最強パーティーを追放された貧弱無敵の自称重戦士、戦わないくせに大活躍って本当ですか?

はんぺん千代丸

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第1章 最速無敵の天才重戦士 

第38話 天才重戦士、堪能して満喫して叱られる

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 俺とヴァイスは何とか生き残った。
 生き残って、ついにウルラシオンの街に帰ってくることができた。

「…………疲れた。死ぬほど」
「だから、ごめんってば~……!」

 精も根も尽き果てて半ば生けるしかばねと化している俺に、全然元気なランが手を合わせて謝ってくる。

「……………………」

 俺の隣では、ヴァイスが俺以上にリビングデッドしてて、ちょっと頬の辺りがこけて感じだ。
 うん、よく頑張った。あの地獄ということすら生ぬるい一分間を、よく生き残ったよ。

「…………僕は、ここで」
「って、オイ」

 冒険者ギルド前で、ヴァイスは手を振って立ち去ろうとする。
 待て待て、ちょっと待て!

「あのさぁ、ヴァイス君さぁ……」
「いや、逃げないから。別に。ちょっと一日だけ時間をくれ。明日、ギルドに出頭する」

 疲れ切っちゃいるが、言葉そのものはしっかりとしている。
 ランが俺を見てくる。自分じゃ判断できないってことなんだろうが――、

「はぁ~、好きにしろよ……。明日絶対来いよ?」
「ああ。もちろんだよ」

 そしてヴァイスはふらふらと弱い足取りで歩いていく。
 その背中は、とても小さく見えた。そう見てしまった俺は傲慢なのだろうか。
 とはいえ、俺ももうかなり疲れ切って、これ以上のゴタゴタはキツい。とにかく休みたいっす。

「さっさとギルド行って報告して報酬貰って休もう、な?」
「本当に疲れてんだね、グレイ」
「何でおまえは見るからに元気なのか、これがわからない……」
「ん~、鍛え方の違い?」
「すいません、その言葉が通用するの、人類の範疇に収まるナマモノだけなんですよ」
「地味にひどいな!?」

 言い合いつつ、俺とランはギルドの入り口をくぐった。

「よ。おかえりー」
「あ、お、おかえりなさい……」

 パニとアムがいた。

「じゃ、おつかれー」
「お、お、お疲れさまでした……」

 そしてパニとアムは俺達の横を通り過ぎてギルドを出ていこうとする。

「待てい」

 俺は手を伸ばし、ピンク色の後ろ頭をワシっと掴んだ。
 すると、パニの懐から鈍い金属音がする。

 やっぱりな。
 や~~~~っぱりな~~~~。

「おっと、気づかれちゃ仕方がねぇ。アム!」
「う、うん、パニちゃん……!」
「あばよ!」
「え」

 パニがアムを突き飛ばし、俺にぶつけてきた。
 おっま、アムを犠牲にして自分だけ逃げる気かコラァァァァァァァ!

 ぽよん。

 あ、顔にアムの特大やわらか胸部装甲が当たって……。

 ぽよよんぽよよん。

 あ。あ。あ。あ。あ。あ。

 ぽよよんよん。

「…………あふぅ」
「目を閉じて満喫するな」

 いってぇ!!?
 ランに頭をはたかれた。
 オイ、俺の頭がゴヅッっていったぞ、ゴヅッて!

「何しますのん!」
「おまえが何してるんだよ。パニさんちゃんと捕まえてろよ!」

 そんな正論は聞きとうない!
 男には全てを投げ出してでも浸りたいやわらかアメイジングがあるんです!

「う……、グ、グレイさん、えっちですよぅ~……」

 などと思っていると、アムが自分の胸を手で隠して身をひねった。

 ほんのり頬を赤くして恥じらう眼鏡のおにゃのこ。
 くぁ~~~……、ナイス! 実にナイス! 心の中で俺、サムズアップ!

「で、パニさんは?」
「ちゃんと捕まえてあるよ」

 見ると、ランに首根っこを掴まれたパニが、猫みたいにぶら下がっていた。
 すさまじい仏頂面だ。が、暴れないところを見ると観念したらしい。

「さて、俺達より先に街に戻ってギルドから自分の分の報酬を受け取って意気揚々とカジノに繰り出そうとしていたパニさん。何か言うことは?」
「ぶにゃ~」

 パニが鳴いた。頭に猫耳カチューシャをつけて。

「おまえいつそれつけた!!?」
「バカな……。見えなかった。僕の目をもってしても……」
「にゃ?」

 猫マネをしてパニは首をかしげる。
 可愛い。可愛いが、こいつがパーティー最年長である。

「ラン、さっさと回収しちゃって」
「はいよー」
「あ、こらやめろえっち! アタシの報酬だぞー! あ、ぃや、ン……ッ」

 懐をまさぐられてパニが抗議してくるが、何で最後に喘ぐのさ。
 で、ランが金の入った皮袋を取り出すワケだけど――

「あれ、これだけ?」

 ランの手が掴んだのは中身が詰まった革袋だが、ちょい待て何これ。
 どう見ても一人分もねーじゃん。

「えっ! 一人分ってもっと多いのかよ!?」

 何でそこでパニが驚くの?

「パ、パニちゃんの分まで、が、頑張ってくるからね……!」

 そこで聞こえたのがアムの声だ。
 彼女が歩くとヂャリリンヂャリリンと明らかに多量の金の音がする。

 しまった!
 あっちが本命だったのか!

「あ、逃げた! もぉ、グレイ、何してるんだよ!」
「うるせーな! ごめんなさいですよ!」

 クソッ! やわらかアメイジングに騙された!
 アムめ、最初からそのつもりで!

「コラ、アム――! またアタシを囮に使いやがったなァァァァァァァ!」

 って、前にもあったんかい。
 こいつらの力関係どっちが上かわっかんねーな、これ!

「ごめん、ごめんねパニちゃん、でも私、今日は競馬で勝てる気がするの……!」

 動機が最低だ。
 前々から思ってたけどこの凸バスと凹バス、ダメ人間として純度高すぎね?

「クッソォォォォォォォ! アム! テメー覚えてろよ、こらー!」
「わっ、オイ、こら! パニさん暴れないでよ!」

 パニが手足をジタバタさせて暴れる。
 おかげで、俺とランの意識はそっちに割かれてしまった。

「うう、い、今だよぉ~。ご、ごめん、ごめんねパニちゃぁ~ん……」

 アムがギルド入り口付近まで逃げた。
 あかん、急いで追いかけないと逃げ切られてしまう。
 つか君、申し訳なさそうにしつつ行動に躊躇ないのどーなの? 鬼なの?

「おっと、さすがに見過ごせんのぉ」

 だが、突然の聞き慣れた声。

「はうっ」

 そしてアムが走ろうとするポーズのままピシっと固まった。
 俺は追いついて、その腕を掴んでみる。うわ硬ェ。完全に固まってる。

「……助かったぜ、ウル」
「クッヒッヒ、少々のお痛は目をつむるが、さすがにこれはのう」

 いつも通りにフワフワ浮いて、ウルが俺の隣にやってくる。
 しかし、アムはまるで彫像のようになっていた。何すればこうなるんだ?

「ちょいと、アムを構成している素粒子の活動を停止させただけじゃよ」
「つまり?」
「疑似的な時間停止じゃな。外部から干渉することはできるがのう」
「へー、そっかー」
「おんしにまともな説明をしたわしが愚かだったわい」

 結論出すの早すぎない?
 いや、確かに難しいことよく分からんけどさ!

「ともあれ、無事に戻ってきたようで何よりじゃ。……部屋の方に行こうかの」

 ウルが受付カウンターの方を見る。
 その視線に気づいたメルが、軽く頭を下げて奥の方へと入っていった。

「んでは、上で待っとるぞぇ」

 言うと、ウルの姿が固まっているアムと共にフッと消えた。

 はぇ~……。
 やっぱあのチビロリ、大賢者なんだなー……。

「何呆けてるんだ、グレイ。行こうよ」
「あ、ああ。行くか」
「ぶみゃ~」

 ぶら下げられたまま、またパニが鳴いた。猫しっぽをゆらゆらさせて。

「おまえいつそれつけた!!?」
「バカな……。見えなかった。僕の目をもってしても……」
「にゃ?」

 天丼だった。
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