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第1章 最速無敵の天才重戦士
第23話 最強パーティー、嘲笑される
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僕はヴァイス、Aランク冒険者だ。
ウルラシオン最強のパーティー『エインフェル』のリーダーをしている。
「ガァァァァァァァァァ――――ッ!」
広い空洞に響き渡るのは、僕の五倍はあろうかという巨人。
雄牛の頭部を持ち、全身が鱗に包まれたそのモンスターはダンジョン地下五十階以降に出現するミノタウロスの上位種であった。
「声ばかりは立派だな」
振り下ろされる大斧を、僕は避けるでもなく受け止めに行く。
下から上に、斬り上げる一閃が僕を潰すはずの大斧を逆に断ち切った。
少し間を置き、後方にズズンと重い音が響く。
僕に斬り飛ばされた大戦斧の残骸が地面に落ちた音だ。
「グモォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
「怖いのかい? 怒っているのかい? 僕にはどっちでもいいけど」
僕は言って、地面を強く蹴った。
ヒラリ、跳躍して狙うのはミノタウロス上位種の頭部だ。
全身が分厚い鱗に包まれたこのモンスターは、しかし頭部は比較的やわい。
狙うのは眉間。そこに、逆手に持ち替えた剣を深く突き立てた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「この距離だとさすがに耳障りだよ。黙ってくれ」
剣を介して、僕はミノタウロス上位種の頭に魔法を叩き込む。
ゴボンッ、と、くぐもった爆音が轟いた。
上位種の両目が内側から爆ぜて、耳からも血と肉片が飛び散った。
骨そのものはかなり頑丈だったらしく、しっかりと形を残している。
しかし、脳まで一気に破砕されて生きていられるはずもない。
剣を抜いた僕は飛び退くと、巨体はゆっくりと傾いでそのまま倒れた。
「お疲れ様です」
着地した僕に、見ていたリオラが声をかけてきた。
上位種の血肉ですっかり汚れた僕に、彼女は小さく詠唱をして、
「これで、汚れも消えました」
魔法による洗浄。
何を大仰なことをと思う輩もいるかもしれないが、地下四十階以降のモンスターは基本的にその血の一滴ですら猛毒だ。
そして、地下に降りれば降りるほど、モンスターとの戦闘ではなりふり構っていられなくなり、血を浴びる機会も多くなる。
戦闘後の返り血の洗浄は、この階層ともなればもはや必須事項なのだ。
「弱いクセに僕の前に立つからこうなるんだよ」
僕は横たわる上位種の骸を見つめてつぶやいた。
剣を鞘に納めて、息をつく。
周りにある骸は上位種だけではなかった。
どれくらい殺しただろうか。五十から先は数えていない。
「さすがですね、ヴァイス」
「この程度、そう言われるほどのことでもないさ」
むせかえるような血臭の中、僕は肩をすくめた。
準備運動にはちょうどよかったけど、準備運動以上にはならなかったな。
現在、ウルラシオンダンジョン、地下五十九階。
ここまでは、構造こそ複雑だがまだダンジョンとしての体裁は保たれている。
しかしここから先はそれもなくなる。
地下六十階以降はダンジョンの混沌化がいよいよ世界構造レベルに及ぶのだ。
“大地の深淵”の手前に横たわる最後の難関だ。
実情を知る者からは“天地万華鏡(カレイドアーク)”とも呼ばれる地下六十階以降。
もはやダンジョンそのものがモンスターよりも厄介な敵と化す場所だ。
だがどうということはない。
何が“天地万華鏡”だ。
“大地の深淵”を目指す僕達にはこけおどしにもならない。
「行こうか、リオラ」
「はい、共に参りましょう。ヴァイス」
先へと続く空間魔法陣をくぐって、僕とリオラはさらに深くへと向かう。
この場にクゥナはいない。別に、彼女がいなくても僕は構わない。
クゥナはもう『エインフェル』には必要ない。
所詮、一人では何もできないあんな子供。ああ、いなくていいさ。
「リオラ」
「何ですか、ヴァイス」
「君は、僕のために死んでくれるね」
「もちろんです」
何の迷いもない物言いで、リオラは僕に言ってくれた。
いい子だ。
そんなリオラだからこそ、僕が使うに相応しい。
今や、『エインフェル』は僕と彼女、たった二人だけになった。
それでも何も変わらない。依然、僕らが最強だ。
最強であり、最高のAランクパーティー。
そう、それこそが僕達、『エインフェル』なんだ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二日前のことだ。
「どういうことだ、クゥナ。売ってもらえなかっただと!」
拠点に使っているハウスの一室で、僕はクゥナに詰め寄った。
彼女には次の“大地の深淵”突入に向けて、必要なアイテム一式を買い揃えるよう命じていた。
しかし、数時間経って戻ってきたクゥナは買えなかったと、僕に告げた。
「ううう、だってだって、もうクゥ達には売れないって……」
「それで何も言わずに帰ってきたのか。子供のお使いじゃないんだぞ!」
僕達にアイテムを売れないとはどういうことだ。
ずっとずっと、あの商会を重用してやってきたのに、今になって裏切るのか!
「ヴァイスにーちゃん、やっぱりお金なしでアイテムは買えないのよ」
「そんなことはない。今までだってずっとそうだっただろう!」
そもそも現金なんてあるはずがない。
僕達の最初の全滅時の蘇生費用と二回目の突入準備や諸々で全て使い切っている。
だがこんなことは初めてじゃない。
前だって、現金がなくてもアイテムを都合してくれたことは何度もあった。
それがどうして、今になってアイテムを売れないなんて――
「それだけ、おまえ達の信用が失墜したということだ」
招かれざる者の声がした。
ドアの方を見てみれば、そこにはザレックが立っていた。
「ザレックおじちゃん、それどういう意味なのよー!」
「俺はおじちゃんではないが、そんなことよりも、本当に分からないのか」
随分と居丈高に言ってくれるじゃないか。
だが、ザレックの言葉などもはや聞くに値しない。僕は嘆息する。
「もう『エインフェル』じゃない君が、今になって何の用だ」
「無論、報酬をもらいに来た」
「……報酬、だと」
「そうだ。“大地の深淵”に二度挑んだ、その仕事の報酬だ」
この男は、一体何を言っているんだ。
ろくに僕達を守ることもできないまま、僕に逆らった無能な壁役が。
「君に支払うものなど一切ない。自分の身の程を弁えろ」
「身の程を弁えろ、か。それは鏡を見て言うべき言葉なのではないか?」
何という露骨な挑発だろうか。
だが、僕は不毛な会話を好まない。それよりも、彼の言葉の方が気になっていた。
「ザレック、失墜したとは、どういう意味だ」
「そのままだ、ヴァイス。もはや『エインフェル』の名に力などない」
「何をバカな」
「本当にそう言い切れるのか」
ザレックがニタリといやらしく笑う。
知らなかった。この男は、こんなにも下卑た笑みを浮かべられるのか。
『エインフェル』に招き入れた当初、僕は彼をもっと高潔な人物だと見ていた。
しかし、そんなことはなかったみたいだ。
彼もやはり、僕が使うに値したい無能。
“鋼壁”などという大仰な異名も、全く分不相応だ。名が泣くとはこのことか。
「フン、この期に及んでも自分は人を使う側だというのだな、ヴァイス」
「だったらどうだっていうんだい?」
「おめでたいな。若さゆえか? それとも、元々そういう性格なのか」
こいつは、何が言いたい。
わざわざ僕を苛立たせようとして、彼に何の益がある。
「『エインフェル』の実績は凄まじい。それは俺も認めるところだ」
だが急に、ザレックは話の向きを変えてきた。
挑発のあとにわざとらしい称賛。本当に意味が分からない。僕は疑問に目を細めた。
「冒険者になってたった一年でAランクに到達した最強パーティー。メンバーはいずれも王位級の加護を授かり、そしてまれにみる驚異的な速度で成長し続け、たった一年で全員がレベル40オーバーとは、ああ恐れ入る。完全に異常と言うほかない」
「……それで?」
「そこで一つ確認したいことがある」
「何だい」
「レベルは上がったか?」
――こいつ。
「一瞬だが顔が強張ったな、ヴァイス」
ザレックが口角を大きく吊り上げた。
自分の優位を確信したとでも言いたいのだろうか、この無能は。
「上がっていないが、それがどうかしたのかい?」
「そうかそうか、やはりな。そうだろうとも」
ザレックが浮かべる得意げな顔は、かなり汚く映った。
この、自分の方が上に立っているのだということを信じて疑わない顔つき。
何と醜い。そして何と愚かしい。
一体誰が、僕の上に立てるというんだ。
無能の冒険者風情が、Aランクを名乗る資格などこいつにあるとは思えない。
「すでにこの街では、『エインフェル』は限界だという噂が広まっているぞ」
「……何だと?」
「やはり知らなかったか。おまえは街の噂など意に介さないだろうからな」
ザレックは「やれやれ」と肩をすくめるが、僕にはそれどころじゃない。
限界? 僕の『エインフェル』が、限界だって?
「三度のSランクダンジョンン攻略失敗。一度の全滅。前途あるBランクを見殺しにした薄情さの露呈。そして、上がらなくなったレベル。……“英雄位”が満たすべき三つの条件は覚えているか、ヴァイス」
「――“三実”。実績、実力、実像。実像とは人格のことを示す」
「そうだ。単純に実績と力だけではない、人格や精神性も最高のものを持たなければ“英雄位”とは認められない。冒険者ならば誰もが知っていることだ」
「それが一体何だっていうんだ!」
ついつい、僕は声を荒げてしまう。
余裕をなくしている? この僕が? こんな役立たずを相手にか!?
「ここまで言っても分からんか。ならばはっきり教えてやろう」
身構える僕の前で、ザレックはたっぷりと焦らしながら、やがて言った。
「――『エインフェル』は、もう終わりということだ」
ウルラシオン最強のパーティー『エインフェル』のリーダーをしている。
「ガァァァァァァァァァ――――ッ!」
広い空洞に響き渡るのは、僕の五倍はあろうかという巨人。
雄牛の頭部を持ち、全身が鱗に包まれたそのモンスターはダンジョン地下五十階以降に出現するミノタウロスの上位種であった。
「声ばかりは立派だな」
振り下ろされる大斧を、僕は避けるでもなく受け止めに行く。
下から上に、斬り上げる一閃が僕を潰すはずの大斧を逆に断ち切った。
少し間を置き、後方にズズンと重い音が響く。
僕に斬り飛ばされた大戦斧の残骸が地面に落ちた音だ。
「グモォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
「怖いのかい? 怒っているのかい? 僕にはどっちでもいいけど」
僕は言って、地面を強く蹴った。
ヒラリ、跳躍して狙うのはミノタウロス上位種の頭部だ。
全身が分厚い鱗に包まれたこのモンスターは、しかし頭部は比較的やわい。
狙うのは眉間。そこに、逆手に持ち替えた剣を深く突き立てた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「この距離だとさすがに耳障りだよ。黙ってくれ」
剣を介して、僕はミノタウロス上位種の頭に魔法を叩き込む。
ゴボンッ、と、くぐもった爆音が轟いた。
上位種の両目が内側から爆ぜて、耳からも血と肉片が飛び散った。
骨そのものはかなり頑丈だったらしく、しっかりと形を残している。
しかし、脳まで一気に破砕されて生きていられるはずもない。
剣を抜いた僕は飛び退くと、巨体はゆっくりと傾いでそのまま倒れた。
「お疲れ様です」
着地した僕に、見ていたリオラが声をかけてきた。
上位種の血肉ですっかり汚れた僕に、彼女は小さく詠唱をして、
「これで、汚れも消えました」
魔法による洗浄。
何を大仰なことをと思う輩もいるかもしれないが、地下四十階以降のモンスターは基本的にその血の一滴ですら猛毒だ。
そして、地下に降りれば降りるほど、モンスターとの戦闘ではなりふり構っていられなくなり、血を浴びる機会も多くなる。
戦闘後の返り血の洗浄は、この階層ともなればもはや必須事項なのだ。
「弱いクセに僕の前に立つからこうなるんだよ」
僕は横たわる上位種の骸を見つめてつぶやいた。
剣を鞘に納めて、息をつく。
周りにある骸は上位種だけではなかった。
どれくらい殺しただろうか。五十から先は数えていない。
「さすがですね、ヴァイス」
「この程度、そう言われるほどのことでもないさ」
むせかえるような血臭の中、僕は肩をすくめた。
準備運動にはちょうどよかったけど、準備運動以上にはならなかったな。
現在、ウルラシオンダンジョン、地下五十九階。
ここまでは、構造こそ複雑だがまだダンジョンとしての体裁は保たれている。
しかしここから先はそれもなくなる。
地下六十階以降はダンジョンの混沌化がいよいよ世界構造レベルに及ぶのだ。
“大地の深淵”の手前に横たわる最後の難関だ。
実情を知る者からは“天地万華鏡(カレイドアーク)”とも呼ばれる地下六十階以降。
もはやダンジョンそのものがモンスターよりも厄介な敵と化す場所だ。
だがどうということはない。
何が“天地万華鏡”だ。
“大地の深淵”を目指す僕達にはこけおどしにもならない。
「行こうか、リオラ」
「はい、共に参りましょう。ヴァイス」
先へと続く空間魔法陣をくぐって、僕とリオラはさらに深くへと向かう。
この場にクゥナはいない。別に、彼女がいなくても僕は構わない。
クゥナはもう『エインフェル』には必要ない。
所詮、一人では何もできないあんな子供。ああ、いなくていいさ。
「リオラ」
「何ですか、ヴァイス」
「君は、僕のために死んでくれるね」
「もちろんです」
何の迷いもない物言いで、リオラは僕に言ってくれた。
いい子だ。
そんなリオラだからこそ、僕が使うに相応しい。
今や、『エインフェル』は僕と彼女、たった二人だけになった。
それでも何も変わらない。依然、僕らが最強だ。
最強であり、最高のAランクパーティー。
そう、それこそが僕達、『エインフェル』なんだ――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二日前のことだ。
「どういうことだ、クゥナ。売ってもらえなかっただと!」
拠点に使っているハウスの一室で、僕はクゥナに詰め寄った。
彼女には次の“大地の深淵”突入に向けて、必要なアイテム一式を買い揃えるよう命じていた。
しかし、数時間経って戻ってきたクゥナは買えなかったと、僕に告げた。
「ううう、だってだって、もうクゥ達には売れないって……」
「それで何も言わずに帰ってきたのか。子供のお使いじゃないんだぞ!」
僕達にアイテムを売れないとはどういうことだ。
ずっとずっと、あの商会を重用してやってきたのに、今になって裏切るのか!
「ヴァイスにーちゃん、やっぱりお金なしでアイテムは買えないのよ」
「そんなことはない。今までだってずっとそうだっただろう!」
そもそも現金なんてあるはずがない。
僕達の最初の全滅時の蘇生費用と二回目の突入準備や諸々で全て使い切っている。
だがこんなことは初めてじゃない。
前だって、現金がなくてもアイテムを都合してくれたことは何度もあった。
それがどうして、今になってアイテムを売れないなんて――
「それだけ、おまえ達の信用が失墜したということだ」
招かれざる者の声がした。
ドアの方を見てみれば、そこにはザレックが立っていた。
「ザレックおじちゃん、それどういう意味なのよー!」
「俺はおじちゃんではないが、そんなことよりも、本当に分からないのか」
随分と居丈高に言ってくれるじゃないか。
だが、ザレックの言葉などもはや聞くに値しない。僕は嘆息する。
「もう『エインフェル』じゃない君が、今になって何の用だ」
「無論、報酬をもらいに来た」
「……報酬、だと」
「そうだ。“大地の深淵”に二度挑んだ、その仕事の報酬だ」
この男は、一体何を言っているんだ。
ろくに僕達を守ることもできないまま、僕に逆らった無能な壁役が。
「君に支払うものなど一切ない。自分の身の程を弁えろ」
「身の程を弁えろ、か。それは鏡を見て言うべき言葉なのではないか?」
何という露骨な挑発だろうか。
だが、僕は不毛な会話を好まない。それよりも、彼の言葉の方が気になっていた。
「ザレック、失墜したとは、どういう意味だ」
「そのままだ、ヴァイス。もはや『エインフェル』の名に力などない」
「何をバカな」
「本当にそう言い切れるのか」
ザレックがニタリといやらしく笑う。
知らなかった。この男は、こんなにも下卑た笑みを浮かべられるのか。
『エインフェル』に招き入れた当初、僕は彼をもっと高潔な人物だと見ていた。
しかし、そんなことはなかったみたいだ。
彼もやはり、僕が使うに値したい無能。
“鋼壁”などという大仰な異名も、全く分不相応だ。名が泣くとはこのことか。
「フン、この期に及んでも自分は人を使う側だというのだな、ヴァイス」
「だったらどうだっていうんだい?」
「おめでたいな。若さゆえか? それとも、元々そういう性格なのか」
こいつは、何が言いたい。
わざわざ僕を苛立たせようとして、彼に何の益がある。
「『エインフェル』の実績は凄まじい。それは俺も認めるところだ」
だが急に、ザレックは話の向きを変えてきた。
挑発のあとにわざとらしい称賛。本当に意味が分からない。僕は疑問に目を細めた。
「冒険者になってたった一年でAランクに到達した最強パーティー。メンバーはいずれも王位級の加護を授かり、そしてまれにみる驚異的な速度で成長し続け、たった一年で全員がレベル40オーバーとは、ああ恐れ入る。完全に異常と言うほかない」
「……それで?」
「そこで一つ確認したいことがある」
「何だい」
「レベルは上がったか?」
――こいつ。
「一瞬だが顔が強張ったな、ヴァイス」
ザレックが口角を大きく吊り上げた。
自分の優位を確信したとでも言いたいのだろうか、この無能は。
「上がっていないが、それがどうかしたのかい?」
「そうかそうか、やはりな。そうだろうとも」
ザレックが浮かべる得意げな顔は、かなり汚く映った。
この、自分の方が上に立っているのだということを信じて疑わない顔つき。
何と醜い。そして何と愚かしい。
一体誰が、僕の上に立てるというんだ。
無能の冒険者風情が、Aランクを名乗る資格などこいつにあるとは思えない。
「すでにこの街では、『エインフェル』は限界だという噂が広まっているぞ」
「……何だと?」
「やはり知らなかったか。おまえは街の噂など意に介さないだろうからな」
ザレックは「やれやれ」と肩をすくめるが、僕にはそれどころじゃない。
限界? 僕の『エインフェル』が、限界だって?
「三度のSランクダンジョンン攻略失敗。一度の全滅。前途あるBランクを見殺しにした薄情さの露呈。そして、上がらなくなったレベル。……“英雄位”が満たすべき三つの条件は覚えているか、ヴァイス」
「――“三実”。実績、実力、実像。実像とは人格のことを示す」
「そうだ。単純に実績と力だけではない、人格や精神性も最高のものを持たなければ“英雄位”とは認められない。冒険者ならば誰もが知っていることだ」
「それが一体何だっていうんだ!」
ついつい、僕は声を荒げてしまう。
余裕をなくしている? この僕が? こんな役立たずを相手にか!?
「ここまで言っても分からんか。ならばはっきり教えてやろう」
身構える僕の前で、ザレックはたっぷりと焦らしながら、やがて言った。
「――『エインフェル』は、もう終わりということだ」
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