最強パーティーを追放された貧弱無敵の自称重戦士、戦わないくせに大活躍って本当ですか?

はんぺん千代丸

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幕間 貧弱無敵の枝葉末節

第46話 Xランク、内紛にいたる 後編

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 僕は一瞬で理解した。
 それまで通じ合っていた二人が、たった今、不倶戴天の敵を化したのを。

 キノコーンとタケノコーン。
 それはどちらもユニコーンという幻獣の亜種である。

 角の先端が球状になっていて、角自体がキノコに見えるのがキノコーン。
 角が幾つかの節に分かれていて東方の竹という植物に見えるのがタケノコーン。

 どちらも、様々な英雄伝説に登場する幻獣だ。
 役割も結構共通してて、英雄を背に乗せて走る相棒として登場することが多い。

 ただ、同時にそここそが両者の決定的な違いだったりするんだけど。

 キノコーンの英雄伝説は、最終的に主人公の英雄が栄光を掴んで終わる。
 主人公の英雄は王となり、国を栄えさせる、というのが大体のパターン。
 それゆえキノコーンは“繁栄”の象徴とされることが多い。

 一方、タケノコーンの英雄伝説は主人公が次の冒険に出て終わる。
 主人公英雄は新たな舞台で次なる英雄伝説を紡ぐ、という終わり方が主流。
 このことからタケノコーンは“成長”の象徴とされる。

 そして――

「ほ、ほぉ~? グレイの旦那はタケノコーン派であらせられましたか~」
「へぇぇぇぇ~? パニさんがまさかキノコーン派だったとはなぁ~」

 理由は不明だけど、キノコーン派とタケノコーン派はとにかく仲が悪い。
 残っている記録によると、この対立は五百年以上前から続いているらしい。

 とある国では王宮で両派閥が対立して内乱が起きたのだとか。
 最終的に勝利したキノコーン派は国内におけるタケノコーン信仰の一切を禁じ、それが原因となって十数年後にタケノコーン派によるクーデターが発生したとか。

 また別の国ではタケノコーン派だった独裁者が国内キノコーン派を全て粛清し、『血のタケノコーン大粛清』と呼ばれる歴史的大弾圧になったとか。

 この対立による事件は枚挙にいとまがないんだよぉ!
 そんな血なまぐさい対立がまさか、僕の仲間達の間で発生するなんて……。

「ふぅ~ん、タケノコーンねぇ~……」
「お、何だよパニさん、タケノコーン伝説がお好きなのかい?」
「やめてくれよ旦那。クソダセー節くれだった角の馬なんて願い下げっての」
「へぇ~……、あ、そうっすかぁ~……」

 ああああああああああ、グレイの額にあんなにくっきり青筋が!

「いやでも、キノコーン。キノコーンか~……」
「おっと、旦那も分かるのかい、キノコーン伝説のよさがよ」
「ハハ、ご冗談。あんなチ●コみてーな角のケダモノ、何がいいってのよ」
「ははぁ~、そうかい。そーかーい……」

 おおおおおおおおおお、パニさんの背中に怒りのオーラが揺らめいてる!

「ヘ、ヘヘヘ……、タケノコーンとかありえねぇわ……」
「フ、フフフ……、いやいや、キノコーンこそありえねぇでしょ……」

 まばたき!
 まばたきして二人とも!
 ガン飛ばすのに夢中になって目が開きっぱなしだよー!

 だが二人が放つ超重力めいた怒気と殺気が、僕に発言を許さなかった。
 キノコーン派とタケノコーン派の対立はいわば大宗教同士の対立にも等しい。

 互いに退くことのできない天敵同士。
 その激突に、僕の如きどちらでもない余人が介入できる隙間はないのだ。

 ――いや、だが待てよ。

 ある!
 まだ僕には希望があるぞ!

 目の前に降って湧いたパーティー断絶の危機に、僕はまだ打てる手がある。
 そうだ、アムとクゥナがいるじゃないか。

 確かに僕一人だけだったら何もできないだろう。
 しかし、三人ならどうだろうか。
 どちらでもない第三勢力がパーティー内の多数派となれば話が変わってくる。

 クゥナは僕達のパーティーメンバーじゃないけど、この際目をつむろう。
 今はとにかく、グレイとパニさんをどうにかするのが先決だ。

「アムさん、クゥナ! ちょっとあの二人を――」

「……キ、キノコーン派は死ね」
「タケノコーン派は地獄に落ちろなのよー!」

 うわあああああああああこっちもだったああああああああああああ!!?

 って、え! アムがタケノコーン派!?
 パニさんの相棒なのに!?

 って、ええ! クゥナがキノコーン派!?
 グレイの妹分なのに!!??

「何ィ! アム、あんたタケノコーン派だったのかよ!?」
「……パニちゃんがキノコーン派だったなんてぇ」

 今知ったの!?

「クゥナ、おまえがキノコーン派だったとはな。裏切られたぜ……」
「グレイにーちゃんタケノコーン派とか、信じられなーい、なのよー!」

 さらにそっちも!!?

 僕が見ている前で、パニさんとクゥナが熱い抱擁を交わし合った。
 そしてグレイとアムが、がっしりと互いの手を握り合う。

「いいよな、キノコーン!」
「キノコーンサイコーなのよー! お姫様を助けて王様エンドは王道よー!」

「タケノコーンこそ至高!」
「……こ、孤高の英雄は、や、やっぱり憧れちゃう、よね」

 言い合って、そして敵対派閥側を殺すような目で睨む四人。
 何だ。一体、僕の目の前で何が起きているというんだ。

 まさか、僕達の絆は今ここで壊れてしまうのか。
 僕達は一緒にXランクモンスターを倒した、大事な仲間同士じゃないか!
 クゥナは除く!

 だがすでに、話は僕の危惧よりもさらに先に進んでしまっていたのだ。

「でさ」
「ああ」

 グレイとパニさんが共に真顔で僕を見た。

「「ランはどっちよ?」」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 この三十分を振り返って、僕は思った。

 ――どこかに逃げ場ないかなー。

 いや、無理だよこれ!
 僕別にどっちが好きとかないもん! しいて言うならどっちも好きだよ!

「いや、分かる。分かるぜ、ランのお嬢。キノコーンだろ? うんうん、知ってた知ってた。だってランのお嬢は乙女だもんな。女の子だもんな。キノコーン伝説のお姫様救出シーンとか、亡国の王子が国を乗っ取った悪い王様と戦って、苦しみながらも国と民を救うとか、そういうの大好きなんだろ? 分かる分かる! いや、もしも仮に、万が一! 億が一! ランのお嬢が実はキノコーン伝説あんまり知らないとかだったりしても安心しろって、アタシが自信をもっておすすめのお話を教えてやるからさ! そう、まず何をもっても押さえておくべきなのは“名もなきメルス王子の伝説”とかだろうな! “恋する理性蒸発英雄伝説”辺りもアタシとしちゃあ特にオススメだね!」
「おっと、ランは“英雄位”を目指してるんだぜ? なよなよしたメスガキくせェキノコーン伝説なんざ願い下げだろ? だよな! やっぱ真の英雄は孤高でなきゃいけねぇ! 理由なんてつまんねぇことにはこだわらねぇ、そこに救うべき人がいるから救う、助けるべき国があるから助ける! 見返りなどなくても人のために命をかけて戦える者こそが真の英雄! 弱者の窮地にタケノコーンを駆って颯爽と現れる英雄は誰が見たってかっこいいとしか思えない! いやだが、しかし、もしかしたらランも実は、そんなことはないと思うがタケノコーン伝説には詳しくない可能性もある。そこで俺が最高のお話を紹介してやるぜ! 例えば“肉体労働英雄マクガロイの頭脳労働伝説”とか、“夕陽の我慢”とかは、もうとにかく見てほしいな!」
「…………」

 いつの間にかプレゼン始まってるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!?

 え、何これどうすればいいの?
 今いわれたお話、全部見ておくべきなの?

 “名もなきメルス王子の伝説”って名前あるでしょとか言っていいの?
 “恋する理性蒸発英雄伝説”ってそれ単に発情期なだけじゃないの?
 “肉体労働英雄マクガロイの頭脳労働伝説”って働きすぎだよ大丈夫?
 “夕陽の我慢”って実はそのタイトル一文字足りてないとかじゃないの?

 ええええええ、僕これ、どこから何を言えばいいの――――!

「さぁ、ランのお嬢よ」

 パニさんが身を乗り出してくる。

「なぁ、ランよぉ」

 グレイが僕ににじり寄ってくる。

「……ラ、ランちゃぁん」

 アムがいつの間にか僕の右隣にいた。

「ランねーちゃーん?」

 クゥナがいつの間にか僕の左隣にいた。

「「「「キノコーンとタケノコーン、どっち?」」」」
「ぼ、僕は……」
「「「「僕は――?」」」」

 無理、限界。

「僕はスギノコーン派だからァァァァァァァァァ!」

 そして僕は逃げ出した。
 全身を襲う強烈な重圧に、僕は耐えきれなかったのだ。
 だから逃げた。全速力で逃げた。一切振り返らずにただ逃げた。

 ――スギノコーンって何だろう。

 そんなことを思いながら。
 そして数時間経って僕がおそるおそるハウスに戻ってみると、

「「「「スギノコーン派なら仕方がないな」」」」

 スギノコーン、いるんだ!!?
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