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四話
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「ただいま」
鍵を開けて室内に入る。誰もいない。当たり前だ。
カバンをソファに放り投げてスーツをハンガーにかける。涼太は下着姿のままで洗面台へと向かう。
二人分のコップや歯ブラシが置かれた場所を見て少し心が浮ついた。
洸哉は撮影の仕事で地方に行っている。しばらく一人が続いていた。
「寂しいな。コウちゃん、元気にしてるかな」
会いたくなるから、と仕事で遠出するときに洸哉は連絡をよこさない。涼太も同じだ。
声を聴けば顔が見たくなる。顔を見れば触れたくなる。どうしようもない気持ちに苛まれるために二人は付き合い始めた最初の時期に連絡をとらないことを決めていた。
その代わり洸哉は戻ってくると涼太を強く求めてくるし、涼太も洸哉を求めてしまう。
「りょうちゃん、大好き」
頭の中で洸哉が微笑んだ。
まだかすかに洸哉の香りが残るベッドにダイブすれば少し悶絶する。スマホを見ても連絡はない。
元気で撮影していればいいのだが、と不安になるのはいつものことだった。
ベッドに顔を埋めていたが玄関のほうでしたかすかな音に顔を上げた。
耳をじっと澄ます。
「ただいまー…」
小さな声だった。涼太は跳ね起きると大きな足音を立てて玄関に向かう。
玄関は人感センサーがついている電灯のため、すぐに明るくなった。
涼太は靴を脱ぎかけている状態の洸哉を見つめると笑顔になる。
「あ、ただいま、りょうちゃん。起きてたんだね」
「うん、さっき帰ってきたところ」
洸哉を上から下まで見つめていたが涼太は慌てて荷物を手に持った。
「早かったね、コウくん」
「うん。順調に進んでね、早く予定が終わったから帰ってきた。りょうちゃんに会いたくて」
洸哉の笑顔を見つめて涼太はきゅん、と胸が高鳴った。二人でリビングに戻れば鞄を床に置いて洸哉を抱きしめる。
洸哉の腕も涼太の背中に回ってきた。おかえり、とささやけば、ただいま、と返事が来る。
視線を絡ませてキスをしようとするものの洸哉は顔をそむけてしまう。
「まだうがいしてないからだーめ。鞄にお土産入っているから出してよ」
「わかった」
洸哉に言われるままに涼太は動いた。洸哉の鞄を開けてそこから洗濯とおそらく土産が入っているのであろうビニール袋を出した。洗濯物は明日自分のものとまとめて片付けるとし、土産もののビニールはリビングに置いた。
洸哉は手洗いとうがいをしてから戻ってくる。あらためて腕を広げて笑みを見せれば洸哉はすぐさま涼太に抱きついた。
「りょうちゃん、ちんちん当たってますが。あとお洋服着てください」
「ちんちんはしょうがない…あててる。服はまたあとで」
笑いながら涼太は洸哉の瞳を見つめた。洸哉はほんの少しだけ眉を下げた。
「りょうちゃん、ちょっとお話があります」
「…まじめなやつ?」
「うん、まじめなやつ」
洸哉は嘘をついていない。その声音から本当のことだと察した涼太は洸哉の身体を放してパジャマを着た。ひとまず食事はあとのほうがよさそうだと判断すれば二人でソファに腰かける。
洸哉は何度も涼太の顔を見て話しだそうとするものの言葉が出てこない。涼太は洸哉を急かすことなく話し出すのを待った。
これだけ悩むということはおそらく二人にとっていい話ではない。聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちと半々だった。
「あのね、りょうちゃん、事務所の社長に言われたんだ」
ようやく洸哉が口を開いた。
震える洸哉の手を握り締めて涼太はその先を待つ。
「海外に、行かないか、って」
鍵を開けて室内に入る。誰もいない。当たり前だ。
カバンをソファに放り投げてスーツをハンガーにかける。涼太は下着姿のままで洗面台へと向かう。
二人分のコップや歯ブラシが置かれた場所を見て少し心が浮ついた。
洸哉は撮影の仕事で地方に行っている。しばらく一人が続いていた。
「寂しいな。コウちゃん、元気にしてるかな」
会いたくなるから、と仕事で遠出するときに洸哉は連絡をよこさない。涼太も同じだ。
声を聴けば顔が見たくなる。顔を見れば触れたくなる。どうしようもない気持ちに苛まれるために二人は付き合い始めた最初の時期に連絡をとらないことを決めていた。
その代わり洸哉は戻ってくると涼太を強く求めてくるし、涼太も洸哉を求めてしまう。
「りょうちゃん、大好き」
頭の中で洸哉が微笑んだ。
まだかすかに洸哉の香りが残るベッドにダイブすれば少し悶絶する。スマホを見ても連絡はない。
元気で撮影していればいいのだが、と不安になるのはいつものことだった。
ベッドに顔を埋めていたが玄関のほうでしたかすかな音に顔を上げた。
耳をじっと澄ます。
「ただいまー…」
小さな声だった。涼太は跳ね起きると大きな足音を立てて玄関に向かう。
玄関は人感センサーがついている電灯のため、すぐに明るくなった。
涼太は靴を脱ぎかけている状態の洸哉を見つめると笑顔になる。
「あ、ただいま、りょうちゃん。起きてたんだね」
「うん、さっき帰ってきたところ」
洸哉を上から下まで見つめていたが涼太は慌てて荷物を手に持った。
「早かったね、コウくん」
「うん。順調に進んでね、早く予定が終わったから帰ってきた。りょうちゃんに会いたくて」
洸哉の笑顔を見つめて涼太はきゅん、と胸が高鳴った。二人でリビングに戻れば鞄を床に置いて洸哉を抱きしめる。
洸哉の腕も涼太の背中に回ってきた。おかえり、とささやけば、ただいま、と返事が来る。
視線を絡ませてキスをしようとするものの洸哉は顔をそむけてしまう。
「まだうがいしてないからだーめ。鞄にお土産入っているから出してよ」
「わかった」
洸哉に言われるままに涼太は動いた。洸哉の鞄を開けてそこから洗濯とおそらく土産が入っているのであろうビニール袋を出した。洗濯物は明日自分のものとまとめて片付けるとし、土産もののビニールはリビングに置いた。
洸哉は手洗いとうがいをしてから戻ってくる。あらためて腕を広げて笑みを見せれば洸哉はすぐさま涼太に抱きついた。
「りょうちゃん、ちんちん当たってますが。あとお洋服着てください」
「ちんちんはしょうがない…あててる。服はまたあとで」
笑いながら涼太は洸哉の瞳を見つめた。洸哉はほんの少しだけ眉を下げた。
「りょうちゃん、ちょっとお話があります」
「…まじめなやつ?」
「うん、まじめなやつ」
洸哉は嘘をついていない。その声音から本当のことだと察した涼太は洸哉の身体を放してパジャマを着た。ひとまず食事はあとのほうがよさそうだと判断すれば二人でソファに腰かける。
洸哉は何度も涼太の顔を見て話しだそうとするものの言葉が出てこない。涼太は洸哉を急かすことなく話し出すのを待った。
これだけ悩むということはおそらく二人にとっていい話ではない。聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちと半々だった。
「あのね、りょうちゃん、事務所の社長に言われたんだ」
ようやく洸哉が口を開いた。
震える洸哉の手を握り締めて涼太はその先を待つ。
「海外に、行かないか、って」
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