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七話
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涼太はソファで膝を抱えて座っていた。トントンとキッチンからは洸哉が料理をする音が聞こえてくる。
ちらりとそちらに視線を向けるもののすぐに背けてしまう。
洸哉が海外に行こうか悩んでいることを聞いてからというもの涼太の頭の中では終わりのない自問自答が繰り返されていた。
「りょうちゃん、ごはんだよ」
「ん…食べる」
立ち上がりリビングに向かえば洸哉が焼き魚を乗せた皿を二人分運んでいた。涼太も箸やグラスを出す。二人で準備した食卓にそれぞれがつけばいただきますと手を合わせて食べ始めた。
会話もなく静かなまま食事が進む。片付けは涼太の担当だった。
だが洸哉は涼太の隣で皿を拭いている。
「りょうちゃん、えっちしたいです」
「…明日撮影は?」
「三日後だから問題ないよ。明日はバイトあるだけ」
「うん…じゃぁ、お風呂先に入ってて?俺もすぐ終わらせてお風呂行くから」
「うん」
見つめあえば洸哉の瞳が少しだけ曇っていることに気づいた。皿を洗う手を止めてタオルで拭く。
冷たいだろうが手を洸哉のほほに伸ばせた猫のようにすり寄ってきた。そのまま洸哉を抱きしめる。
背中に回ってきた腕には力がこもる。涼太は同じように抱きしめた。
「俺、コウくんがいなくなるのが辛い。別れてって言われたのも同じくらい辛い。でも、モデルとしてのコウくんも大好きだから背中を押さなきゃいけないってのもわかる」
「うん…」
「海外に行くって言われたからずっと考えてた。どうしたらいいんだろうって。俺たちが付き合っていた時間は消えるわけじゃないから手放してもやっていけるって思ってた。でも、苦しい」
洸哉は涼太の気持ちがわからないわけではない。自分が告白して、涼太にうなずいてもらってからというもの、大半の時間を共に過ごしてきた。モデルとしてなかなか芽が出ない中でも応援してくれていた。
涼太ならば、きっと海外に行くといえば喜んでくれると思っていた。涼太の声が少し震えた。
「でも、戻ってくるのを待てるかって考えて、それもできない自分もいた。ついてもいけない。こんなどっちつかずで、本当にごめん」
「りょうちゃんらしいなぁ…」
「わ、別れたくないよ。だけど、待てない。俺、コウくんがいない時間なんて考えつかないぐらい好き」
「うん。俺も」
「最後の時まで恋人でいたい。お別れのその時まで、俺をコウくんの恋人のままでいさせて」
「それはりょうちゃんがきつくない?」
声が震えているのもそのはず、涼太は頬を濡らしていた。優しく指先でその涙を拭えば鼻まですする。
笑いをこぼしてから俺もだよ、と出かけた言葉を飲み込んだ。寂しいのは自分も同じでつらいのも同じ。
恋人のままでいたらさよならのときにちゃんと手を離せるだろうか。
「きつくていい。俺のわがままだ。コウくんが許してくれるなら、日本から出るときまで一緒にいさせて。それで、俺をやっぱりコウくんの一番のファンでいさせて」
「すごいわがままだ」
涼太はそっと洸哉の体を話せば再び洗い物を始めた。
その後姿を見つめていた洸哉だが、やがて音を立てずに浴室へと向かっていった。
ちらりとそちらに視線を向けるもののすぐに背けてしまう。
洸哉が海外に行こうか悩んでいることを聞いてからというもの涼太の頭の中では終わりのない自問自答が繰り返されていた。
「りょうちゃん、ごはんだよ」
「ん…食べる」
立ち上がりリビングに向かえば洸哉が焼き魚を乗せた皿を二人分運んでいた。涼太も箸やグラスを出す。二人で準備した食卓にそれぞれがつけばいただきますと手を合わせて食べ始めた。
会話もなく静かなまま食事が進む。片付けは涼太の担当だった。
だが洸哉は涼太の隣で皿を拭いている。
「りょうちゃん、えっちしたいです」
「…明日撮影は?」
「三日後だから問題ないよ。明日はバイトあるだけ」
「うん…じゃぁ、お風呂先に入ってて?俺もすぐ終わらせてお風呂行くから」
「うん」
見つめあえば洸哉の瞳が少しだけ曇っていることに気づいた。皿を洗う手を止めてタオルで拭く。
冷たいだろうが手を洸哉のほほに伸ばせた猫のようにすり寄ってきた。そのまま洸哉を抱きしめる。
背中に回ってきた腕には力がこもる。涼太は同じように抱きしめた。
「俺、コウくんがいなくなるのが辛い。別れてって言われたのも同じくらい辛い。でも、モデルとしてのコウくんも大好きだから背中を押さなきゃいけないってのもわかる」
「うん…」
「海外に行くって言われたからずっと考えてた。どうしたらいいんだろうって。俺たちが付き合っていた時間は消えるわけじゃないから手放してもやっていけるって思ってた。でも、苦しい」
洸哉は涼太の気持ちがわからないわけではない。自分が告白して、涼太にうなずいてもらってからというもの、大半の時間を共に過ごしてきた。モデルとしてなかなか芽が出ない中でも応援してくれていた。
涼太ならば、きっと海外に行くといえば喜んでくれると思っていた。涼太の声が少し震えた。
「でも、戻ってくるのを待てるかって考えて、それもできない自分もいた。ついてもいけない。こんなどっちつかずで、本当にごめん」
「りょうちゃんらしいなぁ…」
「わ、別れたくないよ。だけど、待てない。俺、コウくんがいない時間なんて考えつかないぐらい好き」
「うん。俺も」
「最後の時まで恋人でいたい。お別れのその時まで、俺をコウくんの恋人のままでいさせて」
「それはりょうちゃんがきつくない?」
声が震えているのもそのはず、涼太は頬を濡らしていた。優しく指先でその涙を拭えば鼻まですする。
笑いをこぼしてから俺もだよ、と出かけた言葉を飲み込んだ。寂しいのは自分も同じでつらいのも同じ。
恋人のままでいたらさよならのときにちゃんと手を離せるだろうか。
「きつくていい。俺のわがままだ。コウくんが許してくれるなら、日本から出るときまで一緒にいさせて。それで、俺をやっぱりコウくんの一番のファンでいさせて」
「すごいわがままだ」
涼太はそっと洸哉の体を話せば再び洗い物を始めた。
その後姿を見つめていた洸哉だが、やがて音を立てずに浴室へと向かっていった。
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