最強パーティーを追放された貧弱無敵の自称重戦士、戦わないくせに大活躍って本当ですか?

はんぺん千代丸

文字の大きさ
上 下
60 / 62
第2章 決死必殺の天才暗殺者

第59話 天才暗殺者、納得しかできない

しおりを挟む
「話せば長くなり申すが……」

 コーコ老人は語り始めた。

「今から3億5000万年前――」

 え、冒頭からツッコミドコロ?

「この辺り一帯には超古代湯煙文明オルルタが存在しており申した」

 あ、冒頭からツッコミドコロですね。
 しかもかなり主張が激しいヤツ。

「皆も知っての通り……」

 知らないし。

「その頃、世界には七大古代文明が存在していたのですが――」

 世界規模かぁ。

「このオルルタ文明には全く関係ない話でしてな……」

 関係ないんかーい。

「だって超古代湯煙文明とか自称でしかありませんしな」

 自己顕示欲強い古代人もいたもんだなぁ。びっくりしたなぁ。

「そもそもこの話自体、オルルタを宣伝するためのでっちあげですし」

 おーっとついに自分からテーブルひっくり返したでやんすよ。

「ではそろそろ、本題に入らせていただきましょうか」

 本題じゃなかったんかーい!

 長い!
 前置き長い!

 そして無駄!
 ここまで一切無駄無意味!

 話せば長い? だけど意味ない?
 古代文明? 誇大妄想?
 妄想暴走、聞いてるこっちは絶叫しそう!

 YO! YO!
 チェケラッチョ、HEY!

 ……ハッ、あまりの無駄話っぷりに思わずライム刻んじゃったでやんす!

「おんし、相も変わらず前置きが長いのう……」

 大妖怪までもが半ば以上あきれ顔でそう言った。
 つまりはこのご老人、昔っからこんな感じなのかー。校長先生かな?

「恐悦至極であり申す」

 コーコ老人は控えめに笑ってそう言った。
 そこは「恐縮です」だろーが。

「で、早い話、何でチビロリ呼んだの。爺さんは」
「うむ、話せば長くなり申すが……」

「おおっと永久ループはやめておけよ。ウチのチビロリが火を噴くぜ?」
「待って坊、わしってサラマンダー扱いなの?」

「噴けるだろ?」
「噴けるけど」

 噴けるんだ……。
 マジでこの大妖怪、何でもありでやんすねー。
 でもあっし、「大賢者=何でもあり」はホントにどーかと思うよ?

「とゆーワケで爺さん、状況説明スパっとどうぞ!」
「“協会”が怖いので助けてくだされ」
「結論だけを述べりゃそりゃ短く済むわなぁ!?」

 いつもの如く響く、グレイ・メルタのツッコミ絶叫。
 くっ、あっし分かっちゃった。
 この爺さんも大妖怪とかと同じトンデモ面白人間でやんすね……!

 ハイ消えた!
 たった今、平和な湯煙旅情消えたよ!
 こんな爺さんとか“協会”とかが関わる一件が平和なワケないモン!

 ウン、知ってた知ってた! ……は~、泣きそ。

「オイオイ爺さん。あんた、アタシの兄弟子なんだろ? 大賢者ウルの弟子ともあろうモンが、何が『“協会”が怖い』だ? なっさけねぇな」

 しかしそこで、パニがズズイと前に出てきた。
 その口ぶり、そういえば彼女も大妖怪の弟子だったっけ。

「おまえ様は?」
「アタシはパニ・メディ、大賢者ウルの百八番弟子だよ!」
「今のところ、最後の弟子じゃのう~」

 その平らな胸を大きく張るパニの頭上を、大妖怪が浮遊する。
 私はパニと大妖怪を見比べて、なるほどとうなずいた。
 その小ささ、その胸部、そのちんちくりん加減。まさに師弟だな!

「ギン!」
「ぴッ!?」

 いきなりパニが鬼の形相でこっちを向いた。
 あれおかしいな! 見えてないよね? あっしのこと見えてないよね!?

「何か今猛烈にブン殴らなきゃいけない気配を感じたが、気のせいか」
「クッヒッヒッヒ、そうかもしれんの~」

 大妖怪も私を見てほくそ笑んでいる。
 こいつ、見えるからって! 私のこと見えるからって愉悦しやがって!
 ぴー! でも驚いた、今のはすんげー驚いたでやんしょ!

「ふむ、それがしの妹弟子であり申したか」

 コーコ老人がパニを眺めて自分のあごを撫でる。
 値踏みしている、というよりは孫でも見るかのようなまなざしだ。
 だがパニはそれが気にくわないらしく、露骨に嫌そうな顔を見せた。

「ンだァ、そのツラ。アタシを見下すつもりか? あ?」

 もはやパニの方はいつゴングが鳴ってもいいんだぜ感がみなぎっている。
 このままでは本当にハチャメチャバトルがスパーキングしてしまいそうだが、しかしコーコ老人はすっと手をかざして言った。

「それがし、戦う力もなき一介の魔術師でありましてな。ご勘弁を」
「ホントなっさけねーな! 大賢者ウルの弟子の名が泣くぜ!」
「されど、それがしが魔術師となった理由は戦う為ではありませぬゆえ」

「元冒険者とかじゃねーってか?」
「然り然り。それがしがウル様の弟子となった理由は――」

「理由は、何よ?」
「村の賢者ぶって余裕ぶっこくためにどうしても必要だったからですな!」

 最低な理由だった。

「村の連中やこの村をごくごくまれに訪れる若手冒険者にちょっとした雑学程度を仰々しく披露すればいいだけの簡単なお仕事! 何ということでしょう、それだけで金は入ってくるわ、村人からは賢者様と呼ばれるわ、別に体を張って戦わなくても村の重鎮ポジションに落ち着けるわ、まさによいことずくめ! それがしただいま老いらくのスローライフ青春最高満喫中ですぞ!」

 最低で、しかも最悪な動機だった。

「くっ、アタシより先にそれをやってるヤツがいただって!?」

 おたくもそれ狙ってたんか、ロリバス。

「大妖怪の弟子って、基本的に残念・オブ・残念でやんす?」
「…………そうでもないぞぇ?」

 大妖怪は言いつつも目の前の現実から目をそらした。
 こいつ、実は師匠するの下手なのでは?

「しかし! こたびはそれがしの最高スローライフに危機が!」

 あ、コーコ老人の説明、まだ続いてたんでやんすね。

「そう、あの忌まわしき“協会”の連中が現れたことで、村は混沌の坩堝へと叩き落とされたのであり申す! ゆえに御師様をお呼びした次第でありまして……」
「うんうん、なるほど。依頼の概要はちょっと分かった。でさ、じいさん」

「何ですかな?」
「温泉どこ?」

 おおっと、ここでグレイ・メルタが核心に切り込んだ――――ッ!

 それそれ、それよ! あっしらの最優先事項はまさにそれ!
 ジジイのくっだらねースローライフ青春白書とかマジいらねーでやんすし!

 おーんせん! おーんせん!
 ハイ皆さんご一緒にー! おーんせん! おーんせん!

「おーんせん! おーんせん!」

 あっしのことが見えてないはずのパニが一緒になって騒ぎ立ててきた。

 …………。

 見えてないよね
 見えてないよね?
 ちょっとこれ、あっし怖いよ?

「そこまでして温泉の場所を知りたいと……?」
「いや、それが楽しみでこの受けたワケだし、俺ら」

 グレイがこちらを振り向いて、「なー?」と同意を求めてくる。
 どうせ他の連中には見えてはいないだろうが、私は全力でうなずいて見せた。
 しかし、ところがコーコ老人、

「――実はその温泉への欲求こそが“協会”の狙いだとしたら?」
「な、何ィィィィ~~……!」

 瞳をキランと輝かせて、老人が話を変な方向に向かわせようとしてきた。
 律儀にも、グレイはその言葉に反応してしまう。

「それがしが知る“協会”の恐るべき点はまさにそこ……。そこなのです!」
「オイオイ、俺達は単に温泉に入りたいだけで……」

「以前もそう言われた人らがおり申したが、しかし彼らは――」
「え、どうなったの? その連中どうなったの!?」

「…………」
「眉間にしわを寄せながら無言でうつむくな! 気になるだろォォォォォ!」

 うううううううううううん、まさにジジイの思うツボ。
 どういうワケか、コーコ老人はここで時間を稼ぎたいようでやんすね。
 傍目に見てそれが丸分かりな程度の、雑で下手な演技なことよ。

 だが問題は、グレイ・メルタがそれにあっさり引っかかってるコト。
 何で? どーしてこの三文芝居を真に受けられるの?

 実はそーゆーとくしゅのーりょく?
 うわ、いらねー!
 そんなのスキルとか異能じゃなくてただのおバカよ!

 ――ああ、グレイ・メルタはおバカだモンね。あっし納得。

「味わい深い表情しとるのー、おんし」

 私の表情に気づいた大妖怪が自分の方こそ味わい深い表情を浮かべて言ってきた。

「甘い。素直。ダマされやすい。それこそがウルラシオンの誇るカモ、坊じゃよ」

 それ誇っちゃいけないものなのでは?

 おッかしいなー!
 冒険者って経験豊富で裏社会にも通じてる海千山千じゃないっけー!

 あのイノセントバカのおかげであっしの冒険者観が屍山血河で死屍累々よ!
 このままいったらしざんじゅうにししじゅうろく!
 よーし、自分でもそろそろ何言ってるかわっかんなーい!

「くっ、このあふれ出る温泉への欲求が“協会”の罠。一体どういうコトなんだぜ!」

 おまえのその丸め込まれ具合の方こそどういうコトなんだぜ!

「冒険者殿、あなたはすでに“協会”の罠にハマっておられるのです!」
「な、何だってー!?」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...