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第2章 決死必殺の天才暗殺者
第60話 天才暗殺者、必勝のすべを授ける
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ねーよ。
ハマってるのはジジイが仕掛けたチャチい罠だけだよ。
「ああああああもおおおおおおお! グレイ! グレイ・メルタ!」
「ぬおお!? ンだよ、いきなり!」
もはや見ていられず、私はグレイの襟首を引っ張って強引にこっちを向かせた。
もうダメ!
全然ダメ! ダメ! ダメすぎる!
こいつ、冒険者なのに交渉や会話の駆け引きが致命的にダメダメじゃんかー!
彼にはもう任せておけない。
このままでは、私のめくるめく湯煙ハッピータイムが遠のくばかりだ。
ことここに至っては裏社会にも精通するこの天才暗殺者が出てやるしかないだろう。
私はグレイに、目の前のジジイ攻略法を伝授した。
「えぇ……」
と、返ったきたのは、そんな戸惑いの反応だった。
やれやれだぜ。
これだからおぼっちゃんは困る。私の提案の意味が全く分かっていないらしい。
だが説明している時間も惜しい。
私は一刻も早く湯煙ハッピータイムに突入したいのだ。
「とにかくいいから、今言ったやり方でいくでやんすよ!」
「でもさぁ……」
「口答えはなっしんぐ! 返答はハイかYESかしすてむおおるぐりぃんで!」
「あ~……、分かった、やってみるわ」
渋々ながらもうなずいたグレイ・メルタが、再びコーコ老人の方に向かう。
グレイが不安げにこちらを見てくるが、大丈夫大丈夫!
あっしが授けた方法なら絶対勝てるって!
元気づけるように何度もうなずくと、グレイも意を決した様子で向き直った。
私から見えるのは彼の背中だけ。
しかし、今の私には雄々しいグレイの顔が目に映るようだった。
「とにかく爺さん、俺達は温泉に行きてーワケよ」
「お若いの、逸る気持ちは分かり申すが、しかしそれこそ“協会”の罠……」
来た来た、コーコ老人の必殺・危機感煽って時間稼ぐ=ジツ!
だがそうはいくものか。私は温泉に入りたいんだ。
さぁグレイ・メルタよ、今こそ私が授けた必勝の策を発動するとき!
裏社会に伝わる最強究極の交渉術をあの話し長い系ジジイに叩きつけてやるのです!
「いいから、温泉どこよ」
「短絡的になってはいけませんぞ、冒険者殿。それもまた――」
「いいから、温泉どこよ」
「焦られますな、冒険者殿。我々はまずは腰を落ち着けてこの事態に対処を……」
「いいから、温泉どこよ」
「やはり気になられますか。しかしそれを教えるのは「いいから、温泉どこよ」
「…………」
「…………」
思いっきり言葉をかぶされて、さしものコーコ老人も口をつぐんだ。
それを、グレイ・メルタがジッと直視している。
よし、やったぞ!
ついに我々はジジイの長話を撃退することに成功したのだ!
見たか裏社会交渉術『おまえの話なんか聞かないモンねバーカバーカ!』作戦!
「ガキのケンカかぇ?」
大妖怪の一言が何故か胸に突き刺さったが、シカトである。シーカート!
「――仕方、ありますまいな」
私が耳を塞いで現実から逃げようとしていると、コーコ老人の声が聞こえた。
深い嘆息ののちの言葉であった。
またまた勿体ぶって、このジジイさんは。
「いや、そろそろ準備もできている頃でしょう。……向かうといたしましょうか」
「向かうってどこにだ? 温泉か!」
そこにパニが食いついてきた。
こいつ、めんどくさい交渉事はグレイに丸投げしておきながら……。
「うう、お、温泉あるなら入りたいですぅ……。馬車旅でクタクタだよぅ……」
控えめながらも、アムはしっかりと自分の意見を言ってくる。
でもおたくら、デッカイ馬車の中で悠々自適に過ごしてただけでやんすよね?
疲れてるってんならグレイの方がはるかに疲れてるでやんすからね?
「では、こちらへどうぞ」
パニ達の話を聞いていたのかいないのか、コーコ老人は踵を返した。
馬車を村の端っこに置いて、私達は彼のあとをついていく。
そこに見える景色を眺めながら、私は思った。
う~ん、田舎。圧倒的ド田舎!
どこを見てもあるのは、山! 田! 畑! 林! 木! 木! 木! 時々、家!
すごいなー、どっち見ても同じ風景しかないぞー。
洞窟や森林とは違った意味で方向性見失いそうでやんすねー、これ。
いや~、肌に合わない!
やっぱあっしみたいな最先端シティガールに田舎の空気は合わないでやんすね!
はぁ、我が故郷サンシタペテルブルグが懐かしい……。
「なー、オイ、ムールゥ」
「む。何ですかグレイ・メルタ、呼び捨てとは失礼な」
「フルネームで呼び捨てはええんかい……」
「私はよいのです。おまえは私の暗殺対象ですから!」
「話が一切繋がってないのに凄まじいまでの自信を見せてきやがるな!?」
どうやらこの男、『自分だけは特別』という法律を知らないらしい。
しかし、彼の方から話しかけてくるとは珍しい。
「一体、何用ですか?」
「おまえ、この先に温泉あると思う?」
「え、まだそこに期待してるんですか、おまえは」
「オォイ!?」
「だぁぁぁってあのオジジ、あからさまにはぐらかそうとしてたじゃーん!」
「…………せやな」
ええ、ですからもう私は当初の湯煙ハッピーフューチャーは捨てましたよ。
今となってはとにかくお風呂にゆっくりと入りたい。
私が願っているのはそれだけです。
そんだけ、あの豪雨はきつかったンでやんすよー!
「ヘイヘイヘ~イ、グレイの旦那、旦那ってばよ~?」
「……何だよパニさん」
いきなりパニ・メディがグレイの隣まで寄ってくる。
「なぁなぁ」
「だから、なーんだよ」
「さっきから誰と話してンだよ、あんた」
ンぎっくゥ!!?
「ンぎっくゥ!!?」
なななな、何をそんなに驚いてるんでやんすかグレイ・メルタァァァァァ!
あっしは別に驚いてもいいけどおたくはダメなんだから――――ッッ!
「いやちょっとちょっと、パニさん何言ってんの? 誰とも話してねーよ?」
「あ~ん? そうかぁ? 何かさっきっから虚空に話しかけてるからよー」
虚空に話しかけるってアブないヤツじゃないですかー!
まさかそんな、グレイ・メルタがそんなヤツだったなんて……。
「……おまえと話してるときのことだからな?」
ボソッと呟かれたグレイ・メルタの一言が、私の心臓を突き刺した。
フ、フフ~ン。知ってたし……、知ってたしー!
「いや、独り言。……独り言よ?」
「ほ~ん、なるほどなるほど。独り言、ねぇ~」
パニが疑わしげにグレイのことをジロジロとねめつけている。
そんな彼の隣にいるのが、私なんだなー。
あー、視線すごい。視線すっごい。見てるよー、ものっそいこっち見てるよー。
「……そんな疲れてンのか、旦那?」
やがて彼女の口から出た言葉には、心配の色がにじんでいた。
「やっぱあれか、ランのお嬢のことか?」
「いや、それは……」
パニの意外な言葉に、グレイもどう答えればいいのか分からないようだった。
それは私も同じだ。
彼女はグレイとランの件について面白がっているとばっかり思っていた。
いくら人間のクズでも、やはり仲間は仲間、ということなのだろうか。
いくら人間のクズでも。
ちなみに、ラン・ドラグはかなり離れた場所にいる。
一応、そこにはアムもいるが、ランは一回もこちらを見ようとしなかった。
やはり、おぱんてーの一件が尾を引いているのか。
「なぁ、旦那よぉ」
「ま、まだ何かあるのかよ……」
「いや、そんなに悩んでるならよ――」
「お、おう……」
完全に狼狽しているグレイに小柄な身を寄せて、彼女は小声でささやいた。
「アタシが慰めてやろうか、ベッドの上とかでさ」
「な、な……、な……!!?」
目を丸くしたグレイがその場から飛び退いてパニを見た。
う~ん、反応がどーてー。こんなだからいいように遊ばれちゃうんだよなー。
今のだって、パニがグレイをからかって遊んでいるだけに――
「旦那がその気なら、アタシはいつでもいいぜぇ?」
…………あれェ?
「さて、着きましたぞ」
「おっと、やっとかよ。じゃ、行こうぜ旦那」
「あ、ああ……」
パニに手を引かれて、グレイは豆鉄砲アタックされた鳩なツラのまま歩く。
きっと、今の私も彼と同じような顔をしているに違いない。
何だ、このどーてーそーろー、実は案外モテたりするのだろうか。
えーウソだー、だってこいつ全然カッコよくないしー。
男ったらやっぱジンバの兄貴みたいに知的かつワイルドじゃないとさー。
「こちらです」
と、コーコ老人が案内してくれたのは――ンン? 牛舎……?
そう、それは大きめに作られた牛舎だった。
しっかりとした木組みの建物で、中に入ると積み上げられた牧草があった。
しかし、牛はいない。
そして牛舎特有の臭さも特にはない。
見たところ、牛舎自体がかなり新しい感じだ。
建てられたばっかりで使われていない、ということなのだろうか。
「皆様方、全員お入りになられましたかな」
コーコ老人がこちらを向いて確認してくる。
無論、彼には私のことは見えていないのだろうが。
「見えており申す」
え?
「見えており申す」
え?
「見えており申す」
…………。
よーし、もう深いところまで考えるのやーめた! 早くお風呂入りたーい!
ここにいるのはコーコ老人と、私と、そしてグレイ達。
あ、もちろん大妖怪もいる。相変わらずフヨフヨしていた。
「こんなトコに連れてきて、何するつもりだよ?」
「うむ、それですがな……」
問うグレイに、コーコ老人が咳ばらいを一つ。
「実は先ほどの話についてなのですが」
先ほどの話って、どれ?
この爺さんの話とか、山ほど積み上げられた与太話しかねーんでやんすけど。
「――そう、超古代文明オルルタの話であり申す」
…………あー、あったあった。最初の方にあったなー、そんな話。
「あれは九割、それがしの創作であり申したが」
創作なんじゃん。
「創作は、九割までなのです」
ん? 何て?
皆が首をかしげる中、コーコ老人が壁にあるレバーを掴んだ。
ん? レバー?
皆が首をかしげる角度を五割増しにする中、老人がレバーをガコンと下げた。
ズズ……、ン……。
「おぉ!?」
いきなり地面が震えた。
震動はすぐには収まらず、一度の大きな揺れのあとで小さな揺れが続いた。
「な、何!? 何何何何何何何何何何何――――ッッッッ!!?」
グレイ・メルタ、驚きすぎ。
おかげでこっちは一周回って冷静になっちまったでやんすよ。
だからだろうか、私の耳ははっきりと、コーコ老人の言葉を聞くことができた。
「地下一階、古代遺跡オルルタに参りま~す」
そこだけ猫なで声やめろ!!!!!!!
ハマってるのはジジイが仕掛けたチャチい罠だけだよ。
「ああああああもおおおおおおお! グレイ! グレイ・メルタ!」
「ぬおお!? ンだよ、いきなり!」
もはや見ていられず、私はグレイの襟首を引っ張って強引にこっちを向かせた。
もうダメ!
全然ダメ! ダメ! ダメすぎる!
こいつ、冒険者なのに交渉や会話の駆け引きが致命的にダメダメじゃんかー!
彼にはもう任せておけない。
このままでは、私のめくるめく湯煙ハッピータイムが遠のくばかりだ。
ことここに至っては裏社会にも精通するこの天才暗殺者が出てやるしかないだろう。
私はグレイに、目の前のジジイ攻略法を伝授した。
「えぇ……」
と、返ったきたのは、そんな戸惑いの反応だった。
やれやれだぜ。
これだからおぼっちゃんは困る。私の提案の意味が全く分かっていないらしい。
だが説明している時間も惜しい。
私は一刻も早く湯煙ハッピータイムに突入したいのだ。
「とにかくいいから、今言ったやり方でいくでやんすよ!」
「でもさぁ……」
「口答えはなっしんぐ! 返答はハイかYESかしすてむおおるぐりぃんで!」
「あ~……、分かった、やってみるわ」
渋々ながらもうなずいたグレイ・メルタが、再びコーコ老人の方に向かう。
グレイが不安げにこちらを見てくるが、大丈夫大丈夫!
あっしが授けた方法なら絶対勝てるって!
元気づけるように何度もうなずくと、グレイも意を決した様子で向き直った。
私から見えるのは彼の背中だけ。
しかし、今の私には雄々しいグレイの顔が目に映るようだった。
「とにかく爺さん、俺達は温泉に行きてーワケよ」
「お若いの、逸る気持ちは分かり申すが、しかしそれこそ“協会”の罠……」
来た来た、コーコ老人の必殺・危機感煽って時間稼ぐ=ジツ!
だがそうはいくものか。私は温泉に入りたいんだ。
さぁグレイ・メルタよ、今こそ私が授けた必勝の策を発動するとき!
裏社会に伝わる最強究極の交渉術をあの話し長い系ジジイに叩きつけてやるのです!
「いいから、温泉どこよ」
「短絡的になってはいけませんぞ、冒険者殿。それもまた――」
「いいから、温泉どこよ」
「焦られますな、冒険者殿。我々はまずは腰を落ち着けてこの事態に対処を……」
「いいから、温泉どこよ」
「やはり気になられますか。しかしそれを教えるのは「いいから、温泉どこよ」
「…………」
「…………」
思いっきり言葉をかぶされて、さしものコーコ老人も口をつぐんだ。
それを、グレイ・メルタがジッと直視している。
よし、やったぞ!
ついに我々はジジイの長話を撃退することに成功したのだ!
見たか裏社会交渉術『おまえの話なんか聞かないモンねバーカバーカ!』作戦!
「ガキのケンカかぇ?」
大妖怪の一言が何故か胸に突き刺さったが、シカトである。シーカート!
「――仕方、ありますまいな」
私が耳を塞いで現実から逃げようとしていると、コーコ老人の声が聞こえた。
深い嘆息ののちの言葉であった。
またまた勿体ぶって、このジジイさんは。
「いや、そろそろ準備もできている頃でしょう。……向かうといたしましょうか」
「向かうってどこにだ? 温泉か!」
そこにパニが食いついてきた。
こいつ、めんどくさい交渉事はグレイに丸投げしておきながら……。
「うう、お、温泉あるなら入りたいですぅ……。馬車旅でクタクタだよぅ……」
控えめながらも、アムはしっかりと自分の意見を言ってくる。
でもおたくら、デッカイ馬車の中で悠々自適に過ごしてただけでやんすよね?
疲れてるってんならグレイの方がはるかに疲れてるでやんすからね?
「では、こちらへどうぞ」
パニ達の話を聞いていたのかいないのか、コーコ老人は踵を返した。
馬車を村の端っこに置いて、私達は彼のあとをついていく。
そこに見える景色を眺めながら、私は思った。
う~ん、田舎。圧倒的ド田舎!
どこを見てもあるのは、山! 田! 畑! 林! 木! 木! 木! 時々、家!
すごいなー、どっち見ても同じ風景しかないぞー。
洞窟や森林とは違った意味で方向性見失いそうでやんすねー、これ。
いや~、肌に合わない!
やっぱあっしみたいな最先端シティガールに田舎の空気は合わないでやんすね!
はぁ、我が故郷サンシタペテルブルグが懐かしい……。
「なー、オイ、ムールゥ」
「む。何ですかグレイ・メルタ、呼び捨てとは失礼な」
「フルネームで呼び捨てはええんかい……」
「私はよいのです。おまえは私の暗殺対象ですから!」
「話が一切繋がってないのに凄まじいまでの自信を見せてきやがるな!?」
どうやらこの男、『自分だけは特別』という法律を知らないらしい。
しかし、彼の方から話しかけてくるとは珍しい。
「一体、何用ですか?」
「おまえ、この先に温泉あると思う?」
「え、まだそこに期待してるんですか、おまえは」
「オォイ!?」
「だぁぁぁってあのオジジ、あからさまにはぐらかそうとしてたじゃーん!」
「…………せやな」
ええ、ですからもう私は当初の湯煙ハッピーフューチャーは捨てましたよ。
今となってはとにかくお風呂にゆっくりと入りたい。
私が願っているのはそれだけです。
そんだけ、あの豪雨はきつかったンでやんすよー!
「ヘイヘイヘ~イ、グレイの旦那、旦那ってばよ~?」
「……何だよパニさん」
いきなりパニ・メディがグレイの隣まで寄ってくる。
「なぁなぁ」
「だから、なーんだよ」
「さっきから誰と話してンだよ、あんた」
ンぎっくゥ!!?
「ンぎっくゥ!!?」
なななな、何をそんなに驚いてるんでやんすかグレイ・メルタァァァァァ!
あっしは別に驚いてもいいけどおたくはダメなんだから――――ッッ!
「いやちょっとちょっと、パニさん何言ってんの? 誰とも話してねーよ?」
「あ~ん? そうかぁ? 何かさっきっから虚空に話しかけてるからよー」
虚空に話しかけるってアブないヤツじゃないですかー!
まさかそんな、グレイ・メルタがそんなヤツだったなんて……。
「……おまえと話してるときのことだからな?」
ボソッと呟かれたグレイ・メルタの一言が、私の心臓を突き刺した。
フ、フフ~ン。知ってたし……、知ってたしー!
「いや、独り言。……独り言よ?」
「ほ~ん、なるほどなるほど。独り言、ねぇ~」
パニが疑わしげにグレイのことをジロジロとねめつけている。
そんな彼の隣にいるのが、私なんだなー。
あー、視線すごい。視線すっごい。見てるよー、ものっそいこっち見てるよー。
「……そんな疲れてンのか、旦那?」
やがて彼女の口から出た言葉には、心配の色がにじんでいた。
「やっぱあれか、ランのお嬢のことか?」
「いや、それは……」
パニの意外な言葉に、グレイもどう答えればいいのか分からないようだった。
それは私も同じだ。
彼女はグレイとランの件について面白がっているとばっかり思っていた。
いくら人間のクズでも、やはり仲間は仲間、ということなのだろうか。
いくら人間のクズでも。
ちなみに、ラン・ドラグはかなり離れた場所にいる。
一応、そこにはアムもいるが、ランは一回もこちらを見ようとしなかった。
やはり、おぱんてーの一件が尾を引いているのか。
「なぁ、旦那よぉ」
「ま、まだ何かあるのかよ……」
「いや、そんなに悩んでるならよ――」
「お、おう……」
完全に狼狽しているグレイに小柄な身を寄せて、彼女は小声でささやいた。
「アタシが慰めてやろうか、ベッドの上とかでさ」
「な、な……、な……!!?」
目を丸くしたグレイがその場から飛び退いてパニを見た。
う~ん、反応がどーてー。こんなだからいいように遊ばれちゃうんだよなー。
今のだって、パニがグレイをからかって遊んでいるだけに――
「旦那がその気なら、アタシはいつでもいいぜぇ?」
…………あれェ?
「さて、着きましたぞ」
「おっと、やっとかよ。じゃ、行こうぜ旦那」
「あ、ああ……」
パニに手を引かれて、グレイは豆鉄砲アタックされた鳩なツラのまま歩く。
きっと、今の私も彼と同じような顔をしているに違いない。
何だ、このどーてーそーろー、実は案外モテたりするのだろうか。
えーウソだー、だってこいつ全然カッコよくないしー。
男ったらやっぱジンバの兄貴みたいに知的かつワイルドじゃないとさー。
「こちらです」
と、コーコ老人が案内してくれたのは――ンン? 牛舎……?
そう、それは大きめに作られた牛舎だった。
しっかりとした木組みの建物で、中に入ると積み上げられた牧草があった。
しかし、牛はいない。
そして牛舎特有の臭さも特にはない。
見たところ、牛舎自体がかなり新しい感じだ。
建てられたばっかりで使われていない、ということなのだろうか。
「皆様方、全員お入りになられましたかな」
コーコ老人がこちらを向いて確認してくる。
無論、彼には私のことは見えていないのだろうが。
「見えており申す」
え?
「見えており申す」
え?
「見えており申す」
…………。
よーし、もう深いところまで考えるのやーめた! 早くお風呂入りたーい!
ここにいるのはコーコ老人と、私と、そしてグレイ達。
あ、もちろん大妖怪もいる。相変わらずフヨフヨしていた。
「こんなトコに連れてきて、何するつもりだよ?」
「うむ、それですがな……」
問うグレイに、コーコ老人が咳ばらいを一つ。
「実は先ほどの話についてなのですが」
先ほどの話って、どれ?
この爺さんの話とか、山ほど積み上げられた与太話しかねーんでやんすけど。
「――そう、超古代文明オルルタの話であり申す」
…………あー、あったあった。最初の方にあったなー、そんな話。
「あれは九割、それがしの創作であり申したが」
創作なんじゃん。
「創作は、九割までなのです」
ん? 何て?
皆が首をかしげる中、コーコ老人が壁にあるレバーを掴んだ。
ん? レバー?
皆が首をかしげる角度を五割増しにする中、老人がレバーをガコンと下げた。
ズズ……、ン……。
「おぉ!?」
いきなり地面が震えた。
震動はすぐには収まらず、一度の大きな揺れのあとで小さな揺れが続いた。
「な、何!? 何何何何何何何何何何何――――ッッッッ!!?」
グレイ・メルタ、驚きすぎ。
おかげでこっちは一周回って冷静になっちまったでやんすよ。
だからだろうか、私の耳ははっきりと、コーコ老人の言葉を聞くことができた。
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