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第3話 女剣士プロミナを、揉む! 灼熱の前編!

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 まずはプロミナにタネ明かしをする。

「俺が使ったのは、魔法じゃない。気功だ」
「き、こー……?」
「魔力と対になる力、血気けっきを用いた技術の総称だよ」

 どちらも魂から湧き上がる生命力を根源とし、それを変換することで発生する。
 精神と知性をフィルターにすることで発生するのが魔力。
 肉体と感性をフィルターにすることで発生するのが血気だ。

「魔力は、主に体の外側で作用する力で、血気は逆に体の内側に作用しやすい」
「外に働く魔力と、内に働く血気……」
「血気を使う気功は、大陸東部じゃ広く知れ渡ってる。俺も東の生まれでね」

 ま、あっちはあっちで気功重視で魔法が軽んじられる環境なんだが。
 本当に、東と西で綺麗に対極になってて、こっちに来たときはマジで笑ったわ。

「これを、君に教える」
「私に……? 私に、今みたいなことができるようになるの?」

 ようやく俺の手を掴んで立ち上がったプロミナが、怪訝そうに尋ねてくる。

「言っとくけどな、本来ならとっくに使えててもおかしくないレベルなんだぜ、君」
「ええっ!? ……そ、そうなの?」

 俺は「そうなの」とうなずいた。

「西側で戦士職が軽視されてる理由の一つは、気功が知られてないからだ。本来、肉体を武器にする戦士は気功を使って戦うものなんだよ。だがそれが伝わってないから前衛にも魔法が必須なんて本末転倒な事態になってる」

 まぁ、そんなことになった理由は、東西の文化の差、なんだろうとは思う。
 大陸の中央にデカい大河が横たわってるせいで、互いの交流がほとんどないのだ。

「あとは、魔法より気功の習得の方が難しい点が挙げられるか。血気は肉体をフィルターとする以上、ある程度鍛える必要がある。そこがネックなんだよなぁ……」

 己の中の血気を自覚する。その最初の一歩が割と難しい。
 一方で、自分の魔力を自覚するのは、ある程度の年齢になれば割と簡単にできる。
 この辺りの差も、大陸西部で気功技術が廃れていった一因だろう。

「私は……」
「君は、血気の習得に必要なレベルにはとっくに達してる。だが今は無理だ」

「ど、どうして!?」
「疲れ溜めすぎ。言ったろ、今の君は本来の実力の九割が損なわれてるって」

「そんな、ただの疲れなんかで……」
「おっとバカにするモンじゃないぜ。疲労ってのは、一生体から抜けない毒なんだ」

 生物は、生まれたその瞬間から疲れ始めている。
 赤ん坊の頃から人は常に体力を消費し、その反動で肉体は疲れを抱えるのだ。

 子供は疲れ知らずというが、それは強い生命力で耐えているだけに過ぎない。
 その間も疲労は着実に蓄積され続け、肉体の奥底にダメージを積み上げていく。

 生きる以上、疲れることはやめられない。
 それが、宿業や運命すら及ばない、生命の『仕組み』ってヤツだ。

「でも、あんたに揉んでもらえば私の『疲れ』は……」
「綺麗さっぱり、除いてやるよ。俺がこの手で君を『直して』やる」
「……わかった」

 神妙な面持ちでうなずき、そして顔をあげたプロミナの目には、確かな決意の光。

「私を、揉んで」

 それこそ、俺が心から待ちわびていた言葉だった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 さて、そうと決まればまず告げることがあった。

「ちょっとこれから半日ほど地獄を味わってもらいますね」
「え」

 プロミナが反応を終える前に、俺の指先が彼女ののど元をトンと軽く叩いた。
 すると、彼女の顔から血の気が引いて、額に一気に大量の汗が浮かぶ。

「あ、ぇ、はひ……?」

 瞳を不安定に揺らし、その口からよだれを垂らして、プロミナは再び座り込む。
 さっきとは違い、体から力が抜けて立っていられなくなっただけだ。

「な、にゃ、にをし……」

 全身を汗に濡らし、ろれつが回らないながらも尋ねる彼女に俺は軽く説明する。

「まずは、準備として君の体に溜まりまくってる老廃物を排出する。そいつは言ってみりゃ高濃度の毒素みたいなモンだ。体に残ってても百害あって一利なしだぜ」

 肉体機能に軽く活を入れて、老廃物が汗と一緒に流れ出ていく状態にする。
 それが、俺がプロミナにやったことだ。

「体内の老廃物ってやつはな、厄介なことに治癒や解毒の魔法じゃ消しきれない。何せ、肉体にとってはそれがあるのが普通だからだ。だからこうする必要があるんだ」

 常人であれば、老廃物が抜けきるまではものの一時間もあれば十分だ。
 が、プロミナは違う。疲労が濃過ぎて、溜まってる老廃物の量も尋常ではない。

「毒素を外に出す関係上、抜けきるまで肉体は毒に冒されたのと同じ状態になる。強烈な吐き気に、高熱、倦怠感、脱力感に酩酊感と――、すまんが我慢してくれ」
「そん、にゃ、き、聞いてにゃ……、い」

 言ってないからね。下手に話して怖気づかれても困るし。
 でもこの手順は絶対に必要なので、不意打ちみたいな真似をした。ごめんて。

 ここから半日、俺は完全に付きっきりでプロミナの看病をした。
 とめどなく汗が流れ続けるのだから、脱水状態には気を配らなければならない。

 幸い、すぐ近くに泉が湧いていて、水には困らない。
 俺は手持ちの水筒を使って、定期的にプロミナに水を飲ませ続けた。

「は、ふ……」

 浅く呼吸を乱すプロミナの汗を手拭いでふき取りつつ、俺は半ば感嘆した。
 流れる汗は、薄茶色く濁っていた。
 まさか、視認できるレベルで老廃物を溜め込んでたとは、こりゃさすがに予想外。

 だが、だからこそ期待が高まる。
 プロミナから全ての『疲労』が消え去ったとき、どれだけの実力に至るか。
 いやぁ、ワクワクしますなぁ、こりゃあ。

 やがて、夜が明けて朝が来る。
 俺は汗を拭きとり、水を飲ませていると、プロミナの汗の量が徐々に減ってきた。

「……おなか、すいた」

 呂律も元に戻っている。
 どうやら、肉体に溜まっていた老廃物のおおよそは流れ出たか。

「揉み終わったらメシ奢るよ。それより、水浴びしてさっぱりしたくねぇか?」
「したい。体が汗でベトベトだわ……」

 ここからは軽い水浴びタイム。
 プロミナが泉に行っている間に、俺は遺跡で準備を進める。

 とは言っても、遺跡に残ってる大きな石の台の上を片付けるだけだ。
 彼女が帰ってきたら、この上に寝てもらう。高さ的にもこの石の台が実にベスト。

「ねぇ、本当にこれでいいの?」
「いいぜ。そのままうつ伏せに寝ててくれ」

 戻ってきたプロミナに言って、台に寝そべってもらう。
 今の彼女は服を脱いで下着姿で、肌のほとんどが露出している状況だ。

「これから、君の体を揉んで『直す』」
「う、うん……」

「今の君の状態は、老廃物というかさぶたが剥がれて傷口が露わになってる状態だ」
「え、そ、それってもしかして、揉まれると、ものすごく痛かったり……?」

 恐る恐る首だけをこっちに向かせる彼女に俺はかぶりを振る。

「いや、痛くない。ただ――」
「ただ……?」

「ものすごく気持ちイイ」
「え」

「今はまだ、体が冷え切ってて感覚も鈍い状態だ、が、揉んでるうちに――」
「うちに……?」

「体はやがて熱を持ち、感覚もどんどん鋭くなって行き着く果ては感度数百倍! どこを触っても死ぬほど気持ちよく感じすぎて、エンドレス絶頂クライマックスだ!」
「え、あ、あの……」

「終盤、イキすぎで何回か心臓が止まると思うけど、すぐ蘇生するから大丈夫だぞ」
「ひっ」

 迫真の「ひっ」だった。

「そんなワケで、ヨガり狂って自我が崩壊しないよう、しっかり意識を保てよ」
「まっ、待って! 待って、お願い。やっぱりまだ……」

 俺の指先が、プロミナの背中に軽く触れた。

「ねぇ、待ってってば。やっぱりもう少しだけ考えさせて!」

 プロミナは、俺が触れたことに気づいていない。
 感覚が鈍化している。体温も冷え切っていて、触れた箇所には指の跡が残る。
 指先が得た感触は、それこそ死後硬直しているかのように固かった。

 だが、逆にこれこそ老廃物が出きった証左でもあった。
 蓋がなくなって、体の底に沈んでいた『疲労』が浮かび上がってきている。

 これを揉む。そしてほぐす。
 強き使命感をもって、俺が最初に触れたのは背中の上部。正確には、心臓の裏側。

 右手を握った状態で、立てた親指をグッと押し込む。
 すると、プロミナが軽く身じろぎし、その唇から初めて声が漏れた。

「ぁ……ッ」

 弱々しくも、だが艶を帯びた声だった。
 ゾクリとするほどの色気。普通の男なら、一発でおっ勃ってただろうよ。

 だが今は施術中だ。
 そっちに意識を割く余裕なんてありゃしない。
 俺は、両手の親指を使って、リズムを取りながら心臓を裏側から刺激していく。

「……ん、ぅ。……はぅ、ッ」

 かすかに跳ねる体。小さく悶える声。
 俺の耳に、再び乱れ始めたプロミナの呼吸音がかすかに届いてくる。

「ふ、ふぅ……、ぅ……、ひっ、ぃ、あぁ……、ぁ……」

 徐々に徐々に、プロミナの声が大きくなっていく。
 だがこれはほんの序章に過ぎない。
 心臓は血気の発生点。まずはここを重点的に揉みほぐして、さぁ、ここからだ。

「耐えろよ、プロミナ」

 言って、俺は心臓の裏側ど真ん中に親指を突き立てた。

「あ、あぁん! んっ、く、ぁ……、ああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 少女の悩ましげな嬌声が、真っ昼間の古代遺跡に響き渡った。
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