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十話
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ピピピ、とアラームが鳴っている。今日は休みのはずだ、と涼太は思いながら音の出どころを探した。
枕元で振動を感じる。そちらへ手を伸ばしたはずが別の手に触れた。
「…コウくん…?」
「篠崎、朝だ。お前の恋人が迎えにくるまでにしゃきっとしろ」
洸哉の声ではない。一気に覚醒した涼太は跳ね起きた。ベッド脇に神ノ戸が立っている。
あたりを見回せば自分の家ではないことが見て取れた。物の少ない室内、ここは丁寧に掃除がされているのかほこりも見受けられない。涼太が横たわっていたベッドだって洗い立てのシーツを使っているようだった。
ただ物は少ない。室内にあるのはベッドとクローゼットだけ。寝るためだけの部屋だと言わんばかりの室内だった。
「…神ノ戸先輩…?」
「そうだ」
「なんで、俺…というかここは」
「俺の家だ。お前は昨夜の飲み会でどうしようもないほどに酔っ払ったから俺が家まで連れて帰った。あとでタクシー代は折半してもらう。ついでにお前のスマホに恋人から連絡があった。俺が代わりに出てこの家の住所を伝えた。昼頃迎えにくるらしい。風呂を貸してやるからさっさと起きてこい」
息継ぎすらないほどの言葉だった。涼太は慌ててベッドを降りて神ノ戸に示された浴室へと向かう。そこには無地のシャツと真新しい下着一式、それにズボンも置かれていた。そろっと浴室から顔を覗かせればそこからギリギリ見えるキッチンに立って神ノ戸が料理している姿が見える。
迷惑をかけてしまったとうなだれつつ、涼太はその言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。
着ていた服を嗅げばなるほど、いかにも飲み会終わりですというような様々な匂いが染み付いている。この状態であのきれいなシーツに横たわっていたのか。
涼太はさっさとシャワーを浴び、ほんの少しだけそこにあったボディソープを拝借し浴室からでた。ふかふかのタオルで体の水気を取れば用意されていた下着とシャツ、ズボンを身にまとう。ちょうど良いサイズだった。
「神ノ戸先輩、お湯お借りしました」
「あぁ。朝食もできた。普段は米なんだが、今日は急でパンしか無い。かまわないか」
「そんな…!お風呂とかベッドとか服まで借りちゃったから朝食までなんて」
神ノ戸と目が合った。涼太の腹は素直で視線が絡んだ瞬間に音を立てる。耳まで赤くなりながら、いただきますと小さく口にして指し示された椅子に腰掛けた。
眼の前に置かれたのは焼き立てのトーストと目玉焼き、ベーコン、それからいい香りのコーヒーだった。十分すぎるほどの食事に涼太はより申し訳無さが出る。
「…バターを切らしていた。ジャム…マーマレードとブドウがあるが希望は」
「マーマレードで」
「このマーマレードはうまい。取り寄せているんだが、お前も気に入るといい」
ことん、と瓶とバターナイフが置かれた。蓋を開ければ柑橘の爽やかな香りが漂う。スーパーにある名のしれたものではないらしい。瓶の表記を見れば愛媛で作られたもののようだった。トーストの皿に少し出せば、一口に千切ったパンに乗せてさっそく食べる。
「うっま…!」
「そうだろう?苦みはあるが柑橘をまるごと口にしているようだ。季節モノで量産もされないからなかなか食べられない」
目が輝いた涼太を見て神ノ戸は告げた。彼は黄身にナイフを入れ、溢れ出したそれにトーストをつけて食べている。取り出した分のマーマレードを食べ終えた涼太は残るトーストを同じようにして食べきった。
半熟の卵焼きはベーコンの塩味だけで十分おいしいものだった。
「ごちそうさまでした」
「片付けはするからゆっくりしていろ」
「いえ、そんなことできません。せめてお皿拭くぐらいさせてください」
皿をシンクに運んだ涼太はそう口にしたが、神ノ戸はすっとシンクのそばを指さした。そこには大きな箱形の機械がある。
「それがあるから予洗いだけでいい。ひとまず冷蔵庫のドアに昨日のタクシーの領収書があるから支払ってくれ」
「ぐ…はい」
涼太は示された領収書を手にすると記載された金額を半分にする。細かい持ち合わせがなく、迷惑料も含めて少し多めにだした。
片付け終えた神ノ戸が来れば、お金とともに領収書を渡した。
「多いな」
「小銭の持ち合わせがなくて…あと面倒かけたお詫びです…」
「わかった。なら、もらっておこう」
神ノ戸は領収書とともにお金を受け取り自分の財布に入れた。
涼太は神ノ戸を見た。怒っているわけではないとわかる。とはいえ仕事の先輩で指導者でもある神ノ戸にかなり迷惑をかけたことに間違いはない。
しょげた様子の涼太を見れば神ノ戸は眉を上げた。
「まだお前の恋人が来るまでは時間があるが、仕事の話でもするか」
「や!でも、休みだし…ただ俺なにやっていたらいいかわからなくて」
「昼間で立ったままでいるつもりか。かまわない。どうせひましているから」
リビングにあるソファへと涼太を促す。少し悩む素振りを見せた涼太だが、自分の鞄の下へ向かえばノートとペンケースを持って戻る。神ノ戸の隣に腰を下ろしてさっそく今まで指導を受けた中で不明点をあげだした。
枕元で振動を感じる。そちらへ手を伸ばしたはずが別の手に触れた。
「…コウくん…?」
「篠崎、朝だ。お前の恋人が迎えにくるまでにしゃきっとしろ」
洸哉の声ではない。一気に覚醒した涼太は跳ね起きた。ベッド脇に神ノ戸が立っている。
あたりを見回せば自分の家ではないことが見て取れた。物の少ない室内、ここは丁寧に掃除がされているのかほこりも見受けられない。涼太が横たわっていたベッドだって洗い立てのシーツを使っているようだった。
ただ物は少ない。室内にあるのはベッドとクローゼットだけ。寝るためだけの部屋だと言わんばかりの室内だった。
「…神ノ戸先輩…?」
「そうだ」
「なんで、俺…というかここは」
「俺の家だ。お前は昨夜の飲み会でどうしようもないほどに酔っ払ったから俺が家まで連れて帰った。あとでタクシー代は折半してもらう。ついでにお前のスマホに恋人から連絡があった。俺が代わりに出てこの家の住所を伝えた。昼頃迎えにくるらしい。風呂を貸してやるからさっさと起きてこい」
息継ぎすらないほどの言葉だった。涼太は慌ててベッドを降りて神ノ戸に示された浴室へと向かう。そこには無地のシャツと真新しい下着一式、それにズボンも置かれていた。そろっと浴室から顔を覗かせればそこからギリギリ見えるキッチンに立って神ノ戸が料理している姿が見える。
迷惑をかけてしまったとうなだれつつ、涼太はその言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。
着ていた服を嗅げばなるほど、いかにも飲み会終わりですというような様々な匂いが染み付いている。この状態であのきれいなシーツに横たわっていたのか。
涼太はさっさとシャワーを浴び、ほんの少しだけそこにあったボディソープを拝借し浴室からでた。ふかふかのタオルで体の水気を取れば用意されていた下着とシャツ、ズボンを身にまとう。ちょうど良いサイズだった。
「神ノ戸先輩、お湯お借りしました」
「あぁ。朝食もできた。普段は米なんだが、今日は急でパンしか無い。かまわないか」
「そんな…!お風呂とかベッドとか服まで借りちゃったから朝食までなんて」
神ノ戸と目が合った。涼太の腹は素直で視線が絡んだ瞬間に音を立てる。耳まで赤くなりながら、いただきますと小さく口にして指し示された椅子に腰掛けた。
眼の前に置かれたのは焼き立てのトーストと目玉焼き、ベーコン、それからいい香りのコーヒーだった。十分すぎるほどの食事に涼太はより申し訳無さが出る。
「…バターを切らしていた。ジャム…マーマレードとブドウがあるが希望は」
「マーマレードで」
「このマーマレードはうまい。取り寄せているんだが、お前も気に入るといい」
ことん、と瓶とバターナイフが置かれた。蓋を開ければ柑橘の爽やかな香りが漂う。スーパーにある名のしれたものではないらしい。瓶の表記を見れば愛媛で作られたもののようだった。トーストの皿に少し出せば、一口に千切ったパンに乗せてさっそく食べる。
「うっま…!」
「そうだろう?苦みはあるが柑橘をまるごと口にしているようだ。季節モノで量産もされないからなかなか食べられない」
目が輝いた涼太を見て神ノ戸は告げた。彼は黄身にナイフを入れ、溢れ出したそれにトーストをつけて食べている。取り出した分のマーマレードを食べ終えた涼太は残るトーストを同じようにして食べきった。
半熟の卵焼きはベーコンの塩味だけで十分おいしいものだった。
「ごちそうさまでした」
「片付けはするからゆっくりしていろ」
「いえ、そんなことできません。せめてお皿拭くぐらいさせてください」
皿をシンクに運んだ涼太はそう口にしたが、神ノ戸はすっとシンクのそばを指さした。そこには大きな箱形の機械がある。
「それがあるから予洗いだけでいい。ひとまず冷蔵庫のドアに昨日のタクシーの領収書があるから支払ってくれ」
「ぐ…はい」
涼太は示された領収書を手にすると記載された金額を半分にする。細かい持ち合わせがなく、迷惑料も含めて少し多めにだした。
片付け終えた神ノ戸が来れば、お金とともに領収書を渡した。
「多いな」
「小銭の持ち合わせがなくて…あと面倒かけたお詫びです…」
「わかった。なら、もらっておこう」
神ノ戸は領収書とともにお金を受け取り自分の財布に入れた。
涼太は神ノ戸を見た。怒っているわけではないとわかる。とはいえ仕事の先輩で指導者でもある神ノ戸にかなり迷惑をかけたことに間違いはない。
しょげた様子の涼太を見れば神ノ戸は眉を上げた。
「まだお前の恋人が来るまでは時間があるが、仕事の話でもするか」
「や!でも、休みだし…ただ俺なにやっていたらいいかわからなくて」
「昼間で立ったままでいるつもりか。かまわない。どうせひましているから」
リビングにあるソファへと涼太を促す。少し悩む素振りを見せた涼太だが、自分の鞄の下へ向かえばノートとペンケースを持って戻る。神ノ戸の隣に腰を下ろしてさっそく今まで指導を受けた中で不明点をあげだした。
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