
リューイはほのかに顔を赤らめた。
アクティナやアカテスには告げるべきだろうか。まだレックスたちは部屋を探検しているのが出てこない。
リューイは口を開く。
「せんせーに、愛していると言われました…首輪も、外してほしいと」
「あの子にしてはかなり直球ね。それで?首輪は外してないわね」
「約束したんです、フィーディスと。お前の迎えを待つよって。俺も、せんせーを愛してるから其の約束がなかったらきっと今頃は首輪を外していたと思う」
アクティナは静かに笑った。もっとなにか言われるかと思ったが近寄ってきたアクティナは静かにリューイを抱きしめただけだった。
少しこみ上げるものがありリューイは少しだけアクティナを抱きしめた。
「またあとで聞かせてちょうだい。今はみんなを精一杯おもてなしするわ」
「はい」
リューイの体が離れるとアクティナは部屋を覗いてケーキ食べに行きましょう?と声をかけた。
嬉しそうな叫びが聞こえて部屋から出てきた弟たちと並んで歩く。
リューイは静かに一度だけ深呼吸をした。
ウィリディスが来るのがたまらなく待ち遠しかった。
「クラルス、窓から手を出しちゃだめ。危ないだろ」
リューイは窓へ手を伸ばすクラルスを引き寄せて自分の膝に座らせる。
シルバはレックス越しに窓の外を見つめていた。
「すごい。こんなに走るの早いんだね」
「うん、すごいよな」
リューイは二度目の電車に乗って窓の外を過ぎていく景色を見つめていた。
事の始まりは五時間ほど前にさかのぼる。
『ウィル、一緒にこないの?』
『すまない、少し研究室で用事があるんだ』
今日からウィリディスの実家に行く予定だった。
リューイは荷物をもってウィリディスに告げられた言葉に少し呆然としていた。
すっかりウィリディスと行くつもりでいたのだ。
『夜には向かう。リューイ、子供たちを連れて行けるか』
『行ける、と思うけど…』
『また駅まで迎えが来る。乗り換えは難しくないだろう。すまない』
『…いいけど』
乗り換えのメモも持っている。レックスもシルバもリューイの言うことを聞けるし、フィーディスもいるからクラルスの面倒も見ることができる。
不安はないが少し落ち着かない。何かあったらすぐに連絡するようにと言われリューイは端末を握りしめていた。
「りゅーちゃ?」
ぼんやりしていれば腕の中にいるクラルスがリューイを呼んだ。
はっとすれば心配そうに眉を下げてクラルスが見上げてきていた。大丈夫、と笑えばまだ心配そうな顔をしつつも腕に抱えていた白い犬のぬいぐるみ、ニウエをリューイに向けた。
「ニウエもりゅーちゃが心配だよって。りゅーちゃ、疲れた?」
「…少しだけ。でも大丈夫。時間通りならそろそろつくから。みんなは疲れてない?」
「大丈夫!」
「楽しいから平気!」
まだつかないのだろうかとそわそわする空気を感じつつも苦笑を漏らしてからフィーディスを見た。
「お前は?」
「俺も大丈夫だよ。ちょっとドキドキはしてるけど」
「そっか」
リューイを見てフィーディスは静かにうなずいた。
しばらくすれば乗っていた電車が駅に着く。レックスたちを促してホームに降りた。
見知らぬ土地が五人を出迎える。改札を出ていけば前回よりも少し大きな車が止まっていた。
車のそばに立つのはリューイも顔を覚えている執事である。
「ようこそ、皆さま。お迎えに上がりました。どうぞ車へ」
リューイの後ろに隠れてしまった三人を引っ張り車へと近づく。
こんにちは、と声をかけてから後ろに隠れる姿を見た。
「挨拶はちゃんとするようにって言ってるだろ。ほら」
おずおずとリューイの後ろから顔を出したレックスとシルバがまずこんにちは、と消えそうな声で告げた。
執事は二人と目線を合わせるかのように膝を折れば目元を和ませて口を開いた。
「初めまして。レックス様とシルバ様ですね。若様よりお話は伺っております。そのお隣は」
執事の目がクラルスへと移動する。クラルスは知らない顔により強くリューイの服を握り締めて抱えていたニウエに顔を埋めてしまう。
「クラルス様とニウエ様。それからフィーディス様とお見受けいたしました。屋敷へ丁重に案内するようにと仰せつかっております。どうぞ車へ」
立ち上がった執事のあとに続いてリューイが歩き出す。フィーディスも何食わぬ顔で歩きだせばレックスとシルバがクラルスの手をそれぞれ握って後を追いかけてきた。
大きめのワゴン車のドアが開く。フィーディスが先に乗り込んで一番奥へと座った。
おいで、と声をかければレックスとシルバが互いに顔を見合わせて乗り込む。
リューイは不安そうな顔をしているクラルスを見て笑いかけた。
「大丈夫だよ。俺もいる。みんな一緒だから」
「りゅーちゃ…」
「ニウエも一緒だろ?なんも怖くないよ。手をつないであげるから乗ろう」
ニウエを片腕で抱いてリューイに手を伸ばしたクラルスは恐る恐るといった様子で車に乗る。前から二番目の座席に座ればリューイを見つめてきた。
「なんも怖くないだろう?じゃぁ危なくないようにシートベルトしないとな。少しニウエを持ち上げていて」
「リューイ様、私が」
執事に声をかけられれば出すぎた真似だったか、と慌てて離れる。
執事はクラルスを下から見上げるようにまた腰を折った。
「クラルス様、ニウエ様を少しお預かりしてもよいでしょうか」
「ニウエ…なにするの」
「ニウエ様にも何かあっては大変ですのでクラルス様のお隣の席に座ってもらおうかと」
「ニウエも座る?」
「はい。クラルス様のお隣で」
クラルスの視線が隣に空いた席へと滑る。
少しの間があって執事にそろそろとニウエを渡した。恭しくニウエを受け取り執事はクラルスの隣の席へニウエを置いた。それからシートベルトを着ける。
「これでニウエ様も安全でしょう」
「……うん」
うなずいたクラルスはほんの少し笑みを浮かべた。
「ありがと…」
「いいえ。皆様大切なお客人ですのでこれしきのこと」
「じゃぁ俺は前に座るから。レックスもシルバもベルトした?」
「したよ、大丈夫」
「フィー兄がチェックしたから大丈夫」
リューイはフィーディスと視線を交わす。うなずきがかえってくればリューイもシートベルトをしめる。
車が動き出せば列車とは違う風景の流れ方に夢中になっていた。
「奥様や旦那様も今日を楽しみにしておりました」
「こんなに大勢で迷惑かなとは思ったんですけど…でも、最後だからみんなでって思って」
「若様はこうしたことをなさってはこなかったので我々使用人一同とても喜ばしく思っております」
リューイは目を丸くしてから笑った。
しばらく走っていけば洋館へと着いた。入口のところに誰かが立っている。
リューイが車を降り、執事も同じように降りた。
ドアを開け、クラルスとニウエのシートベルトを外してから転ばないようにその体を支えて車から降ろしてやる。
クラルスは恥ずかしそうにリューイの陰に隠れつつニウエを抱いて小さくありがとう、と告げていた。聞こえていたのか彼はにっこりと笑えば同じようにレックスとシルバも車から降ろした。
「リューちゃん、先生のおうちってすごく大きいね」
「そうだよなー。中もすごいから腰抜かすなよ」
車から降りたレックスとシルバは呆然として目の前にそびえたつ洋館を見つめていた。
フィーディスはそう驚きを表には出してないものの二人と同じように言葉は出ていなかった。
「リューイくん、こっちよ」
「ほら、行こう」
どうやら外で待っていたのはアクティナであるようだった。彼女はリューイたちに向けて大きく手を振っている。
「こんにちは、アクティナさん。今回もお世話になります」
「ふふ、いいのよぉ。楽しみに待っていたんだから。後ろのその子たちがリューイくんの弟くんたちね?初めまして」
アクティナはしゃがみこんでレックスたちを笑顔で見つめる。その勢いに飲まれたのか三人は後ろに少し下がっていた。
苦笑を漏らしたリューイは彼らから少し距離をおく。アクティナと正面から向き合って完全に動きを止めてしまった。
「私はあなたたちと一緒に住んでいる男のお母さんよ。今日はみんなに会えるって聞いたからすごく楽しみにしていたの。あなたたちがいっぱい楽しめるように準備もしたわ。仲良くしてくれると嬉しいのだけど」
「……先生のお母さん…?」
「先生もお母さんいるの…」
「お母さんいなかったらせんせーは生まれてないよ」
レックスとシルバは信じられないものを見るような顔でアクティナを見ていた。
彼らからしてみればウィリディスはあの姿で生まれたと思っていてもおかしくはないかもしれない。
アクティナもそれを感じたのか隠し切れない笑みをこぼしていた。
「さて、ここで立ち話していても疲れるだけね。おいしいケーキを用意したからまずはそれを食べてここまできた疲れをいやして頂戴。リューイくんの部屋はこの前と同じよ。ほかの子の部屋は一緒にしてリューイくんの部屋のそばにしたわ」
「ありがとうございます。おいで」
まだ表情が固まったままのレックスたちを促してリューイは歩き出す。
屋敷の内部へと踏み入れればレックスとシルバは口を開けたまま天井を見上げていた。自分も同じだったから気持ちはよくわかる。
「さぁみんな、こっちよ」
アクティナが階段の方で大きく手をふった。
シルバは甲冑に興味を示しているし、クラルスは吊り下げられたシャンデリアを眩しそうに見つめている。
レックスは壁に飾られた巨大な絵画を見つめ、フィーディスはにこやかに自分たちを迎える執事やメイドたちに少しばかりむずがゆそうにしている。
彼らをみていたら自分まで少し緊張してしまった。最初のときは隣にウィリディスがいた。だからそんなに周りに飲まれることはなかった。
「リューイくんの部屋はここ、それから弟くんたちはこっちね」
赤い花の絵画が飾られた部屋、リューイはそれをみてウィリディスを思い出す。
端末を取り出してもウィリディスからの連絡はない。無事についたことをメッセージとして送ったがなんの返信もないままだ。
レックスたちは自分たちの部屋ではしゃいでいる。
扉には小さな白い花の絵画がある。ぷくりと丸いめしべとその周囲を小さな花びらが取り巻く。よく見かける花である。
「カモミールよ。アロマにも使われるものなの。花言葉は、逆境で生まれる力。彼らにはぴったりじゃない?」
絵を見ていればアクティナに話しかけられた。逆境、とつぶやく。
それからベットで飛び跳ねる姿を見つめた。
フィーディスがたしなめているが、すっかり興奮しきっている。苦笑してからうなずいた。
「リューイくんはあなたの部屋にかけられた花の花言葉って知ってる?」
荷物を自室においたリューイにアクティナは声をかけた。リューイは首をふる。
アクティナはほほ笑みを浮かべドアにかかる絵を見つめて口を開いた。
「あなたは私の胸の中で炎のように輝く、よ。息子くんの胸の中であなたは鮮やかな炎のように息づくし、あなたの胸の中で息子くんは熱く燃えているでしょう?」
「…確かに…そういわれると納得します」
「どう?あのあとなにか変わった?」
リューイはほのかに顔を赤らめた。
アクティナやアカテスには告げるべきだろうか。まだレックスたちは部屋を探検しているのが出てこない。
リューイは口を開く。
「せんせーに、愛していると言われました…首輪も、外してほしいと」
「あの子にしてはかなり直球ね。それで?首輪は外してないわね」
「約束したんです、フィーディスと。お前の迎えを待つよって。俺も、せんせーを愛してるから其の約束がなかったらきっと今頃は首輪を外していたと思う」
アクティナは静かに笑った。もっとなにか言われるかと思ったが近寄ってきたアクティナは静かにリューイを抱きしめただけだった。
少しこみ上げるものがありリューイは少しだけアクティナを抱きしめた。
「またあとで聞かせてちょうだい。今はみんなを精一杯おもてなしするわ」
「はい」
リューイの体が離れるとアクティナは部屋を覗いてケーキ食べに行きましょう?と声をかけた。
嬉しそうな叫びが聞こえて部屋から出てきた弟たちと並んで歩く。
リューイは静かに一度だけ深呼吸をした。
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