58 / 62
第2章 決死必殺の天才暗殺者
第57話 天才暗殺者、十五身合体オーバーグランドギガンティックハイパワーゴーレムαマーク2改ディレクターズカット版と遭遇する
しおりを挟む
「あれ、バレテーラ?」
『うん。バレテーラ♪』
返ってきた声の、なんと弾んで楽しげなことか!
『おんしも中に入れないの、わしからのお仕置きじゃから堪能しとくれ』
「やだー! 返品希望! このお仕置き返品させてくださーい!」
『当店はクーリングオフ不可じゃよー』
悪徳業者!
ここにお仕置きの悪徳業者がいるでやんすよー!
『クッヒッヒ、ま、坊が起きるまで話し相手にはなってやるから』
「むー……、ものすげー釣り合ってねー気がするでやんす」
『そうかえ? このウルラシオンの大賢者とサシで話せる機会など、そうそうあるもんでもないぞ? わし、こう見えて多忙だしー。有名だしー』
「今から温泉に行こうって大妖怪が何言ってるやら……」
『仕事じゃよ。オルルタに向かうのも、するべき仕事の一環じゃ』
大妖怪はそう言った。
そういえば、何故温泉に向かうのか。
それを聞いていなかったことに私は改めて気づいた。
『ん? オルルタに行く目的かえ?』
「あっしまだ何も言ってない!?」
『顔にそう書いてあるわい』
「ウソだー! 絶対心読んでるでげすよ、この大妖怪――!」
はっ! もしかしてすでにあっし、卵を産みつけられている!?
『待って、おんし今何考えた?』
「きゃー! 大妖怪の幼体にあっしの腹が突き破られるー!」
『ホントにどういう想像したの!!?』
え、あれ? 大妖怪が本気で驚いてる?
これはもしや、もしかして……。
「あっし、生きてられる? オルルタに着いても死なない?」
『何故その結論に!?』
「こう、内部からボコ、ゴボ、……ボッッ! って爆ぜない?」
『やけに音がリアルなんじゃけどッ!!?』
「…………あっし、死なない?」
『鼻声にならんでも死なない死なない』
「…………ぐす」
『これ、わし訴えたら勝てるよね? ね?』
だって、怖いんだもん。
死ぬの怖いじゃん。あっし、死にたくないんだもん。
『思ったより子供じゃのう、おんし』
「う~……!」
『やれやれ……。おんし、何かわしに聞きたいことはあるかえ?』
「ききたい、こと……?」
『怖がらせた詫びというんでもないが、話題提供じゃよ。何でも答えるぞえ』
何でも答えると言われても、急に言われるとなかなか思いつかない。
悩んでいると、隣のまだ目を覚まさないグレイの横顔が見えて、
「グレイ・メルタ……」
『坊が、どうかしたかえ?』
「何で、大妖怪はこいつと知り合いなんでやんすか?」
『ふむ……』
私は、グレイ・メルタが冒険者であることしか知らない。
一回の冒険者でしかない彼が、どうして大賢者ウルという大物と知り合いで、しかもそのウルから大きな信頼を寄せられているのか。
何故か、私はそこが気になった。
『すまんの。詳しくは言えんわい』
返ってきたのは、そんな答えだった。
しかし、それでも察せられることはある。
グレイ・メルタは何か大きな仕事を果たした。
そういう情報は私の方にも回ってきている。いや、それだけだけど。
きっと、よっぽど大きな仕事だったのだろう。
グレイ・メルタが果たしたという、その仕事は――
『坊のことが気になるのかえ?』
「いや、それは……」
私は言いかけて、言い淀んで、そして結局かぶりを振った。
これは情報収集だ。
私がより確実にグレイ・メルタを仕留めるために、必要な行動だ。
彼の暗殺を成功させて、私はジンバの兄貴に褒めてもらう。
私が本当に欲しいものはそれだ。
だから、私はもっとグレイ・メルタを知る必要がある。それだけだ。
『坊はの――』
「え?」
『バカじゃ』
「…………」
いきなり何?
『考えるということを知らんし、おだてればすぐ調子に乗るし、人としての器もちっさいし、心もものすっごい狭いし、唐突に叫ぶし、いきなり叫ぶし、大抵叫ぶし、何かあれば叫ぶし、何もなくても叫ぶし、むっつりスケベでしかも叫ぶし、それから叫ぶし、とにかく叫ぶし』
「ほとんど叫んでるだけだー!?」
『でも、悪いヤツじゃないんじゃよね』
「……それは」
『人が悪いどころかわしから見れば、いんや、誰がどう見たって坊は甘すぎる。おんしは、そうは思ったことはないかえ?』
思う。
そこについては、私も大妖怪と同意見だ。
冒険者としても、人としても、グレイ・メルタは甘すぎる。
私がこうして温泉地に同行している。それ自体が、彼が甘い証拠だ。
私の素性を知りながらも同行を許している。
これが、一体どれだけ馬鹿げていることなのか――
『冒険者としては欠陥品じゃな。その甘さが命取りになることもある』
言われて、私はギクリとした。
この大妖怪は、やはり私の事情を知っているのか?
勘ぐってしまう。
『ま、わしってばそこが気に入ってるんじゃけどね』
「……そこが?」
私の不安と警戒をよそに、大妖怪は言葉を続けた。
『そうじゃよ。だって可愛いじゃろ、坊。バカじゃけど。バカじゃけど』
「二回も続けて……」
『バカじゃけど。バカじゃけど。バカじゃけど。バカじゃけど』
「そんな、合計六回も!?」
――会話が止まる。
耳に届くのは雨の音、馬車の車輪の音、そして隣のグレイの呼吸音。
こいつ、いつまで居眠りぶっこいでるんだか。
『他に、聞きたいことはあるかえ?』
「えっと……」
グレイの話は終わったと判断されたらしい。
正直、もう少し聞いていたがったが、それを悟られるのもなんか悔しい。
だから私は別の話題を探そうとした。
あ、そーだ。
「あ~……、ところで大妖怪は大丈夫なんでやす?」
『ほぇ? 何がじゃ?』
「あっしとグレイとお馬に魔法を使い続けてるんでやんしょ?」
魔法については、周りに使い手がほとんどいないので知識がないが、継続して使い続けるのはかなり大変だと聞いたことがあった。
大妖怪が私達にそれをしているなら、こんな雑談してて大丈夫なのか?
『むむ?』
「え?」
大妖怪が変な反応をしてきた。
あれ、私、何か変なこと言ったかな。
『わし別に馬に魔法なんぞかけとらんよ?』
「ウッソでー! じゃあ何でこの雨の中こんな爆走できるでやんすか!」
『だってお馬も特別製じゃも~ん。きゃる~ん♪』
大妖怪は語尾を可愛くしていった。
声も可愛いから実際可愛い。
だが何か痛ましいというか、実年齢考えろというか。んん。
『おんし、温泉ついたら覚えとけ♪』
「土下座して命乞いして靴舐める準備はいつだって完了済みでやんす!」
『おんしにプライドってないの?』
プライドで腹が膨れるかァ!
『ま、あのお馬は特別ってことじゃよ』
「特別なお馬……、まさか、キノコーン?」
『ブブー』
「じゃあ、タケノコーン!」
『それも、ブブー』
「え、スギノコーン!?」
『近い! だがブブー、じゃのう』
近いんでげすか!?
『正解はスギノコーンの叔母の弟のいとこの妹の息子のはとこの三男じゃ』
遠い!
めっちゃ遠いでやんすよ、それ!
『赤の他馬と比べると?』
あ、近いかも。……近い、かも?
『見た目はわしの魔法で普通の馬に変えてあるが、実は立派な幻獣じゃよ』
「……何と」
『その名も――』
「その名も……?」
『ジャイアント馬じゃ!』
「ジャイアント馬」
『親友にアントニオ猪がおる』
「確実にアゴがしゃくれてる猪ィ!」
見たことないし全然知らないけど、何でか確信できたでやんす!
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!〉
おおう!?
いきなり脳内に響き渡るバカ笑い。私は思わずビクッと震えた。
「ちょ、大妖怪! いきなり何でやんすかー!」
『違う違う、今のわしじゃないよ。別口じゃよ、別口』
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!〉
あ、ホントだ。え、誰!!?
『前の方に誰かおるようじゃのう。ほいっと』
大妖怪が一声呟き、雨に閉ざされていた私の視界が急にひらけた。
「みゃあ!? 何々! え、どうなったの!?」
『驚くでないわ。魔法でちょいとよく見えるようにしただけじゃて』
ホント魔法すごーい!
『ほれほれ、感心しとらんできちんと前を見る』
「ぴー! 分かってますよーだ!」
言われるまでもなく、私は目を前へと向けて笑い声の主を探した。
すると、いた。
黒いマントを翻し、全身を真っ赤な甲冑に包んだ大男。
腰にはごっつい大剣を帯びて、威風堂々と馬車の前方に立っている。
〈やはり来たか、大賢者ウルよ!〉
『そういうおんしは、なるほど。すでに感づかれておったか』
〈ナーッハッハッハ! その通り! “協会”を甘く見ないでもらおう!〉
『あやつが関わっている組織を甘く見るつもりはないわい』
〈フ、さすがに大賢者ウルといえどもそう言わざるをえまいな!〉
『しかしおんし、たった一人でわしらの相手をするつもりかえ?』
〈見くびらないでいただこう! 我こそは“協会”八部衆が一人、その名も高き、黒き鮮血のホワイトナイト・ブルーグリーン・ザ・イエロー!〉
『何という見事な矛盾塊……!』
どうでもいいけど人の頭の中で会話すんな。
『あ、ごめん』
〈あ、ごめん〉
そして同時に謝るな。仲良しか。
〈そんなことはどうでもいい! このブルーグリーンを相手とした以上、貴様らの死はもはや免れ得ぬ運命と知るがいい!〉
矛盾塊ナイトのブルーグリーンがその手を高く掲げ、そして吼えた。
〈いでよ、十五身合体オーバーグランドギガンティックハイパワーゴーレムαマーク2改ディレクターズカット版!〉
その叫びに応じるように、地面が大きく鳴動を始める。
これは、一体!?
『来るぞえ、強大なる岩の巨人。人が造りし魔の産物たるゴーレムが!』
ゴーレムって!?
そんなの、あっしはおとぎ話の中でしか見たことないでやんすよ!
冒険者じゃないあっしに、そんなのどうしろって――
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハ! さぁ、恐怖に震えごがべっ〉
バキメキゴガグシャドゴベシャボゴドガバキャメシャズガーン。
「…………」
『…………』
ガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロ――――
『ブルーグリーンは?』
「馬車にひかれたでやんす」
『ゴーレムは?』
「馬車にひかれたでやんす」
ガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロ――――
『そうかえ』
「はいでやす」
『平和って素晴らしいのう』
「あ、晴れてきた」
その後――
〈ガーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”六歌仙が一人、蒼き深緑のブラックナイト・レッドイエロー・ザ・パープル!〉
グシャ。
〈クーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”十二神将が一人、赤き金色のブルーナイト・シルバーブラック・ザ・ブラウン!〉
グシャ。
〈ヒーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”十三階段が一人、白き蒼氷のゴールドナイト・ピンクセピア・ザ・オレンジ!〉
グシャ。
馬車はオルルタに着いた。
『うん。バレテーラ♪』
返ってきた声の、なんと弾んで楽しげなことか!
『おんしも中に入れないの、わしからのお仕置きじゃから堪能しとくれ』
「やだー! 返品希望! このお仕置き返品させてくださーい!」
『当店はクーリングオフ不可じゃよー』
悪徳業者!
ここにお仕置きの悪徳業者がいるでやんすよー!
『クッヒッヒ、ま、坊が起きるまで話し相手にはなってやるから』
「むー……、ものすげー釣り合ってねー気がするでやんす」
『そうかえ? このウルラシオンの大賢者とサシで話せる機会など、そうそうあるもんでもないぞ? わし、こう見えて多忙だしー。有名だしー』
「今から温泉に行こうって大妖怪が何言ってるやら……」
『仕事じゃよ。オルルタに向かうのも、するべき仕事の一環じゃ』
大妖怪はそう言った。
そういえば、何故温泉に向かうのか。
それを聞いていなかったことに私は改めて気づいた。
『ん? オルルタに行く目的かえ?』
「あっしまだ何も言ってない!?」
『顔にそう書いてあるわい』
「ウソだー! 絶対心読んでるでげすよ、この大妖怪――!」
はっ! もしかしてすでにあっし、卵を産みつけられている!?
『待って、おんし今何考えた?』
「きゃー! 大妖怪の幼体にあっしの腹が突き破られるー!」
『ホントにどういう想像したの!!?』
え、あれ? 大妖怪が本気で驚いてる?
これはもしや、もしかして……。
「あっし、生きてられる? オルルタに着いても死なない?」
『何故その結論に!?』
「こう、内部からボコ、ゴボ、……ボッッ! って爆ぜない?」
『やけに音がリアルなんじゃけどッ!!?』
「…………あっし、死なない?」
『鼻声にならんでも死なない死なない』
「…………ぐす」
『これ、わし訴えたら勝てるよね? ね?』
だって、怖いんだもん。
死ぬの怖いじゃん。あっし、死にたくないんだもん。
『思ったより子供じゃのう、おんし』
「う~……!」
『やれやれ……。おんし、何かわしに聞きたいことはあるかえ?』
「ききたい、こと……?」
『怖がらせた詫びというんでもないが、話題提供じゃよ。何でも答えるぞえ』
何でも答えると言われても、急に言われるとなかなか思いつかない。
悩んでいると、隣のまだ目を覚まさないグレイの横顔が見えて、
「グレイ・メルタ……」
『坊が、どうかしたかえ?』
「何で、大妖怪はこいつと知り合いなんでやんすか?」
『ふむ……』
私は、グレイ・メルタが冒険者であることしか知らない。
一回の冒険者でしかない彼が、どうして大賢者ウルという大物と知り合いで、しかもそのウルから大きな信頼を寄せられているのか。
何故か、私はそこが気になった。
『すまんの。詳しくは言えんわい』
返ってきたのは、そんな答えだった。
しかし、それでも察せられることはある。
グレイ・メルタは何か大きな仕事を果たした。
そういう情報は私の方にも回ってきている。いや、それだけだけど。
きっと、よっぽど大きな仕事だったのだろう。
グレイ・メルタが果たしたという、その仕事は――
『坊のことが気になるのかえ?』
「いや、それは……」
私は言いかけて、言い淀んで、そして結局かぶりを振った。
これは情報収集だ。
私がより確実にグレイ・メルタを仕留めるために、必要な行動だ。
彼の暗殺を成功させて、私はジンバの兄貴に褒めてもらう。
私が本当に欲しいものはそれだ。
だから、私はもっとグレイ・メルタを知る必要がある。それだけだ。
『坊はの――』
「え?」
『バカじゃ』
「…………」
いきなり何?
『考えるということを知らんし、おだてればすぐ調子に乗るし、人としての器もちっさいし、心もものすっごい狭いし、唐突に叫ぶし、いきなり叫ぶし、大抵叫ぶし、何かあれば叫ぶし、何もなくても叫ぶし、むっつりスケベでしかも叫ぶし、それから叫ぶし、とにかく叫ぶし』
「ほとんど叫んでるだけだー!?」
『でも、悪いヤツじゃないんじゃよね』
「……それは」
『人が悪いどころかわしから見れば、いんや、誰がどう見たって坊は甘すぎる。おんしは、そうは思ったことはないかえ?』
思う。
そこについては、私も大妖怪と同意見だ。
冒険者としても、人としても、グレイ・メルタは甘すぎる。
私がこうして温泉地に同行している。それ自体が、彼が甘い証拠だ。
私の素性を知りながらも同行を許している。
これが、一体どれだけ馬鹿げていることなのか――
『冒険者としては欠陥品じゃな。その甘さが命取りになることもある』
言われて、私はギクリとした。
この大妖怪は、やはり私の事情を知っているのか?
勘ぐってしまう。
『ま、わしってばそこが気に入ってるんじゃけどね』
「……そこが?」
私の不安と警戒をよそに、大妖怪は言葉を続けた。
『そうじゃよ。だって可愛いじゃろ、坊。バカじゃけど。バカじゃけど』
「二回も続けて……」
『バカじゃけど。バカじゃけど。バカじゃけど。バカじゃけど』
「そんな、合計六回も!?」
――会話が止まる。
耳に届くのは雨の音、馬車の車輪の音、そして隣のグレイの呼吸音。
こいつ、いつまで居眠りぶっこいでるんだか。
『他に、聞きたいことはあるかえ?』
「えっと……」
グレイの話は終わったと判断されたらしい。
正直、もう少し聞いていたがったが、それを悟られるのもなんか悔しい。
だから私は別の話題を探そうとした。
あ、そーだ。
「あ~……、ところで大妖怪は大丈夫なんでやす?」
『ほぇ? 何がじゃ?』
「あっしとグレイとお馬に魔法を使い続けてるんでやんしょ?」
魔法については、周りに使い手がほとんどいないので知識がないが、継続して使い続けるのはかなり大変だと聞いたことがあった。
大妖怪が私達にそれをしているなら、こんな雑談してて大丈夫なのか?
『むむ?』
「え?」
大妖怪が変な反応をしてきた。
あれ、私、何か変なこと言ったかな。
『わし別に馬に魔法なんぞかけとらんよ?』
「ウッソでー! じゃあ何でこの雨の中こんな爆走できるでやんすか!」
『だってお馬も特別製じゃも~ん。きゃる~ん♪』
大妖怪は語尾を可愛くしていった。
声も可愛いから実際可愛い。
だが何か痛ましいというか、実年齢考えろというか。んん。
『おんし、温泉ついたら覚えとけ♪』
「土下座して命乞いして靴舐める準備はいつだって完了済みでやんす!」
『おんしにプライドってないの?』
プライドで腹が膨れるかァ!
『ま、あのお馬は特別ってことじゃよ』
「特別なお馬……、まさか、キノコーン?」
『ブブー』
「じゃあ、タケノコーン!」
『それも、ブブー』
「え、スギノコーン!?」
『近い! だがブブー、じゃのう』
近いんでげすか!?
『正解はスギノコーンの叔母の弟のいとこの妹の息子のはとこの三男じゃ』
遠い!
めっちゃ遠いでやんすよ、それ!
『赤の他馬と比べると?』
あ、近いかも。……近い、かも?
『見た目はわしの魔法で普通の馬に変えてあるが、実は立派な幻獣じゃよ』
「……何と」
『その名も――』
「その名も……?」
『ジャイアント馬じゃ!』
「ジャイアント馬」
『親友にアントニオ猪がおる』
「確実にアゴがしゃくれてる猪ィ!」
見たことないし全然知らないけど、何でか確信できたでやんす!
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!〉
おおう!?
いきなり脳内に響き渡るバカ笑い。私は思わずビクッと震えた。
「ちょ、大妖怪! いきなり何でやんすかー!」
『違う違う、今のわしじゃないよ。別口じゃよ、別口』
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!〉
あ、ホントだ。え、誰!!?
『前の方に誰かおるようじゃのう。ほいっと』
大妖怪が一声呟き、雨に閉ざされていた私の視界が急にひらけた。
「みゃあ!? 何々! え、どうなったの!?」
『驚くでないわ。魔法でちょいとよく見えるようにしただけじゃて』
ホント魔法すごーい!
『ほれほれ、感心しとらんできちんと前を見る』
「ぴー! 分かってますよーだ!」
言われるまでもなく、私は目を前へと向けて笑い声の主を探した。
すると、いた。
黒いマントを翻し、全身を真っ赤な甲冑に包んだ大男。
腰にはごっつい大剣を帯びて、威風堂々と馬車の前方に立っている。
〈やはり来たか、大賢者ウルよ!〉
『そういうおんしは、なるほど。すでに感づかれておったか』
〈ナーッハッハッハ! その通り! “協会”を甘く見ないでもらおう!〉
『あやつが関わっている組織を甘く見るつもりはないわい』
〈フ、さすがに大賢者ウルといえどもそう言わざるをえまいな!〉
『しかしおんし、たった一人でわしらの相手をするつもりかえ?』
〈見くびらないでいただこう! 我こそは“協会”八部衆が一人、その名も高き、黒き鮮血のホワイトナイト・ブルーグリーン・ザ・イエロー!〉
『何という見事な矛盾塊……!』
どうでもいいけど人の頭の中で会話すんな。
『あ、ごめん』
〈あ、ごめん〉
そして同時に謝るな。仲良しか。
〈そんなことはどうでもいい! このブルーグリーンを相手とした以上、貴様らの死はもはや免れ得ぬ運命と知るがいい!〉
矛盾塊ナイトのブルーグリーンがその手を高く掲げ、そして吼えた。
〈いでよ、十五身合体オーバーグランドギガンティックハイパワーゴーレムαマーク2改ディレクターズカット版!〉
その叫びに応じるように、地面が大きく鳴動を始める。
これは、一体!?
『来るぞえ、強大なる岩の巨人。人が造りし魔の産物たるゴーレムが!』
ゴーレムって!?
そんなの、あっしはおとぎ話の中でしか見たことないでやんすよ!
冒険者じゃないあっしに、そんなのどうしろって――
〈ナーッハッハッハッハッハッハッハッハ! さぁ、恐怖に震えごがべっ〉
バキメキゴガグシャドゴベシャボゴドガバキャメシャズガーン。
「…………」
『…………』
ガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロ――――
『ブルーグリーンは?』
「馬車にひかれたでやんす」
『ゴーレムは?』
「馬車にひかれたでやんす」
ガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロガラゴロ――――
『そうかえ』
「はいでやす」
『平和って素晴らしいのう』
「あ、晴れてきた」
その後――
〈ガーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”六歌仙が一人、蒼き深緑のブラックナイト・レッドイエロー・ザ・パープル!〉
グシャ。
〈クーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”十二神将が一人、赤き金色のブルーナイト・シルバーブラック・ザ・ブラウン!〉
グシャ。
〈ヒーッハッハッハッハ! 我こそは“協会”十三階段が一人、白き蒼氷のゴールドナイト・ピンクセピア・ザ・オレンジ!〉
グシャ。
馬車はオルルタに着いた。
0
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる