最強パーティーを追放された貧弱無敵の自称重戦士、戦わないくせに大活躍って本当ですか?

はんぺん千代丸

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第2章 決死必殺の天才暗殺者

第55話 天才暗殺者、天才重戦士を見捨てない

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 ――三・日・後!

 温・泉! イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 ウルラシオンをグルリと囲う城壁の北側入り口。
 そこに!
 やたら!
 デッカイ馬車が!
 ドンデンドンデンドンデン! とばかりに!

 ひゃー、おっきー、すっごーい。
 あっし、二階建ての馬車なんて初めて見たー。何これー。

「うおー、何じゃこの馬車。でっけーわー」
「クッヒッヒッヒ、わしが乗る馬車じゃぞ? 特注に決まっておるわい」

 間抜け面で呆けているグレイの横で、浮遊幼女が胸を張っている。
 だが、それを誇張と思わないくらいには大きな馬車だ。
 少なくとも、ちょっとした家程度の大きさはあるだろう。

「あ、水源あればここで生活できるぞぇ」

 ……マジで家じゃねーかでやんす。

「だって馬車で三日もガタゴトなんて退屈じゃもーん。窮屈じゃもーん」
「魔法でバビューンってできないんスかー! 大妖怪なんでしょー!」

「大妖怪ちゃうわい! ……できるけど」
「できるんじゃねーか!」

「じゃがのう、坊。せっかくの温泉じゃよ? 魔法でバビューンとか味気ないじゃろ? 現地までゆっくり時間をかけて馬車に揺られながら景色を楽しみつつ向かう。風情があっていいじゃろ~? 風流じゃろ~?」
「うっわ、ババくさ……」

「あ、そーゆーこと言っちゃう? 言っちゃうんじゃね? じゃあええよ。坊だけ先にわしの魔法でバビューンしてやるから、現地で三日待つがええわい」
「やーだー! そんなのさーみーしーいー!」

「だったら、分かっとるよな? 坊?」
「ええ、もう! さすがは大賢者ウル様、実に素晴らしい提案ですね!」

 グレイ・メルタ、作り笑顔に揉み手と来たか!
 これはなかなか堂に入った三下ムーブ。彼の性根の卑しさがうかがえる。
 いや、まぁ、知らない街で三日も一人とか確かに寂しいけども。

 あ、ちなみにこの場にはグレイと、大妖怪と、あと私がいる。
 ラン・ドラグは荷物の積み込みを行なっており、他の二人は馬車の内装を確認するため中に入っていた。

「しかし本当にわしら以外にゃ見えておらんのじゃのう、おんし」
「え、私ですか?」

 いきなり大妖怪に水を向けられ、私はちょっとドキリとした。
 私にしてみれば当たり前のことなのだが、大妖怪にとっては違うようだ。

「おんしの加護を知る者はこの大陸にほとんどおらん」
「……そうなのですか」
「うむ。何せ、加護の中身が中身じゃからのう」

 他人から認識されない力。
 他人に自分の存在を理解されない力。
 なるほど、そもそも知られなければ伝わりようもない、か。

「私を、どうするつもりですか」
「どうもせんよ」

「え……?」
「ま、おんしの事情の詳しいところは知らんが、楽しめばええわい」

「……私の素性を調べたりはしないのですか?」
「坊が連れてくと言ったんじゃ。わしにとってはそれで十分じゃよ」

 大妖怪はそう言うと、私に笑いかけてそのまま浮遊していった。
 どうやらグレイ・メルタはあの大妖怪に随分と信用されているらしい。

「…………」

 残された私は、何だろう、急にムカムカしてきた。

「ほぁ~。ホントでけーなー、この馬車……」

 そして私の隣では、未だに馬車の大きさに目を丸くしている男が一人。

「いつまでいなかっぺしてるでやんすか!」
「いってぇ!!?」

 キック一閃!
 私の右足が鮮やかな弧を描き、グレイ・メルタの尻を叩く!

「……何? いきなり何してくれてるの?」
「いつまでもボ~っとしてるからでげしょ!」
「え~~~~?」

 グレイが私に対して不満げな顔を向けてくる。
 だがそのとんがった唇が、私をさらにムキィィィィィィ! させた。

「今のおたくの無防備さ、ヤバかったでやんずからね! ホント!」
「そ、そんなだった……?」

「ええ、そりゃもう、ハイ!」
「えー、そんなことないってー」

「バーカバーカ! あっしが刺客だったらラクショーでブスリでげすよ!」
「……あのさぁ」
「何か!」

 まだ何か文句があるんでやんすか?
 ホンット、男って何でこうだらしないクセに文句だけは一丁前なのか!

「いや、あのさ」
「だから、何でやんすか!」

「おまえって、刺客じゃないっけ……?」
「………………あ!」
「あ! じゃないよね?」

「………………フ!」
「フ! でもないよね?」

「別にカッコつけて誤魔化したワケじゃないでやんすよ?」
「今のが誤魔化しじゃなかったら一体どこの世界の何が誤魔化しなのか」
「ぴー!」

 もー、男がちっこいことをネチネチと!

「それよりも! そ・れ・よ・り・も! 温泉! 温泉の話するでやす!」
「いや、でも、おまえ刺客じゃん……」

「いいから! 今だけは生かしてやるからありがたく思うでげす!」
「…………」
「その『何言ってんだこいつ』っていう顔やめろでやんす――――ッッ!」

 ハァ、ハァ、ハァ……。

「なぁ、ムールゥ」
「何!」

「おまえって、アホだよな……」
「しみじみ言うなァァァァァァァァァァァァァァ!」

 泣くぞ!
 そろそろあっし本当に泣くでやんすからね!
 女の子泣かしたらどうなるか、その恐ろしさを味わわせるでやんすよ!

「はいはい、で、あー、温泉ね。温泉。どこの温泉行くか言ったっけ?」
「いや、聞いてねぇでやんすよ」
「フッフ~ン、だったら驚け。俺達が行くのは、何とあのオルルタ温泉だ!」

 オ、オルルタ温泉だって――――!!?
 背景に稲妻、ピシャーン! ゴロゴロゴロゴロ――――!

「…………え、どこそれ?」
「うん、だーよねー」

 え、そんな温泉地聞いたことない。え、本気でどこ?
 グレイの反応を見る限り、私がそう答えることも予測済みだったようだが。

「何かウルラシオンの北の方にある昔有名だった温泉らしいぜ」
「昔有名だった」
「せやな」

「それは、今はさびれて有名ではないということなのでは?」
「せやな」

「つまり、実は大したことない温泉である可能性が高いのでは?」
「せやな」

「…………」
「…………」

「グレイ・メルタ」
「何ぞ」

「美味しいお料理……」
「俺は、もう、あきらめた」
「ぴー!?」

 そんな一言一言かみしめるように言わんでも!!?

「坊、そろそろ出発するぞえ」
「おっと、了解だぜー」

 二階の窓から顔を出してきた大妖怪が、グレイに向けて言ってきた。

 憧れの温泉地にいきなりケチがついてしまった。
 しかししかし、本当は、或いは、実は、ものすごくいい温泉かもしれない。

 私は希望を捨てない。私は希望を捨てたりしない!
 思いながら、私は馬車に入ろうとするグレイの後に続いて――

「おまえはあっち」

 入り口に、ラン・ドラグが立ちはだかっていた。

「え」

 ランが指さした先は、御者席である。
 そういえば、こんな大きな馬車なのに御者がいなかったでやんすねぇ。

「あの、ラン?」
「おまえは、あっち」

 だがグレイに呼ばれても反応を見せず、ランは酷薄に言い放つ。
 くまさんおぱんてーの一件以来、ランの態度は氷点下極点絶対零度だった。

 いやー、やっぱ変態は嫌われちゃうんでげすねー。
 御者席なんて屋根ないし、雨降ったらびっしょ濡れ確定。
 完全貧乏クジでげす。

「……あのランさん?」
「お ま え は あ っ ち」

 グレイは半笑いでかぶりを振りながらランに訴えかけようとする。
 しかし、ランの頑固なこと。
 腕を組んで仁王立ちになっている彼女からは、絶対にグレイを馬車の中に入れないという断固たる決意すら感じられる。

「いや、俺の話を聞いて……」
「お・ま・え・は・あ・っ・ち!!!!」
「…………はい」

 グレイが折れた。
 弱い。こいつ弱い。やっぱりこいつ、立場弱いでやんすねー!
 ぷげら、ぷげら、ぷげらっちょ!

「フッフ~ン、じゃあ御者頑張るでやんすよ~」

 ランが馬車に入ったあと、棒立ちのグレイを尻目に私も馬車に向かった。
 しかし後ろから彼が私の腕をガシっと掴んでくる。

「……何でやんす?」

 まさか、私が馬車に入るのを許さないとでもいうつもりだろうか。
 だとしたら、何という狭量。
 そんなことだから女子に嫌われてしまうのだ!

「――――お」

 グレイが何かを言いかける。
 もし『おまえのせいだ』なんて言ったならば、いよいよこの男はダメだ。

 落胆を超え、失望を超え、私はこの男に絶望するだろう。
 そうだ。元々、グレイ・メルタは私にとって暗殺対象でしかないのだ。

 それだけの関わりしかない男に、私は一体何を期待していたというのか。
 そう思いかけていた私に、彼は言った。

「置いていかないでください」
「あ、はい」

 悲愴な顔つきで懇願してくるグレイに、私は思わずうなずいていた。
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