40 / 62
第1章 最速無敵の天才重戦士
第40話 天才重戦士、英雄になる 後編
しおりを挟む
「声枯れた……」
「そりゃあんだけ泣けばなー」
十分くらい経ったかな。
俺はやっと気分的にも落ち着いていた。
いやー、泣いた。泣いた泣いた。一生×100回分くらい泣いたな!
泣きすぎて今ものどいってーし。辛ひ。
まぁ、しかし、本当に気分は落ち着いたかな。
そうだな。落ち着いた。落ち着いたから、ウン、死にてーです!
「ああああああああああ。ああああああああああああああ…………」
何だ、何だこのムズムズは。体がどうしようもなくムズムズカユカユする!
逃げたい。今、果てしなくこの場から逃げ出したい!
「クッヒッヒッヒッヒ、坊、そんなに気恥しいかえ?」
「はい」
ちょっと今、いつもの反骨精神を出してる余裕もないです。
あああああああああ、死にたい。死ねないなら隠れたい。引きこもりたい。
これか!
これが穴があったら入って埋まって葬られたいってやつか!
「バーカ、別にああいうときなら胸を貸すくらいいいのに」
「ランさん、あのね、そうじゃないの。そーゆーんじゃないの」
お胸の凶器も味わえなかったとは、どんだけギリギリだったのかな、俺。
でも胸を貸すのはOKっていう言質はとった。とったかんね!
「さて、では一つ尋ねておこうかの」
「もう何でも聞けよー、何でも答えるよー」
もう無理ッス。限界ッス。今なら何でも話しちゃうッス。
「『エインフェル』の連中は、どうなった」
「解散願いを出して、あとはギルドに全て任せる、だってよ」
明日にでも、あいつはそれをするだろう。
そこに、もう俺は関わる気はない。
あいつを生還させるという依頼は果たした。そこから先は、知らない。
「なぁ、ウル」
「何じゃね、坊」
「『エインフェル』は、どうなる」
俺は、ウルが俺にしたものと同じ問いをウルに投げた。
ヴァイスやクゥナの処遇はどうなるのか、俺は知っておかなきゃならない。
「『エインフェル』の解散願は間違いなく受理されるじゃろう。その上で、まずリオラという賢者は蘇生費用が支払われれば蘇生されるじゃろうな」
「そうか……」
ホッと安堵する。
この一件で最も辛い目にあったのがリオラだ。それを取り戻せるなら何よりだ。
蘇生費用については、ヴァイスがどうにかするだろう。多分。
「クゥナという盗賊は分からんな。ギルドからも厳重注意程度で済むじゃろう。『エインフェル』解散後はどうぞご自由に、というところじゃな」
「あのガキはいいです。あのクソガキはホントもういいです」
あんな子はもう助けてあげません!
「それで、リーダーのヴァイスについてじゃが」
「ああ」
「ランク剥奪の上、この街から追放されることになると思うぞぇ」
「……そうか」
ギルドの許可なく“大地の深淵”に入ったヴァイスには罰が下る。
それは、俺達ではどうしようもないことだ。
別に助けたいとは思わない。
事情はどうあれ、あいつは確かに罪を犯したのだ。だったら罰は必要だ。
「Fランクからの出直しじゃな」
「ま、それでもあの運命バカなら何とかやってくさ」
椅子に背をもたせ、俺は天井を見上げた。
何となく、リオラもヴァイスを追うんだろうなという確信があった。
クゥナ? 知らね。
「『エインフェル』についてはこんなところじゃの」
「ああ、そっか。ありがとよ……」
そっか。ヴァイスは街から追放、か。そっか……。
「何か思うところがあるっぽいな、グレイ」
「ん? ああ、因果なモンだなー、って思ってさ」
ことの始まりは、俺の『エインフェル』の追放だった。
そっから巡り巡って、俺は英雄と呼ばれ、あいつは追放されて、
「因果なモンさ、本当に……」
そして俺は、その一言を最後に『エインフェル』について考えるのをやめた。
俺の中でたった今、それは終わった話となった。
――さよならだ、『エインフェル』。
と、刹那の余韻に浸っていたそのとき、誰かがドアをノックする。
「大ばあ様、よろしいでしょうか」
扉の向こうから聞こえてきたのは、メルの声だった。
「メルかえ、構わんよ」
「失礼します」
ドアを開けて、丁寧にお辞儀をしてメルが部屋に入ってきた。
あ、お辞儀するところ何となくウルに似てる。やっぱ血縁なのなー。
「どうかしたかえ?」
「はい、そちらの――、ええと」
「ん? あー……」
俺は気づいた。
「そういえば俺達、まだパーティー名決めてないな」
「言われてみればそうだな」
「はいはーい! 『パニ様と下郎な手下共』がいいでーす!」
「ゲロ吐いて死ね」
「旦那、辛辣ゥ!?」
……うん、ちょっとだけ調子戻ってきたかもしれんね、俺。
「パーティー名は今度決めるわ。ンで、メルたんどしたの?」
「メルたんではありませんが、皆様のレベルが上がったことのご報告を」
あ、あーあー、そういう。そーゆーアレですかー。
ハイハイハイハイ、もはや毎度恒例のアレね。俺関係ないヤツね。
フフ、いいんですよ別に。
ええまぁ、俺も英雄の仲間入りしましたし?
レベルなんて上がらなくても別に? べーつーに、気にしないしー!
そもそも俺のおかげで他の連中のレベルが上がってるんだし?
それってつまり俺のレベルが上がってるっていえなくもないじゃん?
いやー、めでたい!
とにかくレベルが上がったのはめでたいことですなー!
誰が上がったか知らねーけどなー! 今度が誰が上がったんだろーなー!
別にグレイさん、ヤケっぱちじゃねーしー!
「おめでとうございます、皆様全員、レベルが上がっています」
「は?」
俺はぴたりと止まった。
「ランさん、パニさん、アムさん、グレイさんも、レベルが上がっています」
「は?」
…………は?
「やったなぁ、グレイ!」
「おう、何でぇこりゃ! いいこと尽くしじゃねぇかい!」
「や、やったぁ、よかったねぇ、グレイさん……」
……………………は?
何か、ランに肩を叩かれ、パニに背中を叩かれ、アムがおどおどしているけど。
え、あの、え? 上がった? 俺のレベル、が……?
「え、何かの間違い……」
「間違いではありません。グレイさんはレベル4になっています」
レベル4。
俺が、レベル4。
そうなんだ、七か月上がらなかった俺が、ここでレベル4になったかー。
んー、そうか。そうかー……。
「なぁ、ラン」
「どうした、グレイ?」
「嬉しい」
「うん! やったな!」
「嬉しすぎて、俺ちょっと気絶する」
「え」
「あとよろしく」
「ちょ」
何かみんなが騒ぎ始めたけど、ごめん。無理。処理限界超えました。
グレイ・メルタ、活動を停止します。
――暗転。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日だよ!
気が付いたら翌日だったさ!
ギルドのウルの部屋に一晩お邪魔しちゃったっつーの!
フッカフカの最高級ベッド、クッソ気持ちよかったです! イェーイ!
あ、別に泊まったの俺だけじゃなくて俺達四人全員で泊まりました。
色っぽいこと? あると思う? 俺ずっと気絶してたのよ?
しっかし、俺がレベル4かぁ。
レベル4。
レベル4。
レベル4。
…………ヘヘヘ。
いかん、顔がまたニヤけてしまう。
しっかりしろ、俺。今日は『エインフェル』のハウスの引き渡しの日だぞ。
「うわぁ、こんな大きな家が僕達の拠点になるのか……」
現在、昼間。
ウルラシオンの中心部にほど近い住宅地にその拠点はあった。
ちょっと前まで『エインフェル』が使っていた、それはそれは大きな家だ。
もうね、豪邸といっても過言じゃねーワケですよ、コレが。
まぁ、俺としたら前に使ってたトコに戻ってきただけなんだけどさ。
でも今の俺は『エインフェル』じゃねーんだよなー。
何つーか、若干複雑なところはあるよなー。とかね。
「それにしてもせわしない引き渡しだったなぁ」
「ギルドとしてもこんないい物件、持ち腐れにしたくねーんだろ」
ランと話しながら、入り口の扉にギルドでもらった鍵を差し込もうとする。
すると、扉がギィと音を立てた。……あらん?
「え、扉が開いて、る?」
俺はいぶかしみつつも扉を引いてみた。
開いた。鍵回してないのに開いたんですけど、この扉!
「ンだァ? アタシらのヤサで盗み働こうなんざ何てふてぇヤツだ!」
パニが腕まくりして大声で怒鳴った。
そうだな!
借金あるクセに依頼報酬を博打につぎ込むのと同じくらいあかんな!
だが泥棒は見逃せない。とっ捕まえたる!
俺はランとうなずきあって、一斉にハウスの中に踏み込んだ。
「そこまでだぜ、コソ泥――」
「おかえりなさいませ、ご主人様なのよー!」
…………あァん?
ハウスの中に踏み込むと、そこに泥棒はいなかった。
いたのは泥棒ではなく、華やか笑顔なメイド服姿のクゥナだった。
何してんの、おまえ。
「ご主人様、今日も一日お疲れさまなのよー! ごはんにする? お風呂にする? それとも、た・た・ら・場?」
何が悲しくて製鉄せんとあかんねん。熱くて死ぬわ!
「クゥナ君」
「はいなのよ、ご主人様!」
俺は入り口の扉の方を指さした。
「GO HOME」
「待ってー! 待ってなのよー! お願いなのよー!」
「うるさい、知るか! ええい、こんなところにいられるか、おまえは帰れ!」
「そこはにーちゃんが帰るところなのよー!」
「俺の家はこーこーでーすー! おまえの家ちゃうわーい!」
「待ってー! クゥは行くあてがないのよー、ついでにお金もないのよー!」
ええい、すがりついてくるなうっとうしい!
そんなもんは因果応報! 自業自得! 自業自爆です!
「クゥがんばってメイドさんするからー! ここに置いてなのよー!」
「知らんわ! 炊事洗濯家事全般できるようになってから言え!」
「みゃあああああああああああああああああ!」
鳴いても知りません! 知りませんからね!
「ラン、おまえからも一言言ってやれ!」
「グレイ、おまえ、妹分にメイド服着させて悦に入る趣味があったのか……」
え。
「うわ、ちょっと旦那それはないわー、ドン引きだわー」
まっ!?
「…………グレイさん、ふ、不潔ですぅ」
ちょ……!?
「「「グレイ、さいてーだな」」」
「俺、立場ちょー弱ェェェェェェェェェェェェェェ!!?」
そうして今日も真昼のウルラシオンに俺の絶叫が響き渡る。
俺が救うことができた、この街に。
俺の名はグレイ・メルタ。
ウルラシオンの街に住む、最速無敵の天才重戦士だ!
「そりゃあんだけ泣けばなー」
十分くらい経ったかな。
俺はやっと気分的にも落ち着いていた。
いやー、泣いた。泣いた泣いた。一生×100回分くらい泣いたな!
泣きすぎて今ものどいってーし。辛ひ。
まぁ、しかし、本当に気分は落ち着いたかな。
そうだな。落ち着いた。落ち着いたから、ウン、死にてーです!
「ああああああああああ。ああああああああああああああ…………」
何だ、何だこのムズムズは。体がどうしようもなくムズムズカユカユする!
逃げたい。今、果てしなくこの場から逃げ出したい!
「クッヒッヒッヒッヒ、坊、そんなに気恥しいかえ?」
「はい」
ちょっと今、いつもの反骨精神を出してる余裕もないです。
あああああああああ、死にたい。死ねないなら隠れたい。引きこもりたい。
これか!
これが穴があったら入って埋まって葬られたいってやつか!
「バーカ、別にああいうときなら胸を貸すくらいいいのに」
「ランさん、あのね、そうじゃないの。そーゆーんじゃないの」
お胸の凶器も味わえなかったとは、どんだけギリギリだったのかな、俺。
でも胸を貸すのはOKっていう言質はとった。とったかんね!
「さて、では一つ尋ねておこうかの」
「もう何でも聞けよー、何でも答えるよー」
もう無理ッス。限界ッス。今なら何でも話しちゃうッス。
「『エインフェル』の連中は、どうなった」
「解散願いを出して、あとはギルドに全て任せる、だってよ」
明日にでも、あいつはそれをするだろう。
そこに、もう俺は関わる気はない。
あいつを生還させるという依頼は果たした。そこから先は、知らない。
「なぁ、ウル」
「何じゃね、坊」
「『エインフェル』は、どうなる」
俺は、ウルが俺にしたものと同じ問いをウルに投げた。
ヴァイスやクゥナの処遇はどうなるのか、俺は知っておかなきゃならない。
「『エインフェル』の解散願は間違いなく受理されるじゃろう。その上で、まずリオラという賢者は蘇生費用が支払われれば蘇生されるじゃろうな」
「そうか……」
ホッと安堵する。
この一件で最も辛い目にあったのがリオラだ。それを取り戻せるなら何よりだ。
蘇生費用については、ヴァイスがどうにかするだろう。多分。
「クゥナという盗賊は分からんな。ギルドからも厳重注意程度で済むじゃろう。『エインフェル』解散後はどうぞご自由に、というところじゃな」
「あのガキはいいです。あのクソガキはホントもういいです」
あんな子はもう助けてあげません!
「それで、リーダーのヴァイスについてじゃが」
「ああ」
「ランク剥奪の上、この街から追放されることになると思うぞぇ」
「……そうか」
ギルドの許可なく“大地の深淵”に入ったヴァイスには罰が下る。
それは、俺達ではどうしようもないことだ。
別に助けたいとは思わない。
事情はどうあれ、あいつは確かに罪を犯したのだ。だったら罰は必要だ。
「Fランクからの出直しじゃな」
「ま、それでもあの運命バカなら何とかやってくさ」
椅子に背をもたせ、俺は天井を見上げた。
何となく、リオラもヴァイスを追うんだろうなという確信があった。
クゥナ? 知らね。
「『エインフェル』についてはこんなところじゃの」
「ああ、そっか。ありがとよ……」
そっか。ヴァイスは街から追放、か。そっか……。
「何か思うところがあるっぽいな、グレイ」
「ん? ああ、因果なモンだなー、って思ってさ」
ことの始まりは、俺の『エインフェル』の追放だった。
そっから巡り巡って、俺は英雄と呼ばれ、あいつは追放されて、
「因果なモンさ、本当に……」
そして俺は、その一言を最後に『エインフェル』について考えるのをやめた。
俺の中でたった今、それは終わった話となった。
――さよならだ、『エインフェル』。
と、刹那の余韻に浸っていたそのとき、誰かがドアをノックする。
「大ばあ様、よろしいでしょうか」
扉の向こうから聞こえてきたのは、メルの声だった。
「メルかえ、構わんよ」
「失礼します」
ドアを開けて、丁寧にお辞儀をしてメルが部屋に入ってきた。
あ、お辞儀するところ何となくウルに似てる。やっぱ血縁なのなー。
「どうかしたかえ?」
「はい、そちらの――、ええと」
「ん? あー……」
俺は気づいた。
「そういえば俺達、まだパーティー名決めてないな」
「言われてみればそうだな」
「はいはーい! 『パニ様と下郎な手下共』がいいでーす!」
「ゲロ吐いて死ね」
「旦那、辛辣ゥ!?」
……うん、ちょっとだけ調子戻ってきたかもしれんね、俺。
「パーティー名は今度決めるわ。ンで、メルたんどしたの?」
「メルたんではありませんが、皆様のレベルが上がったことのご報告を」
あ、あーあー、そういう。そーゆーアレですかー。
ハイハイハイハイ、もはや毎度恒例のアレね。俺関係ないヤツね。
フフ、いいんですよ別に。
ええまぁ、俺も英雄の仲間入りしましたし?
レベルなんて上がらなくても別に? べーつーに、気にしないしー!
そもそも俺のおかげで他の連中のレベルが上がってるんだし?
それってつまり俺のレベルが上がってるっていえなくもないじゃん?
いやー、めでたい!
とにかくレベルが上がったのはめでたいことですなー!
誰が上がったか知らねーけどなー! 今度が誰が上がったんだろーなー!
別にグレイさん、ヤケっぱちじゃねーしー!
「おめでとうございます、皆様全員、レベルが上がっています」
「は?」
俺はぴたりと止まった。
「ランさん、パニさん、アムさん、グレイさんも、レベルが上がっています」
「は?」
…………は?
「やったなぁ、グレイ!」
「おう、何でぇこりゃ! いいこと尽くしじゃねぇかい!」
「や、やったぁ、よかったねぇ、グレイさん……」
……………………は?
何か、ランに肩を叩かれ、パニに背中を叩かれ、アムがおどおどしているけど。
え、あの、え? 上がった? 俺のレベル、が……?
「え、何かの間違い……」
「間違いではありません。グレイさんはレベル4になっています」
レベル4。
俺が、レベル4。
そうなんだ、七か月上がらなかった俺が、ここでレベル4になったかー。
んー、そうか。そうかー……。
「なぁ、ラン」
「どうした、グレイ?」
「嬉しい」
「うん! やったな!」
「嬉しすぎて、俺ちょっと気絶する」
「え」
「あとよろしく」
「ちょ」
何かみんなが騒ぎ始めたけど、ごめん。無理。処理限界超えました。
グレイ・メルタ、活動を停止します。
――暗転。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日だよ!
気が付いたら翌日だったさ!
ギルドのウルの部屋に一晩お邪魔しちゃったっつーの!
フッカフカの最高級ベッド、クッソ気持ちよかったです! イェーイ!
あ、別に泊まったの俺だけじゃなくて俺達四人全員で泊まりました。
色っぽいこと? あると思う? 俺ずっと気絶してたのよ?
しっかし、俺がレベル4かぁ。
レベル4。
レベル4。
レベル4。
…………ヘヘヘ。
いかん、顔がまたニヤけてしまう。
しっかりしろ、俺。今日は『エインフェル』のハウスの引き渡しの日だぞ。
「うわぁ、こんな大きな家が僕達の拠点になるのか……」
現在、昼間。
ウルラシオンの中心部にほど近い住宅地にその拠点はあった。
ちょっと前まで『エインフェル』が使っていた、それはそれは大きな家だ。
もうね、豪邸といっても過言じゃねーワケですよ、コレが。
まぁ、俺としたら前に使ってたトコに戻ってきただけなんだけどさ。
でも今の俺は『エインフェル』じゃねーんだよなー。
何つーか、若干複雑なところはあるよなー。とかね。
「それにしてもせわしない引き渡しだったなぁ」
「ギルドとしてもこんないい物件、持ち腐れにしたくねーんだろ」
ランと話しながら、入り口の扉にギルドでもらった鍵を差し込もうとする。
すると、扉がギィと音を立てた。……あらん?
「え、扉が開いて、る?」
俺はいぶかしみつつも扉を引いてみた。
開いた。鍵回してないのに開いたんですけど、この扉!
「ンだァ? アタシらのヤサで盗み働こうなんざ何てふてぇヤツだ!」
パニが腕まくりして大声で怒鳴った。
そうだな!
借金あるクセに依頼報酬を博打につぎ込むのと同じくらいあかんな!
だが泥棒は見逃せない。とっ捕まえたる!
俺はランとうなずきあって、一斉にハウスの中に踏み込んだ。
「そこまでだぜ、コソ泥――」
「おかえりなさいませ、ご主人様なのよー!」
…………あァん?
ハウスの中に踏み込むと、そこに泥棒はいなかった。
いたのは泥棒ではなく、華やか笑顔なメイド服姿のクゥナだった。
何してんの、おまえ。
「ご主人様、今日も一日お疲れさまなのよー! ごはんにする? お風呂にする? それとも、た・た・ら・場?」
何が悲しくて製鉄せんとあかんねん。熱くて死ぬわ!
「クゥナ君」
「はいなのよ、ご主人様!」
俺は入り口の扉の方を指さした。
「GO HOME」
「待ってー! 待ってなのよー! お願いなのよー!」
「うるさい、知るか! ええい、こんなところにいられるか、おまえは帰れ!」
「そこはにーちゃんが帰るところなのよー!」
「俺の家はこーこーでーすー! おまえの家ちゃうわーい!」
「待ってー! クゥは行くあてがないのよー、ついでにお金もないのよー!」
ええい、すがりついてくるなうっとうしい!
そんなもんは因果応報! 自業自得! 自業自爆です!
「クゥがんばってメイドさんするからー! ここに置いてなのよー!」
「知らんわ! 炊事洗濯家事全般できるようになってから言え!」
「みゃあああああああああああああああああ!」
鳴いても知りません! 知りませんからね!
「ラン、おまえからも一言言ってやれ!」
「グレイ、おまえ、妹分にメイド服着させて悦に入る趣味があったのか……」
え。
「うわ、ちょっと旦那それはないわー、ドン引きだわー」
まっ!?
「…………グレイさん、ふ、不潔ですぅ」
ちょ……!?
「「「グレイ、さいてーだな」」」
「俺、立場ちょー弱ェェェェェェェェェェェェェェ!!?」
そうして今日も真昼のウルラシオンに俺の絶叫が響き渡る。
俺が救うことができた、この街に。
俺の名はグレイ・メルタ。
ウルラシオンの街に住む、最速無敵の天才重戦士だ!
0
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる