4 / 62
第1章 最速無敵の天才重戦士
第4話 天才重戦士、冒険者ギルドに行く
しおりを挟む
「え、ダメですけど?」
勇んでSランクダンジョンへの挑戦を申請したところ、その一言で却下された。
ガーンだな。
勢いに乗ろうとした早々、いきなり壁にクラッシュだ。
「……なして?」
俺は問うと、カウンターの向こう側、受付のメルがメガネをキランと光らせた。
「Sランクダンジョンに挑戦できるのはAランクパーティーだけですので」
「俺、Aランク冒険者じゃん!」
「Aランク、『パーティー』、と申し上げました」
「俺一人でパーティー全ての役割をこなす、つまり俺=パーティー!」
「え、ダメですけど?」
そしてまたバッサリ却下された。
絶望した俺はカウンターに突っ伏して低い声で嘆く。
「うううう、メルたんが優しくない……」
「メルたんではありませんが」
「そこを何とか……」
「なりませんよ?」
「今なら俺、やれるような気がするんです!」
「ギャンブルにどっぷり浸かっている人みたいな言い方ですね」
「99%不可能でも、1%でも可能性があるなら……!」
「最初から最後まで0%です」
俺の必死の訴えも、だがメルには通じずクールに捌かれてしまう。
クッ、いくら見た目が俺の好みド直球だからっていい気になりやがって。
水色髪ショートの隠れ巨乳クール童顔メガネちゃんとか、ホント反則ッスよね。
「そうか。よし、分かった」
俺はため息と共に仕方なさげにうなずいた。ああ、ここでゴネ続けても仕方ない。
思考を建設的にやるべきだ。前を向いていこうじゃないか。
今の俺はこの程度では折れない。
何せ、完全無敵だからな。完全無敵の天才重戦士だからな!
「つまりアレだな、俺がAランクパーティーを結成すればいいんだな?」
切り替えて、俺はメルに問う。
「規約的にはそうなりますが、まさか結成されるおつもりですか?」
「するする。俺もAランク冒険者だし、不可能じゃねーだろ」
一人じゃ無理ってんなら、仲間を集めるまでだ。
このウルラシオンにいなくても、他の街にならAランク冒険者もいるはず。
元『エインフェル』の名前を使ってでもそいつらを仲間にする。
ヴァイス達の知名度に頼るのも業腹だが、目的達成のためには仕方が――
「グレイさんはAランク冒険者ではありませんが?」
「は?」
いきなり前提からブッ壊されたんだが。
「レベル3でAランク冒険者になれるわけないでしょう?」
「あ、はい。ごもっともで……」
うん。
なるほど。
なるほど。
そりゃあそうだ。俺、レベル3だもんな。そうだよなー。
……いや待って、おかしい。おかしいよ?
「こないだまでギルドのサービス、Aランク基準で受けれてたじゃん!」
「それはグレイさんが『エインフェル』のメンバーだったからですね」
「え、そなの?」
「ご存じなかったのですか?」
「あ、ええと、あ、はい……」
「冒険者の皆様方が活動をするにあたりまして、当ギルドではパーティーの結成を推奨しております。ソロの冒険者は様々なトラブルに遭遇する確率が高い、というのが理由ですね。これを推奨する上で、見返りとしてパーティーを結成された冒険者には、ソロでは受けることができない幾つもの優遇措置が存在します」
あー……。
そういえば何かそんな話、『エインフェル』結成したときに聞いたっけなぁ。
「今、グレイさんがおっしゃられたのもその優遇措置の一つですね、当人の冒険者ランクが低くても、パーティーのランクが高ければそちらを基準として当ギルドの各種サービスを受けることができます」
と、メルが説明してくれる。
このギルドの各種サービスというのが、実は結構バカにならなかったりするのだ。
分かりやすいところでは提携ショップでのアイテムの割り引きとか。
他にも、魔導士用に上級魔導書の優先閲覧権とか、蘇生資格試験の講習とか。
冒険者を対象とした保険の審査の通りやすさにもかなり影響するんだとか。
冒険者ってのは当然、ランクが上がるほど数が少ない。
つまり、高ランク冒険者はギルドにとっても得難い人材ってことになる。
そりゃ優遇もするよな。って話だ。
もちろん、俺もそこは承知してるんだけど――
「じゃあ、『エインフェル』抜けたあとの俺の冒険者ランクって……?」
おそるおそる、メルに尋ねてみた。
ちなみに冒険者の最低ランクはFだ。最初は誰でもそこから始まる。
ってコトは、俺、Fランクからッスかねぇ……。
「グレイさんの現在のランクはですね――」
「これはこれは! グレイ・メルタ様ではありませんか!」
そのとき、不意に第三者の声が割り込んできた。
声はカウンターの向こう側からのもの。つまりはギルドの職員の声だ。
「ギルド長?」
隣にやってきたオッサンを、メルがそう呼んだ。
見た目からしてすでにうさん臭い、四十代半ばほどのオッサンだった。
丁寧に撫でつけられたテッカテカの黒髪に、顔に張り付くにこやか笑顔。
肩はなで肩、白いシャツ。首元に巻かれた真っ赤な蝶ネクタイがすでに怪しい。
体をやや前に傾かせて自分を常に小さく見せているこのオッサンだが、今、メルが言った通り、このウルラシオンの冒険者ギルドで最もエラい人でもある。
名前はロックラド。
俺含め、顔見知りの冒険者からは、ロクさんと呼ばれている。
「ロクさん、どしたん……?」
いきなりやってきたロクさんに、さすがの俺も鼻白んでいた。
そしてロクさんはといえば、今にも揉み手を始めそうな勢いで話を始めた。
「いや~、聞いてましたよ、グレイ様のお話。単身Sランクダンジョンに挑もうというその気概! さすがさすが、『エインフェル』を抜けたとはいえその精神性はAランク冒険者に相応しいですね! あたくし、感激いたしました!」
「え、え? そ、そう……?」
あれ、何かもしかして、褒められてる?
「あの……、ギルド長? グレイさんはAランクでは……」
「メルた~ん。ダメだよそんなんじゃ~」
「メルたんではありませんが」
「いいかい? 冒険者ギルドっていうのはね、依頼人と冒険者の橋渡しをするのが役目なんだ。冒険者ランクっていうのはあくまで目安だよ、目安。やれる人にやってもらうべき依頼を正しく斡旋する。それがギルドのあるべき姿だろ? だ、か、ら、冒険者側に十分資格があると認められるなら、ときにはランクを無視してでもその冒険者に相応しい依頼を斡旋しなきゃいけない。分かるかい?」
「ギルド長のお話が長いのは理解しております」
「うんうん、それで十分さ」
いや、十分じゃねーだろ。と、傍から聞いてると思うんだが。
だが待て、これ何となく話の風向きが俺に有利な方に流れてきてないか?
「さてグレイ様、本日はSランクダンジョンへの挑戦がご希望ということでございましたが申し訳ございません! すでに本日の朝、『エインフェル』の方々がそちらに向かってしまっておりまして、グレイ様もご存じの通りSランクダンジョン攻略チャレンジは一回につき冒険者一組までと定められております。ええ、はい、さぞかしご不満でございましょうが、しかしこればかりはあたくし共よりもさらに上、冒険者ギルド総本部が決めた規約でございますので、どうか、どうか今回だけはご容赦いただけませんでしょうか! 本当に、本当に申し訳ございません!」
俺の前で、ロクさんは手を合わせてヘコヘコと頭を下げてくる。
「あ、あ~……、そこまで言われたら仕方ない、かなー……」
「代わりに! グレイ様に相応しい依頼がございます! ええ、これは昨日こちらに持ち込まれたばかりの案件でございまして。いやぁ~、グレイ様は幸運でございますな! このようなタイミングでこんな依頼が舞い込んでくるなんて! 実に、じーつーに、幸運でいらっしゃる! この依頼はまさに、グレイ様に解決していただくために持ち込まれた依頼と言っても過言ではないでしょう!」
え? 何? そんな依頼あるの?
「それ、どんな……」
「おっと、こちらの依頼に興味がおありでございますか? もしかして受けていただける? もしそうであるなら実に僥倖! グレイ様ほどの冒険者にこちらを解決していただけるのでしたら、あたくし共ギルドも依頼人も揃ってハッピーでございます! しかし、しかし、しーかーし、至極残念なことにこの依頼、少しばかり特殊な依頼でございまして。ああ、何たること! 解決はもうすぐ目の前! グレイ様に受けていただく、つまりそれ解決も同然! というところまで来ているのに依頼の特殊性からそれがすぐ成立しない! 何故ならこれは今この場で先に受けていただくかどうかを答えていただかなければ内容を明かせないという、そんなたぐいの依頼なのでございます! これは口惜しい! 何たる口惜しさ!」
…………。
……………………ゴクリ。
「えっと、その依頼……」
「おや? おやおやおや? まさか? まさかまさか? 受けるかどうかを先に決めていただく、こんな怪しい依頼だというのに、まさか受けていただける? 本当に? 本当にでございますか? もしそうであるのならば、ああ、グレイ様の何たる漢っぷり! まさにあたくしの見込んだ通りでございますね! 男の中の男、冒険者の中の冒険者! あたくし個人的“英雄位”に最も近い冒険者ランキング堂々上位入り! そんなグレイ様だからこそ、今ここで威風堂々、誰にもはばかることなくその口で! はっきりと! あたくしのこの質問に答えていただきたい! ……この依頼、お受けになります?」
「受けます!」
他の冒険者もいる受付ロビー内で、俺は堂々とそう答えたのだった。
それを聞いて、ロクさんがにんまり笑う。
「じゃ、メルたん。そんな感じで例の件、グレイ様ってことでお願いねー」
「メルたんではありませんが、承りました」
ロクさんは笑顔のまま、手をヒラヒラ振って奥へと戻っていく。
ギルド長からの直々の特別依頼。
これはとんでもないヤマに違いない。しかも俺じゃなきゃムリと来たもんだ。
こいつはオオゴトだ。
俺という天才重戦士の真価を見せるときがついに来たか。
と、やる気になっている俺の後ろから、別の冒険者の話し声が聞こえてきた。
「あーぁ、またロクさんに乗せられてるヤツがいるよ」
「あれ、あいつじゃないか、ほら、元『エインフェル』の」
「あ、ああ、あああ、ああ! あの! そうか、今回の被害者はあいつかー」
「バカだなー、あいつ」
「ああ、本当にな。あれがロクさんのいつもの手なのになぁ……」
あ、あれ……?
あれあれ? 何かちょっと、おかしくない?
ロクさんっていつもああなの?
あんな感じでいたいけな冒険者を毒牙にかけてるの?
いやいや、まっさかー……。
俺、ロクさんのああいうところ、今まで見たことねーし。
受付ロビーに来るの、冒険者になって今日で二回目だけど。
だって、『エインフェル』にいた頃はヴァイスがやってたし、そーゆーの……。
「それではグレイさん、個別依頼のお話となりますので、こちらへどうぞ」
必要書類をまとめてきたメルが俺に言ってくる。
急激な不安に襲われた俺は、意を決してに尋ねてみた。
「ねぇ、あのさ、メルたん」
「メルたんではありませんが。何でしょうか?」
「……俺、やっちゃった?」
「何をもってやっちゃったと言っているのかは分かりかねますが――」
「ますが?」
「グレイさんが怪しい壺を売りつけられたりしないか少し心配になりました」
ガッデム!!!!!!!!
勇んでSランクダンジョンへの挑戦を申請したところ、その一言で却下された。
ガーンだな。
勢いに乗ろうとした早々、いきなり壁にクラッシュだ。
「……なして?」
俺は問うと、カウンターの向こう側、受付のメルがメガネをキランと光らせた。
「Sランクダンジョンに挑戦できるのはAランクパーティーだけですので」
「俺、Aランク冒険者じゃん!」
「Aランク、『パーティー』、と申し上げました」
「俺一人でパーティー全ての役割をこなす、つまり俺=パーティー!」
「え、ダメですけど?」
そしてまたバッサリ却下された。
絶望した俺はカウンターに突っ伏して低い声で嘆く。
「うううう、メルたんが優しくない……」
「メルたんではありませんが」
「そこを何とか……」
「なりませんよ?」
「今なら俺、やれるような気がするんです!」
「ギャンブルにどっぷり浸かっている人みたいな言い方ですね」
「99%不可能でも、1%でも可能性があるなら……!」
「最初から最後まで0%です」
俺の必死の訴えも、だがメルには通じずクールに捌かれてしまう。
クッ、いくら見た目が俺の好みド直球だからっていい気になりやがって。
水色髪ショートの隠れ巨乳クール童顔メガネちゃんとか、ホント反則ッスよね。
「そうか。よし、分かった」
俺はため息と共に仕方なさげにうなずいた。ああ、ここでゴネ続けても仕方ない。
思考を建設的にやるべきだ。前を向いていこうじゃないか。
今の俺はこの程度では折れない。
何せ、完全無敵だからな。完全無敵の天才重戦士だからな!
「つまりアレだな、俺がAランクパーティーを結成すればいいんだな?」
切り替えて、俺はメルに問う。
「規約的にはそうなりますが、まさか結成されるおつもりですか?」
「するする。俺もAランク冒険者だし、不可能じゃねーだろ」
一人じゃ無理ってんなら、仲間を集めるまでだ。
このウルラシオンにいなくても、他の街にならAランク冒険者もいるはず。
元『エインフェル』の名前を使ってでもそいつらを仲間にする。
ヴァイス達の知名度に頼るのも業腹だが、目的達成のためには仕方が――
「グレイさんはAランク冒険者ではありませんが?」
「は?」
いきなり前提からブッ壊されたんだが。
「レベル3でAランク冒険者になれるわけないでしょう?」
「あ、はい。ごもっともで……」
うん。
なるほど。
なるほど。
そりゃあそうだ。俺、レベル3だもんな。そうだよなー。
……いや待って、おかしい。おかしいよ?
「こないだまでギルドのサービス、Aランク基準で受けれてたじゃん!」
「それはグレイさんが『エインフェル』のメンバーだったからですね」
「え、そなの?」
「ご存じなかったのですか?」
「あ、ええと、あ、はい……」
「冒険者の皆様方が活動をするにあたりまして、当ギルドではパーティーの結成を推奨しております。ソロの冒険者は様々なトラブルに遭遇する確率が高い、というのが理由ですね。これを推奨する上で、見返りとしてパーティーを結成された冒険者には、ソロでは受けることができない幾つもの優遇措置が存在します」
あー……。
そういえば何かそんな話、『エインフェル』結成したときに聞いたっけなぁ。
「今、グレイさんがおっしゃられたのもその優遇措置の一つですね、当人の冒険者ランクが低くても、パーティーのランクが高ければそちらを基準として当ギルドの各種サービスを受けることができます」
と、メルが説明してくれる。
このギルドの各種サービスというのが、実は結構バカにならなかったりするのだ。
分かりやすいところでは提携ショップでのアイテムの割り引きとか。
他にも、魔導士用に上級魔導書の優先閲覧権とか、蘇生資格試験の講習とか。
冒険者を対象とした保険の審査の通りやすさにもかなり影響するんだとか。
冒険者ってのは当然、ランクが上がるほど数が少ない。
つまり、高ランク冒険者はギルドにとっても得難い人材ってことになる。
そりゃ優遇もするよな。って話だ。
もちろん、俺もそこは承知してるんだけど――
「じゃあ、『エインフェル』抜けたあとの俺の冒険者ランクって……?」
おそるおそる、メルに尋ねてみた。
ちなみに冒険者の最低ランクはFだ。最初は誰でもそこから始まる。
ってコトは、俺、Fランクからッスかねぇ……。
「グレイさんの現在のランクはですね――」
「これはこれは! グレイ・メルタ様ではありませんか!」
そのとき、不意に第三者の声が割り込んできた。
声はカウンターの向こう側からのもの。つまりはギルドの職員の声だ。
「ギルド長?」
隣にやってきたオッサンを、メルがそう呼んだ。
見た目からしてすでにうさん臭い、四十代半ばほどのオッサンだった。
丁寧に撫でつけられたテッカテカの黒髪に、顔に張り付くにこやか笑顔。
肩はなで肩、白いシャツ。首元に巻かれた真っ赤な蝶ネクタイがすでに怪しい。
体をやや前に傾かせて自分を常に小さく見せているこのオッサンだが、今、メルが言った通り、このウルラシオンの冒険者ギルドで最もエラい人でもある。
名前はロックラド。
俺含め、顔見知りの冒険者からは、ロクさんと呼ばれている。
「ロクさん、どしたん……?」
いきなりやってきたロクさんに、さすがの俺も鼻白んでいた。
そしてロクさんはといえば、今にも揉み手を始めそうな勢いで話を始めた。
「いや~、聞いてましたよ、グレイ様のお話。単身Sランクダンジョンに挑もうというその気概! さすがさすが、『エインフェル』を抜けたとはいえその精神性はAランク冒険者に相応しいですね! あたくし、感激いたしました!」
「え、え? そ、そう……?」
あれ、何かもしかして、褒められてる?
「あの……、ギルド長? グレイさんはAランクでは……」
「メルた~ん。ダメだよそんなんじゃ~」
「メルたんではありませんが」
「いいかい? 冒険者ギルドっていうのはね、依頼人と冒険者の橋渡しをするのが役目なんだ。冒険者ランクっていうのはあくまで目安だよ、目安。やれる人にやってもらうべき依頼を正しく斡旋する。それがギルドのあるべき姿だろ? だ、か、ら、冒険者側に十分資格があると認められるなら、ときにはランクを無視してでもその冒険者に相応しい依頼を斡旋しなきゃいけない。分かるかい?」
「ギルド長のお話が長いのは理解しております」
「うんうん、それで十分さ」
いや、十分じゃねーだろ。と、傍から聞いてると思うんだが。
だが待て、これ何となく話の風向きが俺に有利な方に流れてきてないか?
「さてグレイ様、本日はSランクダンジョンへの挑戦がご希望ということでございましたが申し訳ございません! すでに本日の朝、『エインフェル』の方々がそちらに向かってしまっておりまして、グレイ様もご存じの通りSランクダンジョン攻略チャレンジは一回につき冒険者一組までと定められております。ええ、はい、さぞかしご不満でございましょうが、しかしこればかりはあたくし共よりもさらに上、冒険者ギルド総本部が決めた規約でございますので、どうか、どうか今回だけはご容赦いただけませんでしょうか! 本当に、本当に申し訳ございません!」
俺の前で、ロクさんは手を合わせてヘコヘコと頭を下げてくる。
「あ、あ~……、そこまで言われたら仕方ない、かなー……」
「代わりに! グレイ様に相応しい依頼がございます! ええ、これは昨日こちらに持ち込まれたばかりの案件でございまして。いやぁ~、グレイ様は幸運でございますな! このようなタイミングでこんな依頼が舞い込んでくるなんて! 実に、じーつーに、幸運でいらっしゃる! この依頼はまさに、グレイ様に解決していただくために持ち込まれた依頼と言っても過言ではないでしょう!」
え? 何? そんな依頼あるの?
「それ、どんな……」
「おっと、こちらの依頼に興味がおありでございますか? もしかして受けていただける? もしそうであるなら実に僥倖! グレイ様ほどの冒険者にこちらを解決していただけるのでしたら、あたくし共ギルドも依頼人も揃ってハッピーでございます! しかし、しかし、しーかーし、至極残念なことにこの依頼、少しばかり特殊な依頼でございまして。ああ、何たること! 解決はもうすぐ目の前! グレイ様に受けていただく、つまりそれ解決も同然! というところまで来ているのに依頼の特殊性からそれがすぐ成立しない! 何故ならこれは今この場で先に受けていただくかどうかを答えていただかなければ内容を明かせないという、そんなたぐいの依頼なのでございます! これは口惜しい! 何たる口惜しさ!」
…………。
……………………ゴクリ。
「えっと、その依頼……」
「おや? おやおやおや? まさか? まさかまさか? 受けるかどうかを先に決めていただく、こんな怪しい依頼だというのに、まさか受けていただける? 本当に? 本当にでございますか? もしそうであるのならば、ああ、グレイ様の何たる漢っぷり! まさにあたくしの見込んだ通りでございますね! 男の中の男、冒険者の中の冒険者! あたくし個人的“英雄位”に最も近い冒険者ランキング堂々上位入り! そんなグレイ様だからこそ、今ここで威風堂々、誰にもはばかることなくその口で! はっきりと! あたくしのこの質問に答えていただきたい! ……この依頼、お受けになります?」
「受けます!」
他の冒険者もいる受付ロビー内で、俺は堂々とそう答えたのだった。
それを聞いて、ロクさんがにんまり笑う。
「じゃ、メルたん。そんな感じで例の件、グレイ様ってことでお願いねー」
「メルたんではありませんが、承りました」
ロクさんは笑顔のまま、手をヒラヒラ振って奥へと戻っていく。
ギルド長からの直々の特別依頼。
これはとんでもないヤマに違いない。しかも俺じゃなきゃムリと来たもんだ。
こいつはオオゴトだ。
俺という天才重戦士の真価を見せるときがついに来たか。
と、やる気になっている俺の後ろから、別の冒険者の話し声が聞こえてきた。
「あーぁ、またロクさんに乗せられてるヤツがいるよ」
「あれ、あいつじゃないか、ほら、元『エインフェル』の」
「あ、ああ、あああ、ああ! あの! そうか、今回の被害者はあいつかー」
「バカだなー、あいつ」
「ああ、本当にな。あれがロクさんのいつもの手なのになぁ……」
あ、あれ……?
あれあれ? 何かちょっと、おかしくない?
ロクさんっていつもああなの?
あんな感じでいたいけな冒険者を毒牙にかけてるの?
いやいや、まっさかー……。
俺、ロクさんのああいうところ、今まで見たことねーし。
受付ロビーに来るの、冒険者になって今日で二回目だけど。
だって、『エインフェル』にいた頃はヴァイスがやってたし、そーゆーの……。
「それではグレイさん、個別依頼のお話となりますので、こちらへどうぞ」
必要書類をまとめてきたメルが俺に言ってくる。
急激な不安に襲われた俺は、意を決してに尋ねてみた。
「ねぇ、あのさ、メルたん」
「メルたんではありませんが。何でしょうか?」
「……俺、やっちゃった?」
「何をもってやっちゃったと言っているのかは分かりかねますが――」
「ますが?」
「グレイさんが怪しい壺を売りつけられたりしないか少し心配になりました」
ガッデム!!!!!!!!
0
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。
魔物が跋扈する異世界で転生する。
頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。
《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。
※以前完結した作品を修正、加筆しております。
完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる