最強パーティーを追放された貧弱無敵の自称重戦士、戦わないくせに大活躍って本当ですか?

はんぺん千代丸

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第2章 決死必殺の天才暗殺者

第50話 天才暗殺者、天才重戦士を脅す 前編

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「あっしを温泉に連れてって!」
「バカが何かを言っている」
「ぴー!?」

 グレイ・メルタに直談判したら一言で切って捨てられちゃった。
 こんな可愛いあっしに向かってバカって一体何事さー!
 この天才暗殺者ムールゥ・オーレが考えた超高度な作戦でやんすのに!

 ぴー! ホンット男って信じらんない!
 やっぱ世の中で信じられる野郎はジンバの兄貴だけでやんすわ!
 マジで! マージーでー!

 あ、ちなみにここはグレイ・メルタの部屋。
 私がこの家に戻ってきたらたまたま彼がいたので、部屋に突撃したのだ。

「つか、おまえ暗殺者とか言ってたヤツよね?」
「ギクッ」

「ギクッつったな?」
「ドキッ」

「ドキッつったな?」
「フ、フフフ、何のことだかさっぱりワケわかめでやんすよ?」

「おー、目が泳いどる泳いどる。こいつは素晴らしい遊泳っぷりだわ」
「そもそもあっしが暗殺者って名乗ったとか、一体いつの話やら!」

「おとといじゃん」
「お、おとといの話を覚えてるんでやんすか……!?」

 この男、一体どんな記憶力をしているんだ!!?

「むしろおまえの脳みその記憶容量の小ささに興味湧いてくるわ!?」

 逆に驚かれたでやんす。
 なにゆえ~?

「そもそもですよ、デッカイリボンのおぜうさん」
「ほいさ、何でやんしょ」

「こっちはおとといおまえにお命頂戴いたしま何たらとか言われたワケよ?」
「そこまで言って最後の一文字を言わないのはどういうことでげす?」

「今そういう話してないから」
「いや、でも……」

「論点ズラすのよくないから」
「あの、だって……」

「煙に巻こうったってそーはいかんからな!」
「ぴー!」

 自分からツッコミどころ見せておいて、こんにゃろう!
 気になるのに! 気ーにーなーるーのーにー!
 いや! だがしかし! こらえるでやんすよ、ムールゥ・オーレ!

 とにかく、今はグレイ・メルタへ敵対姿勢を見せないこと。
 それをこそ徹底するべきだ。
 ジンバの兄貴の期待に応えるために、この作戦は必ず成功させなければ!

 そのための第一歩!
 まずは、グレイ・メルタに温泉に連れて行ってもらう!

「何ででやんすか! 別に温泉くらいいいでしょ! 連れてってよー!」
「あのなぁ……」

 私の、己の第一目標を達成するための巧みな話術に、グレイが小さく息をつく。
 これまでとは違う反応。もしやこれは、好感触か?

「仮にだぞ、三下リボン」
「三下リボン」

 なかなかチャーミングなニックネームでやんすね!
 …………あれ、もしかしてけなされてる?

「仮におまえが俺の友達だったら、その話も考えるわ」
「じゃあ!」

「何で瞳キラッキラさせてんの? 今の会話のどこで期待を抱けたの?」
「でもほら! 知人と友人って限りなく近いアトモスフィアでやんしょ!」

「そうだな。俺を狙う暗殺者と知人だと限りなく遠いアトモスフィアだがな」
「けちー!」
「命の値段で大出血サービスなんぞできるか! 大出血がDIE出血になるわ!」

 クッ、なかなかお上手でやんすね。
 思わず故郷の風習で座布団をさしあげたくなっちまったでげすよ。

 だがまずい。
 このままでは、温泉に一緒に行くという第一目標を達成できない。
 ここをクリアできなければ、私の暗殺計画に大きな狂いが生じてしまう。

 そう、私が考えた完璧なるグレイ・メルタ暗殺計画――
 “どうせ見つかるならもう一緒に温泉行っちゃえばいいじゃん作戦”が!

 ――作戦段階その一、本人に頼んで一緒に温泉に連れてってもらう!
 ――作戦段階その二、グレイ・メルタを殺す!

 ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁふぇくつッッ!

 でもでも、このままじゃ温泉に連れてってもらえないでやんす。

 作戦の達成が!
 魅惑の秘湯が!
 美味しいお料理が!
 憧れのスローライフが!

 …………ぴー! 絶対温泉行ってやるでやんす!

 そのためにも、

「つまりグレイ・メルタは私を温泉に連れて行く気はない、と?」
「当然だろーが」
「――だったら、仕方がないですね」

 私は彼に確認をした。
 やはりか。やはり私はこのままでは目標を達成することができないか。

 半ば予想はしていたことだ。
 そしてこれにより、私が取れる手はたった一つに絞られた。

「まさか、私にこの手を使わせるとは。さすがですよ、グレイ・メルタ」
「……あ?」

 ゴゴゴゴゴ――――

「ええ。本当はこの手だけは使いたくありませんでした。しかし……」
「おまえ、一体何言ってやがる?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――

「ことここに至っては仕方がありません。あなたは、それだけ私を追い詰めた」
「……おまえ!」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
  ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ――――

「今から私はあなたを標的とは思いません。あなたは強敵です。だからこそ」
「何を、一体何をするつもりだ……!

 ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ
  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ
   ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ――――!

「さぁ、震えなさい。これが私の奥の手です!」

 私は懐に忍ばせておいたそれを、グレイ・メルタにつきつけた。
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