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第28話 勢いのまま走っちゃえ!
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勢いのまま走っちゃえ!
「うららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららァァァァァァァァァ――――ッッ!!!!」
「あ、勇者様」
「おう、秀和、棒立ちお疲れ! もういいぞ、休め!」
銅像を横切る際に、ゾンビを引き付け続けた秀和に一声かける。
答えは聞かず、そのまま広場を走り抜け、俺は道路のド真ん中へと突っ込んだ。
そこにあるのは、積み上げられた動けなくなったゾンビの壁。
まだ大半がモゾモゾと動いている。何だおまえら、何で生きてんだ。今すぐ死ね。
「真空戟!」
空隙の上位に当たる、中級の風属性攻撃魔法。
その一撃で、ゾンビの壁を粉々に粉砕して、まだ動いてるゾンビにトドメを刺す。
だが、道端にはまだまだ動けないだけのゾンビが転がっている。
「真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟ァ――――!」
邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァァァァァァァァァ――――ッ!
行く手を阻むヤツは死ね! 阻まないヤツもゾンビは死ね! 死ななきゃ殺す!
「うわぁ……、センパイ、うっわぁ……」
『あの男に好き放題させるとこうなる。という典型的事例であるぞ、れむたん』
上から声が聞こえた。
俺は魔法を紡ぎながら、軽くてだけを上に向けて振る。
「おお、玲夢、お疲れ! 歌、よかったぜ! あとは任せろ!」
答えは聞かず、俺はそのまま道路を走っていく。
道路にはゾンビがゴロゴロ転がっている。全部、的確に足と筋肉を壊している。
「いい仕事だ。最高にいい仕事だぜ、おまえら!」
ゾンビを魔法で潰しながら、俺は道路の両脇の建物に向かって叫ぶ。
俺への返答は声援となって表れ、俺は手を振りながらさらに前へと走っていく。
途中、銃武装ゾンビが落としたと思われる拳銃が転がっていた。
それを二つほど拾い上げて、俺は二丁拳銃の構えを取る。
銃口を向ける先にはまだ無傷のゾンビ軍。
その数、およそ二千。先頭の銃武装ゾンビ達が、俺に銃を向けてくる。
「が、ァ……」
「ヴぁ……」
バンバンと、火花が散って弾丸が放たれる。
だが、俺はすでに防御魔法を幾重にも纏っている。効きゃしねぇんだよ。
「とはいえ、ピストルってのは興味あるな。使ってみるか」
俺はいつか見たマイナーメジャーなガンアクション映画を思い返す。
「くらえ!」
そしてトリガーをひいて、近くのゾンビに弾丸をくらわせた。
「ぁ……」
ゾンビは傾いだ。
が、それだけだった。
「くっは、使えねぇ~! 何だこのおもちゃ、雑ッ魚!」
俺は両手の拳銃を投げ捨てて、無限収納庫から武器を取り出す。
いつもの聖剣、ではない。
派手に体を動かしたい気分なので、それに見合った武器を選んだ。
全長5mの剣。
長いし、重いし、刃幅広いし、分厚いし、硬いし、しかも呪われてて殺傷力激高。
刃の表面には禍々しい紋様が刻まれて、それが血の赤で明滅してるし。
「見ろよ、この剣をよ。とある伝説的なドワーフの剣匠が、巨人の剣士用に鍛え上げた剣でよぉ、名前を『巨刃』っていうんだぜ? ネーミングセンスよぉ~……!」
片手で『巨刃』をかざして、俺はゾンビへと顔を向ける。
俺は一瞬無表情になって、直後ニカっと笑う。見て見て、この牙っぽい八重歯。
「じゃあ、潰すから、一体残らず死に尽くせ」
いともたやすく現実で行われるえげつない無双ゲー、ヨーイドン!
「うらぁ!」
群がるゾンビに、俺は『巨刃』を横薙ぎ一閃。
大雑把な攻撃、と、思うじゃん?
――キンッ。
と、音がして、道路脇の街灯がスッパリ断たれて道路に倒れる。
ゾンビの群れもそれと同じく、胴を綺麗に断ち切られて上半身がボトリと落ちた。
この『巨刃』ねー、さすがは伝説の名匠が作っただけあるんだわ。
こんだけ派手な見かけしてて、その切れ味は俺愛用の聖剣に優るとも劣らない。
すこぶる切れ味鋭いのに刃は分厚くて、硬くて、粘り強い。
それがどういうことかとといえば、
「どんだけ雑に扱っても、切れ味鈍らないってコトだァ――――!」
今度は、振り下ろし。
柄を両手で掴み、背筋を弓なしに反らして、そのまま上から下へ。
「ズッドォ――――ンッ!」
ゾンビ十数体を、その一撃で頭ごと叩き潰して両断する。
切っ先は、地面に深々埋まった。俺はそれをヨイショと引き抜いて、また構える。
デカくて重いだけの剣なんぞに振り回される俺ではない。
振り回すのは俺。振り回されるのは武器。潰されるのはゾンビ。単純明快!
ゾンビがバキュンバキュンと銃を撃つ。
しかし、防御魔法による魔力障壁に覆われた俺は、その程度じゃ傷一つつかない。
「今の俺を傷つけたきゃ、せめてミサイル持ってこいやぁ!」
もちろん、ICBMな。
「よいしょッ、おらしょッ、どっこいしょォ!」
俺は『巨刃』を軽快に振り回す。
横薙ぎ、叩きつけ、振り下ろして勢いを利用して一回転。袈裟切り、逆袈裟。
ひとたび刃を振るうごとに、ゾンビ十数体が巻き込まれて散っていく。
こっちも思い切り振っているので、手応えはほとんどないに等しい。
それにしても、やわいなー。ゾンビやわい。
どいつもこいつも骨あるだろうに、すっげぇ柔らかい。実は軟体動物か?
「うおおおおおおお、ブラッディ! スク何とかの真似ェ!」
右手の手首をギュンギュンいわせて、俺はゾンビの群れに突っ込んだ。
魔力を纏っての突撃で、その場にいたゾンビがドカンと砕け吹き飛んでいく。
う~ん、無双ゲー。
しかしここで俺は一つの問題に気づいた。
左右を見れば、道路の舗装は抉れてるわ、建物にもでっかい傷がついてるわ。
ちょっと調子乗りすぎた。建物にあるかもしれない物資まで潰すのはよくない。
「よ~しよしよし」
俺は『巨刃』を収納すると、両手の指をポキポキと鳴らした。
「それじゃあ、こっからは素手喧嘩といこうじゃねぇか!」
手始めに、俺に銃をバンバンしてる近くのゾンビの頭を右手で鷲掴みにした。
「ゾンビ」
そして右腕を伸ばしてそのゾンビを浮かせて、からの~、
「滅ぶべし!」
地面への叩きつけ。超ッ、エキサイティン!
バコン、という音と共に道路に放射状のひびが入った。ゾンビは潰れた。
何だ、最近の道路君はこの程度で壊れちゃうのかぁ~?
根性ないなぁ~、俺の親父が若い頃は~、うん、知ったことではないんだけどね。
「ヴぁ、あ……」
背後から声がして、何と、ゾンビがサブイマシンガンで俺を撃ってきた。
マジかよ、そんなのどこから持ってきた。令和の日本も案外物騒だったんだな。
そんなことを考えつつ、俺はそのゾンビへ一歩一歩近づいていく。
ゾンビはサブマシンガンをタタタタと撃ち続けているが、効かん効かん効かーん。
こちとら、ドラゴンの突撃も無傷で防ぎきる魔力障壁だっての。
サブマシンガンはすぐに弾切れして、だがゾンビはトリガーを引き続けている。
「愚直だな。だが死ね」
下から抉るようなボディブロウ。
っていうか実際抉った。威力強すぎてゾンビの上半身消し飛んだ。
「オラオラ、もっと根性キメてかかってこいや、このド腐れ三下共が!」
そこから俺、殺到するゾンビの群れに向かって大乱闘。
ゾンビを千切っては投げ、千切っては投げ――、全部事実のままに描写。
「そろそろ、クライマックスと行こうじゃねぇか」
俺はゾンビ軍を指さし、目を見開いて詠唱を開始する。
「天の光はすべて星、たった一つの冴えたやり方は、絶滅・殲滅・大撃滅――」
破壊の力を極限まで高める増幅詠唱。それは俺が最も好きな言葉だ。
「森羅万象、天地を問わず、ブチ破ってブチ壊す!」
――使う魔法は『星絶疾走』。ではない。
「無明の闇に陥って、無限に捻じられ、無限に砕かれ、無限に死んで無限に朽ちろ」
俺の指先に、ポツンと黒い点が生じる。
「崩禍螺旋!」
それは『星絶疾走』に並ぶ破壊力を持った、禁呪の一つ。
指先から放たれた黒い点が、俺があらかじめ指定した座標へと転移する。
指定したのは、広域探査によって認識しているゾンビ軍の中央。
そこで効果を発揮した黒点が、ヴォン、と音を立てて周りの景色を歪ませ始めた。
中心座標から、俺の眼前まで。
ゾンビが存在している範囲全体が、陽炎のように揺らめいて見える。
だが、歪んでいるのは景色ではなく空間そのもの。道路にひびが入っていく。
さっきは、周りの建物にある物資がどうとか考えてたけど、まぁいいや。
そんなコトよりゾンビだ。一体も残さねぇ。ゾンビ死すべし、ゾンビ滅ぶべし!
「――螺旋、収束」
俺は手を開き、すぐに握った。
それを合図にして、空間歪曲が及ぶ範囲の全てを引き寄せて一点に収斂する。
小さく擦るような音が一度だけ。
それで、空間の歪みに取り込まれた全てがこの世界から消え去った。
ゾンビも道路も建物も、全て丸々、抉り取られて消滅した。
「…………」
訪れた静けさの中で、俺は空を見上げる。
快晴。青空。雲は薄くて、その青さはどこまでも突き抜けるようで。
「ああ、気持ちいいな」
ゾンビ四千体を相手取った冒険者達の戦いは、こうして静寂のうちに終結した。
「うららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららァァァァァァァァァ――――ッッ!!!!」
「あ、勇者様」
「おう、秀和、棒立ちお疲れ! もういいぞ、休め!」
銅像を横切る際に、ゾンビを引き付け続けた秀和に一声かける。
答えは聞かず、そのまま広場を走り抜け、俺は道路のド真ん中へと突っ込んだ。
そこにあるのは、積み上げられた動けなくなったゾンビの壁。
まだ大半がモゾモゾと動いている。何だおまえら、何で生きてんだ。今すぐ死ね。
「真空戟!」
空隙の上位に当たる、中級の風属性攻撃魔法。
その一撃で、ゾンビの壁を粉々に粉砕して、まだ動いてるゾンビにトドメを刺す。
だが、道端にはまだまだ動けないだけのゾンビが転がっている。
「真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 真空戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟! 轟焔戟ァ――――!」
邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァァァァァァァァァ――――ッ!
行く手を阻むヤツは死ね! 阻まないヤツもゾンビは死ね! 死ななきゃ殺す!
「うわぁ……、センパイ、うっわぁ……」
『あの男に好き放題させるとこうなる。という典型的事例であるぞ、れむたん』
上から声が聞こえた。
俺は魔法を紡ぎながら、軽くてだけを上に向けて振る。
「おお、玲夢、お疲れ! 歌、よかったぜ! あとは任せろ!」
答えは聞かず、俺はそのまま道路を走っていく。
道路にはゾンビがゴロゴロ転がっている。全部、的確に足と筋肉を壊している。
「いい仕事だ。最高にいい仕事だぜ、おまえら!」
ゾンビを魔法で潰しながら、俺は道路の両脇の建物に向かって叫ぶ。
俺への返答は声援となって表れ、俺は手を振りながらさらに前へと走っていく。
途中、銃武装ゾンビが落としたと思われる拳銃が転がっていた。
それを二つほど拾い上げて、俺は二丁拳銃の構えを取る。
銃口を向ける先にはまだ無傷のゾンビ軍。
その数、およそ二千。先頭の銃武装ゾンビ達が、俺に銃を向けてくる。
「が、ァ……」
「ヴぁ……」
バンバンと、火花が散って弾丸が放たれる。
だが、俺はすでに防御魔法を幾重にも纏っている。効きゃしねぇんだよ。
「とはいえ、ピストルってのは興味あるな。使ってみるか」
俺はいつか見たマイナーメジャーなガンアクション映画を思い返す。
「くらえ!」
そしてトリガーをひいて、近くのゾンビに弾丸をくらわせた。
「ぁ……」
ゾンビは傾いだ。
が、それだけだった。
「くっは、使えねぇ~! 何だこのおもちゃ、雑ッ魚!」
俺は両手の拳銃を投げ捨てて、無限収納庫から武器を取り出す。
いつもの聖剣、ではない。
派手に体を動かしたい気分なので、それに見合った武器を選んだ。
全長5mの剣。
長いし、重いし、刃幅広いし、分厚いし、硬いし、しかも呪われてて殺傷力激高。
刃の表面には禍々しい紋様が刻まれて、それが血の赤で明滅してるし。
「見ろよ、この剣をよ。とある伝説的なドワーフの剣匠が、巨人の剣士用に鍛え上げた剣でよぉ、名前を『巨刃』っていうんだぜ? ネーミングセンスよぉ~……!」
片手で『巨刃』をかざして、俺はゾンビへと顔を向ける。
俺は一瞬無表情になって、直後ニカっと笑う。見て見て、この牙っぽい八重歯。
「じゃあ、潰すから、一体残らず死に尽くせ」
いともたやすく現実で行われるえげつない無双ゲー、ヨーイドン!
「うらぁ!」
群がるゾンビに、俺は『巨刃』を横薙ぎ一閃。
大雑把な攻撃、と、思うじゃん?
――キンッ。
と、音がして、道路脇の街灯がスッパリ断たれて道路に倒れる。
ゾンビの群れもそれと同じく、胴を綺麗に断ち切られて上半身がボトリと落ちた。
この『巨刃』ねー、さすがは伝説の名匠が作っただけあるんだわ。
こんだけ派手な見かけしてて、その切れ味は俺愛用の聖剣に優るとも劣らない。
すこぶる切れ味鋭いのに刃は分厚くて、硬くて、粘り強い。
それがどういうことかとといえば、
「どんだけ雑に扱っても、切れ味鈍らないってコトだァ――――!」
今度は、振り下ろし。
柄を両手で掴み、背筋を弓なしに反らして、そのまま上から下へ。
「ズッドォ――――ンッ!」
ゾンビ十数体を、その一撃で頭ごと叩き潰して両断する。
切っ先は、地面に深々埋まった。俺はそれをヨイショと引き抜いて、また構える。
デカくて重いだけの剣なんぞに振り回される俺ではない。
振り回すのは俺。振り回されるのは武器。潰されるのはゾンビ。単純明快!
ゾンビがバキュンバキュンと銃を撃つ。
しかし、防御魔法による魔力障壁に覆われた俺は、その程度じゃ傷一つつかない。
「今の俺を傷つけたきゃ、せめてミサイル持ってこいやぁ!」
もちろん、ICBMな。
「よいしょッ、おらしょッ、どっこいしょォ!」
俺は『巨刃』を軽快に振り回す。
横薙ぎ、叩きつけ、振り下ろして勢いを利用して一回転。袈裟切り、逆袈裟。
ひとたび刃を振るうごとに、ゾンビ十数体が巻き込まれて散っていく。
こっちも思い切り振っているので、手応えはほとんどないに等しい。
それにしても、やわいなー。ゾンビやわい。
どいつもこいつも骨あるだろうに、すっげぇ柔らかい。実は軟体動物か?
「うおおおおおおお、ブラッディ! スク何とかの真似ェ!」
右手の手首をギュンギュンいわせて、俺はゾンビの群れに突っ込んだ。
魔力を纏っての突撃で、その場にいたゾンビがドカンと砕け吹き飛んでいく。
う~ん、無双ゲー。
しかしここで俺は一つの問題に気づいた。
左右を見れば、道路の舗装は抉れてるわ、建物にもでっかい傷がついてるわ。
ちょっと調子乗りすぎた。建物にあるかもしれない物資まで潰すのはよくない。
「よ~しよしよし」
俺は『巨刃』を収納すると、両手の指をポキポキと鳴らした。
「それじゃあ、こっからは素手喧嘩といこうじゃねぇか!」
手始めに、俺に銃をバンバンしてる近くのゾンビの頭を右手で鷲掴みにした。
「ゾンビ」
そして右腕を伸ばしてそのゾンビを浮かせて、からの~、
「滅ぶべし!」
地面への叩きつけ。超ッ、エキサイティン!
バコン、という音と共に道路に放射状のひびが入った。ゾンビは潰れた。
何だ、最近の道路君はこの程度で壊れちゃうのかぁ~?
根性ないなぁ~、俺の親父が若い頃は~、うん、知ったことではないんだけどね。
「ヴぁ、あ……」
背後から声がして、何と、ゾンビがサブイマシンガンで俺を撃ってきた。
マジかよ、そんなのどこから持ってきた。令和の日本も案外物騒だったんだな。
そんなことを考えつつ、俺はそのゾンビへ一歩一歩近づいていく。
ゾンビはサブマシンガンをタタタタと撃ち続けているが、効かん効かん効かーん。
こちとら、ドラゴンの突撃も無傷で防ぎきる魔力障壁だっての。
サブマシンガンはすぐに弾切れして、だがゾンビはトリガーを引き続けている。
「愚直だな。だが死ね」
下から抉るようなボディブロウ。
っていうか実際抉った。威力強すぎてゾンビの上半身消し飛んだ。
「オラオラ、もっと根性キメてかかってこいや、このド腐れ三下共が!」
そこから俺、殺到するゾンビの群れに向かって大乱闘。
ゾンビを千切っては投げ、千切っては投げ――、全部事実のままに描写。
「そろそろ、クライマックスと行こうじゃねぇか」
俺はゾンビ軍を指さし、目を見開いて詠唱を開始する。
「天の光はすべて星、たった一つの冴えたやり方は、絶滅・殲滅・大撃滅――」
破壊の力を極限まで高める増幅詠唱。それは俺が最も好きな言葉だ。
「森羅万象、天地を問わず、ブチ破ってブチ壊す!」
――使う魔法は『星絶疾走』。ではない。
「無明の闇に陥って、無限に捻じられ、無限に砕かれ、無限に死んで無限に朽ちろ」
俺の指先に、ポツンと黒い点が生じる。
「崩禍螺旋!」
それは『星絶疾走』に並ぶ破壊力を持った、禁呪の一つ。
指先から放たれた黒い点が、俺があらかじめ指定した座標へと転移する。
指定したのは、広域探査によって認識しているゾンビ軍の中央。
そこで効果を発揮した黒点が、ヴォン、と音を立てて周りの景色を歪ませ始めた。
中心座標から、俺の眼前まで。
ゾンビが存在している範囲全体が、陽炎のように揺らめいて見える。
だが、歪んでいるのは景色ではなく空間そのもの。道路にひびが入っていく。
さっきは、周りの建物にある物資がどうとか考えてたけど、まぁいいや。
そんなコトよりゾンビだ。一体も残さねぇ。ゾンビ死すべし、ゾンビ滅ぶべし!
「――螺旋、収束」
俺は手を開き、すぐに握った。
それを合図にして、空間歪曲が及ぶ範囲の全てを引き寄せて一点に収斂する。
小さく擦るような音が一度だけ。
それで、空間の歪みに取り込まれた全てがこの世界から消え去った。
ゾンビも道路も建物も、全て丸々、抉り取られて消滅した。
「…………」
訪れた静けさの中で、俺は空を見上げる。
快晴。青空。雲は薄くて、その青さはどこまでも突き抜けるようで。
「ああ、気持ちいいな」
ゾンビ四千体を相手取った冒険者達の戦いは、こうして静寂のうちに終結した。
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